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RUN WITH WOLVES  作者: HINO
8/19

――神楽盃の戦端――

 腕時計が示す時刻は午後一時。


 俺とイヴの二人は郊外にある建設途中のマンションへと立ち入り、その屋上から眼前に広がる街並みを見渡していた。


 高所を吹き抜けていく風が絶え間なく鼓膜を揺さぶるが、長い階段を登って来た後の火照った体には心地良い。


 「この一帯なら作戦も成功すると思うのだけれど……イヴはどう思う?」


 風が強いせいで、自然と声が大きくなる。


 「確かに、この場所なら成功の可能性は高いでしょう。しかし、あなたの作戦には同意しかねますね」


 「どうしてだ?」


 「あなたの考えた作戦では、あなた自身に多大な負荷がかかる。そして何より、危険です」


 風の音を意に介していないのか、イブは屋内に居る時と何ら変わりのない声量で語り続ける。聞き取りづらい……。


 「能力展開なら、お前が今日の午前中にみっちり教えてくれただろう。戦力になれるかどうかは別として、自己防衛くらいならできるはずだ」


 今の俺は、ある程度なら能力を使いこなすことができる。今日の午前中に、イヴが能力使用についての詳細を丁寧に教えてくれたからだ。


 正直、自分にあんな力が備わっていると思うと恐ろしくもなるが、けれど、この状況下ではそれが何よりの安心材料になってしまうというのだから、皮肉もいいところである。


 先ほどからイヴは黙り込んだまま、必死に何かを考えている。


 まあ、何を考えているのかは大方の予想がつくけれど。


 そんなイブを見て俺は、悩まなずとも俺の作戦でいけばいいのに、と思う。何より、ルー・シュバルツェネガー攻略には俺の作戦が最も適しているのだ。俺自身がかなりの危険に晒されてしまうというリスクはあるけれど、どんな作戦であれ、全てを安全にこなすことはできないだろうというのが俺の考えだ。


 しかし、イヴは俺の護衛であるという立場上、それに納得することができないらしい。


 勝利のためには、今の作戦がベスト。だが、勝利のためのその作戦には、俺の危険が付き纏う。イヴはそんな二律背反のような二択と向き合っているに違いない。


 薄々と思ってはいたが、イブの奴、やはり頑固だ。この戦争を一刻も早く終わらせるためなのだから、考える必要なんてないはずだろう。


 「イヴ。少しは俺を信じろよ」


 俺は言った。


 「お前一人ではできないことでも、俺とお前の二人ならできるかもしれない。その可能性が、俺の能力にはある」


 しかし、とイブ。


 「私に背中を預けると、あなたがそう言ってくださったから、私は能力のインストールを行ったのです。あなたが戦うというのは、私との約束を破ることに他ならない」


 「……ああ、それなんだが」


 そろそろ言わないといけないか。


 「イヴ、あれは嘘だ」


 「なっ……!」


 それまで物憂げだったイヴの表情が一変し、憤怒の赤に染まっていく。これはまずいか?


 「怒るなよ。俺にも言い分はあるんだ。とりあえず、コーヒー飲むか?」


 俺は右手に持っていた缶コーヒーをイヴの方に差し出した。


 「いりません。馬鹿にしているのですか?」


 逆効果過ぎた。


 「だから、そう怒るなって……」


 イヴは眉根に皺を寄せ、平素なら冷静さを漂わせている青い瞳に確かな熱を灯していた。最初、俺はイブのことを鉄仮面か何かだと思っていたけれど、今は怒り顔の仮面を付けているのではないかというほどにはっきりと荒立った感情が見て取れる。


 しかしだ、ここで俺は動じない。動じるわけにはいかないのだ。


 「イヴ。俺が最初に言った、この戦いでの決意みたいなものを覚えているか?」


 「決意、ですか?」


 「ああ。この戦いでの、俺の決意だ」


 「……誰も殺さない、と言っていたことでしょうか?」


 「そうだ。俺のその決意を、イヴは貫かせてみせると言ったよな?」


 「確かに言いましたが、それは」


 「イヴ」


 俺はそっと言葉を遮った。


 イヴみたいな頑固者は一度口にしたことに責任を持ち、引っ込みがつかなくなってしまうことが多いから、最後まで語らせると、話し合いは言い合いになってしまう。


 本当、こういうところは雫にそっくりである。


 卑怯ではあるけれど、ここはイヴが何を言い切る前に、自分の主張を通させてもらおう。


 「誰も殺さない。誰も死なせない。もちろんイヴ、お前もだ。俺はお前も死なせたくない。だから、一緒に戦おうと言っているんだよ。二人ならどんな敵とでも戦えるし、お前が死ぬ可能性だって下げられる。いいか、イヴ。よく聞いてくれ」


 俺は諭すように言う。


 「俺を守りたいと言うのなら、絶対に死ぬな。死んでも守るだなんて、絶対に言うな。俺を守りたいと言うのなら、生きてずっと守ってくれ」


 イヴを騙すようにして力をインストールしてもらった俺だけれど、こればかりは嘘偽りない本音である。


 イヴを死なせたくない。俺を守りたいと言ってくれるイヴを、俺だって守りたい。


 「……わ、わかりました。そこまで仰るのなら、私はあなたを信じます」


 イヴの顔から、熱が引いていく。


 「ありがとう、イヴ」


 「いえ……。では、作戦を立て直しましょうか。二人で、勝利するために」


 言って、イヴは優しく微笑む。俺の顔からも力みが抜ける。


 これでやっと、二人で戦うための準備ができたのだ。


 「じゃあ、まずは確認だ。作戦開始時、ルー・シュバルツェネガーがどのように仕掛けてくるかを、ある程度は予測しておかなければならないだろう」


 「そうですね。敵がいつ仕掛けてくるかにもよりますが、早ければ今日中にも」


 「待て」


 「……はい?」


 イヴの言葉に、何かが引っ掛かる。


 何だろう。俺は何が引っ掛かっているのだろう。ルー・シュバルツェネガーがいつ仕掛けてくるか、それが重要であることに間違いはない。しかし、問題は――


 「そうだ」


 「どうしたのですか?」


 「イヴ。俺がルー・シュバルツェネガーの機械兵に、最初に襲われた時の状況を覚えているか?」


 「昨晩のことですか?」


 「ああ。何か引っ掛かる点はないか?」


 顎に手を当てて、わずかに首を傾けるイヴ。そのまま数瞬の黙考に入る。


 「わからないか?」


 「……はい。盃は、何か思うところがあるのですか?」


 「ああ。昨晩、ルー・シュバルツェネガーはどうして俺を襲撃することができたんだろうって、それが気になるんだ」


 「ああ……そういうことですか」


 イヴは納得した、という顔をする。


 「ルー・シュバルツェネガーの陣営が、どうして盃の居場所を知っていたのか、ということですね」


 「そうだ。あの機械兵の襲撃は、お前の到着よりも早かった……。つまりだよ、イブ。ルー・シュバルツェネガーの護衛についている奴には、索敵に似た能力があるんじゃないのか? 歪曲空間のターゲット選定に俺を選ぶことができたのも、それなら納得ができるだろう。ルー・シュバルツェネガーの陣営は、あの襲撃よりも前に、俺の居場所を捕捉していたに違いない」


 「確かに……。私が迂闊でした。そんなことに今更思い至るとは」


 イヴは焦燥感を露わにした顔で、下唇を噛む。責任感が強い分、こうした部分でのミスを許すことができないのだろう。


 「そんな顔をするなよ。俺だって今気付いたんだから。何より、こうして生きているのだから問題ない」


 それに、あのタイムカプセルに入っていた、逃げろというメッセージのこともある。少なからず、あのメッセージのおかげで生き延びられたと言える部分はあった。きっとあれは、未来の俺からのメッセージだったに違いない。男の声であったから、イヴであるということもまずないだろうし……。


 まあ、結局。


 何も知らなかった俺は、あのメッセージの意味を理解することが出来ず、そして、見事なまでに敵襲を食らってしまったわけだが。


 あのタイムカプセルも回収できていないままである。


 ……いや、待てよ?


 タイムカプセルはイヴが撃破した機械兵と共に吹き飛んでしまった。しかし、歪曲空間内で失われてしまった物は、一体どうなるのだろう。歪曲空間が展開されていない状態であの小学校に行けば、タイムカプセルをもう一度掘り出せるのだろうか。


 「しかし、まずいですね」


 思考の内側にいた俺に、イヴが言う。


 「ん? まずい?」


 「はい。もしもあなたが言う通り、ルー・シュバルツェネガーの護衛に索敵の能力があるとしたなら、私達の今の動きは筒抜けになっていることでしょう。今のように街を徘徊していれば、戦闘の準備をしていると思われるかもしれません」


 「……なるほど。それならひとまず帰ろう。こちらの意図がばれてしまっては、正直、勝ち目がないからな」


 俺とイヴはここで会話を切り、踵を返して屋上の出入り口へと向かった。次にここへ来るのは、ルー・シュバルツェネガーとの決着の時となる。


 そんなことを思いながら足を動かしていると、ふと、給水塔の方に転がっている、空の酒瓶が目に付いた。


 ウオッカが二本に、ウイスキーが一本。


 あれを散らかした奴は間違いなくアルコール中毒だな。しかし、どうしてこんな所で酒盛りを……?


 「盃。どうしたのですか? 早く行きましょう」


 「ああ……」


 吹き付ける風に背中を押されるようにして、俺達はその場を後にした。


 ――そして、帰宅から五時間ほどが経った頃。


 「盃。そろそろ夕食の準備をしようと思うのですが、何が食べたいですか?」


 時刻は午後七時になっていた。外も暗幕が掛かったかのような暗さに包まれている。


 「いや、俺が作るから、お前は座っていろよ」


 「……盃。お昼もそう言って作らせてくれませんでしたが、まさか、私の料理の腕を疑っているのですか?」


 テーブルを挟むようにして向かい合っている俺に、イヴは怒りを孕んだ視線を突き付ける。


 「いや、そういうわけじゃないのだけれど……」


 「では、何なのですか?」


 あくまで基本的には無表情であるイヴは、俺に言いたいことがある時だけ、やたらに感情を剥き出しにしてくる。こういう手合いはどうにもやりづらい。


 「あのさ」


 「はい」


 「お前、スーツを着ているだろう? 汚れたりしたら洗えないじゃないか」


 「大丈夫です。情報化によってトランクごと持ってきていますから。替えのスーツならあと二着ほど」


 「いや、問題の解決になっていないから。まあとにかく、お前は座っていろ」


 「盃。だから私がやると」


 イヴが口を開いた瞬間だった。


 耳鳴りがし始めたかと錯覚してしまうような高音が、空間を包み込む。


 「……何だよ、この音は」


 「これは……歪曲空間の展開ですね」


 席を立ち上がったイヴが、鋭い剣幕で呟く。


 「盃。どうやらルー・シュバルツェネガーは、この家ごと歪曲空間に取り込もうとしているようです」


 「……えっと、それはつまり、ここが戦場になるかもしれないということか?」


 「はい」


 イヴは神妙な面持ちで頷いた。


 だとすると、これは相当にまずいのではないだろうか。こんな所で戦闘が始まってしまえば、作戦も何もかもが台無しだ。


 緊張で体が硬直していく中、俺の目の前で不可解な現象が始まる。


 固唾を飲むしかない状況。


 どこからともなく、キッチンの中に蛍光色をした細線が侵入してきたのである。それらはまるで樹形図のように、一瞬で空間の隅々にまで広がっていく。直角に枝分かれしていくその細線の動きは、まるで幾何学的な生物のようにも見て取れた。


 「盃。ひとまずはここを出ましょう。この場所では身動きが取れません」


 イブが早口でまくし立てるように言う。俺はその鬼気とした声音でやっと、非常事態が始まっているのだと認識した。


 段々と、空間を走る黄緑色の蛍光が消えていく。


 ……何だ。ここはもう歪曲空間の内側なのか?


 急いで外に出た俺たちを、冷たい夜風が出迎える。丁度いい、と俺は思った。


 頭を冷やそう。まずは落ち着かないといけない。


 俺はそんな風に荒れそうになる精神をなだめながら、玄関扉を閉めた。そして、覚束ない一歩を踏み出そうとした時――


 俺は、ある違和感に気付く。


 いや、それは違和感なんてものではない。明らかな異常。


 人が何らかの違和感や異常性を感じる時、その判断基準となるものは、日々の自分が送っている日常ということになるのだろう。


 普段とは違う。いつもとは違う。それ即ち違和感、異常だ。


 俺は外に出てみて、初めてわかったのだ。音が一つもしないという、その異常が。


 午後七時といえば、普段ならまだ多くの人が活動している時間のはずであり、車だってひっきりなしに行き交っているくらいだろう。


 しかし、これは。


 俺は玄関の正面から、そっと大通りを見下ろした。


 「嘘、だろう……?」


 「これが歪曲空間ですよ。部外者の侵入を決して許さない、閉ざされた戦場です。もう、逃げることはできません」


 イヴの抑揚の無い声が、この時ばかりはやけに不気味だった。


 街には誰一人としていない。車もない。路上に駐車してある車などはあるのだけれど、走っている車は一台も見当たらない。


 街灯や店の照明などはついていて、信号も青から黄、黄から赤と、その顔色を変えながら職務を全うしていた。しかし、それを利用する人間たちはいない。ただの一人もだ。


 肌寒さを覚える気温にも関わらず、額に不快な汗がどっと滲み出てくる。


 本当に物しか残らないのか、ここは。不気味過ぎるだろう……。


 「とにかく、下に降りよう」


 動揺を押し殺した声で、俺はイヴに言った。


 対して、イヴは平然と応じる。こういうところを見ると、彼女が本当に護衛という存在なのだということを思い知らされる。


 歪曲空間が展開されてしまっている以上、いつ敵の攻撃が飛んできてもおかしくない。一刻も早く地上に出るべきなのだろうが、エレベーターはマンションの一階で待機しているようで、そもそも、この非常事態にあんな密室に入るのは危険である。何より、待つのももどかしい。


 俺達は一瞬でアイコンタクトを取る。


 どうやら、二人とも考えは同じ。


 ここは走るしかないだろう。


 俺達は合図もなしに階段の方へと走り出した。


 俺の家はマンションの五階にある。そこから階段を段飛ばしで駆け下り、マンションのエントランスを駆け抜ける。


 そして。


 一分もかからない内に通りに出た俺達二人は、まるで敵に囲まれた兵士のように背中を合わせ、周囲の様子を窺った。


 視界の中に動くものはない。圧倒的な静の支配。


 まるで世界に取り残されてしまったかのような恐怖が襲ってくる。音が何もしない、誰もいないというのは、状況次第でこうも恐怖心を煽るものなのか。


 俺達はゆっくりと車道の真ん中にまでにじり寄っていく。


 もちろん、互いの背中は合わせたまま。


 「敵の姿は見えませんね」


 「ああ。でも敵はどこかからこちらを見ているんじゃないのか?」


 「しかし、歪曲空間を展開しておいて、何も仕掛けてこないというのは疑問です」


 「確かにな……」


 摺り足でその場に円を描くように動き、俺達は二人で三百六十度の視界を埋めていく。


 ゆっくり、ゆっくりと。


 円を描きながら、死角を埋める。すると――


 「イヴ!」


 俺の正面に見える交差点。その陰から、何かが飛び出してきた。


 俺の声に反応したイヴは即座に背中を離し、俺と同じ方角を見据える。


 「間違いありません。ルー・シュバルツェネガーの機械兵ですね」


 「ああ……」


 四脚の脚部に、人型の上半身。腕は機関銃そのもので、頭部は西洋鎧を模したフルプレート。


 「盃。来ます」


 イヴの言葉と同時、機械兵は脚部から大量の蒸気を噴き出した。さらに同時、こちらへと向けて、車が一台も走っていない車道を滑走し始めた。


 まるで戦車の突撃。


 どうする……俺はどうすれば……?


 「下がって」


 イヴはそう言って、一瞬で右手に刀を展開させた。しかし、それは素人目から見ても、刀と呼べる得物ではなかった。


 まず、大きさが異常である。ここがおとぎの世界なら、それで竜の首でも切り落とせるだろうという刀身、幅を持っている。


 昼間にあれだけの大口を叩いていながら、情けない。俺はそう思いながらも、イヴの言葉通り、一歩、後ろへと下がった。


 その直後である。


 「猪突猛進とはこのことですね……」


 イヴはその大刀を突進してくる機械兵に向けて投擲する。その大刀は地面と水平を保ち、回転しながら真っ直ぐに飛んでいく。


 機械兵はそれをかわそうとはしない。いや、かわせないのだろう。イヴがどれほどの腕力でそれを投げたのかは見当もつかないけれど、大刀の飛行速度は本当に凄まじい。


 大刀と機械兵。二つの影は急速に距離を縮めていく。


 段々と迫って、大刀と機械兵の距離が零になる瞬間――機械兵の首が、跳んだ。


 鋼鉄の兵士の首は、いとも簡単に切断された。


 頭部を失った機械兵はバランスを崩し、その胴体を地面に擦らせながら滑り出す。火花を撒き散らしながら俺達に向かって滑り続ける胴体部分はまさに鉄塊そのもの。


 アスファルトとの摩擦で耳をつんざくような響きを奏で始め、ついには、爆散。


 大気の悲鳴にも聞こえる轟音。熱風。続いて、宙に舞ったアスファルトの残骸が降り注ぐ音が俺の五感を刺激する。


 俺は反射的に腕で覆い隠していた視界を、ゆっくりと開いていく。するとそこには、黒い煙と残り火の赤に包まれた、非日常が広がっていった。


 「……すごいな、お前」


 小学生並みの感想しか出てこない。思考が全くまとまらない。


 「一体だけなら、何の問題もありませんから」


 これくらいで褒めるなと、イヴの顔はそう告げていた。しかし、これで呆けるなという方に無理がある。


 「――ねえ、神楽盃」


 突然。


 黒煙の向こうから声がした。


 「誰だ……」


 「ルー・シュバルツェネガーよ。今日こそ、あんたをぶち殺す」


 その凛とした声と同時、一筋の風が吹き抜ける。


 獣の舌が這ったかのような、気味の悪い風。


 不自然な風によって吹き飛ばされた黒煙の下には、無残にもコンクリートが捲れ上がった粉々の路面と、そして、もう一つ。


 「お前がルー・シュバルツェネガーか」


 小柄な少女の姿があった。


 銀色の長髪をポニーテールにまとめ上げ、両耳には髪と同色の、十字架を模したピアスをつけている。利発そうな顔立ちに据えられた淡い緑色の瞳は、俺を真正面から捉えて逃がさない。


 大人びた雰囲気を持っているが、年はきっと十六くらいだろう。勝ち気な性格が見て取れるというか、自信に満ち溢れた顔が、彼女の実年齢よりも上に見せている気がする。


 でもやっぱり、子供だ。


 しかし、なんというか、この状況でどうしてそんな顔ができるのだろう。この戦いに不安が無いとでもいうのだろうか。


 俺は戸惑いを感じながらも、正面の彼女と向き合った。


 丈の短い黒のコートに、下は赤いプリーツスカート。足元にはショートブーツという、この場には似合わない格好をしている。今から本当にこの子と戦うのだろうかと、首を傾げたくなるほどだ。


 「護衛はどうした。ルー・シュバルツェネガー」


 皮切りにイヴが口を開く。


 「ちゃんといるわよ?」


 ルー・シュバルツェネガーは挑発的な口調で返してくる。


 これは何か策があるな。


 イヴも同じことを思ったのか、それ以上尋ねようとはしない。


 「何? 攻撃してこないの?」


 ルー・シュバルツェネガーは俺とイヴを交互に見やる。かかってこいと言わんばかりの表情だ。


 「なら、私から行くわよ?」


 嘲笑とも見える笑みを浮かべながら、ルー・シュバルツェネガーがそう言ったと同時、周囲で無数の影が動き始めた。


 「これはまた、急だな……」


 「はい。この辺りだけで数百はいますね」


 周囲に立ち並ぶビルの屋上、その隙間、さらには屋内に至るまで、どこに目をやっても、先ほどイヴが撃破したものと同じ型の機械兵が立ち構えている。背後からも機械の駆動音が聞こえてくる。


 正面だけでも数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの機械兵が湧き出てきているというのに、これはどうやら、全方位を囲まれてしまっているらしい。


 「この場所だけで三百。同じのをあと五百体、この街に遊ばせてあるから」


 ルー・シュバルツェネガーはゲームのルール説明でもしているかのような口調で言い放つ。まるでこの戦いに気負いは無いと、そう演じて見せているかのようである。あくまで、そう演じている、としか見えないが。


 まったく、何を考えているんだか。本当は恐怖しているはずだろう、この戦いに。


 「じゃあ、始めましょ?」


 仕方がない。できるだけ早く終わらせるとしよう。


 しかし、策があるとわかっている以上、目の前のルー・シュバルツェネガーには迂闊に手を出せない。


 こちらからの攻撃を誘っているかのような態度、周囲の機械兵、それに、護衛の姿が見当たらないと言うのが何よりも怪しい。


 「イヴ、わかっているな?」


 早口で、そして小声で俺はイヴに言った。


 「……はい。どうかご無事で」


 イヴは祈るような声を返してくる。


 「ん? 何をこそこそやってるのよ?」


 訝しがるルー・シュバルツェネガーを無視して、俺は最後に、合図となる言葉を口にした。


 「お前こそ。じゃあ、あの場所で落ち合おう」


 「はい……!」


 そのやり取りの直後、俺とイヴは二人同時に、反対方向に向かって駆け出した。


 「なっ……敵前逃亡とは何事よっ!」


 爆発のような怒号。その場に取り残されたルー・シュバルツェネガーの声が、砲火の乱音と共に鳴り響く。


 機械兵たちの集中砲火だ。俺とイヴが立っていた場所に、弾丸の雨が降り注ぐ。


 俺は身を屈めながら必死に走り、機械兵の大きさなら立ち入れないであろうというビル群の細い隙間へ滑り込んだ。そしてすぐに体勢を整え、肩越しに反対側の歩道を見遣る。


 俺と同じく、イヴも細いビルの隙間へと飛び込んだらしい。ちょうど物陰に入っていくのが見えた。


 ここからは一人。


 急に不安が込み上げてくる。しかし、感情に気を注いでいる暇はない。


 ルー・シュバルツェネガーの指示なのか、機械兵たちはすぐに発砲を止めると、ビルの屋上から地面へ、次々と降下し始める。


 どうやら白兵で追ってくる気らしい。


 相手が銃を乱射してくるだけならば、目的地への到達はそう難しくない。地の利を生かして、弾が届かない屋内や細い路地を動き回ればいいだけなのだから。


 しかし、追って距離を詰められたら、数が多いあちらが有利である。囲まれてしまえば終わりなのだ。


 さて、どうするべきか。


 自身が取るべき行動を、数瞬の内に巡らせた。


 思考を圧迫するほどの鼓動。心臓の音が耳障りなほどに聞こえてくる。そして、それに重なるのは、機械兵たちの駆動音。


 当然、俺が向かおうとする全ての場所に、無数の機械兵が待ち構えているはずだ。


 ……なら、戦うしかないだろう。


 俺は拳を握り、通りの裏へと走り抜けた。すぐに無機質な殺意を持った群集が、ビルの隙間から飛び出してきた俺を出迎える。


 統率の取れたその動きは、まるで軍隊蟻の捕食そのもの。


 俺は一瞬で半円状に取り囲まれてしまった。


 恐怖で喉が張り付く。速くなっていた呼吸の音も、何もかもが遠くなる。


 時が止まってしまったかのようだった。


 銃口から放たれた幾つもの赤い閃光が、俺に向かって飛んでくる。光の槍と化した弾丸が俺を貫こうと、その距離を詰めてくる。その全てが、俺の目にはひどく緩慢な動きに見えてしまう。


 俺は反射的とも言える動きで、右腕を機械兵に向けて構えた。


 無限の瞬間が重なっているかのような、ゆっくりとした時の流れ。その中で自身の脳内にある兵器情報を、右手に集中させる。


 すると、瞬間。


 まるで電極が怒号を発したかのような激音が鳴り響く。


 同時、黒い光を放つ電撃が、俺の腕に纏わりつくようにして現れる。


 俺は右腕を左手で支え、力を放出するように掌を開いていく。


 ……頭が、痺れる。


 不快な感覚の直後。


 俺の右腕に纏わりついていた黒い電撃は、飛来してくる閃光の群れと、それらを放った機械兵たちに向かって一直線に走り出した。


 雷撃の疾走。


 その、次の刹那。


 大気を焼き切る音と共に、俺の周囲から、全てが消失した。


 機械兵たちが立っていた場所には、深く抉られたような痕しか残っていない。俺を取り囲んでいた機械兵たちが半円状に立っていたためだろうか、そこには俺を中心にした綺麗な半円が描かれているだけだった。


 「な……何なのよ、あんた……」


 ふと、背後から声がする。


 振り向いてみると、そこには茫然とした顔でこちらを見つめているルー・シュバルツェネガーの姿があった。


 イヴではなく、俺の方を追ってきていたらしい。まあ、それが正しい判断だろう。俺は戦いに関してはまるっきりの素人。イヴを狙うよりは俺を狙うに決まっている。


 しかし、さきほどまでの彼女とはどこか様子が違っていた。あの自信に満ちた、自分が敵を狩る側であるというような空気が消えている。


 ルー・シュバルツェネガーは俺が走り抜けてきたビルの隙間に立ち尽くしたまま、焦点の合わない目をして何やら呟いている。


 「ここまでだなんて、聞いてない……」


 さっきまでとは打って変わって、驚愕と恐怖が混在した面持ちである。動揺して指示を出していないのか、周囲の機械兵たちも沈黙していた。


 「おい」


 「大丈夫……大丈夫よ。私には、アリサもいる……」


 俺の呼び掛けにも応えず、ルー・シュバルツェネガーは消え入るような声でひたすらに何かを呟いている。


 「おい!」


 声を大きくして呼び掛けると、彼女は急に表情を一変させ、冷気を纏わせた瞳で俺を見た。


 「何よ」


 一瞬で人格を入れ替えたかのようなその気迫と、そして、あまりに感情の籠もっていない声に寒気を感じ、俺は一瞬身じろいでしまった。


 しかし、ここでこちらの動揺を悟られては意味がない。


 俺は感情の揺れを覆い隠すように、低く、平坦な声で言った。


 「俺の兵器情報のことなら知っているんだろう? 今、お前が見た通り、消耗戦になるだけだと思うが、まだ続けるか?」


 俺は一種の賭けに出ることにした。俺が一瞬の内に機械兵たちを消し去った光景を見て、少しでも彼女が戦いに躊躇してくれたのなら、と。


 いくら戦うと覚悟を決めたところで、やっぱり、できることなら戦いたくはないのだ。ここで彼女が引いてくれるのなら、それに越したことはない。


 「……物質の構成情報の破壊、そして創造。それがあんたの能力よね、神楽盃」


 俺を睨むように見つめながら、ルー・シュバルツェネガーが言う。


 「五角の中で最も強大な力と言われ、二十年後の時間座標でも間違いなく最強の勢力だった」


 確認事項を読み上げるかのような声。そこに人間味はまるでない。


 しかし、ここで声の調子ががらりと変わる。


 「けど、私が聞いた話だと、この時間座標のあんたは、能力をここまで使いこなせないはずだったのよねえ」


 不安は自信に、自信は確信に。ルー・シュバルツェネガーの瞳に、再度、戦意の色が灯り始める。


 「お前の護衛が、そう言っていたのか?」


 「ええ。あんたの能力は規格外だから、それを使いこなせるようになるには時間がかかるはずだってね」


 ルー・シュバルツェネガーは淡々と、実に淡白に語る。


 「私としてはね、五角最大の脅威が、この時間座標では貧弱だって言うものだから、早く叩いておくべきだと思ったのよ。それであんたを最初に狙うことにしたの」


 「なら、お前の護衛は間違っていたということになる。俺は兵器情報を使えるし、見ての通り、お前ご自慢の機械兵も相手にはならない」


 「そうみたいね。本当に規格外だわ、その力」


 ルー・シュバルツェネガーは顔を俯かせ、恨めしそうに言う。この戦いを、というよりは、俺を憎んでいるように聞こえる調子。


 しかしどうにか、このまま俺と戦うことを諦めてはくれないだろうか。


 でも、とルー・シュバルツェネガー。


 「短期間でそこまで扱えるようになったというのなら、尚更よね」


 「……は?」


 「規格外な分、脳への負担は大きいんじゃない?」


 伏し目からふっと顔を上げた彼女は、笑っていた。弱点は見抜いたわよ、と。その笑顔は言外に語る。


 「情報として取り込んだ物質を、肉体から出力して元の形に展開させる。普通の情報化はそういうものだと聞いたわ。でも、あんたは違う。そうよね?」


 ルー・シュバルツェネガーはまくし立てるように言い上げる。


 「そこにある物質を無理矢理にでも情報化し、その構成情報を破壊、または再構築などで創り上げる。まったく……破壊と創造だなんて、神の真似事ようなことをたった一人の人間の頭脳でやっているのだから、限界なんてすぐにくるわ」


 ルー・シュバルツェネガーは確信しているに違いない。俺に長期戦が不可能であること、能力を使えば使うほど、俺は自らの脳にダメージを負うということを。


 イブに俺の弱点として教えられていたことだが、まさか、ルー・シュバルツェネガーにそのことを看破されているとは思わなかった。


 「今、一回能力を使っただけでも、相当苦しいんじゃないの? まあ、もう少し体が慣れれば、あと何回かは余裕なのかもしれないけど。でも、それも昨日の今日では厳しいでしょう?」


 参った。まったくもってその通りだ。


 彼女は笑みを歪ませ、嘲るような目を向けてくる。


 「なあ、もしも俺が、まだまだ余裕だと言ったら?」


 嫌な汗が頬を伝う。俺は彼女の推測を否定するように、嘘が見抜かれないように、必死で笑ってみせた。


 「……馬鹿ね。ばればれなのよ、そんなの」


 ルー・シュバルツェネガーが言ったと同時、彼女の両腕の肘から先が、黄緑色の蛍光に包まれる。


 線状の蛍光は這うような動きで、その華奢な腕を覆っていく。彼女の両腕を覆った蛍光は段々と機械的な膨らみを構築していき、わずか数瞬、瞬きすら追いつかないほどの間で、重武装のような外骨格を形成した。


 黒い光沢を放つ、巨大で無骨な両腕。それは、ルー・シュバルツェネガーの華やかな容姿とは相反するものだった。


 子供一人をぶら下げているかのような太い右腕が、俺の方へと向けられる。


 「言っておくけど、私の武器は機械兵だけじゃないわよ? ちょっと不格好だけど、私自身も戦えるから」


 彼女はそう言い放った瞬間、俺に向かって駆け出した。


 「――――――っ!」


 俺は刹那の能力展開を試みる。


 破壊ではなく、創造。


 雷電が弾け飛ぶ音と同時、今度は白い電流が右腕に纏われた。


 俺は向かってくる彼女の方に向けて、ただ反射的にその右腕を突き出す。


 俺が突き出した右腕と、ルー・シュバルツェネガーの外骨格に覆われた右腕。


 二つが交差する直前だった。


 俺の右腕に纏わりつく電撃が指先から離れたその時、凄まじい衝突音が耳に突き刺さる。


 「……成功、か?」


 開かれた俺の手の平の前には、大人を軽々と隠せるほどの大きな壁が展開されていた。


 いや、人を隠すには大き過ぎる壁だ。


 ビルとビルとの間を隙間なく埋めており、その高さは建物の屋上付近にまで伸びている。


 「こんなので逃げ切ったつもり?」


 重厚な黒色をしたその壁の向こうから、ルー・シュバルツェネガーのくぐもった声がする。


 壁には、巨大な拳の痕。


 どうやら彼女は、この壁に向かって思い切り拳を放ったらしい。型焼きの鉄板のように、壁がこちらに向かって盛り上がっている。


 ショベルカーの先端ほどもある拳の型を見て、俺は発声器官を失った。


 こんなもので殴られたら、確実に死ぬ。


 俺はルー・シュバルツェネガーの問いかけには応じず、そのまま目的地へと向かって走り出した。


 今の俺の姿は敗走のように見えるかもしれないが、それで構わない。どんなに無様でも、生きてさえいればいいのだから。


 息を切らしながら、俺は無人の街中を駆け抜けた。


 しかし。


 やはりと言うべきか。


 このまま目的地へ到達できるはずもなかった。


 「……やっぱり、やるしかないか」


 周囲の機械兵たちが、まるで拘束が解かれたかのように動き出したのだ。巨大なオブジェと化していた兵器たちが再起動する姿に、得も知れぬ恐怖が湧き上がってくる。


 俺がルー・シュバルツェネガーの元を走り去ってから、まだほんの数秒。ルー・シュバルツェネガーは、この数秒間で機械兵たちに指示を出したということになる。


 だが、咄嗟に出した指示とは思えないほどに、機械兵たちの動きは統制されていた。


 俺が走っている車道の先、後方、左右、さらには道路脇のビルの上方まで、機械兵たちは即座に移動を始め、しっかりと俺の姿を捉えられる位置に陣取る。続けて、すぐに俺に向けて銃口を構え始めた。


 間違いなく、この統率こそが恐怖の根源なのである。数の優位性に甘んじた隙が一切ない。


 さて、ここでもう一度能力を使えば、一斉射撃も防げるだろう。しかし、俺の頭には痺れにも似た痛みが広がり始めている。


 これ以上の能力使用に、安全の保証はない。けれど……。


 俺の思考を遮るように、風を切り裂く銃撃音が響く。眼前には弾丸の軌跡が描き出した、赤い流線が迫ってきている。数万にも及ぶその流線は、上空から見れば赤い大河にでも見えただろう。今、それだけの殺意が俺に向かって飛んできているのだ。


 能力使用で限界を迎える可能性と、迫り来る明確な死。


 この二択に天秤は必要ない。


 俺は右手に漆黒の雷撃を纏わせ、その力を一気に爆散させた。


 漆黒の雷撃は地を這い、宙を駆け、全ての殺意を迎撃していく。さらに瞬間の瞬間にも満たない時間の中で、機械兵たちの存在までをも抉り取っていく。


 次の刹那には、俺を中心とした半径五百メートルほどの空間が荒野と化していた。まるで地図上からコンパスで描いた円を切り抜いたかのように、平面から建造物の全てが消え失せている。


 俺はその光景に、本当に規格外の力だと思った。恐怖さえ覚えた。しかし、それだけの代価が、今、俺の脳には叩きつけられている。


 「まずいな、頭が……」


 俺はその場で膝を着いた。そのまま、頭から地面に突っ伏してしまいそうになる。


 ……イヴと約束したのに……くそ……立て、立てよ。


 俺は朦朧とする意識でなんとか立ち上がり、もう一度走り出した。


 自分の足音以外に、機械兵たちが近付いてきている音がする。もう一度あの機械兵たちと対峙することになれば、今度こそ命の覚悟をしなくてはならないだろう。


 そんなことになる前にと、俺は自分の作り出した荒野をふらふらと抜け、ビル群が生んだ細い路地へと潜り込んだ。


 しかし、またすぐに走れなくなり、その場に座り込んでしまう。


 あと十五分も走れば目的地に辿り着けるというのに、先に体が限界に達してしまったようだ。


 もしかすると、イヴはもうすでに、目的地に到着しているかもしれない。俺の到着を待っているかもしれない。


 そう思うと、体は自然に動き出した。


 「……行かないと」


 機械兵たちの駆動音は今もどんどんと近付いてきている。俺は力が抜けきった膝を拳で叩き、立ち上がった。


 ビルの壁に体を預けながら、その路地の角にまで歩いて行き、通りの様子を窺ってみる。


 俺の目には、頭部を旋回させるように動かしながら、何者かを探している機械兵たちの姿しか映らない。その何者かというのが俺なのだから、まさにそれは、絶望を図にしたような光景でしかなかった。


 あと一回の能力使用で、ここを切り抜けられるだろうかと考える。


 いや、考えても無駄だ。進むしかないのだから。


 決意と共にもう一度拳を握り、足を動かそうとしたその時だった。


 「あ、あの……」


 すぐ後ろで声がして、俺は咄嗟に振り向く。


 「こ、攻撃はしないでっ!」


 慌てた様子でそう発した声の主は、胸の前に両手を突き出し、俺から距離を取るように腰を引かせていた。


 「……ん?」


 誰だ。いや、どうして歪曲空間内に人がいるんだ?


 真っ直ぐで艶やかな黒髪を腰にまで伸ばした女の子。ルー・シュバルツェネガーくらいの年齢に見えるけれど――


 「まさか、不流飛鳥か?」


 「は、はい」


 不流飛鳥はブラックパールのような丸い瞳を潤ませ、不安そうに顔を俯かせている。


 スニーカーにショートデニム、上はゆったりとしたパーカーという服装からはボーイッシュな印象を受けるけれど、目元に掛かる長い前髪が相俟って、その自信のなさそうな顔は見た目よりもずっと幼い雰囲気を醸し出していた。


 「あ、あの、あなたには、戦う意志はないんですよね? そ、その、相手を殺そうとか、そういうのは、思ってないんですよね?」


 「どうしてそれを?」


 「り、凛音(りんね)ちゃんが、神楽さんたちは戦おうとしていないって言ってて……あ、凛音ちゃんと言うのは、私のボディーガードをしてくれてる子で……」


 酷く怖がられている気がする。まあ、この状況なら無理もないか。


 「お前のボディーガードは、何を根拠にそんなことを言ったんだ?」


 「り、凛音ちゃんが、神楽さんたちのことを調べてて……そ、それで、何かの準備しているけど、それは殺し合うためのものじゃないって……」


 どこかで尾行でもされていたのだろうか。しかし、俺たちの行動の意味を見抜いているということは……。


 「お前たちは、俺達の作戦に気付いているのか?」


 「は、はい。あ、相手を殺すためなら、あんな場所まで行かなくてもいいですから……そういう、ことですよね?」


 緊張を含んだ笑みを作りながら、不流飛鳥が尋ねてくる。


 「参ったな……。その通りだよ」


 しかし、それを知った上で、不流飛鳥は何故俺に接触してきた?


 「あの、ですね」


 不流飛鳥は言う。


 「わ、私たちも、神楽さんに協力します。この状況の打開、手伝わせてください」


 「……え?」

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