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ヒスティマ Ⅳ  作者: 長谷川 レン
第五章 逃走
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二重スパイ

「これからどこに向かえばいいんだろう……」

「ライコウへ帰ればいいと思うけど、アキさんも寝ているし、ユウ達もどこかで一旦休憩を取った方がいいよ。お兄ちゃん」


 ボク達が小屋を出てから数時間。森の中を進んできたはいいものの、ボクは宿屋で痛めた右足首が悲鳴をあげてきたのを感じていた。

 自然と歩き方は変になるし、意識の無いアキを背負っても居るので少し辛いのだ。

 でもユウにアキを背負わせるわけにもいかない。ユウは周りを警戒して敵がいてばれたらすぐに静かにしてもらう事になっているからだ。


「そっか……」


 きょろきょろとあたりを見回して、休める場所が無いか探すユウ。ボクは少し右足首に氷を付着させながらその後を追って行った。


「そういえば、雑賀さん達は大丈夫かな?」

「ん~。大丈夫だとは思うよ? 向こうには寝虚ちゃんも居るし、かり……ミュアさんや、ハンマー担いでたあいつも強そうだったしね♪」


 雑賀や妃鈴の名前が出てこなかったのはまだ力不足だとでも言うのだろうか。ボクが言えたほどではないが。

 それにしても、どうしてあの女の人が雁也なのかが気になる。


「それはね♪」

「ボク、声に出してないってば」

「雁也さんの能力のおかげかな♪」


 ユウはボクの言葉を完全に無視して話を続けた。

 その事によって少しずつあの女の人が雁也だと言う事が良くわかっていった。


「雁也さん、魂を操る魔法が使えるなんてすごいですね……」

「まぁね♪ お母さんも使えるとは思うけど、使える人なんてほとんどいないしね♪」


 やはりボクのお母さんは少しおかしい人に部類されるのだろうか。使える人がいないと言われる中で平然と使えるお母さん。

 そう考えると、ボクのお母さんは本当にすごい人なんだなって思う。

 これまでは何も考えないで、人を巻き込んで自分が好きなことしかやらないような人だと思っていたほどだ。


 ……いや、これはこれで間違っていないような気がする。

 実際にルーガに仕事をやれと連れて行かれるからだ。


「あ! あそこらへんが丁度いいかな。水もあるし、あそこで休も♪」

「うん」


 ユウに言われて近くの川の傍で休憩する事にした。意識の無いアキの体を木に預け、ボクはその隣に座って痛む右足首を押さえる。

 冷やしていても神経の痛みが襲ってくる。シラと契約しているから冷たくしても効果が無いのだろうか。


『ご、ごめんなさいです……』

「あ、あぁ違うよシラ! シラの所為じゃないから!」

『でも、わたしがいるから『痛み』をけいげんできなくて……』

「そう言う訳じゃないってば! 安心して、シラの所為でこんな事になったんじゃないから。むしろボクの不注意だから!」


 ボクが急に騒ぎ出したからか、ユウが心配そうな顔で覗いてきた。


「お兄ちゃん、どうしたの? ……もしかして、右足痛む?」

「ちょっとね。でも、大丈夫だよユウ」


 妹の前で弱音なんていられない、か。


 そういえばヘルはついて来なかった。小屋に残ると言っていた。おそらく契約するチャンスを逃したのだろう。

 少し残念と思う反面。アキがこれ以上干渉する必要もないと思うと、嬉しさ反面が現れてきてしまう。アキは危険な行為をする必要はないのだ。


「お兄ちゃんも、少し寝ておいた方がいいよ」

「ううん。宿で少し寝てたし、目がさめちゃったもん。眠れないよ」

「そっか……」


 ユウが少し暗くなって膝を両手で抱え込むようにしていた。

 ボク達は川の近くで綺麗な虫の声を聞きながらアキの目が覚めるのを待っていた。



 ★



 時は数時間前に遡り、黒騎士と白騎士の襲撃を受けたその直後になる。


「んで、何でお前が俺達を助けてくれんだよ、竜田」


 俺達はリク、ユウ、アキを抜かしたほぼ全員が『追跡者(チェイサー)』を名乗る五刑囚。漆原竜田を前にしていた。

 リク、ユウ、アキの状態は分からない。竜田が急に流していた魔力を切ったのだ。あの三人だからいざとなったら逃げれるだろうから心配しないとしても、目の前に居る竜田については疑問だらけだ。


「俺がお前らを助けちゃマズイか?」

「ったりめぇだろうが。テメェはヘレスティアの五刑囚だろ?」

「まだ話されていなかったか……」


 竜田がやれやれと首を振るっていた。

 一体何の話をだというのか分からないが、とにかく今のは絶対に助けてくれた内に入るだろう。敵国に情けでもかけたのか、こいつは。


「竜田が助けてくれた事に対しては私が」


 すると、ミュアが手をあげて竜田の今の現状という物を放してくれえた。


「竜田は今現在、二重スパイとして我々の味方をしてくれています。所謂裏切りですね」

「は? 何で?」

「お前らのお偉いさん。ロピアルズ統括者に命握られてんだよ。俺としても、ヘレスティアには少々飽き飽きしていたからな。それに乗ったまでだ」


 随分と軽く裏切ってくれちゃってんなこいつ。命を握られてるっつってもカナがそんなことをするとは到底思えない。否、そんな面倒くさいことはしなさそうだ。

 つまり後者が本音って所か?


「とりあえず、あんたはもう敵じゃないって言う事~?」

「そう言うことだ。それより、テメェ等二人はみたことねぇな。誰だ?」


 竜田はミュアともう一人の女を見て話した。そういえば俺もそいつの名前は知らない。


「私はミュア・バレンタイン。こっちはリンスマリア・ラライカ。私はリンって呼んでる」

「どもども~。ショウより派遣されました、リンスマリアって言うの。呼び方はリンでオッケーだよ」


 ショウって、ライコウと姉妹国じゃねぇか。そんな国の奴がヘレスティアにすでに潜入していたのか。


「ミュアにリンか。ライコウでみなかったと思ったらお前はショウの国か」

「そっ。こっちはあんたの事知ってるよ? 伊達に何年間も慎重に慎重を重ねて調べてないからね。五刑囚と七柱芯の事については詳しく調べ上げたよ。悪魔ってのがイマイチ信用できないけど……」


 リンは悪魔を見た事が無いのか。一般常識に逸脱しない戦い方をすると言ったところか。

 にしても、どうして持っている武器がハンマーなんだ? 明らかにおかしいだろう。体格に似合わない。


「それじゃあ、とっとと行くか」

「ちょ、ちょっと待って! リク君達はどうしたの!?」


 ソウナが慌てて止める。あの三人がきていない事を心配しているのだろう。


「ンな事言われても、あいつらすでにテレポートして居なくなってんよ」

「え?」

「どこに言ったかなんて、俺に聞くな。知らんとしか答えられないよ」


 テレポートで逃げたか。誰が使ったかはわからんが、とりあえずどこかへ逃げたんならよかった。


「テレポートですの……。それだったら、わたくし達はライコウへ向かってはどうですの? きっと帰還途中で再開できますわ」

「……それに、リクちゃん達を心配する事ない。……とっても強い」


 レナと白夜がそう言うと、リンと竜田を抜かした俺達は力強く頷いた。


「それじゃあ、ライコウまで送ってやるよ。〈浸透真〉」


 竜田が魔法を放つと、ライコウの方へと向いてる場所に魔力が集まった。


「ここに乗ればライコウに一秒でたどり着くだろうよ」

「竜田には救われるな。ホントに便利な魔法だ。すまない」


 雑賀はそう言うと、先にその道を通って行った。おそらく確認するのだろう。距離を無くしただけなのでその向こう側に敵がいるかもしれない。

 五刑囚がライコウに居るぐらいなのだ。

 そして、その向こうから雑賀が出て来てオーケーサインを出すと、マナ達が次々と入って行く。


「そうだキリ」

「あ?」


 最後に俺が入ろうとすると、竜田が呼び止めてくる。


「この前戦った事を覚えているか」

「あぁ。ごく最近だしな。ってかよくお前この短い間に治ったな」


 ほとんど殺すつもりで殴ったのだがやはり死ななかったか。

 いや、殺すのは後味が悪いのだが、それでも竜田は死なないと思ったのだ。


「生憎と、まだ体全体が傷だらけで今も無理してんだよ」


 そう言って竜田は服をまくしあげると、そこには何本も巻かれている包帯があった。


「あっそ。んで、何の用だよ」


 俺はつまらないとでも言うように耳をほじりながら竜田が言うのを待っていた。


「お前、その危険な力をいつまで野放しにしてるつもりだ?」

「――ッ!」


 俺の中に居る何かに、こいつはもうすでに気づいている?

 前は悪魔と言っていたが、あれは比喩のようなものだったのか?


 竜田はそんな俺の考えなど気にせずに言葉をつなげた。


「すぐにでも暴れ出しそうなものを飼っておいて、よく平気でいられるな」

「――ハッ。別にいいだろうが、俺の勝手で」


 俺は笑った。だけど竜田からすればその笑いは苦しさをまぎわらすような笑いだったようで、更に言葉をつなげてきた。


「何を飼っているか、自分ではわかっているのではないか? いや、むしろ名前もすでに分かっているのではないか? お前、死ぬつもりか?」

「テメェにゃ関係ねぇ事だろうが」


 俺は睨みを聞かせて竜田を見る。竜田はそんな様子にも動じずにまっすぐ俺を見てくる。


「俺はお前にリベンジをするつもりだ。死んでくれちゃ困るんだよ」

「ハッ。人の心配かよ。返り討ちにしてやるよ」


 俺は竜田に悪態だけついて竜田の作った魔法の中へと足を踏み入れた。

 するとそこは見慣れた風景。ライコウの街並みが見える場所だった。


「無理なんだよ……」


 俺は呟く。

 前を歩く他の人には聞こえないように、それでいて竜田に言われて湧き出たどうしようもないこの気持ちを吐き出すようにして呟いた。


「夢は見てる。姿も見えてる。試練に挑んだ。正体も掴んでる。だけどなぁ……ッ」


 自然と握る拳に力が入る。日夜戦う自分を思い出す。


 戦っている相手は雷で作られた両腕についている刃が俺に襲い掛かり、拳で防いでも貫通し、全身に流れる鋭い痺れと痛み。

 耐えて攻撃しても一向に当たらないスピードで動きまくり、死角から鋭い一撃が加わる。

 〈雷迅〉の稲妻属性で動いてようやっと姿が見えるくらいのその速度。

 その姿はニ角の角と、鋭い牙。目は白目の部分が黒く反転色となっていて、虎柄の腰巻をつけていて、鬼のようにも見て取れ、雷の神でありながら刀の神でもあるそいつの名が……。





建御雷神(タケミカヅチ)にはいくら挑んでも勝てねぇンだよ……ッ」




 全戦全敗。俺が此処まで何度も負けると言うことは経験した事が無い。

 そして、奴が契約してくれる内容はこうだ。








『勝て。力で屈服させてみろ。それが太古より約束された俺とキリ、お前が契約するためのただ一つだけの方法だ』


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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