炎帝
一番初めと最後だけ視点は誰でもありません。
その間だけある人の視点になります。
ライコウとヘレスティアが戦争を始めてから一ヶ月が経った。
開戦したその日、ロピアルズ統括者である赤砂カナがどんな考えあってか、同盟国であるショウへと市民や兵士たちを撤退させ、今ではショウで防衛線を張っている。
ライコウの国はヘレスティアの圧倒的戦力によって殿を務めるロピアルズ兵たちはほぼ壊滅。
多くの犠牲者を生みだした。
そして……。
「これですべてが揃った」
一人の老人が七柱芯と五刑囚を引きつれてロピアルズ本部の中心にある広場へと来ていた。
その手に持つは十二個の〝世界の鍵〟。
一つの淡い光を放つガラスのような宝玉〝聖地〟。
用意していた祭壇へと宝玉を置き、鍵をそれぞれ決められた祭壇へと置く。
それぞれの鍵は共鳴をし始めて光を放ち、全ての鍵が中央にある〝聖地〟へと稲妻のような光を放っていた。
〝聖地〟は光を浴びて徐々に輝きを増して行く。
輝きが最大へと達した時――。
「さぁ開け。世界の中枢へと繋ぐ塔を建てよ!!」
――天へ向けて巨大な光柱を立てた。
空が曇る。雲や雷は光柱より開けられた穴を塞ごうと動いている。
「フハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハァァッ!!!!」
老人の高笑いが響き渡る。
(なんなのよ……あれ。って言うか、鍵は二つお母さんが持ってたはず……。まさかやられたなんて事は……)
ロピアルズ本部には転移魔法陣が所々に設置されている。危なくなった時、緊急退避命令を言われた時に使われる物だ。
ユウはこの一ヶ月、〈アイテムボックス〉に入れてあった非常食を食べながらずっとライコウから外に出ずに隠れて過ごしていた。
普段は七柱芯や五刑囚が周りの外門を全て見張っているために外に出る事が出来ない。ユウが放てる魔法に転移魔法は無いし、ほとんど派手な魔法ばかりだ。
動けない状況なのだ。
そして今日。全てのコードネーム持ちがこの広場へと集まって来たためにさすがにおかしいと感じてこうして身を隠して覗いている。鏡を使って見ているのだ。
理由は簡単。ユウの髪が白銀で、顔を直接覗くと髪によってバレテしまうのだ。
「白夜よ、見事だ。主が〝聖地〟を引き抜いて来なければ世界の中枢へとは繋がらなかったからな」
「……別に。……私はただ自分の目的を果たすだけ」
この声……白夜?
(まさか、ヘレスティアのコードネーム持ちだったの!?)
心の中で舌打ちをする。
だが今の会話からでは従っていると言うか、ただ手を組んでいると言った方がいいのかもしれない。
とたん、天高く貫いていた光柱がおさまった。
「おぉ……来るぞ……我が長年求めていた柱が! 塔が! 世界を掌握するための力の源が!!」
(嘘……でしょ……?)
それは、思わず身を乗り出してこの目で確認したかった物であった。
――天から、とても巨大な塔が降りてきたのだ。
屋上が見えないその塔の高さを目測で分かるはずも無い。塔は純白の色をしていて、まるで穢れを知らないと言っても良いようなほどの神秘的な空気を纏わせていた。
「美しい……これが中枢へと繋ぐ〝神秘の塔〟か! これほど素晴らしい造形物は無い!!」
天高く両手を上げて喜びをあらわにする老人。
あれがヘレスティアの王。とても温厚には見えない。
だがその表情は威厳溢れる眼光に長い顎鬚。その服は神官のような服を着ていて、金の布地が使われている。
温厚と言うよりも威厳のある頑固爺だ。
「わ――」
王に注意を向けていたからか、ユウは地面へと到達した塔による地震に驚いてつい声を出してしまった。
全員がこちらへと視線を向けてくる。出していた鏡は引っ込めて〈アイテムボックス〉の中へと入れた。
「誰だ、そこに居るのは」
王の声が聞こえると、足音が近づいてくる。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう! ちょっとエン! 黙ってないで何か考えてよ!)
ユウはその足音を聞きながら心の中で相棒の名前を呼ぶ。
『…………退くか?』
(絶対に逃がしてくれないでしょ? ってかここは退かないと絶対に殺されるんだけどっ)
『とすると、定番のあれで行くか?』
エンの提案は明らかにバレるパターンでは無いだろうか……?
だが、それしか今できる方法は無いと感じると、ユウはその作戦を実行した。
「に、にゃ~……」
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
「……猫」
「猫だな」
「何だ猫かよ。オレっちを脅かしやがって」
「ほぅ。猫か。なら無視でよいな」
近づいてくる足音が止まった。
白夜が初めにそう言った事と、二重スパイであるはずの竜田がナイスプレイしてくれたと言ったところだろうか。もう一人は見覚えの無い奴だ。
(え? マジで猫の鳴き声に聞こえた? まさかこんな簡単に成功できるもんなの? やってみるものって奴?)
ともかく、今の内に逃げられるかもと思い、ユウは静かにその場から立ちあがり、音を立てないように少しずつ離れていく。顔は奴等が居る方面へと向けたままだ。
ゆっくりと、少しずつ離れていく事によって、どうにかロピアルズで分け与えられた自室へと逃げ込んだ。
「はぁ……はぁ……、ドキドキが止まらないよ……」
『声などあげるからだ。これからどうするのだ?』
ユウは窓の外を見る。
塔はロピアルズの建物の上へと接続されるように屋根に乗っているようで、窓からは神秘的な壁が見当たらない。
塔が逃走経路を邪魔すると言うような事は無いようだ。
「今の内にショウへと逃げ込もうかな。お兄ちゃん達もきっとそっちに居そうだし。今だったらコードネーム持ちは此処にいるから」
「……それが最善」『それが最善だな』
「でしょ? じゃあ移動しよっと」
何事も無くて良かったと安心して部屋の窓へと向かう所で肩を唐突に掴まれた。
ビクッと揺らしてからゆっくりと振り向く。
そこには七柱芯の七人。五刑囚の五人が全員して揃っていた。
「あ、あはははは……。みなさん、お揃いで……」
「……大人しく捕まるか、痛めつけられて捕まるか。……選ばせてあげる――『魔神』」
ガキィンッ!!
瞬時に顕現し繰り出した大剣は後ろに居た黒騎士が合間に入って止めていた。
ユウは撃ち合ったその反動を利用して後ろにあった窓を割って外へと出た。
その後を追ってくるはコードネーム総員。
着地してすぐに走りだした。
だがその前へと降り立つは大鎌を地面へと突き立てその上へと乗ったはだけた和服姿の鬼族。
「あぁん。どこに行こうとしてるのかしらぁ?」
「逃げられはせん。【朱】の赤砂ユウよ、お前とは一対一でやりたかったが、今は我がままを言っているような時間ではないからな。悪いな」
前に鬼族。後ろに黒騎士。
それぞれ四方八方に囲まれ、完全に逃げ道を塞がれてしまった。
「……これ以上逃げるつもりなら、全員で『魔神』。ユウを討つ」
白夜の淡々とした声が耳を通過して頭の中へと入ってくる。
『ど、どうする……?』
珍しくエングスが動揺している。仕方が無い、こんな状況になるとは思わなかったのだ。
最後の最後……か……。
仕方無い。奥の手で一矢報いぐらいはしておくか。
「数々の神々を生みし母殺しの神よ……」
「?」
「何をブツブツ言っている?」
黒騎士が言うもユウは無視して続けた。
「燃え上がる罪焔として真名を解放せん」
大剣を掲げると目の前に出現する一つの赤い玉。
「まさか神具解放か!?」
「早く止めなければッ!!」
黒騎士と執事が止めようとするがそれは周囲に燃え上がった炎によって拒絶された。
「なっ!? 〝ネプチューン〟の槍で火が消せない!?」
「つまり海の覇者と同等の力か、それ以上の高等神!?」
藍色の少年が槍を火に突き刺しているのはそのためか。拒絶されているが。そして解放されている風香が驚いている。
「力を解放せよ〝火之夜藝速男神〟!!!!」
大剣を目の前に浮く火の玉を斬り裂いた。
――我に身を任せよ――
炎が広がり、声が聞こえるままにすべてに身を任せた。
熱い……体の中の全てが焼かれるような感覚だ。
でも、不思議と悪い気はしない。
神具解放。
それは神の断片などでは無く神自身から力を受け取る諸刃の剣。
「使った後は数日起きる事も無いけど――」
大剣が業火の炎に包まれ紅玉の炎独特の光を放つ。着ていた服は全て燃えて新たに作られる。所々に業火が燃え上がり、他の場所を真紅色の焔帝の鎧が形成された。
大剣を振るう。
それだけでここら一帯が熱気によって溶け、ガスがある所では大爆発を引き起こした。
「――本気で行かせてもらうから覚悟して」
それから十二時間にかけての死闘が繰り広げられ、ヘレスティアの巻き込まれた兵士が三割ほど壊滅。ライコウの建物が全体の四割が大破。
燃え上がる炎が鎮圧された時、その戦いに幕が閉じられた。




