11戦目 謝罪
それから三人でフィールド内を当てもなくさ迷う。当然、その間に何人かプレイヤーとすれ違った。もちろんプレイヤーからの襲撃には気をつけているが、こちらも三人いるし襲ってくることはなかった。
やがて中央校舎へとたどり着いた。そこは昨日までと違って多くのプレイヤーで賑わっている。
「うわー、すごいね!」
「今日は人が多いな……」
「た、多分どこのギルドも、本格的に活動し始めたと思うから……」
なるほど、ワーワー騒いでいるようだが、その声は部員募集中だの、入りませんかなどの声がほとんどだった。つまり部活の勧誘合戦のようなものだろう。
「でも、フィールド内で戦闘が起こらないのか?」
こんだけ人がたくさんいたら、小競り合いが起きても不思議じゃないけど。
「こ、校舎とその周りの校庭は、非戦闘区域に設定されてるから……」
非戦闘区域とは、町や村などに適応される設定のことだ。サーバーの管理者が自由に設定することができる。その区域内では技を出すことができないし、ダメージも一切通らない。
「も、揉め事とか起きたら、ステージ対戦に移動して決着つけるの……」
どこのサーバーでも同じだな。揉めたら最終的には戦って決めるというのは。
「まぁ、私達はもうギルドに入ってるから問題無いけど、他の人は大変だろうねー」
「どうする、俺達も勧誘に混ざるか?」
人混みに混ざって勧誘するかとの提案だ。正直ゲーム内でも勧誘するのは気が進まないが。
「や、やめた方がいいと思う。こ、校庭はだいたい上位ギルドが場所取りしてるから……」
「そっか……」
「ん?」
遠くから見守るようにしていた俺達だったが、人混みから離れるように出てきたプレイヤーがいて、ふと目についた。何やら二人のプレイヤーがまとわりつくようにして歩いている。やがてそれはこちらの方に来た。
「なぁなぁ、いいだろ?」
「入ってみようぜ、な?」
「……いい加減しつこい」
取り囲まれているのは、女性プレイヤーだった。小柄な体格にマントを羽織り、山高帽を被ってまるで魔女のような格好だった。
「今の声……もしかして室町さんじゃない?」
「ああ、俺も思った」
俺達がひそひそ話している間にも、その三人はこちらに歩いてくる。というか、室町に二人がついてきているような感じだ。二人のアバターはソフトモヒカンと二本角の付いた兜の二人組だった。
「いいじゃんか、な?」
「そうだよ、うち強いからさ、絶対楽しいって!」
会話の内容からなんとなくわかった。二人は室町を勧誘しようとしているらしかった。
「なんか室町さん困ってるみたいじゃない?」
「そうだな……」
俯いて何か考えている様子だったリンクスだったが、顔を上げて俺の方を向いた。
「ねぇ、ゴースト」
「ん?」
「これはチャンスじゃない?」
「というと?」
「今、室町さん困ってるっぽいよね?」
「そうだな」
「ここで私達がかばってあげたらさ、少しは室町さんの怒りも治まるんじゃないかな?」
「つまり恩を売ろうって?」
俺が尋ねると、リンクスは舌をペロッと出して微笑んだ。真面目な子かと思ってたが、意外としたたかな部分もあるんだな……。
「……まぁ、悪くないな」
「だよね! そうと決まれば……」
ティアーには待機してもらい、俺とリンクスで向かう。全く面識がないティアーが行くより、俺達二人で行った方が印象いいと思ったからだ。
「あのー、ちょっといいですか?」
口火を切ったのはリンクスだ。その言葉に室町含め三人の視線がこちらに集中する。
「んん? なに、君ら?」
「えっと、その子はうちのギルドに入るのが決まってるんで、勧誘はやめてもらってもいいですか?」
そう言ってリンクスはさりげなく室町にウインクしてみせる。室町は表情が変わらなかったが、軽く目を見開いた。その後頷いていた。どうやら意図が伝わったらしい。
「はぁ? こっちが先に誘ってんだけど?」
「そーそー、邪魔だから引っ込んでてよ」
しかし、先輩らしき二人には通じなかったようだった。あくまでこっちが先だと主張してくる。
「いや、だから私達は昨日のうちに誘ってて……」
「証拠がないじゃん?」
「それに、うちに入った方が絶対強くなれるし! 君らこそどこのギルド?」
聞かれてグッと言葉に詰まる。堂々と名乗るには少々抵抗があるな。
「へ、平和の園ですけど……」
「平和の園? お前知ってるか?」
「いや、知らねーな」
先輩達は顔を見合わせていたが、お互い知らないようでキョトンとしていた。
「そんな誰も知らないようなところ、やめときなよ」
「うちに入った方が絶対お得だって!」
先輩達は全く引く気はなさそうだった。リンクスを押し退けて、室町に勧誘を続ける。
「……わかった。ならこうする」
そこで、黙ってやり取りを見ていた室町が口を開いた。
「……そんなに入って欲しいなら、戦って決める」
突然の提案に、ここにいる全員は戸惑っていた。
「……勝った方のギルドに入ることを考えてもいい」
「面白い、やろうぜ!」
「ああ、それなら俺達が勝つに決まってる!」
先輩達は早速乗り気だった。やる気満々で俺達の方を見て、不敵に笑っている。
「どうしよ、ゴースト……」
「このまま引き下がる訳にもいかないだろ。だが……」
いよいよ持って、ピンチだった。今の俺ではろくに戦うことはできない。覚悟を決めるしかないかと思った、その時だった。
「わ、私がやる……!」
振り返るとそこにはティアーがいた。いつの間にか近づいており、どうやら話も把握しているようだった。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「し、正直怖いけど……」
ぶるぶる震えているのがわかる。やはり人見知りが発動しているようだった。
「で、でも私ギルドマスターだもん……! な、仲間を守らなくちゃ……!」
「ティアー……」
必死な表情で顔を上げるティアー。どうやらレベル1の俺を気遣って、守ろうとしてくれているらしい。まだ入ったばかりの俺のことを、仲間だと言ってくれるのか……。素直に嬉しく思う。
「あん、お前、姪原か?」
「じゃあ平和の園って……。ははは! あの最下位のとこかよ!」
ティアーに気づいた先輩達は大笑いし始めた。おそらく同級生らしかった。その大笑いを受けてティアーが縮こまる。そんなティアーをリンクスは抱き締めていた。はっきり言って、ムカつくな。
「心配いらないさ」
「? ゴースト?」
「こんな弱そうな先輩達より、リンクスとティアーの方が強いに決まってるさ」
俺はわざとらしく挑発する。大笑いしていた先輩達は、俺の言葉に血相を変えて怒りを向けてきた。
「ああ!?」
「なんだと、コラァ!!」
気が短そうと予想した通りの反応だった。単純だな。
「という訳で、頼んだ」
「ゴースト……煽るだけ煽っといて……」
「ひいい……」
俺が二人の背中を押すと、リンクスは呆れティアーは怖がっていた。
「まぁ、落ち着け。ちゃんと理由はあるから」
「どんな……?」
「怒らせたってことは、視野が狭くなってるはずだ。攻撃や動きが単調になる」
「そこを狙えってこと?」
「そうそう」
「うん……なんとなくわかったけど……」
そこでリンクスはチラリとティアーに視線を向けた。ティアーは変わらずガタガタ震えまくっている。俺は柄じゃないと思いつつも、ティアーの両手を握った。
「え、え、ええ!?」
「大丈夫、ティアー。自信を持って。ティアーの実力なら勝てるから!」
半分くらいは、はったりだった。ティアーはかなりの実力を持っているが、相手の実力は未知数だ。だがティアーに安心してもらうためには、これくらい大袈裟に言わなければダメだと思っていた。
ティアーは目を白黒させて、わたわたしていた。
「ふぇぇ……。う、うん、わかった……」
「ゴースト……そういうのどうかと思うよ……」
なぜかリンクスに白い目で見られていた。理由はよくわからないが。
「おい、いつまで喋ってるんだ! さっさとやろうぜ!」
「そうだ、ぶっ殺してやる!」
「……だそうだ。頑張ってくれ」
「もー……」
渋々と言った感じで、ティアーとリンクスが前に出た。メニュー画面を呼び出し、対戦の申し込みについて操作している。
「よし、行くぞ!」
ほどなくして、ステージが決定された。四人はぞろぞろと、出現した扉をくぐっていく。
俺も観戦モードを選択する。横目で見ると、室町もメニューをいじっていた。おそらく観戦するつもりなのだろう。
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「…………」
「…………」
観戦モードに移動したのはいいのだが、俺はものすごく気まずい思いを味わっていた。室町がすぐ隣にいたからだ。観戦者が二人しかいなければ、そりゃこうなるよな。
だがいつまでもこうしてる訳にもいかない。俺は意を決して口を開いた。
「あの……」
「……」
前を向いていた室町は、ゆっくりとこちらを向く。その表情からは感情は読み取れない。
「その、この前はすまなかった!」
俺は体ごと室町に向けて、そのまま九十度の角度で頭を下げた。下を向いたまま、話を続ける。
「どんな理由があっても、たとえ俺が災害衆を嫌いであったとしても、バカにする権利はなかった。ましてや、人に言い触らすようなことじゃなかった」
ここは誠心誠意込めて、謝らないといけない場面だろう。
「だから謝らせて欲しい。本当にすまなかった!」
俺は頭を下げたまま、そこで言葉を区切る。そのまま沈黙の時間が流れた。ほんのわずかな時間しか経っていないはずだが、とても長く感じる。
やがて、俺の後頭部に何かが触れた感触があった。
「……?」
恐る恐る顔だけ上げると、室町は俺の頭を撫でていた。その表情は無表情だが、心なしか口元が笑っているようにも見える。
「……謝ってくれてありがとう」
「あ、ああ……」
俺がゆっくり体を起こすと、今度は室町の方が頭を下げた。
「……私の方こそ、頬を叩いたのはやり過ぎだった。申し訳ない」
「い、いや、悪いのは俺だから……」
どうやらかなり律儀な性格のようだった。頭を撫でられたのは謎だが。室町は頭を上げると、右手を差し出した。
「……仲直り」
「ああ」
俺も右手を出し、握手を交わす。室町は微笑んでいた。
「……改めて。室町一縷。アバター名は【ブレイズ】。よろしく」
「霜屋真偽。アバターはゴーストだ。よろしくな」
ようやくマイナスの関係からゼロに戻すことができた気がする。
「それで、勧誘の件なんだが……」
「……? それはまだ保留」
無表情に戻った室町……いやブレイズは首を傾げていた。
「でも、勝った方のギルドに入るんだろ?」
「……入るとは言ってない。入るのを考えてもいいと言った」
確かにそう言っていた気がする。だがその言い回しだと……。
「まさか……」
「……考えた結果、入らない可能性もある」
「ちゃんと考えてたんだな……」
ブレイズはブレイズで、しっかり考えた上での提案だったらしい。どう転んでも自分に有利になるようにと。
「……それより、もうすぐ試合が始まる」
ブレイズの言うとおりだった。四人はすでにステージ上で待機していた。ステージはどうやら『砂漠』らしい。ただ砂が広がっているだけでなく、大きな砂丘があちこちにあり、割りと平らな場所の方が少ない地形だ。
カウントダウンが始まる。既に四人は武器を構えていた。そしてカウントがゼロになった瞬間、全員が駆け出した。




