62 記憶の在り処へ
結論から言えば地下の一室に設置された非常用発電機は破損しておらず、幸いにも起動さえすればすぐに動く様になっていた。
しかし、発電機のある機械室は部屋の扉と同じく『花』に浸食されており、さながらジャングルの中のような有様だった。
とは言え、操達も今更そんな程度で怯みはしない。
同じ様な光景は何度も見て来たのだ。
「壊れてなかったのは良かったけど……ちょっと、悪趣味なオブジェみたいになってるなぁ」
「私達と同じように、非常用の電源を起動しようとしたのかな……?」
操達の視線の先にあるのは、発電機を動かす為の制御端末だ。
発電機自体がかなり大型の物である為か、その制御端末もかなり大掛かりな物の様に見える。
問題は、その端末にもたれ掛かる様にして息絶えている人物がいるという事だ。
「……起動まであと少しの所で、力尽きちゃったのかな」
その人物は少なくとも生きてはいなかった。
しかし死体を装う花人も中には存在する為、油断する事は出来ない。
と言っても、今の操にはそういった擬態も、対象が目視出来ていれば見破れるのだが。
「干からびてカラッカラだし、怪物じゃなさそうだけど……また死んでも怪物になってないな」
補足すると目の前の死体は、体を機械室内に広がっている『花』の蔓が侵食するように覆っていた。
その為、端末に蔓で体を固定された状態になっており、死体に巻き付いた蔓のあちこちから『青い花』が顔を覗かせている。
満開に咲き誇っていると言う訳では無く、少々活力を失い気味に見えるのはこの場所が外の光が届かない地下だからだろうか?
端末に覆い被さる様にもたれ掛かった死体は動き出す気配は無く、そもそも死体の身体はミイラ化したかの如く干からびていた。
「怪物が本体の『花』を破壊されるとあんな感じになるけど……あれとは違うよね?」
「だな。 その場合はもっと、萎れた上で崩れてく感じになった筈だし……血でも吸われたのか?」
言われて操も気が付いた。
『花』の蔓が死体の表面を這っているのだが、死体に接している蔓の表面から細かい根のような物が生えている。
そして、その微細な根は死体の皮膚に食い込んでいる様に見える。
「……『青い花』が直接死体から吸血してる?」
「そういう事なんだろうな。 はぁ……何て言うか、習性が一貫しない連中だなぁ」
死体を苗床として繁殖すると同時に、死体を自分自身の捕食器官として利用する。
その過程で苗床となった死体には、環境に応じてそれぞれ異なった変化が起こる。
『青い花』及びその苗床となった怪物達の基本的な習性を、操達はその様に認識していた。
しかし、今目の前にある『青い花』の様に、そうした基本的な習性の枠から外れた『花』が存在しているのも事実だった。
操もライナもそうした『花』の存在を認識してはいたが、原因が分からない為に敢えて考えない様にしていた。
だが――――。
「……この『花』、何だか弱ってる………ううん、今まで見て来た『青い花』よりも力が弱いみたい」
操の目には死体に根を下ろしたこの『花』が、他の『花』と比べて内包するエネルギー……つまり、『青い光』が弱々しく映っていた。
外見上は他の花と変わらない様に見えるのだが……どうにも操の目に映る『青い光』が弱い。
「弱ってる? ……もしかして、何か異常があるって事か?」
人間もそうだが、植物も何らかの異常があると通常とは違う反応を見せる事がある。
それは、病気に罹ったりといった直接的な理由が原因の事もあれば、栄養が足りないなどの理由で必要に迫られ、植物が自ら通常と異なる「行動」を行った結果である事もある。
『青い花』はその生態から考えると、とても『只の植物』とは言えないが、一応植物の端くれではあるだろう。
そう考えれば、操達が『基本』と考えている『花』の習性と異なる行動を取っている『花』は、何らかの異常が発生している可能性があった。
「分からないけど……その可能性はあるかも。 だからって、このまま弱り切って枯れるかって言うとそんな事は無いと思うけど」
「……まぁそうだよな。 ……あー全く、ややこしいなー」
結局は確実な事は言えない、というのが操の結論ではある。
しかし、『青い花』が弱って来ているかもしれないという情報は覚えておくべき事だろう。
理由が不明なのが却って不気味ではあるのだが。
「よっこいせ」
ベキベキベキッという音と共に端末にもたれ掛かっていた死体が引き剥がされる。
「また花を枯らせようか?」という操を制して、ライナが力づくで死体を排除する事にしたのだ。
「全部操に任せるのは申し訳ないしな」とうのがライナの弁だが、先程扉の『花』を枯らした際に操が違和感を訴えた事から、気遣ってくれたのだという事は操にも察する事が出来た。
嬉しく思うと同時に、ライナに心配を掛けてしまっている事を申し訳なく思う操。
とはいえ、そこはお互い様という事で良いのだ、という事はもう理解している。
「よし、これで操作出来るな。 ……って言うか、この街は本当に非常用のナントカが多いなぁ……ま、理由は分かるけど」
そんな風にぼやきながら、ライナが発電機の制御端末を操作して行く。
因みに、この街の施設に非常用の設備が多いのは、グリーンフォレストが周囲を山と森に囲まれた場所である為だ。
街の周辺で何らかの災害が起こった場合、街を出入りする為の道路が通行不能になったりすれば容易に孤立してしまう為、何かしらの備えが必要なのだそうだ。
実際に災害に見舞われている現状で役立っている事を考えればそうした備えが功を奏した事にはなるのだが、殆ど手入れがされていないなど管理上問題がある所が多い為、余計に手間が掛かっている様な気もしてしまう。
「動きそう?」
「ああ、大丈夫だ。 後は起動レバーを動かすだけの状態みたいだからな」
そう言いながらライナが起動用のレバーを上げる。
すると、重低音を響かせながら発電機が駆動し始める。
そして、それに続いて薄暗い非常灯しか点いていなかった室内に明かりが灯った。
「良かった。 ちゃんと電力が通ったみたい」
「途中の線が切れてました、とかじゃなくて助かったな。 そうなったら流石に直せないからなぁ」
今迄の事を考えると本当にありそうな話だ。
しかし、『花』に浸食されてボロボロに見えるが、このホテル自体は施設の管理はしっかりされているらしく、発電機やそれ以外の機械類もしっかり手入れが為されている様に見える。
他の施設もこうだったら良かったのだが……。
「で、問題はエレベーターの鍵なんだけど……操、何か覚えてる事ないか?」
「うーん……今の所思い出せるのは、ホテルに辿り着いた所までなんだよね。 その後の事は今ひとつ……」
操はそう言って頭を捻った。
実は、ホテルに辿り着いた後の事は殆ど記憶が甦っていないのだ。
ホテルのロビーの内装も初めて見た様な気がしており、甦った記憶を頼りにここまでやって来た操は戸惑っていた。
「そっかぁ……。 あ、それなら、ホテルで目を覚ました後の事で何か覚えてる事ってないか? 生き残りに会ったんだろ? 一応」
「え?」
そう言われても、操としては直近の事とはいえ記憶を失った直後の事であり、混乱の極みの中にあった状態では覚えている事も少ない。
思い返してみれば、最初に目を覚ましたあの部屋の中の様子すらよく覚えていない。
更に言うなら、碌に室内を調べる事もせずに部屋を出てしまった事をたった今思い出した位だ。
(ええと……少なくともそれ以降の事はそれなりに覚えているけど……エレベーターホールで今いる場所がホテルだって知って、その後生き残りの人に…………?)
そこまで考えた時、操の脳裏に何かが引っかかった。
(あれ? その前……生き残りの人にリネン室で会う前に何かあったような……?)
怪物に初めて遭遇したのが5階のリネン室だった。
それはつまり、それ以前の場所では特に危険な目には合っていないという事でもある。
しかし、操はその前に何か、身の危険を感じるような体験をした覚えがあった。
(そうだ、直前に階段で下に降りようとして、階段が崩れてて……下の階に降りられないから、どうしようかって考えながら……………あっ!)
そこで操はある事を思い出した。
「……腕だ!」
「え? 腕?」
考え込んでいた操が突然顔を上げると同時に口走った単語に、ライナは訝し気な顔を向けた。
「あっ……ご、ごめん。 一つ思い出した事があるんだけど、もしかしたら……鍵があるかも」
操が思い出したのは、生存者である従業員の男性と会う前、廊下で怪物に襲われたと思われる人間の、喰い千切られた腕を発見した事だった。
操が発見した時には既に血も乾き、それなりの時間が経っている様子だったその腕の持ち主は、恐らく怪物に襲われ、勢い余って窓から怪物諸共落下してしまったと思われた。
リネン室で生存者の男性と遭遇した際、操はあの腕の持ち主かと思ったのだが、彼の両腕は健在だった。
そして彼との会話の中で、一緒に逃げていた友人が居たという事を操は聞いている。
その人物は既に死んでしまったとの事だったのだが……それが、窓から落ちた誰かだったのではないだろうか。
「……という事なの。 もし、その人が鍵を持っていたのなら、そのまま下の階に落下しているんじゃないかな」
「なるほど、有り得ない話じゃないな」
窓から落下した人物がエレベーターの鍵を持っているかもしれない、という考えは、もしかすると都合良く考えすぎかもしれない。
しかし、生存者の男性はあの時、非常階段の鍵だけを操に渡して来た。
既に自分の死期を悟っていた彼が、他の鍵を隠し持っている理由は無いだろう。
もしも他にも鍵を持っていたのなら、操を逃がそうとしてくれた際に渡してくれたのではないかと操は考えていた。
「仕方ない、とにかく行ってみるか。 電力は復旧してるから、建物自体がぶっ壊れてなきゃ、エレベーター以外は普通に使えるだろうしな」
ライナの言う通り、先程ロビーで見かけた限りでは、レストランなどに通じる自動ドアの類も電力が通っていない為、全て停止してしまっていた。
しかし、非常電源を起動した今、それらを含めた建物設備は問題なく作動するようになっている筈だ。
ならば、目的の場所に行くのに障害となる物は無い。
……勿論、『花』の怪物などは抜きにして、だが。
「そうだね、今なら移動には困らなそうだし。 ……前に見たこのホテルのマップだとあの下は……丁度、東側の中庭部分だったと思うよ」
このホテルは、2Fから上のフロアがアルファベットのHの文字を横倒しにしたような形になっている。
それに対して1Fは2Fよりも広く、建物に囲まれるようにして東西の位置にそれぞれ中庭が存在していた。
ロビーからも近い位置である為、通路が塞がっているなどしない限りは問題なく辿り着ける筈だ。
「中庭ねぇ……何か、如何にも潜んでそうだなぁ」
「まぁ……居るよね、どう考えても」
二人は顔を見合わせて苦笑し合う。
ここまで来ると大体の展開は読める様になって来る。
何も無いに越した事は無いものの、そうは問屋が卸さないというものだ。
そうして二人は、これから向かった先で何が起こっても良いように準備をしながら機械室を後にするのだった。
「あー…………そうだよな。 避難所になってたって言ってたんだもんな」
「うん………」
機械室を出て、地下フロアから1Fに戻って来た操達は、早速中庭へ向かった。
しかし、ロビーから中庭方面に向かう廊下に差し掛かった時、その廊下が何かで塞がっているのが見えて来た。
「奥にパーティーなんかの会場に使われる広い部屋があるみたいだから、そこに避難していたのかな?」
廊下を塞いでいるのは椅子や机などのホテル内の備品類だ。
大きな丸テーブル等もある事から、操が推測したようにパーティー会場などで使用される机や椅子を使ってバリケードを構築したらしい。
大勢の人が宿泊するホテルともなればそういった備品類の数も多くなる為、バリケードの素材には困らないのだろう。
「……爆破したらダメかな」
「だ、ダメだよ! ホテルが脆くなってるかもって言ったのライナでしょ!」
真顔で物騒な事を言い出したライナを操が窘める。
……と言うか、まだ爆薬の在庫があったのか。
「だよなー……。 はぁ……面倒だけど迂回するしかないかぁ」
一応、中庭方面に向かう方と別の廊下は、バリケードが築かれていないのでそちらに進む事は出来る。
しかし、迂回した先から中庭に行けるかは不明だ。
「ともかく一通り見て回ってみよう? もしかしたら何処かから出られるかもしれないし……」
操がそう言って迂回路の廊下を指差す。
その廊下には確かにバリケードは無いのだが、所々に血が飛び散っており、お世辞にも安全そうだとは言えない。
しかしそれでも、先へ進むにはそちらへ向かうしかなさそうだった。
「……そうだな。 最悪、どっかの窓から外に出るとかすれば良いか」
それはそれでどうなのかと操は思ったが、実際の所バリケードでどの道からも中庭に近付けない状況であれば、穏当に事を済ませるならその様な手段も検討しなくてはいけない。
それ以外の方法となると……操もライナも、建物の破壊を伴った手段しか講じられそうにない。
出来ればそれは避けたかった。
廊下を進んで行く操とライナ。
ライナが前を歩き操が後ろを付いて行く形だ。
ライナは相変わらず右手に拳銃を携えてはいるが、銃を構えたりせず殆ど警戒していないように見える足取りで歩いていた。
対する操は銃を構えつつ、周囲を警戒しながらライナの背を追っている。
だが、操が今手にしているのはツートンカラーの拳銃ではない。
「……ねえ、ライナ。 本当にこれ、私が使って良いの?」
操がライナの背中越しに尋ねる。
これというのは、操が装備したブルパップ式散弾銃の事だ。
地下から戻りしなにライナから「拳銃だけじゃ心許無いだろうからこれを使え」と、手渡されたそれは、倉庫街において『三つ首』に対してライナが使用していた物だった。
地下水路での戦闘でそれまで使っていた小型散弾銃を失ってしまっていた操には確かに代わりとして丁度良い武器なのだが、操は本当に自分が使ってしまって良いのだろうかと少々遠慮気味だ。
接続された帯で肩に掛けた状態の散弾銃を両手で掲げて見せる操に、ちらりと視線を向けたライナは笑って答えた。
「おう、良いぞ。 元々操用にと思って持って来た奴だからな」
出所は聞くなよー、と軽い調子で言うライナに、操は少々嫌な予感を感じたが、あまり突っ込むべきではないと判断して考えない様にした。
……それはさて置き、とにかく散弾を保持しておけるシェルホルダーもライナから渡されて身に付けた為、以前よりも迅速な再装填を行う事が可能になっている。
散弾銃の装弾数も倍以上に増えている為、相対的に見て以前より火力が増したと言えるだろう。
散弾銃自体も軽量かつコンパクトなブルパップ式である為取り回しが良い。
体格的に恵まれているとは言えない操にとっても嵩張らず、扱い易い銃だ。
ライナは銃に関しては愛用の拳銃があれば十分との事で、操にそのまま渡されたのだが、自分だけ武装を強化するのは申し訳ないような気分になってしまう。
当のライナは全く気にしていないようだが……こればかりは操の性格故に如何ともし難い。
そうして周囲を警戒しつつホテルの廊下を進む内、眼前に再びバリケードが見えて来た。
勿論、先程のバリケードとは別の物だ。
積み上がっている物は似たり寄ったりだが……先程の物とは異なり、一部が倒壊している。
「……崩れてるね」
「……そうだな。 内側から破られた感じになってるな」
内側、つまり、ホテルに避難して来た人間が最初に立て籠もっていた場所と思われる、パーティーホールのような広間の方角だ。
そちら側からバリケードが破られているという事は……。
「……ま、今更大群でいるとは思えないけど、注意はして行くか」
「……そうだね」
5Fに逃げて立て籠もろうとした者達は、広間で何かが起きた後に辛うじて逃げる事が出来た者達だったのだろう。
その後、広間から『発生』した怪物達が何処へ行ったのかは不明だが……煙のように消えてしまったわけではあるまい。
現に、廊下を進んでいた操達の前にゆっくりと姿を現した影があった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………」
「お゛お゛お゛お゛お゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………」
崩れたバリケードの影から現れたのは2体の『花人』だ。
身体のあちこちに『花』を咲かせ、蔓が巻き付いた体をぎこちなく動かしながら、こちらへヨタヨタと歩み寄って来る。
その様子自体は通常と変わらないのだが……少々、普通の『花人』と異なる点があった。
(……身体に広がった『花』の数が多い?)
その『花人』は今まで目にして来た、人間の死体に花が咲いた状態とは異なり、全身を花に覆われた死体とでも言うべき姿だった。
『花』の葉や蔓、蔦などがびっしりと体を覆っているその姿は、所謂迷彩服を着込んだ人間のようにも見える。
しかしよく見ると、伸びすぎて体から垂れ下がった蔓等がウネウネと動いており、やはり普通の人間ではない事が分かる。
そして、その姿に操は覚えがあった。
(消防指令センターの隠し部屋で見た警察署長の『花人』に似てる……? あの時の『花人』に比べると、更に『青い花』が広がっているけど……)
以前操が倒したGF警察署の署長、ウォルター・サザランドの『花人』は上半身が『花』に覆われ、さながら『木人』一歩手前、といった姿をしていた。
『花人』の能力に個体差があるのかは分からないが、少なくとも操には、あの『花人』が通常の個体よりも耐久力が高かった様に感じられた。
という事は、目の前の二体の『花人』も通常より耐久力が高い、あるいは何らかの特殊能力を持っている可能性がある。
「ライナ、多分あの『花人』、普通の奴より打たれ強いと思う。 それに、何か普通の奴とは違う事をしてくるかも」
操はライナに目の前の『花人』が、通常とは異なる特殊な個体である可能性を簡潔に伝えた。
かなり情報量が少ないが、ライナならこれだけで操の意図を汲み取ってくれるという確信があった。
「なるほど、了解。 ……あの蔓だか蔦?かな?」
そして実際、ライナは注意を促した操の意図を正確に読み取っていた。
銃を構えると素早く4連射する。
「ごえッ!!?」
「えげッ!??」
2発ずつの銃弾を頭部に撃ち込まれた2体の『花人』は、奇妙な悲鳴を上げつつ仰向けに倒れた。
大口径の10ミリ弾を2発撃ち込まれた怪物達は、半ば頭部を吹き飛ばされた様になっている。
あれなら本体を破壊されていなくとも、活動を止める事が出来ているだろう。
「銃声で他のが寄って来ないと良いんだけどな」
事も無げに怪物達を葬ったライナはそう呟きながら、銃を構えた状態のまま倒れた2体に近付いて行く。
万が一、頭部を破壊して尚動いた場合も想定しているようだ。
「今の所近くに気配は無いから平気だと思うよ。 ……絶対とは言えないけど」
操の言葉に微妙そうな顔をするライナ。
後半部分に関しては大目に見てもらいたい。
「そこはもうちょっと、こう……自信を持って言って欲しいんだけどなぁ……」
ぼやきながら活動を停止した怪物を調べるライナ。
操も、近づいてもう一体の『花人』の死体を間近で観察した。
「やっぱり、基本的には普通の『花人』と同じだけど……蔓や蔦が発達してる」
「ああ、それに操が言った通り、耐久力も高かったぜ。 頭に弾丸が当たったのに、1発じゃあまだ生きてたしな」
操にはほとんど同時に2発の銃弾で頭を撃ち抜かれた様にしか見えなかったが、ライナの目から見ると1発目の段階では怪物達は死んでいなかったらしい。
人間は勿論、『花人』としても異常な生命力だ。
こうなると、蔓や蔦の方も操の予想通り、通常の『花人』と異なった行動に使用するのかもしれない。
「んー……わざと攻撃させて、生態を見るべきだったかな」
ライナがそんな事を呟く。
確かに相手の能力を知っておくのは重要だが、わざと不利な状況になろうとするのは危険ではないだろうか?
かつての『爆弾ガエル』の様な、初見殺しと言って差し支えない怪物もいるのだから……。
「でももしかしたら、いきなり強酸性の液体を広範囲に撒き散らすとか、毒ガスを放出して室内を汚染するとかして来る怪物だったりするかもしれないし、様子見は危ないんじゃない?」
「……結構エグいパターン考えてるんだな、操……」
そんな操の言葉に、ライナが何故か若干引き気味に答える。
……これ位は普通に考え付きそうな気がするのだが。
「自爆戦法の『爆弾ガエル』とか、地下水路で見た……『根腐れ』みたいな奴は、実際似た様なものでしょ? 『花人』が強化されたみたいな奴が居るなら、そういう奴らの強化版もその内出て来るかもよ」
この怪物が単純に『花人』とは別種程度なのであれば良いが、操の言った様に『花人』の『強化型』とでも言うべき存在であれば、他の種類の怪物にも『強化型』が発生する可能性はある。
厄介な話だが『巨人』や『双子』、そして『三つ首』の様な特殊な怪物と戦った経験がある操には、そうした怪物が既に存在している、或いは何らかのきっかけで生み出される可能性があると言う事はある程度予想出来ていた。
前述の三種がまさに対操用に意図して生み出された存在である疑惑があるからだ。
「……勘弁して欲しいね。 ポンポン危険生物を野に放つなっての」
暗に操の意見に同意し、溜息を吐きつつそんな事を零すライナ。
そしてそれは、操自身も深く同意する事でもあった。
崩れたバリケードを超えて先へ進んだ操とライナ。
バリケードの向こうは思った通り酷い有様であり、壁には血が飛び散り、死体と死体だった物が床に散乱する地獄の如き様相を呈していた。
現在、操達が居るのは目的地である東側の中庭の反対側、西側の中庭の周囲を囲む回廊北側の廊下だ。
中庭は床と天井まで届く大きなガラスで囲まれており、周囲をぐるりと回廊状の廊下に囲まれている。
その窓の一部に中庭に出る為の扉が付いているのだが、扉を含めたガラス窓は異常繁殖した『青い花』の蔓や葉で覆われてしまっており開ける事が出来そうになかった。
勿論力尽くで開ける事は出来ると思われるが、『花』に覆われた窓ガラスの向こうに、操は微かに『気配』を感じ取った。
廊下側からは『花』のせいでよく見えないが、水路で遭遇した『根腐れ』のように休眠状態にあるのか、正確な数が測れない状態で何かが潜んでいるらしい。
「まぁ、こっちは行く必要ないしな。 刺激しない様に通り抜けよう」
「……そうだね。 幸い、廊下側にはそれ程いないみたいだし……。」
「それ程」と操が言った様に、中庭の北側、例の広間がある側の廊下にはヨタヨタ歩く『花人』の姿がいくらか見られた。
大群、と言える程の数ではなかったのは幸運だったが、ある程度近付いた時、操は広間の方から嫌な気配を感じ取る。
「……何か居たか?」
「…………特殊なのは居ないと思う。 けど……広間にウジャウジャ居るみたい」
操が感知したのは、避難して来た人間が大勢居たであろう建物北側の広間内で蠢く、幾つもの気配だ。
どれ位の人間がこのホテル内に避難して来ていたのかは不明だが、結構な数の気配が感じられる。
今の所、操達には気付いていないようだが、廊下にいる『花人』を銃撃する等すれば流石に気が付かれるだろう。
「……ちゃんと大群で居るのかよ……」
流石にもう怪物の群れと遭遇する事は無いだろう、と先程発言したばかりのライナは露骨に嫌そうな顔になる。
今にして思えば、所謂“フラグ”という奴だったのかもしれない。
そして、更に間の悪い事に広間の大扉が開いたままの状態になっているようだ。
『花人』は音には反応が鈍い傾向があるが、流石に扉が開いた状態で銃声が響けば、音の出所を察知されてしまう。
操達が居る廊下はある程度横幅が広いとはいえ、広間の中にいる『花人』の大群を相手にするには手狭だ。
ついでに言えば、西の中庭から感じられる微かな『気配』の持ち主が動き出したりすれば、廊下で挟み撃ちに合ってしまう可能性もある。
「……こりゃあ、なるべく静かに素早く廊下の『花人』を処理しつつ、広間の扉を閉める必要があるな」
広間の怪物の群れに気付かれないようにしつつ、廊下の怪物を倒す。
東の中庭に目的のエレベーターキーがあるとしても、キーを回収した後は同じ廊下を通って戻らなくてはいけない以上、下手に敵を引き付けてしまうのは拙い。
そう考えると、確かにライナの言う通りの方法を取らざるを得ないだろう。
だから、操はライナに提案した。
「……私が扉を閉めるから、ライナは廊下の『花人』をお願い。 私なら扉を『花』の力で封鎖出来るし……」
操の身体から生じる『花』の蔦や蔓、或いは茨は、硬化すれば極めて強度の高い拘束具と化す。
広間の大扉を開かないように丸ごと覆ってしまえば、如何に強化されているとしても『花人』程度では破れないだろう。
ライナは少し考えた後、操を見て言った。
「……確かにそれが確実だろうけど、大丈夫なのか? あんまり力を使うと消耗するんだろ?」
確かに操はいまだに体調が万全とは言えない状態だ。
先程から攻撃をライナが担当し索敵を操が行っているのも、ライナが操の体調を気遣ってさり気なくその様に立ち回っていたからだった。
しかし、操ももう自身の身を粗末に扱うつもりは無いが、守られてばかりいるつもりもない。
ライナが操を気遣ってくれるのと同じ様に、操もライナの身を案じていた。
「大丈夫、水路の時みたいに広範囲を覆う訳じゃないし、今ならもっと効率よく扉を閉じられると思うから。 ……というか、あの時は余裕が無かったのもあるけど、力技過ぎたからね」
苦笑しながら操が答える。
気負った様子もなく話す姿に、ライナは仕方ないなという風に溜息を吐きつつ、操の案を了承した。
「……分かった。 でも、無理はするなよ」
少し心配そうに言うライナに、操は頷きを返す。
現状、二人が身を隠す廊下の曲がり角の位置からは、廊下をフラフラと歩く強化型の『花人』が3体見えている。
1体目は丁度広間の入り口の正面辺りをうろついている為、この『花人』をまず排除しなくてはいけない。
「……!」
操とライナはお互いに目配せし合うと、同時に身を隠していた曲がり角から走り出た。
ライナは右手に黒い短剣だけを持ち、音もなく廊下を駆け抜ける。
そして、こちらに背を向けて歩いていた『花人』の首を、すれ違い様に刎ねた。
呻き声一つ上げられずに絶命した『花人』が床に倒れて行く。
一方、操はライナが廊下を駆け抜けるその後方からぴたりと追随し、ライナが『花人』を仕留めるのを横目に見ながら廊下を走った。
広間の扉は廊下から若干奥に進んだ所にある。
操は短い通路を駆け抜け、広間の方へ走った。
開け放たれた扉の向こうには何体もの『花人』の影が見える。
しかし、幸いにも入口の周辺には『花人』の姿は無く、仮に気付かれたとしても、すぐに距離を詰められる様な事にはならずに済みそうだった。
「……ッ!」
操は少しでも室内の『花人』に発見されるのを遅らせる為、声を出さないように注意しつつ、両腕から『茨の鞭』を解いた状態で伸ばした。
開かれた状態の大扉、その両側の取っ手の部分に絡み付いた『茨の鞭』に力を籠め、操は扉を閉じて行く。
伸縮自在の両腕のように動いた茨が音を立てないよう慎重に、尚且つ迅速に扉を閉め切った。
そして、大扉の左右の取っ手部分に茨を巻き付けて完全に施錠すると、更に両側の壁にも茨を伸ばして取っ手に巻き付けた茨に繋げる。
壁に伸びた茨はそのまま壁に突き刺さり壁材に咬み付く様に根を張り、最終的に大扉は取手から伸びた茨で壁に固定された様な状態となった。
これなら以前、中央地下水路の出口を封鎖した時に比べ、より効率的に扉を封鎖出来たと言えるだろう。
(よし! 後は……)
ライナの援護を、と思って廊下に戻ろうとした操の前に、ひょっこりとライナが姿を見せた。
「おっ、もう終わったのか?」
そう言ったライナの右手には血の付いた短剣が握られている。
……3体の怪物を倒したにしては、少々早すぎるのでは?
「……え? ライナこそ、もう終わったの? 3体とも?」
こう言った場合、ライナに関してはいつもの事と言えばいつもの事ではあるのだが、やはり気にはなる。
しかし、ライナの答えは操の予想の更に上を行っていた。
「いや、最初のも含めて全部で5体だった。 2匹隠れてたんだ」
通路の角から顔を覗かせてみると、廊下には先程目にしたよりも多い数の『花人』の死体が転がっていた。
ほぼ全ての死体が首が切断され、一撃で仕留められているが、2体ほど腕や足も切り落とされている死体があった。
恐らくあれが隠れていた個体なのだろう。
「やっぱりこいつら、どうにかして繋がってるのかもな。 俺が最初の3体始末し終えた途端に走って来たぞ」
「……走って?」
ライナの言葉に操は驚く。
『花人』や『木人』は、ほんの一瞬、短距離であれば走り寄るような事はして来る事もあるが、明確に走って来たという様な事は無かった筈だ。
にも拘らず、ライナがわざわざ走って来た、と表現したという事は……。
「ああ、間違いない。 こいつらは普通の『花人』とは明確に違う『強化型』だ。 ……スピード自体はそこまで早くなかったけどな」
加えてライナは、『強化型』に蔦による攻撃を受けたという。
従来の『花人』なら、単純に掴み掛かって来るだけだったが、『強化型』は更に蔦でこちらを絡め取ろうとして来るのだという。
「まぁ、蔦は脆いから刃物で斬ってやればどうって事は無いけどな。 ……それでも、行動が変わってるのは厄介だぞ」
「そうだね……。 もしかして、他の怪物も居るのかな、『強化型』って」
『花人』であれば、それ程対処に困る事は無いだろう。
従来の個体より耐久力はあるが、距離を取って攻撃すれば良いのだから。
しかし、これが『木人』や……例えば『イヌネズミ』、『爆弾ガエル』などの特殊な能力を持った怪物の『強化型』だったなら?
どのような能力を持っているかによっては、操達……グリーンフォレスト内で生き残っている生存者にとって死活問題となりかねない。
「このままだと、どんどん強力な怪物が増えて行くって事なのかな……」
「かもな。 と言っても、俺達に出来る事はあんまり無い。 ……精々、自分達の身を守る事程度だ」
ライナの言う通り、今操達に取れる選択肢は少ない。
それも、それぞれが生存の為に最善を尽くす位の事しか出来ないのだ。
操は胸の奥に一抹の不安と、再び甦って来た後悔の念を感じ、表情を曇らせるのだった。
「広間の怪物共がこっちに気が付かなかったのはラッキーだったな」
「うん。 途中で気付かれるかと思ったんだけど……相変わらず、音には反応が薄いのかな」
操とライナは先程の戦闘で得た情報を共有すると、広間の扉から離れて廊下を更に奥へ進んだ。
廊下の先には東側の回廊に築かれたバリケードの一部が見えており、一見すると行き止まりのように見えていたが、ライナ曰く何かが有りそうだという。
「さっきの『花人』の増援が、丁度あの辺から出て来たんだよ。 多分そこから……」
念の為、銃を構えながら接近して行く。
東側の回廊も、今しがた通って来た西側の回廊と同じく中庭を囲むように廊下が続いており、中庭は壁と窓ガラスで囲まれていた。
窓と壁に関しては若干西側と造りが違うらしく、もう少し先に進まないと中庭の様子を確認出来ない様になっている。
そうして曲がり角付近に築き上げられたバリケードの前まで来ると、手前側、中庭に面した場所に空間がある事が分かった。
そこだけバリケードが無く、中庭を囲む天井から床まで伸びた大きな窓が見える。
恐らくこの部分のバリケードは崩れてしまったのだろう。
そう考えて周囲を見ると、それらしい椅子や机……の残骸が転がっている事に気が付いた。
先程の『花人』の仕業だろうか? バラバラになった残骸は最早ただの木材と化している。
そして更に、バリケードが崩れた場所の窓の一枚が完全に割れていた。
割れて飛び散ったガラスは何者かに踏まれたような形跡がある。
「もしかして、ここを通って中庭から入って来たのかな?」
「多分そうだろうな。 で、中庭に何か居そうだっていう予想は当たりって訳だ」
ライナが嫌そうに肩を竦める。
事実、操は先程から目の前の中庭から複数の気配を感じていた。
どの気配もかなり薄いが、間違いなく何かが居る。
操はライナと顔を見合わせると、それぞれ銃を構え直した。
ホテル内で『花人』以外の怪物は今の所見掛けていないが、この先も遭遇せずに済むかは分からない。
出来れば現われないで欲しいと思いつつ、操は中庭に足を踏み入れて行った。
割れた窓を潜って中庭へと足を踏み入れる操とライナ。
吹き抜け状になった中庭は、夜の闇をスポットライトの明かりが照らしていたが、『花』の霧がここにも満ちており実際の明るさはやや薄暗い。
周囲を見渡してみても、薄暗い中に背の低い植木が生える植込みがぼんやりと見える程度だ。
「…………」
「…………」
操はは声を出さず、その場でライナと視線を交わす。
ライナもまた視線を受け、無言のまま操に顔を向けると、僅かに肩を竦めた。
そして、すぐ側にあったレンガ造りの花壇に近寄ると……おもむろに、地面の土に埋め込まれた花壇のレンガを掴む。
その直後、操の耳にめりっという鈍い音が聞こえた。
振り返ったライナの手には、先程まで花壇の一部だったレンガが一つ握られていた。
ライナはそれを左手で弄びつつ、中庭の植込みの一つに目を向ける。
そして、レンガを持った左手を大きく振りかぶると、植込みに向けて勢い良くレンガを投げ放った。
「ごげっ!!?」
凄まじい勢いで投げつけられたレンガは、植込みの一つに吸い込まれる様に飛んだ。
そしてその直後、植え込みに潜んでいた……いや、植え込みに擬態していた『花人』の側頭部に直撃していた。
砲弾の如き速度で投げ放たれたレンガが直撃した『花人』の頭部は文字通り弾け飛び、周囲に『花人』の粉砕された頭蓋の破片が飛び散って中庭の景色を赤く染める。
頭を粉々に砕かれた『花人』は、そのまま地面に倒れ動かなくなった。
操は、そんなライナの一連の行動を呆れた表情で見ていた。
「……前にも私が戦ってる横を、自転車か何かが飛んで行った事があったけど……弾薬の節約の為とかなの?」
追加分のレンガを再び花壇から調達しようとしていたらしいライナは、そんな操の声に振り返った。
その表情は突然どうしたのか、とでも言わんばかりであり、自分の行動には何も疑問を持っていないらしい。
現地調達とかそういう事なのだろうか。
「んー? まぁそれもあるけど、単純に銃で殺るより音が抑えられるし……手っ取り早いからかな?」
斜め上の答えが返って来てしまった。
ライナにとっては、手っ取り早く済むのなら周囲にある物の全ては武器となるという事のようだ。
……若干猟奇的だと思ってしまうのは仕方がないと思う。
「それよりほら。 起きたみたいだぞあいつら」
ライナが霧で見え辛い中庭の奥を指し示す。
スポットライトの明かりでぼんやりと照らされた霧の向こうに、複数の影が立ち上がるのが見えた。
ゆらゆらと体を揺らしつつ、操達の方にゆっくりと近づいて来ている。
「やっぱり、さっきの奴みたいに植込みの振りをしてたのかな?」
「そうだろな。 中庭が吹き抜けになってるせいか、建物の外より霧が濃いから分かり難いけど……今更そんな程度で騙し討ち出来るかっつー……のっ!!」
「げがッッ!!?」
会話の合間にライナが再びレンガを投げる。
高速で飛んで行ったレンガは接近して来る影の一つに当たったらしく、影の主が地面に倒れる音がした。
「さて、これ以上は流石に銃でやるとして……操、折角だし、それ試してみろよ」
そう言ってライナが指したのは、ライナから渡されていたブルパップ式の散弾銃だ。
……確かに、この辺りで使用感に慣れておくべきかもしれない。
「銃声で他の怪物が寄って来ると思うけど……大丈夫?」
「なーに、広間の集団は操が閉じ込めてくれたし、他に怪物居そうな所って西の中庭くらいだろ? 寄って来たとしても、そうそう大した数じゃないって。 ……10匹位か?」
ライナは平然とした笑顔でそう答えた。
普通に考えれば、怪物10匹は『大した数』だと思う。
この自信は何処から来るのか、と考えそうになるが……ライナにとってはそういうものなのだと操も学習した。
……時々、人間でなくなった自分より、ライナの方が人間離れしているように感じるのは気のせいだろうか。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ………」
「え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇぇ…………」
「うううお゛お゛お゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……」
そうこうしている内に視認出来る距離にまで『花人』が近づいて来る。
その足取りはヨタヨタした覚束ない物だったが、やはり心なしか、通常の『花人』よりもスピードが速い気がする。
そういった細かな面でも『強化型』という事なのかもしれない。
操は腰だめに構えていた散弾銃の銃床を肩に付け、目線の高さに銃を持って来る。
ライナが警察署から持ち出して来たというこの銃には、銃の上部にキャリングハンドルと呼ばれる持ち手が付いており、その前後に照準器が搭載されていた。
操は肩付けの状態で構える銃を使うのは初めてだったが、銃を短く保持出来るブルパップ式である為、肩付けの状態で構えても非常にコンパクトに感じた。
操は銃を構えたまま照準を正面から接近しつつある『花人』に合わせ、静かに息を吐く。
そしてその直後、躊躇いなく引金を引いた。
轟音と共に12ゲージの散弾が撃ち出される。
銃本体が比較的軽量であるこの散弾銃は、体感では水路で失ってしまった短銃身の散弾銃と同程度の重さしか感じない。
それ故、発砲時に感じる反動なども恐らく同程度の物と思われるが、肩付けの状態で構える事が出来るストックがある分、むしろ発砲時の反動は小さいように思えた。
「グげッ!!!?」
操が放った散弾を浴びた『花人』が断末魔の悲鳴を上げて吹き飛んだ。
耐久力が上がったと言っても、流石に12ゲージ散弾をもろに喰らえば一溜りも無いようだ。
そんな怪物の姿には目もくれず、射撃時の感触を確かめた操は銃の構え方を微調整する。
銃の保持の仕方に限らず、両足の位置、体重の掛け方など、発砲の衝撃を分散させやすい体勢を取った。
そうして微調整が終わると、銃身下の前床を前後に操作して次弾を装填、別の『花人』へ照準を合わせ……再び発砲する。
「ゲバッ!!??」
「おお、操も銃の扱い随分慣れたな!」
背後から拳銃の発砲音と共にライナの声が聞こえて来る。
既に周囲には10匹近い花人が集まって来ている。
「慣れたくて慣れた訳じゃないけどね!」
……と言いながら、操も散弾銃を発砲、次弾を装填して再び銃撃を繰り返した。
新しいこの散弾銃の装弾数は最大8発である為、以前よりも継戦能力が増してはいるが、やはり弾切れの懸念はある。
仮に弾切れの状態になった際に敵に距離を詰められた場合には、接近戦を行う必要に迫られてしまう。
そうなった際には、操の場合は怪物相手に接近戦を行うのであれば、戦闘経験の問題から徒手空拳よりも『茨の剣』を用いる方が危険が少ない。
しかし、拳銃ならともかく再装填を両手を使って1発ずつ行う必要がある散弾銃を使用している以上、即座に『茨の剣』に切り替えるのは難しい。
何せ、銃と剣を両方同時に使用するのなら、銃は片手で持たなくてはならないのだから。
必ず両手で操作する必要のあるポンプアクション散弾銃でそれを行うのは不可能……と思われた。
(……あれ? もしかして………私なら出来るんじゃない?)
ふと操の脳裏にあるアイデアが浮かぶ。
そのアイデアが実現出来れば、散弾銃と『茨の剣』の同時使用が可能となる。
そうなれば、操の戦闘スタイルにかなりの変化が起きるだろう。
(……試してみよう。 この先、どんな敵が襲って来るのかも分からない。 出来る事は全て試さないと)
周囲に寄って来る怪物の波が一息ついた段階で、操は散弾銃と自分の体を繋いでいる帯を素早く切り離した。
両手で構えていた散弾銃を左手に持ち替える。
「え? おい、操?」
操の突拍子もない行動に、ライナが困惑した声を上げた。
しかし次の瞬間、その表情が驚愕により固まる。
「………ッッ!」
操は意識を左腕に集中する。
そして、左腕を「延長」するようなイメージで腕から蔦を伸ばした。
無数の蔦が左腕に絡み付き、そのまま手に握られた散弾銃にも広がって行く。
機関部などの重要な部分は避け、排莢口が塞がったりトリガー部分の操作を妨げる事が無いように蔦が銃を覆う。
やがて、銃と操の左腕が絡み付いた蔦によって連結され、一体化したような状態となって蔦の動きが止まった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッ!!!!」
と、そんな状態の操を隙有りと見たのか、『花人』の一体が走って操に襲い掛かった。
ライナが言っていた通り走る速度はそれ程早くは無いが、走らないと思っていた『花人』が走って攻撃して来たなら意表を突かれていただろう。
更に、操に掴み掛かろうとすると同時に、体に生えた蔓を前方に伸ばし、手と蔓の両方を使って操を捕えようとする。
ライナはそんな『花人』に銃を向けようとして―――
その前に、操が散弾銃を『花人』に向け、片手で発砲した。
「ぎゃッバ!!??」
操の左腕に鋭い衝撃が走る。
本来両手で保持した状態で発砲する散弾銃を片手で撃ったのだから当然だ。
しかし、筋力が常人を遥かに超えるレベルにまで強化されている操は、思ったほどではないな、と無意識に頭の中で思っていた。
「え゛え゛え゛え゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッ!!!!!」
そこへ、散弾銃の発砲直後、次弾を装填する必要がある最も隙が出来るタイミングを狙い、別の花人が操に襲い掛かった。
本来なら操は発砲直後である為、前床を操作して次弾を装填、照準を合わせて発砲、という動作を行う必要があり、左手一本で発砲した後のこのタイミングで攻撃されたなら反撃をする事が出来ない。
それ故に、『花人』の攻撃タイミングは非常に理に適った行動だと言えた。
しかし。
「……ッ!」
操は息を吐き出しながら左腕を勢い良く折り曲げる。
すると、その動きに合わせるかのように、銃に絡み付いた蔦が前床を前後に操作した。
ジャキン! という音と共に次弾が散弾銃の薬室内に装填される。
操はすかさず襲い掛かろうとしている『花人』に銃口を向け、容赦なくトリガーを引いた。
「!!!??」
操に掴み掛かろうとしていた『花人』は、至近距離から散弾を放たれ頭部を四散させながら吹き飛んだ。
通常であれば再装填が終わっていないタイミングだった為、攻撃のタイミングがズレた結果、ほぼ零距離で銃撃を受ける事になったのだ。
襲い掛かる『花人』が動かなくなった事を確認した操は、再び腕の蔦を使って散弾銃の次弾を装填した。
「……うん、上手くいったみたい」
そんな事を呟いた操をライナは驚きの表情を浮かべつつ、やや苦笑気味に見ていた。
「いやー……まぁ、うん。 無事ならいいんだけどな?」
ライナは取り敢えず操の『片手散弾銃』について、今は触れない事にしたらしく、近付いて来ていた『花人』の処理に戻って行く。
操も更に接近して来る『花人』を視認すると、今度は自分から間合いを詰めた。
「か゛ぁ゛あ゛ッ!!!」
接近して来た操に対して『花人』は蔓を広げて覆い被さろうとする。
だが、『花人』が操に触れる前に『花人』の身体が斜めに切り裂かれた。
「……!!!??」
身体を両断された『花人』は、上半分が地面にずり落ちて行く。
続いて下半分が力なく倒れて行き、その場には右手に持った『茨の剣』を振り下ろした状態の操の姿があった。
片手のみで銃を扱えるのなら、当然空いたもう片方の手には別の武器を持つ事が可能だ。
これが操が思い付いた、攻撃特化の戦闘スタイルだった。
右手に『茨の剣』、左手に散弾銃または拳銃。
近距離攻撃用と遠距離攻撃用の武器を左右の手に持つ事で状況対応能力を高めた形だ。
この状態であれば、片手で火力の高い遠距離攻撃手段を用いる事が出来、同時に『茨の剣』による接近戦も行う事が出来る。
『茨の剣』に関しては両手で振るうよりも斬撃の威力は下がるかもしれないが、同時に遠距離攻撃が出来るという事は大きな強みだ。
特に、今の様に複数の敵を相手にする際には非常に有効な戦闘スタイルとなるだろう。
右手に剣、左手に銃を持った操は、集まって来ていた『花人』の群れの間を駆け抜ける。
『花人』とすれ違う度に『茨の剣』の青緑色の刃が閃いた。
無数の細かな棘が『花人』を斬り裂き、中庭の花壇に血飛沫が舞う。
『茨の剣』の攻撃により、操は強化型の『花人』を今の所は一撃で倒す事が出来ている。
しかし、確実に一撃で仕留めるには首を刎ねるなど、人間で言うなら致命傷になる攻撃をする必要があった。
そういった意味でも、遠近問わず『花人』を一撃で倒せる散弾銃による攻撃は、操が複数の敵を相手に立ち回る際の補完的な武器として機能していた。
しかしそれでも、隙が無い訳ではない。
「………!」
散弾銃の扱いにも慣れて来た操は、散弾1発で2体の『花人』を仕留めるような事も出来るようになって来ていた。
これは当然弾薬の節約にも繋がるし、敵の数を速やかに減らす事も出来る。
だが、幾ら弾薬の節約が出来ても、最終的には弾切れになる事は避けようがない。
『茨の剣』を振るい、散弾を使用した銃撃によって、『花人』の数は明らかに減りつつあった。
後方ではライナも短剣と銃を用いて数体の『花人』を処理している。
それでも、まだ複数の『花人』が残った状態で操の散弾銃の残弾が尽きた。
当然、再び使用するには散弾銃に弾を込めなければいけない。
しかし、両手が塞がった状態の操が再装填を行うとなると、大きな隙を晒す事になってしまう。
だが操はこの問題を、再び自分ならではの方法で解決して見せた。
「ぎぃぃぁぁぁあッッッ!!!」
「……ッ!!」
襲い来る『花人』の攻撃を体を捻って回避する操。
常識的に考えれば、この状況で両手が塞がったまま銃の再装填など出来ようはずもない。
しかし操には両手意外にも手の代わりになる物があった。
操の左の背中から細い蔦が伸びる。
操は今までこの細い蔦を使って高速移動を行ったり、壁や天井の出っ張りに引っ掛けての跳躍など、自分自身の移動の補助を行って来た。
見た目以上のパワーを持っているこの蔦を使えば、圧倒的な身体能力を持つ怪物達との戦闘も有利に進める事が出来たのだ。
そして、その際に思ったのだ。
この蔦はパワーだけではなく、器用さも持ち合わせているのでは? と。
パワーの面では操の腕から生じた蔦、或いは『茨の鞭』の方が上だった。
それ故に、攻撃に用いるのはあまり得策ではないとは思っていたのだが、『三つ首』との戦いの中で操は自分の身体から生じた『花』の一部をかなり正確に操作出来る事に気が付いたのだ。
特にこの細い蔦は、ワイヤーのような細さを持ちながら、操の身体を持ち上げる事が出来る程のパワーと、障害物だらけの倉庫内を激突せずに操の身体を運ぶ事が出来る精密さを持っていた。
ならば、移動の為だけではなく、パワーをそれ程必要としない、細かい動作も出来るのではないか?
そう考えた操は――― 自らの推測を実戦で試す事にした。
背中から伸びた2本の蔦は、操が身に付けている散弾銃の弾薬を収納したシェルホルダーに素早く伸びると、そこから弾薬を抜き取った。
その数は全部で7発。
そして、それに合わせる様に、操が左手の散弾銃の後部を自分の背後方向へ引いた。
操の銃はブルパップ式の散弾銃である為、弾薬を装填する装填口が後方に存在している。
その為、銃を後ろに引く様にすると、装填口が後方に突き出されたような状態になる。
操の背中から伸びた2本の蔦は7発の弾薬を保持した状態で後方に突き出された装填口まで伸びると、まるで人間がするように……いや、人間がするよりも正確に、素早く弾薬を再装填して行った。
弾薬の装填が行われている間も『花人』は操に襲い掛かるが、操はそれを『茨の剣』を振るう事で迎撃して行く。
一撃で倒せずとも足を斬って動きを妨害し、腕を斬って戦闘能力を削ぐ。
そうして敵の行動を妨害しつつ時間を稼ぐ間に、散弾銃の再装填が終わった。
「はぁぁッ!!!」
途端に操が攻勢に転じる。
『茨の剣』で『花人』の身体を切り刻み、動きを止めると同時に散弾銃で纏めて銃撃を加える。
バラ撒かれる様に放たれる散弾と縦横無尽に振るわれる『茨の剣』によって、『花人』達が蹂躙されて行く。
中庭は怪物達の血で彩られ、花壇はまるで花が咲き乱れているかの様に赤く染まって行く。
そうして、操が持つ散弾銃の残弾が再び0になる頃には、中庭に群れていた『花人』達は、その悉くが物言わぬ骸と化していた。
「はぁ……はぁ……」
操は若干息を切らせながら周囲の状況を確認していた。
既に中庭から怪物の『気配』は感じられない。
今この場にいるのは確実に操とライナの二人だけだ。
何処か昂ってしまった心を落ち着け、体内の熱を吐き出す様に深呼吸を繰り返す。
そうすると、次第に心と同時に息も落ち着いて来る。
そこへ、ライナが声を掛けて来た。
「大丈夫か? 操。 何だか色々とやってたみたいだけど……」
やや心配そうに言うライナに操は、若干ばつが悪そうに答えた。
「あ……うん、大丈夫。 ちょっと思い付いた事を色々試したんだけど……何か、夢中になっちゃって……ごめん」
そう答えつつ操は先程の戦闘中、集中しすぎるあまり、かなり行き当たりばったりで行動していたと反省していた。
背中から生やした『蔦のワイヤー』を用いた散弾銃の片手撃ちや、弾薬の再装填といった技は確かに操の戦闘の幅を広げてくれた。
しかし、何も実戦においてぶっつけ本番で試す必要は無かった筈だ。
確かに『花人』の数が予想よりも多かったのは誤算だったが、ライナと二人であればごく普通に対応しても切り抜ける事は出来ただろう。
その為、戦闘が終わって冷静になって来ると、新しく出来る様になった事に夢中になるあまり不必要にライナに心配を掛けてしまった、という後悔の念が湧いて来たのだった。
「ああいや、そこは操が無事なら問題ないから気にすんな。 ただ……」
ライナは操の身に問題が無いと分かると安堵の表情を見せる。
だが直後、表情が曇った。
「例のカギを持ってるかもしれない死体って……もしかしてこの中にあるのか?」
「え」
そう言われて初めて操も気が付いた。
5階で怪物に襲われて中庭に落下した従業員がキーを持っていたとして、どう考えても生きてはいないだろう。
ならば、その死体はどうなったのか?
『青い花』が蔓延る今の街の状況を鑑みれば、『開花』している可能性が高いのではないだろうか。
中庭にこれだけの数の『花人』が居たのだから。
「あー……腕が無い死体、だと思うんだけど……見てなかった……」
「……だよな。 俺も考えて始末してなかったわ……」
操もライナも、『花人』の処理に剣や短剣を用いている。
その結果、『花人』達の腕を切り落としてしまった事も何度かあった。
戦闘能力を奪う為であったり、相手の攻撃に対するカウンターの結果だったりと理由は様々だが、中庭に落ちた従業員を探す上で、これは非常に拙い事態だ。
「『片腕が無い』って事が目印だったのに……これじゃ分からないかも」
「うーむ……この数の死体、それも全身花だらけで、どれが誰だか分からない中から目当ての従業員を探す………うん、無理」
速攻でライナが諦めた。
流石に早すぎるのではなかろうか。
……と、操がどうするべきか考えていた時、視界の端、中庭の木々の間の先に何かが映った。
「……あれ? 今のは……」
「ん? どうした?」
ほんの一瞬だったが、中庭に風が吹いた。
そのせいだろうか、霧がほんの僅かに流れ、その奥にある物が操の視界に映ったのだ。
それが何かを確かめるべく、操は中庭の奥へと足を進める。
ライナは操に見えた物には気付かなかったようで、不思議そうな顔をしているが、周囲を警戒しつつ操の後に続いた。
「あ……」
そうして木々の間を抜け、繁みを掻き分けて進んで行った先にそれはあった。
「……居たな」
それは正しく操達が探していた、中庭へ落下した従業員の死体だった。
片腕……左腕が喰い千切られたように無くなっている他、傍にはミイラのように枯れ崩れた怪物の死体も転がっている。
恐らく落下の際に本体の花が潰れたのだろう。
従業員の方は何故か『開花』しなかったようで、ごく普通の人間の死体のままだった。
しかし、かなり時間が経ってしまっている為か、既に腐敗が始まっているようであり、周囲には独特の異臭が漂っている。
……彼にとって、死後自分の遺体が怪物となって彷徨うのと今の状態と、どちらがマシな最期だっただろうか?
操はただ、目の前の物言わぬ死者の冥福を祈る事しか出来なかった。
「えーと、鍵鍵っと……ポケットの中かな?」
一方、感傷に浸っていた操とは対照的に、ライナは死体の懐を遠慮なく漁っていた。
……ちょっと色々と台無しな気もするが、それが当初の目的なのだから仕方がないとも言える。
「……こほん。 ……どう?ライナ。 エレベーターキーありそう?」
死体のポケットを探っているライナに声を掛け、操も側に寄る。
死体の格好は、以前このホテルで遭遇した生存者の男性と同じ物だ。
恐らくこのホテルの制服なのだろう。
スーツ……とは少し違う、所謂ホテルマンのような服だ。
「うーん……今の所それっぽいのは………お?」
操と言葉を交わしながらポケットなどを調べていたライナが声を上げた。
どうやら何か見つけたらしい。
「どうしたの?」
「制服の裏に何かあるな………ああ、なるほど、内ポケットがあるのか」
どうやらこの従業員用の制服は作業着としての機能も備えた物らしく、外見上に見えているポケットよりも内ポケットの方が多いらしい。
見た目と機能を両立させようとしたのだろうか?
どちらにせよ特注の制服なのだろう。
「随分妙な造りしてるな、この服……。服に関してはよく分からないけど、特注で作ったら高いだろこういうの」
「だと思うよ。 このホテル、小さくはないけど大きくもないのに……お金があったのかな」
何となくこれ以上考えると、またこの街の後ろ暗い部分が見えて来そうな気がした。
勿論、今考える事ではない。
今までの流れだと嫌でも関わる事になるのだが……。
「あー……無視しよう無視。 これ以上この街のめんどくさい事に巻き込まれるのは御免だ」
心底嫌そうにライナが吐き捨てる。
実際、ライナが警察署で聞いた話では、このホテルもサイディスと繋がりがあった可能性があるとの事だったのだ。
見えている地雷を自ら踏みに行く事も無い。
目的を果たしたならさっさと脱出すれば良いのだ。
「そうだね……私も流石にもうウンザリだよ……」
操もライナの言葉に同意して溜息を吐いた。
制服の内側に幾つも付いているポケットをライナが探って行く。
中にあったのは殆どは小銭や鎮痛薬の錠剤などの取り留めの無い物だった。
しかし、そのうちの一つ、隠しポケットの様な位置にあったポケットには、他とは違うものが入っていた。
「お」
「あっ」
隠しポケットから出て来たのは鍵だった。
普通の鍵とは違った複雑な形状をしており、鍵に付いたタグには『EV電源キー』と書かれている。
「良かった、あったね!」
「ああ、これで上に行けるけど……」
鍵を操に渡しながらライナが言い淀む。
そんなライナの表情を見て操も気が付いた。
周囲に『気配』が増えている。
「……やっぱり、ちょっと派手にやりすぎたかな」
「ま、しょうがないだろ。 分かった上で戦ったんだ。 ……構ってる暇は無いし、さっさと突破しようぜ」
肩を竦めながらそう言うライナに、操も頷く。
自分の求めた真実が目の前まで近付いているのだ。
今更怪物の群れ程度で怯んでいる暇は無い。
「うん……行こう!」
操は『茨の剣』を構えると、自らの元へ迫って来る怪物の気配へ向かって、ライナと共に走り出した。




