05 出会い
『あの子を止めないと』
最初に聞こえたのはそんな声だった。
ここは何処だろうと考えるが、体が動かない。
『綺麗だろ? 氷みたいな青色をしてるんだ』
戸惑っている間にも、聞き覚えのない声が頭に響く。
『おまえのせいだ!』
とりとめのない会話もあれば、誰かの罵声もある。
自分はそれを別の場所から聞いているような、奇妙な気分だった。
『大丈夫だって、前にも行った事があるんだから』
声を聞いている内に、聞こえてくる頻度の高い声がある事に気付いた。
若い男性の声のようだ。
聞いた事のない声のはずなのに……何故か馴染み深いような気がした。
やがて、声だけではなく、どこかの景色等も浮かんで来る。
何処も見た事がない場所だ。
何処かの山間部と思われる山道。
大きな時計台……いや、時計塔、だろうか?
さらには、何らかの医療機器と思われる大型機械がある場所。
見知らぬ銀髪の青年。
…………そして、血に濡れた手と銃。
それから……。
『急がなきゃ』
『DD-4032』
『DD-4032だ』
『DD-4032を』
『DD-4032を』
『見つけなくちゃ』
はっと目を覚ます。
動悸が激しい。
直前まで見ていた夢のせいだろうか?
何処か、他人事のような感覚で聞いていた声と、おぼろげに見えた光景。
最後の声だけがすぐ耳元で聞こえ、その事に驚愕した所で目が覚めた。
(今のは…………)
呼吸を落ち着かせつつ、今の状況を確認する。
(私……怪物と一緒に川に流されて……)
その後、どうにか岸に上がったが、別の怪物に襲われ掛け……。
(……そうだ、誰かが助けてくれたんだ)
意識が朦朧として身動きの取れない所へ襲い掛かろうとする怪物。
それを誰かが射殺して助けてくれた。
その直後、意識を失ってしまったのだ。
これまでの経緯を思い出しつつ周囲を見渡すと、何処かのアパートの一室のようだった。
(その人がここまで運んでくれたのかな……)
部屋の中は生活感はあるが、小奇麗にされており、良く見れば腕には包帯が巻かれている。
どうやら、河原からここまで運んでくれただけでなく、傷の手当てもしてくれたようだ。
尤も、今の自分はしばらくすれば傷が無くなってしまうようなので不要だったかもしれないが。
(さっき見た夢は……いえ、あれはもしかして、無くした私の記憶?)
とりあえず、怪物に襲われ続けていた状況からは脱出する事が出来たらしい。
自分を救助してくれた誰かは素性は不明だが、手当などをしてくれているという事は友好的なのかもしれない。
しかし、目覚める直前に見た、夢とも幻覚ともつかない光景は、彼女に新たな不安要素を突きつけた。
(急ぐ……? 私は、何をしようとしていたの? DD-4032って何……?)
夢の中で最初に聞こえて来た声や見えた映像はぼんやりと受け入れていた。
しかし、最後に聞こえた『急がなくちゃ』という声と『DD-4032』という声は、何処か鬼気迫る気配を感じた。
記憶を無くした事と関係があるとしか思えないが、現状全ての記憶が戻る気配は無い。
何を急げばいいのか、『DD-4032』という記号のような物は何なのか。
失った記憶が戻らない限りはどうにもならなかった。
「結局、最後に行きつく所はそこなんだね……」
ままならない現状に思わず呟きが零れる。
その時、唐突に部屋の扉が開いた。
「!」
「お、目が覚めたか?」
声のした方を見ると青年が水差しを持って立っていた。
黒髪に灰色の瞳をしたその青年は、黒いミリタリージャケットを羽織り、黒のシャツ、黒のズボンに黒いブーツを身に着けていた。
全身黒ずくめ、とはこういう人の事をいうんだなぁ、等と益体のない事を考えつつ、一応警戒しながら答える。
「……あなたが助けてくれたの?」
若干の警戒感を込めて問いかけてみると、青年は苦笑しつつも答える。
「ああ。 他に生存者がいないかと思って、あちこち周ってたんだけど……河原に倒れてるあんたと化け物の姿が見えたんでね。 ……間に合ってよかったよ」
そう言いつつ、水差しからコップに水を注ぎ、水差しと一緒にベッド脇のサイドテーブルに置く。
そして、近くにあった椅子を引き寄せて近くに座った。
「気分はどうだ? あちこち切り傷があったんで、出来る限りの手当てはしたんだけど」
「……うん、大丈夫。 体も痛くないし、気分も悪くない」
実際、川に流されて岩に背中から激突した際、半ば意識が飛んでいたがのだが……。
傷が急速に治癒するようになっている為に、無事だったのかもしれない。
「ならよかった。 生きてる人間見たのなんて、数日ぶりだったから、ちょっと慌てちまったんだよな……」
そう言いつつ再び苦笑する青年。
……青年とは言ったが、事によると少年と言った方が的確かもしれない。
そう思える程、彼の表情はからはあどけなさを感じていた。
もしかしたら、年下なのかもしれない。
(記憶喪失だから、自分の年齢とか分からないけどね……)
そう内心で自嘲気味な考えを巡らせていると、青年が怪訝な顔をする
「ん? どうかしたか?」
「あ、ううん、何でもないの」
危ない所を助けてくれた上、安全な所まで運び、傷の手当てまでしてくれた相手に、ここまで警戒するのもどうかと思ったが、やはり見ず知らずの相手を最初から全て信用するのは躊躇われた。
「ああ、そうだ。 自己紹介がまだだったな。 俺はライナ。 この街には仕事で来たんだ」
こちらが言い淀んだ事に気付いていないのか、それとも、警戒心を解こうとしたのか、青年……ライナが自分の素性を明かす。
「えと……私は……」
反射的に名乗ろうとしてしまったが、やはり自分の名前すら思い出せない。
恐らく顔を歪めつつ言い淀んでいるのを見て、ライナが少し慌てたように止めた。
「あ、いや、別に話したくなかったら話さなくてもいいよ。 何となく訳ありな気はしてたし」
その言葉を聞いて、正直驚いた。
こちらが警戒しているのと同じように、彼もこちらを警戒しているのではないかと思ったのだが。
『訳あり』であろうと見当を付けているにもかかわらず、その事については敢えて聞かないという。
「…………良いの? 私、自分で言うのも何だけど、かなり怪しいと思うんだけど」
「まぁそうなんだけど……。 はっきり言って、今のこの街で一人で生き残ってる時点で、怪しいっちゃ怪しいしな」
……意外と身も蓋もない理由だった。
しかしその理由で行くと……。
「それって、あなたも当て嵌まるんじゃない?」
怪物の跋扈する霧に閉ざされた街で一人生き残り、あまつさえ、一人で街中を歩き周っていたのだ。
少なくとも怪しいという点で言えば、彼も一般人と比べれば大分怪しかった。
「あー……、うん、まあ、仕事の内容がちょっと変わってるからなあ……。 そういう意味じゃ怪しいかもな」
「仕事の内容?」
少なくとも怪物を射殺した事から、銃の扱いに慣れているのではと推測している。
しかし、わざわざ仕事で別の街に来る仕事で、銃を使うような仕事というと……すぐには思いつかない。
「……有体に言うと、『便利屋』みたいな仕事をしてるんだ」
「……便利屋?」
聞き慣れない職業名に首を傾げる。
「そういう名前の職業って訳じゃないんだけど、仕事の内容を一言で表すとそうなるかな」
「……どういう仕事をするの?」
「んー……そうだなあ……。 分かりやすいので言うと、人探しとか物探し……かな?」
そういうのは探偵とかの仕事なのでは?と思ったが、一応口には出さない。
「後は本当に何でもだよ。 借金取りとか用心棒とか車の修理とか」
「……何か急に振れ幅が大きくなってない?」
借金取りや用心棒は近いような気がするが、そこにどうして車の修理が入るのだろうか。
「まあちょっと、後ろ暗い事もしてるって事さ。 因みに車の修理は趣味だからだ」
やはり車の修理は引っかかると思っていたらしい。
というか趣味なのか。
「まあ、人探しの方も堅気の奴ばっかりじゃなくて、賞金首の捜索とかだったりするからな。 色々備えは必要なんだよ」
「……なるほどね」
何だか胡散臭いような気もするが、表情を見る限り嘘をついている様にも見えない。
……状況を考えれば、多少リスクはあったとしても、こちらの事情を話して協力を要請すべきか……。
「私は……何も覚えていないの」
「え?」
ライナがやや面食らったような顔をする。
「記憶喪失……って言うのかな。 自分の名前も、何でこの街にいるのかも、何もわからないの」
こちらの告白に、ライナが目を見開いて驚いているのが分かった。
「……何ともまあ…………流石に予想外だな」
ここまでの経緯と、現在自分の置かれている状況を聞いたライナが、思わずといった具合に言葉を漏らす。
当然と言えば当然だろう。 初めて会った人間から記憶喪失だ等と言われるとは普通は考えないだろう。
「だから、この街の状況どころか、この街の名前も私には分からないの」
さらに言えば自分の事も一切分からない。
今確定しているのは、自分も街を闊歩する怪物達と同じように『青い花』の影響を受けているという事だけだ。
しかし、さすがにその部分に関しては、まだライナに話す事は出来なかった。
「むしろ、そんな状態でよく無事に生き延びたなあ」
「まあ、運がよかったんだと思うよ。 私が目を覚ましたホテルの5階は怪物が殆どいなかったし。 ……最初だけは」
実際、最初からホテルの5階に怪物がうろついていたなら、生きてはいなかったのではと思う。
運よく怪物がいない状態の時に生存者の男性と接触し、非常階段の鍵を入手し、自衛手段も一応手に入れる事が出来た。
今考えてみても本当に運が良かったと思う。
「なるほどね……。 なら、この街の事とか、今の状況とか色々説明しといた方が良いな」
「うん……出来ればお願い。 もしかしたら、街の事を聞けば何か思い出したり出来るかもしれないし」
自分がこの街に住んでいる者かどうかは分からなかったが、何か覚えのある事柄を聞けば記憶がよみがえるかもしれない。
正直言って藁にも縋る思いだったが、少しでも可能性があるなら試してみたかった。
「ならまず、この街の事だけど……町の名前は『グリーンフォレスト』その名の通り周りを森に囲まれた街だ」
ライナの話によると、この街は周囲を森と山に囲まれた、いわゆる地方都市というもので、そこそこ歴史が古く、観光が主な産業ののんびりとした雰囲気の街……だったそうだ。
「都市としての規模はまあ……やや小さめ?って感じかなあ。 気候的に一年中過ごしやすい気温なんで、避暑地や別荘地として人気なんだそうだ」
「……要するに田舎町って事だね」
「お、おう……バッサリ行くな……。 まあ、実際その通りなんだけどな。」
話を聞いた限りのイメージ評を口にするとライナが苦笑する。
先程から思っていたが、彼は困り顔をする事が多い気がする。
「それでまあ、おかしな事になったのは1週間ぐらい前かな。 一言で言うと、突然地震が起きてあのでっかい花が生えたんだ」
ライナの話によると、街が今のようにあの『青い花』に飲み込まれたようになったのは、ここ1週間の間の事であり、そのわずかな期間であの巨大花はあそこまで大きくなったのだという。
「地震があった直後にあのでかい花が生えて、街のあちこちからバキバキ音を立てて、植物の根みたいのが出て来たんだ。建物によっては根っこが真下から生えて来て完全に崩れちまった所もあるし、上から押しつぶされてぺちゃんこになった所もある」
つまり、それだけ巨大な植物の根が突然街を襲ったという事か。
「その段階で大勢死んだ。 で、その後にもあの『青い花』が咲いた後は、死んだ連中も花が咲いてああなって、他の人間を襲うようになって……そこでもまた大勢死んだ。 ……後は悪循環さ。 今の時点で生き残ってる奴が他にどれだけいるやら」
「そこまで酷い状況になってるんだ…………」
ホテルがそこまで破壊されている様子が無かった為、街の方もそれ程被害がないのでは、と無意識に思っていたが、どうやら真逆らしい。
「ライナはよく無事だったね?」
「まあな。 実を言うと、俺がこの街に来たのが、街の異変が起きた当日だったもんで、化け物が人を襲いだした段階で街から一旦逃げようと思ったんだけど……」
そういってライナは言葉を詰まらせる。
……その様子から何となく、今この街が置かれている状況を察する事が出来た。
「……もしかして、出られないの?」
「……ああ。 この街って出入り口は幾つかあるんだけど、全部あの花のバカでかい根で塞がっちまってるんだ」
予想が的中してしまい思わずため息が漏れそうになる。
状況が益々悪くなって行くのだから仕方がないが。
「隣接した森を抜けるルートも一応調べたんだけど……あれはダメだな、街の中より危ないわ」
「え、少なくとも、人はいないでしょ?」
「ああ、人はいないな。 けど、『人以外』はわんさかいるぞ」
人以外。それはつまり…………。
「…………あの花って、人間以外でも咲くの?」
「みたいだぞ。 どうもあいつら、人間に寄生して咲くって言うより、生き物の死体に寄生して咲くみたいなんだ」
生物の死体、と聞いて、ホテルで怪物と化した生存者の男の事を思い出す。
確かにあの時は、男が死んだ直後に花が咲いて襲って来た。
「……あいつらって、殺せるの? 頭を銃で撃ち抜かれて死んだのに、花が咲いて襲って来たんだけど」
「あー……どうも、あいつら、生き物の脳の機能を使って体を操ってるっぽいんだけど、花が咲いた時に脳が使い物にならないと、脳の損傷部分を修復してるみたいなんだ」
「脳を修復……?」
損傷した脳を修復する。
突然知らされた『青い花』の能力に驚く。
そしてそれ以外にも疑問点が浮かぶ。
「ライナはどうしてそんな事知ってるの?」
どう考えてもあの花は未知の植物だ。
にもかかわらず、どうしてライナは、その花の持つ能力を一部とはいえ知っているのだろうか。
「まあ、そんだけ多くあの怪物共の相手してるからな。 あんたも見たと思うけど、あいつら花が咲くと人間部分の目玉突き破って蔦とか花とか生やしたりするだろ? あの状態にも個人差……っていうのか分かんないけど、違いがあるんだ」
「違い?」
「そ、さっき言ったような、目ん玉飛び出してるのとか、腕がちぎれて蔦だけになってるとか……脳みそ丸見えの奴とか」
「うぇ……」
確かに、今まで見た怪物達は似たような姿ではあったが、全く同じ姿というわけではなかった気もする。
……そのバリエーションを詳しく知りたくはなかったが。
「で、そんな連中を何度か目撃してる内に、死んだ直後と花が咲いた後で脳みそが元に戻ったりしてるなーって気が付いたんだ」
「そ、そうなんだ……」
ちょっと得意げにそんな事をのたまうライナに顔が引き攣る。
つまり、怪物に襲われている状況で、そんなスプラッタな事を考える余裕があるという事なのではないだろうか。
……思ったより危ない人なのかもしれない。
「けど、違いがあるのは外見ぐらいで、他はほとんど同じなんだ」
「他って?」
「『手で掴んで噛み付いてくる事』さ」
言われてみれば確かに、と思った。
全身に花の蔦か根が取り付き、恐らく体の中にも血管のように細かな根を張っているが、自分のように蔦を武器にする者は今の所いない。
引っかくぐらいはして来るかも、とは思っていたのだが……。
「でも、そこからあの花が生物の脳の機能を利用してるなんて、どうして分かるの? ……脳みそ修復は実際見たとしても」
「まあ、最初は俺もあの蔦だか根だかで、人形を操るみたいにして死体を動かしてるんだと思ってたんだけど、それにしちゃ掴みかかって来る力が強いし、何より『しっかり指で掴んでる』なって思ってさ」
「あ……」
人間の体は、脳から伝わる信号を無数の神経や筋肉が受け取る事で、非常に細かい動きを可能としている。
その神経や筋肉と同じ動きを、いくら全身に根を張り巡らせているとはいえ、物理的に行っているというのは考えにくい。
それならば、先の脳の損傷を修復しているらしい事などを鑑みるに、修復した脳を利用して人の体を動かしているのでは……。
ライナが言っているのはつまりそういう事だった。
「まあ、食欲が勝ってんのか何なのか知らないけど、獲物がドアの向こうにいたりすると、ドアを開けるんじゃなくて、突き破って来る辺り、あくまで、『動かすだけ』みたいだけどな……覚えあるだろ?」
「…………すっごく覚えがある」
ドアを突き破って襲って来る怪物の姿を思い出して憂鬱な気分になる。
「ま、とにかく、今この街は、そんなわけのわからない生物がうじゃうじゃいる、おっかない動物園みたいな状態で、俺達はそこに閉じ込められてるってわけだな」
ライナがうんざりとした様子で、そう締めくくる。
ホテルから脱出出来たと思ったら、今度は街に閉じ込められるとは……。
「はぁ……建物から出れば、自分の事はすぐわかると思ったのに……」
「倒れてたっていうホテルの部屋には、何か手がかりっぽい物とかなかったのか?」
「どうかな……目が覚めた直後は意識が朦朧としてた上に、酷い頭痛でまともに頭が働いてなかったと思うから……」
そういえば、いつの間にか頭痛は収まっている。
寧ろ、すっきりとしているぐらいだ。
ホテルから外に出た辺りで収まっていただろうか?
そんな事を考えていると、ライナが思い出したように声を上げる。
「あ!そうだ!あんたが目を覚ましたら渡そうと思ってた物があるんだった」
そう言って、隣の部屋に行ってしまう。
……が、すぐに何かを持って戻って来る。
「ほら、これこれ」
「これは……」
ライナが差し出して来たのは……服?
「いやほら、あんた、川を流されて来ただろ? そのままにしとく訳にもいかなかったから、洗って乾かしといたんだ」
良く見れば、確かにホテルで目を覚ました時に着ていた服だ。
今の自分の格好を改めて見ると、男物のTシャツにスウェット、という服装だった。
どうやら治療だけではなく着替えさせてくれたらしい。
………………しかし、そうなると、つまり……。
「えーと、それで、その……治療もあるし、着替えさせないといけないしで……不可抗力というか……」
……ライナが気まずそうに眼を逸らした。
「……………………みた?」
「……………………見た。 ごめん。」
鏡を見ていないのではっきりとは分からないが、多分今の自分の顔は真っ赤になっている事だろう。
…………正直、毛布に潜ってしまいたい。
諸々一切を見られてしまった、と思うと…………ライナと目を合わせる事が出来ない。
とはいえ、悪意があってやった事ではないのはもちろんわかっている。
緊急時だったのだから多少の事はやむを得ない。
……が、 それとこれとは話が別なのだ。
羞恥心的にも、乙女心的にも。
「そ、その……変な事はしてないから、そこは心配しないでくれ。」
「……う、うん。 そこは大丈夫。 緊急時だった訳だし、気にしないから」
「……涙目でプルプルしながら言われても説得力がないし、心が痛いんだが」
涙目だったらしい。
怪物に襲われても泣かなかったのに。
これも、自分の命を繋ぐ事が出来た安心から来る物だと、無理やり納得しようとしたが……。
結局、暫くライナと顔を合わせる事が出来なかった。




