世界の鍵
視点はリクに戻ります
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああッッ!!!!」
「アキさん! アキさん、目を覚ましてください!!」
先程から何度も声をかけてみても目を覚まさないアキの肩を何度も揺する。
初めはヘルにただ夢を見ているだけと訊いていたので大丈夫かなと思ったが、先程からアキが急に唸りだしたかと思うと、悲鳴をあげはじめた。
「ちょっと! これどういうことよ!」
「壊、れた。やっ、ぱり、アキ、には、無理、か」
ヘルは少し残念そうに言うと、ハルペーを振るった。アキに掛かっていた魔法が解けて、アキが目が勢いよく開く。
「アキさん! 聞こえてますか!? アキさん!!」
「嘘……嘘よ……。違う……絶対に違う……」
「アキさん!? しっかりしてくださいアキさん!!」
うわごとのように呟くだけのアキ。その表情は完全に死んでいて、返事を返してはくれなかった。
「〈メモリーダイブ〉」
ヘルが更に魔法を発動すると、急にアキが押し黙る。目を瞑ってまた眠ってしまった。
「ヘル、今度のは一体……」
「記憶、を沈め、た。頭、の奥、底では、覚え、てる。一種、の。トラ、ウマを、植え、つけた」
ヘルはそれだけ言うと小屋へと入って行った。
ボクは眠ってしまったアキに肩を貸して歩く。
一体夢で何を見たのだろう。アキにとってトラウマになりうる事なんて分からないし、アキの事をほとんど知らない。
知っている事と言えば、アキには師匠がいると言う事と、アキとハナの両親が殺されたって事だろう。
ボクはユウと一緒に小屋へと入る。
中では守護十二剣士の男とヘルが二人座って待っていた。
「遅いぞ。この程度の力では先が不安で俺は仕方が無い」
「この程度の力って、龍なんて出すなんて卑怯よ!?」
バンッとテーブルを叩いて怒る。
すると男は「何を言っている」とバカにしたような目で見た後、鼻で笑った。
「あの龍は龍の中でもそれなりに下っ端。ヘビードラゴンだぞ? 大きさはそれなりに大きいタイプを用意したが」
「龍なんて戦った事ないよ!! そんなのは当たり前だと思ってるの!?」
「当然だ。龍はたくさんは居なくとも、俺達は何度も戦った。民が一番困っていた相手であり、そして敵国が使ってくる強力な敵としても現れたからな」
「ゆ、ユウ達はそんな時代の人間じゃ――」
「龍ぐらい、瞬殺はできなくとも簡単に倒せなければ神に勝てぬぞ?」
ユウの言葉を遮って放つ男の言葉は、とても驚く物だった。
「か、神様に勝てないって……どういうことですか?」
神様は力を貸してくれるだけの存在では無いのだろうか。ルナやシラ、ツキはただ力を貸してくれていて……。確かに契約する時は実力の時が多いが……。
「神に己の力だけで勝つ事が出来なければ過去を繰り返すだけだ。聖地。お前は己の命を捨てて世界を支えるのか? かつての姫様同様に」
男に言われ、古書の内容の最後が『英雄姫』が命を捨てて世界を守ったと書かれてあった。
そういえば世界崩落が始まった理由は『英雄姫』が神の力を完全開放して全ての悪魔を葬り去ったからだと書いてあった。
「お前は姫様を超えなければいけないのだぞ?」
ユウがその手で拳を作って振るわせている。ボクはなんて言ったらいいのか分からなくて黙ったままになってしまう。
……と、不意にヘルがつんつんと男を突いて顔を向かせる。
「ヘル、は説教、をさせる、ために、会わせ、たわけ、じゃない。力、不足、はしょう、がない。聖地、はまだ、この、世界、に来て、から、二ヶ月、ちょい」
「……まぁ、いいだろう」
男はまだまだ言い足りなかったのか。肩をすくませていたが、話を変えてくれた。
「聖地よ。お前はそれぞれ俺達の試練を受けなくてはならん。力をつけさせるためだと言うのもある。だが、守護十二剣士の三柱が消された今。成長することのできない我らではなく、聖地がそれぞれ守護十二剣士の司る属性を受け取らなければならん。俺達が死ななければいいが、一つの柱が消されたとわかった今。俺達と同等くらい、もしくはそれ以上の力を持つ何者かが今の世界崩落を狙って――」
「ち、ちょっと待って!? それってどういう事!? 何であんた達が消されると世界が崩落するのよ!?」
ユウが慌てて止める。混乱してきた所で止めてくれたので少し整理する時間ができるが、いまいち理解できていない。
「我々守護十二剣士はこの世界の属性を司ると同時に、鍵でもあるのだ」
「鍵?」
ボクが頭にハテナを浮かばせながら聞くと、「そうだ」と返してきた。
「世界をコントロールする中枢へと行くための鍵だ。今の人間が言う、『英雄姫』が命を投げたその場所へ行くための鍵。全て揃えば、世界崩落はおろか。自分の好きなように世界を変える事ができる」
「えぇぇぇぇ!? 世界を自分の好きなように変えれる!?」
それって、世界を掌握したのと同じ事ではないか!
ユウに続いてボクも驚く。まず世界の中枢なんてある事も初めて知ったし、世界をそこから変える事ができるなんてもっと知らなかった。
「そうなったら誰もが世界を掌握したその者の言いなりになるだろうな。意志が弱い物。世界の事をまったく知らぬものなどは必ずなる」
「あれ? でもどうして悪魔とか、人間が世界を壊そうだなんて考える人が出てくるんですか?」
当然の疑問を男にぶつけてみた。
だって世界を操れるならそういう事をしてもいいではないか。
「それは無理だ。人間は誰だって善と悪を持っている。どれを主とするかは、人間個人が決めるものなのだ。操ることはできても、頭の中では納得できていない人が多いだろう。そんな人をずっと操っていては、いつか壊れる。壊れた者はもう人間では無いだろう。人形だ。悪魔は元々操ることなどできん」
「でも、何でそんなのがあんたたちの試練に……」
ユウが言うと、男はやれやれと頭を振った。
「先程も言っただろう。我々は成長する事が出来ない。つまり、我々は今よりも強くなることはできん。すでに一つの柱を壊されていると言うことは守護十二剣士よりも強い戦士がいると言うことだ。邪悪な力を持った戦士がな。その前に、成長の見込みがあり、強くなる可能性を秘めている聖地へと鍵を渡したいのだ」
「鍵を……ボクに?」
先程弱いと直接では無い物の遠回しに言われたばかりではないか。なのにボクに鍵を渡したいと言うだなんて、想像もしていなかった。
「そうだ。現在鍵は邪悪な戦士が三つ。聖地の母親が二つ持っている」
「お母さんが!?」
何故お母さんが鍵なんて持っているのだろう。
世界に干渉しているから? それでもどうして?
「守護十二剣士が持っている鍵は残り七つ。俺を含めて太陽、封、森、炎、力、水、風だ。邪悪な戦士は光と闇が鍵を持っていない事を知らないだろう。一度光を狙った時点でな」
男はそう言うと、全ての魔法を解いた。その時には日が射していたはずの光が無くなり、外は真っ暗に染まった。
男は指を鳴らすと、静かに蝋燭が現れてその蝋燭に火がついた。
「話しはこれで終わりだ。聖地よ。まだお前に鍵を託す事ができん。出直してくれ」
出直してくれと言われ、少し頭にくるものがある。なんだってボクが世界を背負えみたいな事を言われなければいけないのだろうか。
「どうして、ボクなんですか……?」
ボクは少しもすごい所なんて無いし、英雄姫みたいに強くともない。
力があるならその力を使って世界を救うなんて大仰な役柄を受けても良いだろうけど、ボクには世界を救うなんて役柄は……。
「お兄ちゃん……」
「…………」
ユウが心配そうで、少し悲しそうな目をしてみてくる。でもそれはユウだけじゃなかった。ヘルも、男も同じような目をしていた。
「世界を救う誰かがいなければ、世界を救うことなんてできない。姫様の力を受け継いだお前だから頼むのだ。勝手なのはわかる。怨むなとは言わない。だが、わかってくれ。赤砂リク。姫様の力を受け継ぐ事の出来るのはリクの様な心優しき子だけなのだ。じゃなければ世界は任せられん」
「…………」
素直に受け止める事が出来ない。でも、誰かがやらなければいけないと言うのは本当の事だから言い返す事も出来ない。
ボクは少し納得いかないまま、寝ているアキを背負って小屋を後にした。
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