93 共演
「イギィッ!!?」
青い燐光を纏った剣閃が奔り、『木人』の頭部が宙を舞う。
そのまま続け様に、こちらへ接近して来ていたもう一体の『木人』に対して『茨の剣』を振り下ろした。
攻撃を防御しようとしたのか、前方に掲げられた枝槍の腕が『茨の剣』と『木人』との間に差し込まれるが、私は構わずそのまま『木人』を縦に両断する。
赤黒い血を撒き散らしながら左右に倒れて行く『木人』の死体には目もくれず、私はその場で勢いよく振り向きながら、背後から襲い掛かって来た『三本足』の触手を左手で掴み取った。
『ミ゛ィィィッッ!?!?』
触手を掴むと同時に左手を勢い良く引き、『三本足』を触手ごと引き寄せる。
強化された私の筋力により、勢い良く触手を引かれた『三本足』の身体は、そのまま宙を舞って私の方へと飛んで来た。
「……ふッ!!」
私はこちらへ飛び込んで来る『三本足』に相対し、右の手首を返す様にしながら胸の前で『茨の剣』の切先を前方に向けると、渾身の力を籠めた突きを放った。
『ミ゛ッッッ!!!?』
放たれた『茨の剣』による突きは『三本足』の口内を貫き通して串刺し状態にする。
その一撃で『三本足』は絶命したが、『茨の剣』に死体がぶら下がった状態になってしまい、その全体重が剣を通して私の腕に圧し掛かる。
私は次なる攻撃に移る為、素早く剣を死体から抜こうとする。
『ギミャァァァァッッッ!!!』
と、そこへ別の『三本足』が私に向かって襲い掛かって来た。
恐らく、私が死体から剣を抜こうとしたタイミングを狙って攻撃仕掛けて来たのだろう。
いつもの事ではあるが、怪物達は獰猛極まりない性質を持っていながら、虎視眈々とこちらの隙を伺っているらしい。
自我が薄くとも知能が高いと思わせる行動の数々も、『最初の一輪』の影響によるものなのだろうか?
……或いは、本能的な勘の様なものなのかもしれない。
「……せりゃあッ!!」
触手による攻撃を『三本足』が放つよりも前に、私は剣に纏わり付いている小枝を『茨の剣』を力尽くで振り抜き投げ飛ばした。
『ミゲッ!!?』
投げ飛ばされた死体は、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた『三本足』に勢いよく激突する。
死体に押し倒された『三本足』は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「……ッ!!」
『茨の剣』を振り抜いた体勢の私は、その勢いのまま頭上に剣を振り被る。
死体をぶつけられた『三本足』と私の距離は数メートルは離れており、『茨の剣』では腕を目一杯伸ばしたとしても届かない距離だ。
しかし、私はそのまま『茨の剣』を思い切り振り下ろした。
その瞬間、『茨の剣』の剣身の部分が撓ると同時に伸長し、鞭の様な形状へ変化する。
渾身の力を籠めて振り下ろされた『鞭剣』は、自分に圧し掛かった仲間の死体を退かして起き上がろうとしていた『三本足』を死体諸共真っ二つに両断した。
『!!!??』
文字通り一刀両断された『三本足』は、断末魔の悲鳴を上げる事も無く絶命する。
頭上から叩き付ける様に振り下ろされた『鞭剣』はそのまま地面を打ち据えると、バシンッ!という空気を引き裂く音を響かせながら地面を深く抉った。
その様は、『鞭剣』が地面を割ったかのようだ。
―――若干、力加減を間違えたかもしれない。
……と、先程の一連の攻防を振り返って反省していると、背後から急速に迫る気配があった。
『ヂュアアアアアアアアアッッッ!!!』
『ジャァアアアアアアアッッ!!!!』
『ギィアアアアアアアッッッ!!!』
叫び声を上げながら飛び掛かって来たのは三匹の『犬ネズミ』だ。
消防指令センターでの戦闘では散々相手にした怪物であり、あれから時間が経っている訳でもないのだが、既にその声を懐かしく感じる。
―――などと、呑気な事を考えている間に、『犬ネズミ』達は背を向けた状態の私に向かって大口を開けて飛び込んで来た。
このまま何もしなければ、三匹同時に喰らい付かれてしまうだろう。
尤も、仮にそうなったとしても今の私なら大したダメージにはならないし、傷もすぐに再生させる事が出来る。
しかし、だからと言って態々ダメージを受ける意味も無い。
何より……。
パシュパシュパシュッ!
「ゲッ!!?」
「ゴギッ!?」
「ギヤッ!?」
くぐもった音が三度響くと同時に、三体の『犬ネズミ』達が頭から血を噴き出して転倒した。
音がした方向を見やると、そこには右手で短機関銃を構えたライナの姿があった。
左手に持ったワイヤーの先には、別の『犬ネズミ』の死体に突き刺さった黒い短剣が見える。
周囲には何体もの『犬ネズミ』の死体が転がっており、彼らの処理をしながら私の援護をしてくれたようだ。
恐らく私に襲い掛かって来たグループは、ライナが相手をしていた群れの一部だったのだろう。
視線を向けている私に気が付いたのか、ライナが私を見て肩を竦める。
この様な状況においても余裕の態度を崩さないライナに、私は苦笑しつつ頷きを返した。
私はそこまで余裕がある訳じゃないんだけどなぁ……と、若干呆れつつしっかりと援護してくれているライナの存在に私は安心感を抱いていた。
今の状況なら、仮に私が敵を討ち洩らしてしまったとしてもライナがフォローしてくれるだろう。
勿論それに頼り切りになるつもりは無いが、そのお陰で失敗を恐れずに思い切り戦う事が出来ていた。
そして同時に、私自身もライナの戦闘を援護出来る様に、常に『探知』を行う事で怪物達のライナへの攻撃を防ぐ様に立ち回っている。
そうして互いが互いを援護する形で戦う事で、複数の怪物に囲まれる事を未然に防ぐ事が出来ているのだ。
―――とは言え、まだまだ私の戦闘経験はライナには遠く及ばない。
しかしそれでも、今この瞬間はライナとお互いの背中を預け合う事が出来ていると感じ、私の心は若干の昂りを覚えていた。
「ゲヒャッ!!?」
「グギョエッ!!?」
左右に振るった『茨の剣』が二体の『木人』を切り裂く。
既に『木人』の蔦の装甲程度では、今の私の『茨の剣』の攻撃を防ぐ事は出来ならしく、近寄って来た傍から撫で斬りにしてしまっている。
それでも、ごく稀に思わぬ動きを見せる個体も居る為、決して油断をするべきではないのだが。
「イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ァァァァアアアアアアッッッ!!!!」
「キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ァァァァアアアアアアッッッ!!!!」
「ッ!?」
「!」
襲い来る怪物の集団と戦っている最中、丁度背中を向け合った体勢になっていた私とライナの立ち位置の中間辺り。
その地面から突如二体の『木人』が出現した。
『木人』が起き上がった地面をよく見ると、ブルーフィリアの花に覆われて分かり難いがその部分の地面だけ窪みが出来ており、どうやらこの『木人』はそこに倒れる様にして身を隠していたらしい。
『光脈』を持つブルーフィリアの花に埋もれる様にして動かずにいた為、『探知』でも発見出来なかったらしい。
周囲から襲い掛かって来る他の怪物の相手をしている中で、突然背後を取られた形になってしまった。
この場合、二体の『木人』達がこの後どの様な行動を取るかが問題になる。
具体的には私とライナ、どちらを攻撃して来るのか……という事だ。
「イ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!」
二体の『木人』達が攻撃対象に選んだのは、起き上がった際に視線の先に居た私だった。
一体が僅かに早く右腕の枝槍を振り被りつつ、私の方へ向かって来る。
そして、右腕の射程圏内に私が入った瞬間、前方を薙ぎ払う様に腕を振るって来た。
私はその攻撃を左腕の『籠手』を変化させた『鉤爪』の手の甲で受け止める。
『木人』の枝槍は金属並みの硬さを持つが、それも『籠手』や『鉤爪』の植物装甲なら防ぐ事が出来る。
実際、『木人』の枝槍は私の左腕の装甲に阻まれ、ギャリィッ!という金属音を響かせながら止まった。
その直後、私は左腕を思い切り外側に向けて振り払った。
『鉤爪』は『籠手』よりも重く大きい為、細かい動作をするのには向いていない。
しかしその分防御力が高く重量がある為、単純なパワーにおいては『籠手』形態よりも優れていた。
「!!?」
勢いよく振るわれた『鉤爪』によって、右腕を払い除けられた『木人』は大きく体勢を崩す。
そこへすかさず飛来したライナの短剣が『木人』の後頭部に突き刺さった。
「ゲッ!!?」
脳天を短剣で貫かれた『木人』はそのまま仰向けに倒れて行くが、そこへいつの間にか距離を詰めて来ていたもう一体の『木人』が、私の死角から襲い掛かって来た。
「キ゛キ゛キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッッッ!!!」
だが、『探知』を用いて常に周囲を索敵している私にその動きは丸見えだった。
確かに、今『木人』が襲って来た私の斜め後ろに当たる位置は、『茨の剣』だと攻撃し辛い場所とタイミングだ。
偶然なのか、この『木人』達は私が嫌がる位置取りと動きで以て攻撃を仕掛けようとしていたのだ。
しかし、それなら『茨の剣』で攻撃しなければ良いだけだ。
私は『木人』の方を全く見ずにその場で身を屈める。
背後から攻撃を仕掛けて来た木人は、ストレートパンチを繰り出す様な動きで右腕の枝槍を突き出して来た。
だが私が攻撃を回避した為に、勢いが付き過ぎていた『木人』は攻撃が空を切ったと同時に前方へ僅かによろめいてしまう。
その瞬間、私は体を捻って力を一瞬溜めると、右足を体の外側から掬い上げる様な形で後ろ回し蹴りを放った。
『足甲』を纏った状態で放たれた後ろ回し蹴りは『木人』の側頭部を踵で捉え、『足甲』の踵部分から伸びた上向きに湾曲した刃が『木人』の頭部を覆っている蔦の装甲を貫通して脳にまで突き刺さる。
私は蹴りの勢いのまま『木人』の頭部を踵の刃で引き切りつつ、その死体を地面に叩き付ける。
そこへ、先程まで私が相対していた怪物達が、隙ありと見たのか殺到して来た。
「操、頭下げろ!」
簡潔なライナの指示が飛ぶ。
私は余計な事は言わずにその場に素早くしゃがみ込んだ。
――パパパパパパパパパパッ!!!
頭上を無数の銃弾が空気を引き裂きながら飛んで行く音がする。
私に向かって来ようとしていた『木人』や『三本足』、そして既に数匹程度しか残っていなかった『犬ネズミ』に、短機関銃から放たれた銃弾の雨が降り注いだ。
9ミリ弾の連射を受け、『犬ネズミ』の残党は体中に風穴を空けられて絶命する。
だが、薙ぎ払う様に掃射された銃弾は正確に怪物達を射抜いていたが、体重が比較的軽く耐久力も低い『犬ネズミ』以外の怪物には致命傷とはならなかったようだ。
呻き声を上げつつも僅かな時間歩みが止まった程度であり、再びこちらへ接近しようと試みる。
―――けれど、私にとっては十分過ぎる時間だ。
「……はぁッ!!」
しゃがんだ体勢のまま気合と共に振り被った私の左手から放たれたのは、『花樹狼』こと『鼠のアル』との戦闘で新たに作り出した武器である『棘のフレイル』だ。
伸ばした蔓のロープ部分を左から右へと渾身の力を籠めて振り抜く。
強化された全身の筋力によって強力な遠心力が加わった『棘のフレイル』の打撃部が、私とライナに接近しつつあった怪物達の足元を薙ぎ払った。
状況としては足払いを掛けられたと言うべき形だが、『棘のフレイル』の打撃部はその名の通り棘がびっしりと生えた球体だ。
怪物達に猛烈な勢いで激突したフレイルは、足払いどころか怪物達の脚や体の一部を引き千切りながら通過して行く。
「グゲェェェェェ!!!?」
『ミギャァァァァ!!??』
ライナの銃撃を受けて一瞬足を止めていた怪物達は、フレイルの追撃を回避したり防御したりする事も出来ない。
両足を完全に吹き飛ばされた者、体の前面の一部を剥ぎ取られたかの様に失った者―――。
即死はしなかった者も中には居るが、無事な者は一体たりとも存在せず、私達に襲い掛かって来ようとしていた怪物の全てが行動不能となっていた。
しかし、私は攻撃の手を緩めるつもりは無い。
例え上半身だけになってもこの怪物達はこちらに襲い掛かる事を止めはしないだろう。
それなら、しっかりと止めは刺しておくべきだ。
「ふっ!!」
右に振り抜いたフレイルを操作して、若干腕を回す様に手首を返しフレイルを上から振り下ろす。
「!!?」
ドゴンッ!!という音が響くと同時に生き残っていた怪物の内の一体である『三本足』が爆ぜた。
体をフレイルによって抉り取られ、ほぼ戦闘不能状態だったが、ふら付きながらもまだこちらへ歩み寄ろうとする気配があった個体だ。
しかし、一歩を踏み出そうとしたその瞬間に叩き付けられたフレイルによって地面の染みと化してしまった。
パパパパパッ! パパパパパッ!
続いて響いたのはライナの短機関銃の銃声だ。
いつの間にか、まだ息のある『木人』や『三本足』に接近しており、淡々と一体ずつ弾丸を連射して撃ち込んで行く。
銃撃を一点に集中させている為、『木人』の装甲も銃弾を防ぐ事が出来ていなかった。
『ミ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッッッ!!!』
しかし、『木人』はそのまま動きを止めたが『三本足』はハチの巣にされながらもまだ息がある。
フレイルによって足を失ったその『三本足』は、未だ健在な触手を振るってライナに攻撃を仕掛けようとした。
それに対してライナは表情一つ変えず、左手に持った黒い短剣を凄まじい速度で振るう。
一瞬の内に『三本足』の触手は細切れにされてしまった。
『ゲガッ!!?』
どうやら、ライナの視線の動きを見る限り、彼は完全に『三本足』の触手攻撃を見切っていたようだ。
あれなら、迎撃しなくてもそのまま躱す事も出来たんじゃないかな?
……と、ライナの動きを自分自身の戦い方の参考にするべく、脳内の思考速度を加速させた状態でそんな事を考える。
そう、ここまでの一連のライナの怪物に対する攻撃は、思考速度を高速化して体感時間がゆっくりと経過している私の感覚の中での出来事だ。
そんな中ですら、ライナの動きは私にも完全には知覚し切れない程の速さなのだ。
これまでライナと一緒に戦って来て分かったのは、ライナと私でそもそも戦闘経験が違い過ぎるという事は勿論だが、戦闘スタイルも全く異なっている。
ライナは何と言うか……速度と正確さに重きを置いた技巧派であり、その『技』を短剣術・格闘術・射撃など、あらゆる部分に応用する事が出来るスタイル……みたいな感じだろうか?
それに対して私は……本音を言うとあまり認めたくないが、火力と耐久力のゴリ押しである。
人間では即死してもおかしく無い様な怪我を負っても私なら傷がすぐに再生するし、普通の人間がしたら自らを破壊してしまう様な体の動きをする事も可能だ。
そして、そこにブルーフィリアとしての固有の能力である『『光脈』』を源泉とする超常的な能力を用いる事で相手を捻じ伏せる……と言うスタイルだ。
一言で言ってしまえば、殴り合い上等スタイル………になってしまう様な気がする。
正直不本意ではある。
しかし、戦闘経験ゼロの生まれたばかりの存在なのだから当たり前でもある。
私はまだまだ弱く、その上経験に乏しい。
思う所があるのも事実だが、それはもう仕方が無い。
だからこそ、私はライナの戦い方を参考にしようとしているのだが、この戦闘スタイルの違いがある為、正直言って参考に出来る様な事は多くは無い。
しかしそれでも―――全く参考にならない訳では無い。
故に、目で見てで覚えられる技術は何であれ身に付けておきたいのだ。
今の私の戦い方で勝てるのなら……生き残れるのならそれでも良い。
しかし、この先もずっとそうだとは言い切れない。
自分よりも強い相手……それも、全く歯が立たないレベルの相手が突如現れないとも限らないのだ。
そうなった時、生き延びる為の手札は多いに越した事はない。
そして、恐らく近い内にその様な状況が訪れるのではないかと私は漠然と感じていた。
この先にある隔離研究区画で、目的の精製器を見つける事が出来れば………その時は『最初の一輪』と対峙する事になる。
その時、自分の持てる能力の全てを用いて私は『彼女』を――――――。
『グェッ!!?』
ライナの投げたワイヤー付短剣が『三本足』の脳天(?)に深々と突き刺さる。
ライナはぐらり、と仰向けに倒れて行こうとする『三本足』の体に刺さったままの短剣を、ワイヤーを引き寄せて回収した。
飛んで来た短剣を空中でキャッチし、その場で一振りして血を払うと、ライナは周囲を見渡してから溜息を吐いた。
「やれやれ、最初の数より増えてんな」
「そうだね、それでも随分減ったから……もう少しかな」
私達の元へ集まって来ている怪物の数は当初よりも明らかに増えている。
それでも、私が範囲殲滅をメインで行い、ライナが囮と妨害を担当する事でかなり効率よく数を減らす事が出来た。
実際、『探知』で感じ取れる残りの怪物達の数はあと数体程度だった。
「……なんか、変に頭良いよな、ここの連中」
ライナが襲い掛かって来た『犬ネズミ』の首を短剣で斬り裂きながらぼやく。
『木人』で壁を作り、背後から触手で攻撃しようとしていた『三本足』を『木人』ごと『鞭剣』で横一文字に両断しつつ私も同意する。
「確かに。 なんて言うか、搦め手……って言う程じゃないけど、作戦っぽい事をして来てるよね」
三体の『木人』がそれぞれ三方向から取り囲む様に私へ攻撃を仕掛けて来る。
示し合わせた様に、枝槍の腕を振り回しながら接近して来る『木人』達。
単純に腕を振り下ろそうとするのではなく、滅茶苦茶にでも振り回していればその腕が私達の攻撃を防ぐかもしれないとでも考えたのだろうか。
事実、確かに9ミリ弾が単発で当たった程度なら、『木人』の腕なら負傷しても致命傷にはならないだろう。
しかし………今更?
これまで何度も戦って来た『木人』達が、この製薬研究所に来て急にその様な戦術モドキの様な行動を取り始めた事に、若干の違和感を感じる。
怪物同士連携する等の行動はこれまでにも見られたが、個々の怪物ごとに特徴的な行動を取る者……つまりは個性と言えるレベルの行動を取る怪物が増えている気がする。
私は背中に蔦で括り付けていた散弾銃を手に取り、両手で構える。
ここ最近、音を立てない様にしていた為に出番の無かった銃器類だが、既に大きな音が周囲に鳴り響いてしまった後である為、もうその辺りを気にする必要は無い。
……主にライナのせいだけど。
とにかく、新兵器……と言う程ではないが、ライナから提供された銃弾の威力をこの辺りで試してみる事にした。
散弾銃のフォアエンドを前後にスライドさせ、銃弾を薬室に送り込む。
こちらへ襲い掛かって来ようとしている『木人』の一体に照準を合わせて引き金を引く。
直後、轟音が響き渡ると同時に銃口から飛び出した大口径の一粒弾が『木人』の胴体を貫いた。
「ゴッッ!!??」
大柄な散弾銃の弾薬に込められた一粒弾……所謂スラッグ弾は散弾ではない為、当然の事ながら命中率は散弾よりも劣る。
しかしその分、一発の巨大な弾丸が放たれる為、その威力は分厚いコンクリートブロックすら粉々にしてしまう程のものだ。
ライフルと同じ様に銃身に施条が刻み込まれている場合は弾道が安定し射程も伸びる為、近距離だけではなく中距離もある程度攻撃範囲に含める事が出来るという利点もある。
今回の様に密集した複数の敵に襲われる様なシチュエーションには本来であれば不向きなのだが、怪物達が物量にものを言わせた飽和攻撃ではなく、様々な戦法を次々と繰り出すという散発的な攻撃を繰り返す戦法を取っている今ならば、一発必中で仕留めて行く方が確実と判断した。
『木人』は身体中を蔦、或いはそれに近い植物が体に巻き付き生身を覆い隠している関係で、怪物の中では比較的防御力が高い。
その為銃で戦闘を行う場合、散弾銃であれば至近距離で散弾を発砲する事で蔦ごと頭を吹き飛ばすのが最も確実な対処法だ。
しかしその一方で、やや距離を取った場所から散弾を放った場合、散弾銃でも一撃で倒せない事があった。
散弾が分散した事で衝撃が低下した為と思われ、数発撃てばそのまま倒せるのだが、距離を取って戦いたい場合には少々確実性に欠ける。
―――対して、スラッグ弾の威力と貫通力は絶大だった。
呻き声を上げた『木人』の胴体に大穴が空いていた。
蔦の装甲だとか怪物の生命力だとかを無視した破壊力が『木人』を一撃で葬り去ったのだ。
考えてみれば、「熊撃ち用弾薬」等とも言われる様な弾なのだ。
そんな物を少々分厚いレベルの防御を固めた程度の人間サイズの生き物に撃ち込めば、こういう事にもなるというものだろう。
体に大穴を空けられた『木人』はそのまま後ろに倒れて行く。
残りの二体の『木人』達はその光景に怯みもせずに私へと向かって来ている。
しかし、私もそんな『木人』達に動揺する事なく再び銃を構えた。
「………!」
先程とは異なり左手に散弾銃、右手に右腰のホルスターから抜き放ったツートンカラーの拳銃を持つ。
そして、こちらへ向かって来る『木人』達へ向けて即座に引金を引く。
直後、轟音と共に三度の乾いた銃声が響き渡った。
「ゲピッ!!?」
「グゲゲガッ!?」
右手に持った拳銃から放たれた三発の弾丸が『木人』の頭を撃ち抜く。
一点に集中して銃弾を撃ち込まれれば、流石の装甲も防御し切れない。
そして、頭から血を噴き上げて倒れ込んで行く『木人』の隣では、同じく頭から……いや、頭のあった部分から血を撒き散らしながら崩れ落ちるもう一体の『木人』の姿があった。
散弾銃を発砲したと同時に、銃に巻き付けた蔦でフォアエンドを操作して次弾を装填する。
ポンプアクション式の散弾銃は本来なら両手での操作が必要だが、こうして片手で発砲と再装填を行えるのは私の強みだ。
多分やろうと思えば拳銃やそのほかの銃でも出来ると思う。
そこまで銃をメインに戦う事は多分無いだろうけど……。
そんな益体もない事を考えながら、私はライナと共に怪物の群れを淡々と処理して行ったのだった。




