72 籠城戦2
連続投稿2/3話目
「……ふんッ!!」
気合と共に、ワイヤーが結び付けられたバールが宙を舞う。
私の『茨の鞭』と遜色ない殺傷力を持って、先端部分に接触した『礫花』を次々引き裂いて行く。
「ほらほらどうした!こっちはまだ五体満足だぞ! 遠くからチマチマやってるだけで倒せるって思ったんだろ? さっさと掛かってこいや!」
まるで、扱い慣れた武器であるかの様に縦横無尽にバールを振り回しつつ、ライナは『礫花』に対して挑発の声を上げた。
………すごく楽しそうに見えるのは気のせいだと思っておこう。
『!!!』
『!!!!!!!』
『!!!!』
『!!!!!』
『!!』
そんなライナの挑発とも取れる声に、周囲の『礫花』が一斉に光弾を放つ。
しかし、ライナはそれを最小限の動きで躱すと、光弾を回避する動きの勢いを利用する様にしてワイヤーを振り下ろした。
『!!?』
猛烈な勢いで振り下ろされたワイヤーの先に結び付けられたバールの刃が、一体の『礫花』を頭部から叩き潰すように貫く。
ライナはそのままワイヤーを引いて『礫花』ごとバールを手繰り寄せると、その勢いのまま、体を回転させつつワイヤーを両手で持ち、横合から『礫花』達を薙ぎ払った。
頭部を貫かれて絶命した『礫花』の一体を刺したまま振るわれたバールは、一本の刃となり『礫花』達に襲い掛かる。
高速で金属の棒を叩き付けられた『礫花』達は、回避する暇すら与えられずにその体を寸断されてしまった。
「そー……りゃっ!」
更にライナは、妙な掛け声と共にワイヤーを振り回すと、再び壁を越えて押し寄せて来た『礫花』の群れに向かってバールを叩き付ける。
最早突き刺さる事すらなく、バールを叩き付けられた『礫花』は、バンッ!!という音と共に爆散してしまった。
『礫花』ごと地面に叩き付けられる形になったバールはそのまま地面に深々と突き刺さり、砕けた地面の破片が周囲の『礫花』に襲い掛かる。
砕け散った地面の破片を受けた『礫花』は僅かにではあるが、前進の速度が鈍っている。
そこへ、再びライナがワイヤーを手繰り寄せた。
「……よいしょー!」
気の抜ける声と共に、地面を抉るようにライナの手元に引き寄せられたバールは、再び宙を舞って横薙ぎに振るわれる。
しかし今度は一度ではなく、二度、三度とライナの頭上でワイヤーが振り回され、その度にライナの近くに集まりつつあった『礫花』は紙屑のように蹴散らされて行った。
適当に振り回しているように見えて、しっかりバールの先端の刃の部分が『礫花』達を引き裂くように動かしている辺り、無駄に高等なテクニックだ。
まるで鎖鎌を振るっている様に――――いや、多分鎖鎌はそんな使い方はしないよね……。
私も自分の周りに集まって来ている、光弾を飛ばしたり群れで襲い掛かって来る『礫花』達を『茨の鞭』で処理しつつ、ライナの戦いぶりを横目で見ているのだが………相変わらず人間離れしている。
確かにあんな戦い方が出来るなら、短剣で戦うよりも効率が良いのだろう。
……少々見た目が現実離れしすぎている様にも思えるが。
『!!?』
『――!!!』
『――!!――!!!』
花の能力を駆使して『礫花』の数を減らして続ける。
ライナの戦いぶりもあって相当な数を倒したと思う。
しかし、一向に製材所跡に押し寄せる『礫花』の数は減る気配が無い。
既に千匹に迫る数を処理している筈だが……周囲の森から感じられる怪物達の気配に変化は無い。
これは、予想を超えた数の『礫花』がこの山の中に潜んでいたという事なのだろうか?
しかし、私は漠然とした感覚ではあるのだが、襲い掛かって来る『礫花』達に違和感を感じ始めていた。
『!!!?』
『――!!!!』
『!!!!!!』
(―――まただ)
『礫花』達は当初から一方が足止めをして一方が攻撃をする、という様な単純だが効果的な連携攻撃を仕掛けて来ていた。
それ自体に違和感は無い。
今までも『花』の怪物達がそういった知性を感じられる行動を取る事は幾度もあった。
しかしだからこそ、この怪物達……『礫花』の『連携』に違和感を覚える。
一言で言ってしまえば……捨て身の連携が多いのだ。
具体的な例を挙げると、先程述べた「足止め役と攻撃役」の行動がかなり過激なのだ。
『足止め役』は本当に言葉通りその為だけに行動し、時には自爆戦法に近いタイミングでこちらに取り付いて来ようとする。
遠距離攻撃しか持たず耐久力も低い『礫花』では大した妨害にはならないが、そんな仲間ごと『攻撃役』はこちらに躊躇無く光弾を浴びせて来るのだ。
仲間が射線から退避するのを待つなどと言う事もなく、容赦なく光弾の雨が襲い掛かる為、『足止め役』は仲間の攻撃で四散してしまう事もしばしばだ。
そして時には先程まで『攻撃役』だった個体が、今度は『足止め役』として私に向かって突っ込んで来たかと思えば、別の『攻撃役』の光弾によって爆散するという事もあった。
つまり、仲間の安全に頓着しないとかそういうレベルを超えて、あまりにも自分達の損耗を考えない行動を取って来るのだ。
勿論、今までの怪物達には仲間意識があったとまでは言わないが、それにしても『礫花』達の自らの犠牲を厭わぬ行動の数々は際立っていた。
……それ程の犠牲を払ってでも、私達を始末したいという事なのだろうか?
「……!」
と、その時、森の方で何かが動いたのに気が付いた。
この状況では森の中で動く物体など『礫花』以外に存在しない筈だが、何故か『それ』は私の気を引いた。
と言っても、肉眼で捉えた訳ではない。
私の『感覚』が、森の中で脈動する『青い光』を感じ取ったのだ。
(何……? 『礫花』……みたいだけど、何だか違和感が……?)
私が気付いた『青い光』のある方向は、製材所の西側やや北寄りに位置する場所だった。
場所としては特に何があるという訳でもなく、ただ他の場所と同じ様に森の木々が生えていて見通しの悪い場所というだけだ。
私の『感覚』で感じ取った限りでは、そこに『礫花』が大量にいるのは間違いないのだが、それは製材所周辺のその他の場所も同じであり、この場所だけに違和感を感じるのは奇妙だった。
襲い掛かって来る『礫花』と戦っている間も、私はその方向がどうしても気になってしまっていた。
意識散漫になる程ではなかったが、どうにも気持ちが悪い。
……そんな中、違和感を感じる場所を見るうち、ある事に気が付いた。
(……? 集まっている『礫花』の光に差がある? ……ううん、違う。 他と比べて、纏っている光が強いヤツがいる?)
無数の『礫花』がひしめく森の中で、『礫花』を一体ずつ区別するのはまず無理だ。
しかし、目を凝らしてよく見てみると、違和感を感じた方角に居る『礫花』の群れの中に、他の個体よりも体内に流れる『青い光』が強い個体が混じっているのが分かった。
分かり易く言うと、他の『礫花』よりも光が『濃い』のだ。
『探知』の能力を用いて『濃い』個体を探ってみるが、他の『礫花』と外見上の差異は見られない。
しかし、一度認識してしまえば明らかに他と異なるという事が理解出来た。
(見た目は同じだけど、全く別の種類の『礫花』がいるって事?)
その事実に気が付き、私はすぐに製材所周辺の気配を探ってみるが、先程発見した群れの中に数体がいる以外は同様の個体が存在する様子は無い。
あの場所に居るものだけが特殊な個体なのだろうか、と私は思考を巡らせようとした。
しかしその時、更に別の現象が起きた。
「……!?」
製材所の周囲の森の中を『探知』していた私は、件の特殊な個体と思われる『礫花』の動きを感知していた。
すると、数体が存在する特殊個体の内の一体が、突然奇妙な動きを見せた。
『礫花』達が移動の際に手足のように使っている、根の様な物を地面に突き刺したのだ。
その姿は一見すると極普通の花にも見えるが、花としては巨大な見た目も相まって逆に違和感を感じる。
見た目通り、地面から養分を吸収している?
しかし次の瞬間、私は思わず驚愕の声を上げた。
「えっ……!?」
地面に根を突き刺したその『礫花』が一瞬身じろぎしたかと思うと、その周囲の土がモコモコと盛り上がる。
そして、盛り上がった土を掻き分けて、通常の個体よりも少し小さな『礫花』が何体も顔を出したのだ。
唖然としている私を尻目に、小さな『礫花』は土を退かしながら地面から這い出て来ると、一斉に体を震わせた。
すると、瞬く間に小さな『礫花』達の身体が歪に膨張して行き、同時にその形が整えられて行く。
やがて小さな『礫花』達は通常の『礫花』と変わらぬ大きさまで成長すると、それが当たり前であるかの様に製材所へ向かって駆けだして行った。
「どうしたんだ? 操」
驚愕の声を上げて一瞬固まっていた私にライナが声を掛けて来た。
幸い、私達に襲い掛かって来ていた『礫花』達の勢いは多少ではあるが収まりつつある為、その場に固まって隙を晒した私が攻撃を受ける事は無かった。
とはいえ、私が今見た光景を考えると……『礫花』達の攻撃は再び勢いを増すだろう。
このまま戦い続けるだけでは事態を打開出来る可能性は極めて低い。
しかし、あの特殊な個体の存在に気が付けたのはある意味では運が良いとも言える。
私は森の中にいる、『礫花』を生み出す『礫花』の存在をライナに話した。
「……なんだそりゃ。 ……て事は、こいつら無尽蔵に湧いて来るのか?」
ライナが最も懸念される事態に顔を顰める。
私もその事態を恐れていたが……『感覚』で探ってみた限りではその心配は無さそうだ。
「それは多分大丈夫だと思う。 『ブルーフィリア』はあの『青い光』がエネルギー源みたいなんだけど……新しい個体を生み出した時に、その『光』が弱まっているのが見えたの」
それはつまり、新たな『礫花』を生み出す際に、森の中に数体……正確には7体存在する特殊な『礫花』のエネルギーを消費しているという事だ。
無尽蔵に生み出す事が出来る、等という事が出来るとしたら、エネルギーが減るという事はあるまい。
そんな事が出来る存在がいるとしたら……『最初の一輪』位のものだろう。
―――しかし、私の懸念は別の所にある。
「……でも、『増殖』が出来るらしい奴は全部で7体いるんだけど、一体につき一度に10体以上の『礫花』を生み出しているみたいなの。 このまま襲って来る『礫花』を倒していても、全滅させるのは……」
「あー………まぁ、増える方が速いわな」
私達が『礫花』を倒す速度よりも、『礫花』が新たに生まれて来る速度の方が速いのだ。
このまま籠城を続けて『礫花』を倒し続けたとしても、確実にこちらの方が持たない。
体力的な事もあるが、弾薬の問題もある。
既に相当量の弾薬を使用している為、残弾が心許ない状態なのだ。
「増殖能力を持ってる奴らを倒せればいいんだけど……無理だよね」
「ここから森までの間にウジャウジャ居るからなぁ……」
際限無く湧いて出て来る『礫花』の群れは、四方八方からこちらに押し寄せて来ている為、製材所と森の間の草むらを埋め尽くす勢いだ。
製材所内であればある程度は私達の領域と言えるが、製材所以外の場所は既に『礫花』側に制圧されていると言っても過言ではない。
そんな場所に何の備えも無しに突っ込んだりすれば………たちまち囲まれて光弾の十字砲火を浴びる事になる。
森の中の特殊個体を攻撃するには、まずこの群れを突破しないといけないのだ。
何か方法は無いだろうか?
焦りが胸の内に芽生えつつあった私の視界に、一台の車が映った。
それはあの死んだハンターの車だった。
これまでの戦闘の中にあっても奇跡的に被弾を免れていたようで、私達が製材所に辿り着いた際と変わらず、同じ場所に停車している。
その時、私の脳裏にあるアイディアが浮かんだ。
少々無理やりだが、上手くすればこの状況を打破する事が出来るかもしれない。
―――しかし、その為には解決しなくてはいけない問題が幾つかある。
(……けど、それ以外に良い方法は思い付かない。 ……やるしかないよね)
私はその問題を解消する為に、ライナに声を掛けた。
「……ライナ。 あのトラックって、直しても少ししか走れないんだよね?」
突然そんな事を言い出した私に、襲い来る『礫花』を薙ぎ払いながらライナが訝しげな表情を向ける。
「え?トラック? トラックって……あそこにある、例のハンターのか?」
「うん。 私にちょっと考えがあるの。 あの車を、特殊個体がいるあの森まで走らせる事って出来る?」
驚いた表情のライナに私は簡潔に聞くべき事を聞いた。
この状況で急にこんな話をされたら普通は困惑するだろうが、ライナは一瞬考えた後、すぐに答えを返して来た。
「……その位なら大丈夫だと思うぜ。 けど、たったそれだけ動かすにしてもある程度修理しないといけないぞ。 まともな工具も無いし、無理やり動かす感じにしかならないし……」
ライナの答えで問題の一つは解消された。
後はもう一つ……ライナが車の修理をする間、私一人で『礫花』の群れを押さえる事が出来るのかという点だ。
恐らく今のままの戦い方では、『礫花』を倒す方はともかく、光弾を防ぐ事が困難だろう。
今まで以上に速やかに『礫花』を排除しつつ、防御面も強化する必要がある。
「……ライナ、私が『礫花』を抑えておくから、あの車を修理して貰えない? 車が動けば、森の中で『礫花』を生み出してる特別な『礫花』を倒せると思うの」
私の言葉を聞いたライナは一瞬難しそうな顔をする。
しかし、すぐに表情を和らげると、溜息を吐いて言った。
「………はぁ………分かった。 けど、無茶だけはするなよ?」
絶対に反対されると思っていた私は、ライナの意外な反応に少し驚く。
そんな私の表情に気付いたのか、ライナが苦笑しつつ言葉を続けた。
「そりゃ心配だけどさ……あんた、もうやるつもりなんだろ? そういう時の操が頑固だって言うのはもう分かってるよ」
若干諦めが入ったライナの言葉にちょっとだけ目が泳ぐ。
そんなに頑固だったつもりは………ちょっとあるかもしれない。
「……なるべく早く修理する。 だから、自分を酷使する様な事はしないでくれ」
「うん。 ありがとう、ライナ」
私は自分を信じてくれたライナに感謝の言葉を述べた。
別にライナはそういう意味で言った訳ではないだろうが、ライナの隣に立つ事を認められた様な気がして嬉しかったのだ。
絶対に守る。
ライナには指一本触れさせない。
私は胸の内で強く決意をすると共に、再び集結しつつある『礫花』の群れの前に立ち塞がるのだった。
『!!!!!!』
『!!!!』
『――!!!!』
『―――!!!!!』
『――!!!――!!!』
独特の咆哮……というよりも、電子音の様な鳴き声を響かせながら『礫花』の群れが押し寄せて来る。
周辺の森には狙撃役と思われる『礫花』が配置され、突撃して来る『礫花』と私が接触するタイミングを待っているようだ。
私が接近して来る『礫花』達への対処を始めた所で、一斉に射撃を開始して仲間諸共私を仕留めるつもりなのだろう。
(本当に味方の被害を考えていない………いや、違うか。 この『礫花』って、あの森に居る『本体』の分身みたいな物なのかも)
地面に根を突き刺し、そこから何体もの『礫花』を生み出していた7体の『特殊個体』達。
私は彼らこそが本当の『礫花』であり、これまで私達が戦って来た個体は全て彼らの分身の様な存在なのではないかと考えていた。
理由としては『感覚』で感じ取れる7体の『特殊個体』達の内包する『光』の波長が、『分身』の波長と似通っている事に気が付いたからだ。
内包する『青い光』の量、つまりはエネルギーの総量には『特殊個体』と『分身』で明確な差があるが、基本的な波長はほぼ同じなのだ。
それを踏まえると、自分の一部を分離させて自分と同様の能力を与えて遠隔操作している、と見る事も出来るのではないだろうか?
そうだとすれば死なば諸共と言わんばかりの突撃を繰り返したり、突撃して行った仲間を考慮せずに弾幕を張ったりといった自滅も厭わない戦法に終始するのも納得が行く。
通常では考えられない己の身を顧みない攻撃を行えば、相手の虚を突くのは容易だからだ。
しかし、同時にそれはある一つの可能性を私に齎してくれた。
『礫花』が本体と分身の関係性で成り立っている『花』の怪物であるのなら、本体さえ倒してしまえば分身は消えるのではないだろうか?
勿論、繋がりがあるだけで切り離された状態にあるのかもしれないが、仮に私の推測通りであるとすれば、この状況を潜り抜ける希望となり得る。
それに、例え予想が外れたとしても、『礫花』を次々増殖させる存在が居なくなれば、この戦闘の「ゴール」が見えて来るという事でもあるのだ。
やってみる価値は十分にあるだろう。
「………!!」
私は自分の身体に意識を集中させる。
先程まで持っていた散弾銃はスリングで吊るした状態にし、左手もフリーにする。
そして、左右の手を両方共『籠手』で覆うと同時に、『茨の鞭』を範囲重視の形態で展開する。
更に、防御用に背中から生やしていた四本の蔦とは別に、更に三本の蔦を生やした。
今までの茨は服の肩口から出すようにして伸ばしていたが、新たに生やした3本は服の背中を完全に突き破って伸ばしている。
形振り構っている場合ではないという事もあり、完全な本気モードだ。
尤も今までの経験上、破れた衣服も自分の植物細胞から繊維を作り出し、縫い合わせる事で修復する事が出来ると分かっているので、あまり問題ではないのだが。
それでも、今の私の姿は背中と両手から無数の触手を生やした怪物のような姿に見える事だろう。
少し前の私ならそんな自分の姿に苦悩していたかもしれないが、今は全くそんな風には思わなくなっている。
しかしそれは、自分がそもそも人間ではなかったから……人間を捨ててしまったから考えるのを止めた、という訳ではない。
私自身がそれも自分の側面の一つなのだと受け入れる事が出来たからだ。
人間としての私と怪物としての私、どちらか一方だけではなく、どちらも含めて私だと理解する事で私は自分の力を受け入れる事が出来た。
だから、例え自分が人間の面影も無い完全な怪物の姿になってしまったとしても、もう私は自分の存在を恐れる事は無いだろう。
何より………そんな私を受け入れてくれた、ライナを守る事が出来るのだから。
「ふぅ…………」
深呼吸をして心を落ち着ける。
そして、もう一度自分に語り掛けた。
今の私なら出来る。
必ず、ライナを守って見せる。
迫る怪物の大群を見据え、姿勢を低くして両足に力を溜めて行く。
そうして、大群との距離がある程度まで縮まった所で動きを一瞬止める。
後は、踏み出すだけだ。
「――――行くよ」
小さく呟き、両足に溜めた力を開放する。
勢いよく地面を蹴り、砲弾のように撃ち出された私は『礫花』の大群の中へと飛び込んで行った。
「……はぁっ!!」
『礫花』の大群の中に飛び込んだ私は、その勢いのままに『茨の鞭』を横薙ぎに振るった。
ちょうど『礫花』の頭部の高さで振るわれた鞭の束は、範囲内に居た複数の『礫花』達の頭部を含めた上半分を輪切りにするように引き裂いて行った。
『!!!!!』
『!!!!!』
『!!!!!』
味方の数を一気に減らされた『礫花』達だが、一切怯んだ様子も見せずに光弾を放って来る。
数メートル程の距離から連続して放たれた光弾を、私は両手の鞭で弾いて行く。
同時に、攻撃範囲内まで接近して来ている『礫花』を、先程と同じ様に鞭で切り裂いた。
『!!!??』
『!!??!?』
『!!??!??』
断末魔の悲鳴……の様な金切音を上げながら、複数の『礫花』が紙屑の如く飛び散る。
しかしその直後、私の左右から無数の青い光弾が降り注いだ。
「っ!!」
私は背中の茨を操作して光弾を叩き落とす。
今のは恐らく、森の中に潜んでいる『狙撃役』の攻撃だろう。
案の定、私が周囲の『礫花』を攻撃したタイミングを狙って光弾で狙撃して来ている辺り、森の中からでも私の様子が見えているらしい。
……いや、この『礫花』達が分身なのだとしたら、今私が直接戦っている『攻撃役』達と視覚情報を共有しているのかもしれない。
鞭を振り抜いた直後の回避がし辛いタイミングを、あそこまで正確に狙撃して来ている事を考えれば……有り得ない話ではないだろう。
まるで群体生物を相手にしている様な気分だ。
でも、私も何の対策もしていない訳ではない。
ただ単に手数を増やす為に背中の茨を増やしたわけではないのだ。
「……ッ!!!」
再び複数の『攻撃役』が私に向けて光弾を放って来る。
今度はただ放つのではなく、私に向かって飛び掛かる事で、私の頭上を取るような形で光弾を放って来た。
勿論、地上にもこれまでと同じ様に私を包囲しつつ光弾を放って来る個体が居る。
そしてこちらも先程と同じ様に、図った様なタイミングで『狙撃役』からの無数の光弾が飛来した。
全方位、地面以外の全ての方向から雨あられと襲い掛かる青い光弾。
背中の蔦と両手の鞭を用いたとしても、それらを同時に捌き切る事は不可能なレベルの弾幕だ。
そしてやはり、『狙撃役』の放った光弾は『攻撃役』諸共私を狙って放たれていた。
仮に『攻撃役』を光弾も含めて対処出来たとしても、その背後から迫る『狙撃役』の光弾が私を打ち据える事になるだろう。
けど―――だからこそ、これで良い。
ドガガガガガガガガガガッッッッ!!!!!
森に機関銃の発砲音のような轟音が響き渡り、青い閃光が連続して瞬いた。
あまりにも連続して光が炸裂した為、周囲がほんの僅かな間ではあるが真昼の如く明るくなる。
勿論本当に日が昇った訳ではなく、『礫花』達が放った無数の光弾が着弾した為に起こった小爆発によって起きた現象だ。
小爆発の余波で無数の小さなクレーターが形成された地面からは砂煙が上がっている。
四方八方から降り注いだ全ての光弾が着弾したとなれば、その標的とされた相手……操は最早原型を留めていないだろう。
『――――!』
『――――?』
『―――??』
『礫花』による光弾の射撃が終わり、機銃掃射のような音が止む。
射撃が止まった事で、周囲を照らしていた青い光も収まって行くかに思われた。
しかし、砂煙の中からは先程よりも大人しめだが、今だに青い光が僅かに漏れ出ている。
光弾の掃射に巻き込まれなかった『攻撃役』の更に外側に待機していた『礫花』達が、異常に気が付いた様に身じろぎした。
―――次の瞬間。
『!!!??』
ヒュンッ!という風切り音と共に、最前列に居た『礫花』達が一刀両断される。
砂煙の奥から漏れ出ていた光の中から、砂煙を切り裂くように飛び出して来たのは操の『茨の鞭』だ。
砂煙を払い除けるように縦横無尽に振るわれる鞭は、ほんの一瞬動きを止めていた『礫花』達を瞬く間に駆逐して行く。
そして、鞭の勢いに巻き込まれる様にして、砂煙が晴れて行く。
中から現れたのは、背中から青緑色の四枚の巨大な葉の様な物体に体を包み込まれた操だった。
操はその葉の様な物体の隙間から『茨の鞭』だけを外に出し、手を動かさず鞭単体を動かす形で『礫花』を攻撃していたのだ。
その巨大な葉の様な物には、表面に仄かに青く光る血管の様な模様―――恐らくは葉脈と思われる線が無数に走っている。
更に、葉の一つ一つが意思を持った様に………いや、実際意思を持って動いていた。
操が今まで背中から生やしていた触手のような茨と同じく、操自身の意思が通っているのは明らかだ。
その四枚の葉が操の身体を包み込んだ状態から開いて行き、操自身を包み込める程の大きさから、徐々に縮んで背中で虫が羽根を広げた様な姿になる。
現われた操の身体には一切傷が見当たらない。
しかしよく見ると、背中から生えた葉、または羽根状の器官の表面に、『礫花』の光弾が着弾したと思われる僅かな青い光の残滓が見られる。
つまり、操はこの『羽根』を盾として自分の身体を包み込む事で『礫花』の光弾から身を守ったのだ。
―――思った以上に上手く行った。
私は若干の動揺が見られる周囲の『礫花』を両手の鞭で薙ぎ払いつつ、心の中でそう独りごちた。
全方位を光弾の弾幕で埋め尽くされ、回避も迎撃も出来ない状況に追い込まれる。
……そんな可能性を私は当初から想定していた。
仮にその状況になった場合、手数を増やす事で対応するのは限界がある。
何故なら、そもそも数の上では私達は圧倒的に不利な立場なのだ。
それに加えて、私が一人で『礫花』と戦わなくてはならない状況になれば尚更というものだろう。
だから、私はライナに車の修理を頼むと決めた段階で、この戦法を考えていた。
と言っても、私がやった事は単純だ。
飛来する光弾を迎撃して防御するのではなく、遮断して防御したのだ。
『礫花』の襲撃に備え、ライナと共に製材所の修繕・補強を行った際に、私は自分の身体から作り出せる植物質の細胞で簡易的な柱や壁を作成した。
そうして作った物はライナが言っていた様に極めて頑丈だ。
木材どころか金属並みの強度がある為、仮にそれを武器として用いれば高い殺傷能力を発揮する事が出来る程だ。
しかし、その時に思ったのだ。
武器に使える程の強度があるのなら、防御にも使えるのでは?……と。
もちろん自分の身体を壁で覆ってしまえば身動きが取れなくなってしまう。
だが、私は今まで『茨の鞭』や蔦の触手などの様に、強度を維持したまま柔軟性を持たせた武器を既に何度か生み出していた。
それこそ木材がそういった性質を持った物質だが、私の身体……と言うか、『ブルーフィリア』の細胞が生み出す植物細胞はその性質が極めて強力かつ応用の幅が自由自在だ。
ならば、『柔軟性に富んだ鉄壁の盾』という、矛盾した存在も今の私になら作り出せるのではないか。
そう考えて私が編み出したのが、数本の茨の触手同士を融合させる事で作り出した青緑色の四枚羽根だ。
羽根と言っても勿論、羽毛のような物は生えていない。
見た目としては、厚みのある凹凸の無い水生動物のヒレのような見た目だ。
しかし、表面には青い葉脈のような……或いは血管のような模様がびっしりと刻まれており、どちらかと言えば羽根よりも葉、或いは………虫の『翅』と言った方がしっくり来る。
一見するとふわふわと漂う羽衣の様な見た目である為、防御力など無さそうに見えるが、『礫花』の大群から放たれた無数の光弾を無傷で防ぎ切った事からも分かる様に、極めて高い防御力を有している。
まさに強度と柔軟性を両立した盾と言えると思う。
……思ったよりも早く相手が全方位攻撃して来た為、咄嗟に背中に生やしてしまった結果、思い切り服の背中部分が破けてしまったのは目を瞑っておこう。
「操!大丈夫か!?」
背後の少し離れた所から、ライナの声が聞こえた。
ライナは私が『礫花』と一人で戦うと宣言した直後から車の修理に移っている。
まともな工具の無い状況の為、修理には相応の時間が掛かると思っていたのだが……。
「うん!大丈夫! ライナの方はどう?修理出来そう?」
「ああ、大丈夫だ。 ホイール曲がってんのは力づくで何とかしたし、壊れた部分は応急修理でどうにかなりそうだ!」
そんなライナの答えに私は安堵の息を吐く。
どうやら思ったよりも車の状態は良かったらしい。
「問題はエンジンの配線が何本かすっ飛んでる事だな! ……これ、攻撃されてどうこうじゃなくって、ただの整備不良だ! ちゃんと整備しとけってんだ、クソッタレ!」
「そ、そうなんだ……」
………割と本気で怒っているらしいライナに苦笑してしまう。
何はともあれ、あちらは大丈夫そうだ。
「何とか動かせるようになるまであと5、6分掛かる! あともうちょっと耐えてくれ!」
「分かった! 任せて!」
ライナに声を上げて返事をしつつ、私は再び集まりつつある『礫花』の群れに飛び込んで行く。
どうやら『礫花』達は、車の方に下がったライナは後回しにして、まず私を倒す事を優先するつもりらしい。
私が『翅』を展開して光弾を防御して見せる前は、車の近くにいるライナにも『礫花』達は攻撃を仕掛けようとしていた。
しかし、今はライナをほぼ無視して、私だけに攻撃を集中させている。
『翅』によって光弾の全方位攻撃を防がれた事は彼らにとって想定外だったらしい。
だが、ライナがトラックの修理を終えるまで『礫花』達の注意を自分に向けたい私にとっては好都合だ。
「……!」
襲って来る『礫花』を、鞭を振るってまとめて倒していると、死角から光弾が飛来して来た。
物陰に隠れた『礫花』の内の一体が、攻撃の隙を狙って来たようだ。
無数の『礫花』が飛び掛かるようにして襲い掛かって来る乱戦の中で、そうした奇襲に特化した動きをする個体が稀に存在する。
気が付かぬうちに接近され、至近距離で光弾を放たれる形になってしまう為、今までであれば茨の触手での防御が間に合わず、紙一重で躱す必要があった。
そうなると、躱す事は出来ても攻撃のリズムを崩され、最悪体勢を崩してしまう可能性がある。
しかし、防御に特化した『翅』を作り出した事で、正面からでも背後からでもそうした奇襲攻撃は完全に意味を為さなくなっていた。
今も私の死角から放たれた光弾を、生き物の様に動く『翅』が防いだ事で青い閃光を散らしている。
『翅』も私の身体の一部なので、光弾を受ければ痛みが有りそうなものだが……痛みどころか衝撃すらほぼ感じない。
『翅』の表面に走る光を纏った青い血管の様な模様が何らかの力を発揮しているのかな?
この辺りの『青い光』の効力や、私自身を構成する植物細胞の能力等に関しては、詳細なメカニズムが分からないので何とも判断出来ない。
……いつか自分の能力の事、ちゃんと調べた方が良いかもね。
「……ふッ!!」
鞭を振るい、襲い掛かって来る『礫花』達を薙ぎ払いつつ、至近距離まで接近して来ていた『礫花』を『足甲』を纏った蹴りで粉砕する。
『礫花』は花の怪物達の中では非常に耐久力が低くかなり脆いが、一応本体と言える急所部分の花は存在している。
と言っても『花人』や『木人』の様に体の何処かに咲いている花のどれかといった物ではなく、堂々と晒している上に攻撃の要になってもいる頭部の花だ。
その為、弱点を狙って攻撃する、というよりも体全体が弱点のようなものなので、それ程意識して本体である頭部を狙う必要が無い。
それでも私は万が一にも一撃で仕留められなかった場合、不意を突かれて大きなダメージを受けてしまう可能性を考えて、全力で頭部を狙って攻撃するようにしている。
その甲斐あって……と言って良いのかは分からないが、今の所予想外の反撃を受ける様な事は起きていない。
寧ろ、ちょうど今蹴り殺した『礫花』の様にオーバーキル気味に倒す事になっている。
こういった所がライナとの戦闘経験の差なのだと思う。
なんと言うか……もっと効率よく攻撃して相手を倒せる様になりたい。
『!!!!!』
『!!!!!!』
『!!!!』
『!!!!!!!』
縦横無尽に振るわれる鞭により次々倒され数を減らして行く『礫花』だが、既に森からほぼ途切れる事無く後続の『礫花』が製材所へ向かって来ている。
『探知』によって確認出来る7体の特殊個体達は、変わらず森の中に留まり次々と追加の『礫花』を生み出していた。
『翅』による防御が可能になり、飛来する光弾を防ぎつつ攻撃し易くなったとはいえ、数の上での不利は相変わらずだ。
このまま森へ突入出来ないかとも一瞬考えたが、製材所の壁や放置された重機などの障害物を利用して立ち回っていてなお囲まれかける事がある現状では、やはり打って出るのは自殺行為だろう。
如何に『翅』の防壁が光弾を完全に防ぎ切る事が出来ると言っても、永遠に防ぎ続ける事は出来ない。
物量で圧殺されるか、光弾の嵐の中に晒され続けて限界が来るか、どちらにせよ望ましい結果にはなり得ないだろう。
だからこそ、あのピックアップトラックが必要なのだ。
『!!!』
「……っ!!」
襲い来る『礫花』を倒しつつ思考を巡らせていると、私の横をすり抜けて一体の『礫花』が背後にある製材所の建物へ向かって行った。
当然だがそこにはライナがトラックの修理を行っており、そのまま行けばライナに危険が及んでしまう。
私は即座に地面を蹴ってその『礫花』の後を追う。
『礫花』は見た目とは裏腹に身軽ですばしこいが、この距離なら追い付くのは容易だ。
建物に向かって駆け抜けようとしていた『礫花』を追い抜き、反転して蹴りを放つ。
『!!?』
一瞬で反転して攻撃を繰り出して来た私に、『礫花』は反応する事が出来ずに蹴りをもろに喰らって爆散した。
私は『翅』を地面に突き立て、反転した勢いを殺して急制動を掛け、再度正面に向き直って身構える。
光弾を防御出来る程の強度がある『翅』は、茨の触手よりも射程は短いが攻撃にも使用出来る。
寧ろ、茨の時よりも大型になっている分パワーが上がっており、こうして私の姿勢を制御する際には今までよりも高性能と言えた。
……と、私がライナを攻撃しようとした『礫花』を倒したにも拘らずに身構えたのには理由がある。
『!!!!!!!!』
『!!!!!!』
『!!!!!!!』
『!!!!!』
『!!!!!!!』
『!!!!!』
私が横をすり抜けた『礫花』を追って走った直後、今まで私が戦っていた『礫花』達の動きが変わった。
――――気付かれた!
私は思わず心の中でそう叫んでいた。
私がライナを守る為に敢えて『礫花』達の目を引くように戦っていたという事が、『礫花』達にバレてしまったのだ。
そうなれば当然彼らが狙うのは動けないライナの方になる。
攻撃がライナの方に集中すれば、私はその攻撃からライナを守らなくてはならない。
つまりは、私の動きが著しく制限され、『礫花』にとっては私を仕留める隙となる。
『探知』の能力で背後の『礫花』達の動きも把握していた私は、すり抜けた『礫花』を倒すと同時に防御の為に急反転して体勢を整えた。
しかし、それは私の身を守る為ではない。
私の後ろにあるトラックと、トラックの修理を続けているであろうライナを守る為だ。
だから、飛来する光弾の数が私の処理能力を超えていると分かっていても、私は『翅』で自分の身体を防御しなかった。
逆に『翅』を大きく広げ、背後のライナに光弾が当たらないようにトラックを覆う。
そして私自身は両手の『茨の鞭』を力の限り高速で振るった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
私と私の背後のトラックを扇状に包囲するようにして並んだ『礫花』から無数の光弾が雨あられと降り注ぐ。
飛来する光弾を高速で振るわれる鞭が迎撃し、連続した衝突音を響かせた。
私は自分に直撃する可能性が高い光弾のみ鞭で弾き、それ以外の光弾……トラックとライナを狙った物と、自分に当たっても致命傷にならない光弾は『翅』と自らの身体で受け止めた。
「ぐっ……!!」
勿論、自分に当たる光弾も全く防御していない訳ではない。
体中に『青い光』を流した上で、体の表面に植物質の装甲を作り出して鎧のように身に纏っている。
そのおかげで、既に数発の光弾が体に当たっているがダメージは然程でもない。
しかし―――あくまでも数発ならの話だ。
相変わらず原理は不明だが『礫花』の放つ光弾によるダメージは、通常の物理的破壊力と『青い光』の作用によると思われる未知の破壊力が衝突した物体へ同時に襲い掛かる。
『青い光』が正確にはどういった現象を引き起こして標的を殺傷せしめているのかは不明だが、一言で言うなら………光に焼かれると表現するのが一番近いだろうか。
物体が熱を生じずに光に焼かれている、或いは侵食されていると言うべき状態だが、それ自体は未知の現象ではあっても、私の制御する『青い光』によってある程度打ち消す事が出来るので防御するのは意外と容易だった。
しかし、光弾が持つごく単純な物理攻撃力………この場合で言えば、拳大の石を高速でぶつけられるに等しい『衝撃』は完全には防げていなかった。
頭部も直撃を避ける為に表面を植物装甲で一部を覆っているが、それでも衝撃自体は伝わって来てしまう。
当たり所が悪ければ、脳震盪を起こして前後不覚に陥ってしまう可能性も捨てきれないのだ。
その上で、私の身体に光弾が機関銃も斯くやと言う程の勢いで以て撃ち込まれたなら、幾ら肉体的に強靭である私であっても無傷とはいかない。
何より、外傷が少なくとも内部ダメージが蓄積してしまうのは目に見えている。
あのハンターの男性の死因が内臓系のダメージだと思われた事からも、あの『青い光』は元々そういう類の攻撃なのだろう。
持久戦に持ち込み、獲物を弱らせて集団で止めを刺す……。
狼の狩りのような戦法だ。
そして、そのような戦法で攻められていると分かっていても、私はそれを正面から受け切るしかない。
この状況を打破出来る私達の『奥の手』を守る為には、この場を退くわけには行かないのだから。
時間が経てば経つほどに蓄積して行くダメージを、どれだけ最小限に留め、どれだけ時間稼ぎが出来るかの勝負だ。
「……ッッ!!!」
展開した『茨の鞭』を振るって光弾を迎撃しつつ、両腕の『籠手』で頭への直撃弾を防御、心臓を狙って放たれた光弾を体を僅かにずらして肩で受ける。
可能な限りダメージを軽減し、行動不能になる事を避け、受けた傷は即座に再生させる。
体中に痛みが走り、軋む様な鈍痛が強くなる。
しかしこの場からは動かない。
……ライナは絶対に傷付けさせない!
『礫花』達が私がライナとトラックを庇っている事を察知し、攻撃パターンを変えてから時間にすれば数分程度だが、激痛に耐えながら迎撃を続けた私には数時間が経過しているようにも感じられた。
ここが好機と見ているのか、既に『礫花』達はほぼ全ての個体が光弾による遠距離攻撃に回っており、近付いて来ようとする個体は居ない。
私は完全に防戦一方の状態であり、私の体力が尽きるのを『礫花』達が待っている状況だ。
時間稼ぎが目的の私としては耐え続ける事さえ出来ればそれで構わないのだが、確実に限界は近づいて来ている。
後どれ程耐えられるだろうか?
私の心にそんな弱気が鎌首をもたげ始めた時――――。
カンッ
甲高い金属音と共に、私と『礫花』の間の地面に小さな円筒形の物体が投げ込まれた。
―――次の瞬間。
『―――!!??』
「なっ―――!?」
バンッ!という破裂音と共に辺り一面が閃光に包まれた。
私は何が起きたのか一瞬分からず混乱したが、すぐに先程の円筒形の物体が自分の背後から投げ入れられていた事に気が付いた。
そして、そこまで思い至った直後、凄まじい速さの連続した銃声が周囲に響き渡った。
「……!?」
サブマシンガンの掃射音かと思う程の速さで響いた銃声は、聞き覚えのあるものだ。
音の出所は私の背後……つまりトラックがある方だ。
当然その方向に居る人物は一人だけだ。
私は閃光を直視してしまい、目が眩んだ状態ではあるが、『感覚』や『探知』の能力は影響を受けていなかった為、背後の状況もすぐに分かった。
「っ……ライナ……!?」
「少しじっとしてな、操」
自分の目ではなく、『青い花』としての特殊な知覚越しにはライナの表情までは分からない。
しかし、私に動かない様に言った彼の落ち着いた声は、静かにそして底冷えする様な冷たさを帯びているように感じた。
直後、銃のマガジンを素早く交換したライナは、無言で再び『礫花』を銃撃を開始した。
銃声が一発響く度に『感覚』で知覚出来る『礫花』の反応が消えていく。
『得意ではない』と言っていた筈の銃による攻撃で、文字通り一発必中で『礫花』を処理しているのだ。
そして更にライナは、先程も使用していたワイヤーを連結したバールを右手で大きく振るうと、銃撃で数を減らしていた『礫花』の群れを薙ぎ払った。
『――!!!??』
『―――!!??』
『!!!?』
私が『茨の鞭』で行った事とほぼ変わらない惨状を、現地調達した有り合わせの武器で作り出して行くライナ。
『礫花』も一方的にやられているわけではなく、視界が回復したらしい個体がライナに光弾を放って攻撃を仕掛けるが、ライナは難なく光弾を躱し、手元に引き戻したバールを『礫花』に叩き付けて頭部を粉砕した。
ライナの背後から飛び掛かろうとした数体の『礫花』も、一瞬で反転したライナに空中で蹴り飛ばされ、その勢いのまま纏めて壁に叩き付けられて踏み砕かれてしまった。
そして、視界がまだ戻らずもがいている『礫花』には、そのまま再度投げ放たれたバールが襲い掛かる。
ワイヤーの先端に結び付けられたバールの刃先が、『礫花』達を引き裂き、千切り飛ばし、飛び散らせて行く。
そんな蹂躙劇を右手のワイヤー付きバールを用いて繰り広げつつ、左手の銃で離れた位置の『礫花』を射殺して行くライナ。
だが、そんな惨状を引き起こしているライナの表情は終始無表情だった。
何の感情も込められていない、凍える様な目でひたすら機械的に淡々と『礫花』を屠って行く。
だけど、何故か私にはそんなライナの表情から、今の彼の心理状態を察する事が出来た。
……怒ってる、よね?
完全な無表情だが、かなり怒っている。
何となくだが私はそう感じた。
初めて見るライナの表情に戸惑いを覚える。
と言っても、私に対してではなく『礫花』に対しての怒りの様だが。
……と、私が普段のライナとのギャップに狼狽えている間に、先程まで私を取り囲んでいた『礫花』の一団は粗方排除されてしまっていた。
だが、それも一分と経たない内に次の『礫花』の一段が押し寄せるだろう。
それまでの間に為すべき事をしなくては。
ライナが作業を離れて攻撃に参加してくれたという事は、当初の目標を達成出来たという事だ。
作業の進捗をライナに確認しなくてはいけない。
……今のライナに声を掛けるのはちょっと怖いけど。




