61 足取り
「うーん……やっぱり、大本の電力が落ちてるな。 非常用の電源が作動はしてるから最低限明かりは点いてるけど……」
ライナが目の前の機械を調べながらそんな事を口にした。
その機械と言うのは、建物全体の電力やエレベーターの動作管理、セキュリティの管理を行う為の制御パネルだ。
ライナが言った通り、非常用の電源によって最低限の電力供給は為されているらしく、表示ランプは一応点いている。
しかし、そのランプの殆どは異常を示す赤色のランプが点灯しており、各階に正常に電力が供給されていない事を示していた。
「そっか……。 まあ、予想はしてたけどね」
操が部屋の外、カウンターの向こうに広がるホールに視線を向けながら呟いた。
現在、操とライナは『ホテル・ロイヤルフォレスト』の建物内、フロント奥の部屋に居た。
要するに従業員用スペースである室内には、ライナが現在調べている様な建物管理用の制御パネルが並んでおり、大まかにではあるがホテルの建物の現状を把握する事が出来る。
地下水路から地上に上がって来た操達は、目の前に聳え立っていた『ホテル・ロイヤルフォレスト』に血痕が続いている事を発見していた。
その時点で、操が最初にホテルの一室で目覚めた理由はほぼ察する事が出来たが、操は再度ホテル内を調べるべきだと考えた。
今にして思えば目覚めたばかりの操は、お世辞にも体調が良い状態とは言えなかったのだ。
突然理解出来ない状況に放り込まれ、得体の知れない怪物に襲われる様な状況になってしまえば、誰であれ混乱するのは当然だ。
更に言うなら、倉庫街に向かった時程ではなかったと思うが、強烈な頭痛に苛まれていた為に、あの時正常な判断が出来ていたかどうか自信が無かった。
(もしかしたら、あの時……何か見落としていたのかもしれない。 今なら何か新たに見つける事が出来るかも……)
操はそう考えてホテル内の探索をするべく、ライナと共にホテルの建物内に侵入した。
当然、血痕も建物内のロビーへ続いていたのだが、そこで問題が発生する。
血痕は一度フロント方面、正確にはフロントのカウンター奥へ入って行き、そこで何かを行った後にフロントを出てエレベーターへと向かっていた。
エレベーターのボタンを押した血の痕が残っているのでそれは間違いない。
そもそも、最初に目を覚ましたのはホテルの最上階、5Fだった事を操は覚えている。
問題は……肝心のエレベーターが止まってしまっているという事だ。
ライナの見立てでは電源が落ちているとの事だったが、それはホテルの電力供給が滞っているという意味の他、エレベーター自体の電源が手動で切られているという事も含んでいた。
最初に操がホテルを脱出した際にも確認しているが、このエレベーターには鍵穴が付いており、キーを回す事でエレベーターの電源のON/OFFを切り替える事が出来るらしい。
現在、鍵は「OFF」となっており、主電源が落ちてしまっている状態なのだ。
そしてその上で、ホテル全体の電力が足らない状態である為、上の階に行くには本来なら階段を使うなどしなくてはいけないのだが……。
(まさか、1階がこんなひどい状態だったとは思ってなかったな)
操が視線を向けたホテルのロビーは、以前探索した聖メアリー記念病院を思い出す惨状が広がっていた。
1階はロビーを中心としてラウンジが併設され、レストランなども存在しており、それなりに広々とした空間となっている。
しかし、現状は壁や床、天井に蔓や根が張り巡らされ、あちこちに無数の『青い花』が咲いていた。
そして、以前操が5Fを探索した時にも目にしていたが、そうした何処からか入り込んで来た花の根や蔓によって食い破られた階段が、完全に崩壊してしまっているのだ。
そういった理由から、現状では上の階に登る手段はエレベーターしかないのだが、それが動いていないという事で、現在地である従業員スペースに調べに来たのだ。
「んで、キーラックを見る限り、殆どの鍵は残ったままだけど……マスターキーが無い、と」
室内の制御パネルを一通り確認し終えたライナが、すぐ横にある鍵が幾つも掛けられている棚に視線を向けながら呟いた。
従業員用スペースには客室の鍵がキーラックに掛けられており、キーがラックに掛けられていれば、客室内には誰も居ないという事になる。
逆に、キーがラックに無ければ……室内に誰かが居ると考えられる。
緊急事態の中、宿泊しているホテルからわざわざ出て行く人間はあまり居ないと思われるが、それでも大部分の部屋の鍵は残されたままだ。
単純に、宿泊客が元々それ程居ないという事なのかもしれないが……一つだけ、本来ならマスターキーが掛かっている筈の場所が空いている事に気が付いた。
……そして、そこに僅かに付着した血痕にも。
「……私、ここへ来て真っ先にマスターキーを回収したって事なのかな。 一体、何の為に……?」
「そもそも、何でこのホテルに来たのか……って言うか、何でこのホテルに入って行ったのか、っていうのも分かんないんだよなぁ……」
ライナの言う通りだった。
操もライナも、記憶を失う前の操がこのホテルに宿泊していたのだと最初は思っていた。
しかし、かつての操の目的はダイス倉庫管理内に保管されていた『DD-4032』であり、このホテルには何の関係もないはずだ。
それどころか、『三つ首』の襲撃によって『DD-4032』の入手に失敗した後、恐らくはあの場所から逃走し、偶然この場所に辿り着いただけの様に感じられた。
であれば、そんな状況でこのホテルにわざわざ入って行く理由が二人には分からなかった。
「調べた限り、宿泊名簿の中に操の名前も無かった。 ここの客じゃなかったのは確定だし、わざわざ一番上の階の一番奥の部屋に籠ってたわけだろ?」
「うん、それは間違いないよ。 エレベーターが止まって階段が崩れた今の状況だと、5Fって孤立してるに等しいんだよね……」
一応、非常階段は操が扉を開けたので入れる筈だが、怪物に襲われて川に落下した際、視界の端で階下の階段が崩れかかっているのが見えていた。
恐らく、『花』の異変が起きた際、急激に成長した『花』の根に土台を崩されるか何かして崩壊寸前だったのだろう。
あの状態の非常階段を使うのは流石に危険だ。
「何とも、誂えたような状況だな。 ……これはもしかすると、操自身がエレベーターを使えなくしたのかもな」
「え? 私が?」
思ってもみなかったライナの言葉に、操が驚きの声を上げる。
「どうも、マスターキーなら客室の全ての鍵だけじゃなくて、エレベーターの鍵も操作出来るみたいなんだよ。 それを考えると、以前の操はここに逃げ込んだって言うよりも……自分から閉じ籠ったんじゃないか?」
「自分から……」
もしそうだとすれば……その理由は何なのか?
恐らく、それが記憶を失う前の操の行動に繋がったのだと思われるが、今の操にはその心当たりは無かった。
「さて……とりあえずどうするかな。 階段は崩れて使えないし、エレベーターは電源切られて止まってる。 上の階に行くんならエレベーターを動かさないとだけど……」
「エレベーターの鍵自体も無いんだよね。 誰かが持って行っちゃったのかな……」
キーラックから消えていた鍵の一つが、マスターキーとは別にあるエレベーターの電源キーだ。
通常、こちらがエレベーターの起動・停止に使われる物の筈だが、誰かが持ち出してしまったようだ。
そして、もう一つ無くなっている鍵が5Fの非常階段の鍵なのだが……こちらは操に心当たりがあった。
「あ、そうか。 あの時生存者の人から受け取った鍵がこれなんだ」
以前、操がホテルを脱出する事が出来たのは、ホテルの従業員だったと思われる生存者の男性に出会う事が出来たからだった。
その男性は既に死の間際にあって助ける事は出来なかったのだが、事切れる前に非常階段の鍵を操に渡してくれたのだ。
それ故に操はホテルの外に出る事が出来たのだが……結果としては、外に出た途端に怪物諸共川に飛び込む羽目になった。
「ああ、そういや言ってたな。 ……ん? って事は、操がいた5Fには操以外にも人が居たって事だよな?」
「え? うん。 この鍵はその生存者の人から貰ったからね」
「……って事は、そいつはどうやって5階まで来たんだ?」
そう言われて操も気が付いた。
階段は破壊されており、エレベーターは停止させられていた筈だ。
非常階段を使うにも、あの様子では恐らく下の階から上がって来る事は出来なかっただろう。
勿論、階段が破壊される前に5Fへ来た可能性もあるが……。
しかし、ライナの見立ては違うようだった。
「記憶を無くす前の操が辿り着いた時には、もうホテル内は『花』に浸食されてたと思うぜ。 血の痕が床に広がった『花』の根に付いてたからな。少なくとも『花』が建物を侵食した後に操は来てる筈だ」
つまり、水路からホテルへ記憶を失う前の操が辿り着いた時には、既にホテル内は今の状況だった可能性が高いという事だ。
以前の操はそんな状態の建物内に踏み込み、マスターキーを持って5Fに上がった後にエレベーターの電源を5Fで切った、という事なのだろうか?
そして、その時点で階段が崩れて上がれない状態だったなら……。
「操が会ったって従業員達は、非常階段を使う前に、まずエレベーターを使おうとしたんじゃないか? で、エレベーターが動いてなかったから、電源キーを持ち出して上の階に上がった」
「……ホテルは避難所になっていたって、その人は言ってた。 避難して来たか、元々居たのかは分からないけど、ホテルの客の中から『花』が咲いてしまった者が出て……」
『大勢が避難して来ていた』とあの従業員は言っていた。
最も広いフロアは1Fなので、避難して来ていた者が居たとすれば、主に1Fの何処かに集まっていたのだろう。
その客が、数は分からないが『開花』してしまい、他の客を襲ったのだ。
だから件の従業員を含めた生存者達は、5Fのフロアを丸ごと封鎖して立て籠もろうとした。
その時には非常階段は扉の鍵を閉めただけで、使用出来るかなどは確認しなかったのだろう。
その後、電源キーを使いエレベーターを再度停止させて立て籠もった……という事か。
つまりは、操の方がホテルの生存者達よりも先に5Fに来て部屋に閉じ籠っていた訳だ。
「けど、立て籠もった生存者達の中からも『花』が咲いた人が出てしまった。もしくは、既に怪物が居て襲われた……って事かな」
「そんな感じじゃないか? ……って言うか、そうだとすると、以前の操はホテルの中が客の『開花』で大混乱中に丁度ここに辿り着いたのかもな」
「……ホテルを浸食してる『花』も、その時急激に生えて来て建物を襲ったって事?」
操の言葉に頷くライナ。
以前から感じていた事だが、『青い花』は人が多く集まっている場所を優先的に『襲撃』している気がする。
そう考えると、ホテルの階段が崩れているのも偶然ではなく、建物内の人間を逃がさない為に意図して行った結果なのかもしれない。
「取りあえず、鍵は何処にあるのか分からないから、建物の電力の方をまず確認してみるか」
「そうだね、ここにある資料を見る限り、地下に非常用の発電室があるみたいだし」
操はライナが機械関連を調べている間に、従業員室内でこのホテルの施設情報が記載された資料を発見していた。
それによれば、このホテルは非常時には自前の発電機を使う事で電力を供給出来るようになっているらしい。
主に災害時の為の備えのようだ。
「……まーた地下に発電室か……」
げんなりした様子で呟くライナに操は苦笑を返す。
ライナとしては、中央水路での発電機の修理をした際の徒労感が未だに強いらしく、とても嫌そうである。
「今度は修理しないで済むと良いね」
「……ま、電力供給が断たれてるって時点で望み薄なんだけどな……」
「それは言わないでおこうよ……」
そんな風に憂鬱な気分を抱えたまま、操とライナは地下にあるという発電室へ向かうのだった。
「………まぁ、何か問題が起きてるだろうとは思ったし、何なら言ったけどさぁ……」
「流石にあからさま過ぎるよね……」
地下へやって来た操とライナは発電室を探した。
幸い、地下フロアはそれ程広くは無かった為、目的の部屋はすぐに見つかった。
だが、その部屋の入り口が植物の蔦らしき物で殆ど埋まってしまっていたのだ。
非常灯のみが点灯した薄暗い廊下の中、蔦のあちこちに咲いた『青い花』が揺れている。
どう見ても『花』の妨害だが……一方で、操達に対しての妨害かは微妙な所だった。
「私達……というか、私の行動を妨害する為にしては、ちょっと貧弱な気がするんだよね」
「お、おう、そうか……。 まぁ確かに、今まで妨害って言えば、ぶっとい根だか何だか分からない物で邪魔して来てたもんな」
扉を覆っている物が『青い花』の一部なのは間違いないが、その殆どは細い蔓や蔦の様な物だった。
今の操なら、無視して扉を破る事くらいは造作も無く出来るだろう。
しかし、それはライナに止められた。
「階段が崩れてたのもそうだけど、ここへ来るまでに見た建物の感じからして、今までの建物より『花』の浸食が激しいみたいだからな。 力尽くでやって、その衝撃で建物が……なんて事にならないとも限らない」
「そう言えば、廊下の壁に亀裂が入ってる所があったね……」
『花』の力……単純なパワーの面での話だが、どんなに細い蔓や蔦でもコンクリートを食い破る程の力を持っている。
このホテルは状況からすると、異変の初期に建物を『青い花』に浸食されたようだ。
『花』の浸食が多くなれば、それだけ建物自体がダメージを受けて行く事になる。
操もライナも専門家ではないので細かくは分からないが、建物に大きな衝撃を加えた場合、予期せぬ崩落が起きてしまう可能性があった。
「そういう訳だから……地道に斬るしかないな、これ」
そう言いつつライナは左手で懐から短剣を抜いた。
確かに、刃物で切ればこの蔓や蔦は除去出来そうだ。 しかし……。
「待ってライナ。 ……ここは、私に任せて?」
そう言って操はライナを制した。
この『花』を除去するのに良い方法を思い付いたからだ。
「うん? そりゃあ構わないけど……どうするんだ?」
ライナに問われた操は笑みを返すと、扉を覆っている『青い花』の蔦に手を添えた。
頭に浮かべるのは、倉庫街で『双子』達を倒した後、消耗してしまった体力を回復させる為に死体から『血』を吸収した時の事だ。
そして、肉体が変異して植物質の外皮に覆われた指先を鋭利に尖らせると、指先を蔓の一本に突き刺した。
途端に、自分の体の内側へ何かが流れ込んで来る。
勿論それは『花』の樹液が流れ込んで来る感覚でもあったが、同時に別の存在……エネルギーのような物も一緒に操の中へ入って来ているのが分かった。
意外にも、不快な感覚は無い。
一方で、死体の血を吸収した時のような、自らの体の細胞一つ一つに至るまでが歓喜に震えるかの様な快感を伴う訳でもない。
単純に体の中の何かが潤う様な―――そんな感覚だ。
「『花』が……」
ライナのそんな声に操が顔を上げると、扉を覆っていた無数の『青い花』が急速に枯れ始めていた。
『花』は萎れて花びらを散らし、蔓や蔦はボロボロと崩れ落ちる。
枯れ始めてから僅かな間に、扉を覆っていた『青い花』は完全に死滅してしまった。
「ふぅ……上手くいったみたい」
「なるほど……こんな事も出来るんだな。 確かにこれなら余計な衝撃を与えなくて済むな」
ライナが感心したように枯れ落ちた『青い花』を調べている。
枯れた『花』は既に元が何だったか分からない程に崩れてしまっており、白く色が抜け落ちた外見は、一見すると灰の様ですらある。
扉の周囲の壁にはまだ『青い花』が存在しているが………流石に、すぐ成長して扉を覆うという様な事は無いらしい。
「中はどうなってるかな?」
「……とりあえず、機械がバラバラになってるとかじゃなければ良いんだけどな」
苦笑しながら扉に手を掛けるライナ。
操もその後に続こうとした時、ある違和感に気付いた。
「……?」
それは、ほんの些細な「違い」だった。
そして、何と比べて「違う」と感じたのか、操自身にも分からない程度の事だ。
しかし、その一方で確実に「何かが違う」と操が……正確には操の身体が感じていた。
(この感覚は……? 何か、しっくり来ないような……私の身体が、何かを訴えている……?)
突然感じた身体の変調に戸惑う操。
著しく体調が悪い、という訳ではないのだが……何かが引っかかる。
小骨が喉に刺さったような、ほんの僅かだが無視も出来ない様な……得体の知れない感覚だ。
そして、身体の変調という事であれば、直近での心当たりは一つしかない。
(……『青い花』のエネルギーを私が吸収したから?)
操は自分や『花』の怪物達が『血』を必要とするのは、血液その物を糧としているからではないのではないかと考えていた。
その理由は、あの『青い光』だ。
実際に、『花』の影響下にある生物はあの光……より正確に言うなら、光に見えるエネルギー体を原動力としているように操には感じられたのだ。
操が今迄感じた限りでは、強力な個体程体に纏った光は多く、また光が『濃い』という印象を受けた。
そしてあの時、操が瀕死の状態になった際、怪物の死体が『青い光』を放っていたのを操は目にしている。
倒したばかりの……つまり、新鮮な状態の死体であった事も関係しているかもしれないが、とにかく死体の血と一緒に『青い光』を操は自らの体内に吸収したと思われる。
その直後、操は瀕死の状態から復活する事が出来たが、肉体が変異して半身が植物質の外皮に覆われてしまった。
操は今、『青い花』の樹液……『花』の血とも言える物を吸収したが、今の所体肉体の変異が進んだ様子は無い。
ほんの少し体調が良くなった様な気はしたが、それも違和感を感じた結果薄れてしまった。
(怪物の『血』だと変異が進む。『青い花』の『樹液』だとほんの少し体調が良くなるけど、変異はしない……)
『怪物の血』と『青い花の樹液』の二つに共通するのは、濃度の違いはあるものの、恐らく『青い光』が含まれているであろうという事。
……『怪物の血』だと、肉体の変異が進む?
操は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
もしそうだとすれば、『血』を吸収する事で体力を回復しようとする程に、操の身体が変異して行く事になる。
今はもう操も捨て鉢になって行動するつもりは無いが、そうでなくとも今後も無傷でその場を切り抜けられるとは限らない。
もしもその様な状況になった場合、『血』を摂取せずに窮地を脱する事が出来るだろうか?
そう考えた時、操の脳裏にある考えが浮かんだ。
(待って……怪物の血で変異するなら、もしも……人間の……)
「操、どうした? 大丈夫か?」
「ッ!」
操の視界に、扉に手を掛けた状態でこちらを振り向いているライナの姿が映る。
……どうやら、また思考の海に沈んでしまっていたらしい。
現実時間にすればほんの一瞬だったと思うが……ライナには操の様子がおかしかった事が分かってしまったらしい。
「あ……ご、ごめん。 『花』の力を吸収したせいか、ちょっと違和感があって……」
「え? 大丈夫か? 調子が悪いなら無理しちゃだめだぞ」
心配そうにこちらを見るライナに、操は若干強張った笑顔を向ける。
「……うん、ありがとう。 体調が悪いとかじゃないから、心配しないで」
「そうか? ……調子悪ければすぐに言えよ?」
操は、今思い至った事をライナには伏せておく事にした。
何故なら、それは禁忌とも言える行為だからだ。
自分の身を守る為に、愛する人を傷付ける。
操にとってそれは、死を含めたどんな苦しみをも上回る苦痛なのだから。




