54 差し向けられたもの
「ロロロロォォォォォォッッッッ!!!!!」
「くっ!!」
奇怪な雄たけびを上げながら『巨人』が操に迫る。
『巨人』は巨大な棍棒のような両腕を力任せに、そして巧みに振るって攻撃を繰り出して来た。
『巨人』の腕が叩き付けられる度に壁がへこみ、地面が陥没して周囲に何かしらの破片が飛び散る。
攻撃その物の回避は容易ではあったが、その全ての攻撃が即死級の威力ともなれば油断出来る物ではない。
飛び散る破片に関しても、直撃した場合でも傷を再生する事は可能だが、操にとっては無視出来ないダメージとなる。
その為、操は『巨人』の攻撃に対して回避に専念せざるを得ず、状況は操が防戦一方の状況だ。
しかし、操は冷静に相手の動きを見極めつつ、その瞬間を待っていた。
確かに『巨人』は今まで遭遇して来た怪物と比べて戦術的な動きを行う存在だ。
だが、それはあくまで怪物の中の話であって、人間と比べて特別優れているという訳ではない。
ならば当然…………そういう事も起こり得ると操は考えていた。
「ロロロロロォォォッッッ!!!………………ロォッ!!?」
そして、操が待っていた「瞬間」が訪れた。
怪力を以て自らの腕を振り回していた『巨人』は、操の動きに集中するあまり周囲の状況確認が疎かになっていた。
『巨人』は気付いていなかった。
操がわざと自分を攻撃させて、周りの壁や地面を破壊させていた事に。
何度も『巨人』の攻撃が叩き込まれた壁や地面は、その怪力によりグチャグチャに破壊されて大穴が空いている場所もある。
そして、地面に大穴が開いているという事は、それだけ足場が不安定という事だ。
バックステップで攻撃を回避する操を追いかけながら、『巨人』は右腕で追撃の振り下ろしを放とうとしていた。
だが、周囲の確認を怠っていた『巨人』は、自分の足元に先程自らの攻撃で作ったクレーターがある事に気が付かなかった。
その結果『巨人』はクレーターに足が嵌まって体のバランスを崩してしまった。
とはいえ『巨人』は元々、丸太の様に太い両腕以外の部分…………頭や胴体、足等が奇怪なまでに細い関係か、両腕も地面に突きながら前傾姿勢の四足歩行に近い体勢だ。
それ故、バランスを崩したと言っても、そのまま地面に倒れ込んでしまう様な事は無く、倒れそうになった所で咄嗟に振り下ろそうとしていた腕を前に出す形で体を支えた。
本来ならそれだけで転倒は回避出来る筈であり、実際巨人は地面に前のめりに倒れるのを防ぐ事が出来た。
しかし、『巨人』がそうしてバランスを崩すのを待ち構えている『敵』がいる場合、その一瞬の隙が致命的となる。
「…………ふッ!!!」
短く息を吐き、操は自分の足と背中から生やした4本の蔦をバネのようにしならせ地面を蹴ると、前方に向けて大きく跳躍した。
4本の蔦は1本1本はそれ程筋力がある訳ではないが、4本揃っていれば操の体を軽々と持ち上げられる程の力を発揮する。
『青い花』の影響で筋力が強化されている操の両脚に至っては尚の事だ。
そんな二つの要素が組み合わさった操の全力の跳躍は、『巨人』が倒れ込みそうになった次の瞬間に、操の体を『巨人』の目の前まで運んでいた。
「でやぁッ!!」
「ロゴォッッ!!??」
操は空中で体を捻ると、跳躍の勢いそのままに『巨人』が支えとして地面に付いた右腕に回し蹴りを叩き込んだ。
ドゴンッ!!という重い衝撃音が響き、右腕を蹴り付けられた『巨人』は、今度こそ間違い無くその場に倒れ込む。
しかし、完全に転倒したわけではなく、肘を付くように左腕を地面について何とか自分の体を支えている。
その姿は頭を垂れるような体勢であり、操にとって攻撃の又と無いチャンスだ。
操は右腕に蹴りを叩き込んだ直後、『巨人』に『茨の剣』による必殺の一撃を加えるべく『巨人』の頭部に斬り掛かった。
そこに、『巨人』の口から伸びていた舌のような細い蔦が襲い掛かる。
「ジャァァァァッッッ!!!」
だが、操にとってこの手の攻撃は見飽きた物だ。
斬り掛かる速度はそのままに、操は襲い掛かって来た数本の蔦を事も無げに斬り払う。
そしてそのまま『巨人』に肉薄すると、その頭部に『茨の剣』を突き込んだ。
「ギュェェェェェェッッッッ!!!!??」
断末魔の悲鳴を上げる『巨人』だが、操は手を緩めなかった。
突き込んだ『茨の剣』を更に押し込み、完全に『巨人』の頭部を貫通させると、そのまま捩じるように剣を振り抜く。
剣身に並んだ棘によって削られるように切断された『巨人』の頭部は、血と緑色の肉片を撒き散らしながら地面に転がった。
「はぁ…………」
絶命し、力なく地面に倒れ込んだ『巨人』を振り返りながら、操は息を整えた。
頭部を失った『巨人』は徐々に体全体が枯れるように崩れて行く。
本体の花を破壊した訳ではない筈だが、『巨人』はどうやら完全に死亡したようだ。
操は戦っている最中に『巨人』に本体と呼べる物がない事に気が付いていた。
言うなれば、この『巨人』と言う怪物自体が『青い花』その物なのだ。
感じ取れる『気配』もそうだが、操の目に映る怪物達が纏う『青い光』もそれを示していた。
花人や木人などの怪物に比べて『巨人』は纏う『光』が濃いのだ。
その『光』の濃さはその他の怪物達の本体である『花』と同じくらいに濃かった。
つまりそれだけこの怪物が特殊なのだと察する事が出来る。
そもそも『花』の根から直接生まれて来るという今まで見た事のない出現の仕方をした事から考えても、『巨人』はこれまで遭遇して来た『花』の怪物の特徴から逸脱している。
死体を苗床にして乗っ取り成長するのではなく、直接体を持って生まれるのだ。
ある意味『青い花』その物が進化した存在とも言えるのではないだろうか?
『巨人』が『青い花』の刺客であるとするなら、特殊な個体を送り込んで来たと考えてもおかしくはないだろう。
操は『巨人』が確実に死んでいる事を確認するとその場を離れた。
アクシデントはあったが、予定通り通れなくなっていた通路の向こう側に出る事は出来たのだ。
このまま異常繁殖した『花』を避けつつ進んで行けば目的地のセキュリティ区画に到着出来るだろう。
出来ればこれ以上倉庫内を通るようなルートは進みたくないが、倉庫街にどの程度『花』が広がっているかが現時点では不明だ。
再び『巨人』のような怪物が現れないとは言い切れない…………というより、確実にまた現れると操は考えていた。
これまで怪物が待ち伏せをしたり不意打ちをしたりといった罠を張っていた時は、人間のような悪意を感じる事が多かった。
確実にこちらを…………いや、操を亡き者にしようとする『意思』が垣間見えたのだ。
特殊な怪物である『巨人』を操が撃破した今、再び罠を張るとすればあれ以上の存在をぶつけて来る可能性が高い。
そんな理由もあって、操は『花』には出来る限り近付かずに倉庫街の通路を進んで行った。
何処かで再び『巨人』に遭遇するのは間違いないと覚悟をした上で、遭遇した場合はすぐに行動に移れる心積もりで身長に進んで行く。
…………しかし、操の予感は想像以上の形で的中する事になった。
「…………………………分かり易いね」
思わず操はそう呟いた。
倉庫同士の間にある狭い通路を抜け、車両が通れる程には広い主要通路に出て来た操の目の前。
横幅が広い通路がある筈のその場所は、円形の広場のようになっていた。
勿論、異常成長した『花』が周囲を取り囲むようにして生い茂っていたからだ。
肥大化した『花』と、花から伸びた蔓または蔦が互いに絡み合って壁を形成しており、操の行く手をあからさまなまでに阻んでいる。
広場の地面には極普通のサイズの『青い花』が無数に咲き乱れており、まるで花畑のようだ。
しかし、操の置かれた今の状況をより正しい形で解釈するなら、この場所は『闘技場』と言うべき場所なのだろう。
ベキッ
広場に足を踏み入れた操の耳にそんな音が届いた。
その音は一ヶ所だけからだけではなく、広場のあちこちから聞こえて来る。
ベキッ、ベキベキッ、メキッバキッ
周囲を取り囲むように起立する『花』の幹の一部が急速に膨らみ、形を変えて行く。
やがてある程度の大きさに……人の大きさを超えたサイズまで大きくなった『瘤』に亀裂が入る。
ピキッ……バキッ
『瘤』を破り、中から飛び出して来たのは植物の蔦……いや、『触手』だ。
「ミ゛イ゛ィィィィィ…………」
「ミ゛イ゛ャァァァァ…………」
瘤を割って這い出て来たのは三本足の蔦の怪物だった。
粘液に塗れ文字通り這い出て来るその姿は、産まれたばかりの動物を連想させる。
しかし怪物はすぐさま立ち上がると、体を揺らしながら操に向き直った。
バキバキバキベキベキベキ
ミシミシッバリバリバリッ
ボコッメリッバリィッ!
周囲から同じ様な『瘤』を破る音が無数に聞こえて来る。
『花』の幹の側面に出来た幾つもの瘤状の物体が一斉に破れ、内部から何匹もの怪物が生まれて来る。
そして、それは三本足の怪物だけではない。
ボコボコボコッ!!
バキバキバキィッ!!!
一際大きな音を響かせながら操の正面の壁から、他の怪物とは比較にならない大きさの『瘤』が出現する。
そして、瞬く間に巨大化した『瘤』を破って出て来たのは……。
「ロロロォォォォォォ………」
「ロウォォォォォォォ………」
「………最悪」
現われたのは2体の『巨人』
先程戦ったばかりの、特殊個体と思われた怪物だ。
『巨人』2体と三本足の怪物が……全部で8体。
計10体の怪物が、罠にかかった獲物である操を取り囲んだ。
「ロォォォォッッッ!!!!」
「ロロロロロッッッ!!!!」
「ッ……!?」
2体の『巨人』は何の前触れも無く操に襲い掛かって来た。
巨大な腕を振り回し、操を叩き潰そうと殴り掛かる。
操は咄嗟に身構えると、突進して来た2体の『巨人』の間に飛び込むようにしてすれ違い、『巨人』達の攻撃を回避した。
直後、操の背後から2つの破壊音が響いた。
2体の『巨人』によって放たれた一撃が床の石材を粉砕し二つのクレーターを生み出している。
相変わらずの怪力だが、操はそれ以上に2体の『巨人』がお互いの攻撃が味方に当たらないように配慮している事に注目していた。
最初に戦った『巨人』は、周囲の『花』由来の物体にも一切配慮せずに攻撃を繰り出していた。
結果として、戦術的な行動はとれるが、そういったやり口が粗暴な点を操に利用され足元を自ら崩して隙を晒し、操はそこを突いて撃退する事に成功したのだ。
しかし、この2体の巨人は、仲間に自分の攻撃が被害を及ぼさないような立ち位置で操に攻撃して来ている。
それはつまり、連携能力が先程の個体よりも高い可能性を示しているという事だった。
(……行動が改善されて……ううん、成長している?)
操はそんな怪物達の行動の変化が、先程の操と『巨人』の戦いを経る事で、怪物達が成長しているように感じられた。
仮にそうだとすれば、先程と同じ手は通じない可能性が高い。
「ミ゛イ゛ィィッッ」
「ミ゛シ゛ャァッッ」
「ぐっ!」
更に今回は三本足の怪物が複数体戦闘に加わっているというのも問題だった。
近接攻撃力に特化した『巨人』と中距離攻撃に特化した『三本足』が連携して攻撃をして来るとなると、脅威度は単体ずつの場合とは比べ物にならない。
操の隙を狙って『三本足』が繰り出す蔦による刺突攻撃を躱しつつ、操は必死にこの場を切り抜ける方法を考える。
多勢に無勢、尚かつ先程苦戦した『巨人』のサポートが可能な敵が複数体。
『巨人』の攻撃は言うに及ばず、『三本足』の蔦による攻撃も当たり所によっては致命的だ。
そもそも、ダメージを受けなかったとしても、蔦で絡め取られる等して動きを止められれば『巨人』の攻撃をもろに受けてしまう恐れがある。
攻撃を回避不能な状況になってしまった場合、この怪物達がそんな隙を逃すとは到底思えない。
結論から言えば『巨人』であれ『三本足』であれ、攻撃を受けてしまった時点で詰みである可能性が高かった。
(少しでも攻撃を受ければ崩される。 全ての攻撃を躱しながら相手の数を減らすには…………私の全てを出し切るしかない)
そう考えた操は、『巨人』と戦った時と同じ様に、背中から4本の蔦を生やすと、その蔦を手足のように使って跳躍した。
「ロォォッ!?」
「ロロロロロッッ!!!」
前後から放たれた『巨人』達の攻撃を背中の蔦を巧みに操って体を浮かせ、ギリギリの所で回避する。
細く頼りない外見とは裏腹に、意外にもパワーのある蔦で体を庇い、『巨人』達の腕を受け流したのだ。
そこへ、周囲から『三本足』による蔦攻撃が襲い掛かる。
「……ッ!!」
「ミ゛ッ!!?」
「ギミャッ!?」
操に殺到した怪物の蔦は、しかし操の体を捉える事は出来なかった。
ヘビのように操に襲い掛かった怪物の蔦は、同じく操の身体から生える蔦によって叩き落されていた。
更に、叩き落された直後に操が振るった『茨の剣』が一閃すると、引き裂かれた怪物の蔦が地面に落ちる。
背中から生やした蔦を迎撃用の武器として使用するという発想は、『三本足』の行動を参考にしたものだ。
『三本足』は蔦による刺突以外に蔦を触手のように振り回して攻撃を行う事もある。
刺突に比べれば威力は大した事は無いが、一方で無視出来る程の物でもない。
牽制として考えればそれでも十分な威力を持っていると言えるからだ。
そしてそれは、今現在の操にとって必要な攻撃手段でもあった。
背中から蔦を生やす場合、『茨の鞭』の様に表面に棘を生じさせる事はせず、ただの蔦として展開している。
背中の蔦を『茨の鞭』と同じ様に棘を生じさせると、操自身を傷つける可能性があるからだ。
殺傷力という面では『茨の鞭』に劣るものの、防御・移動を主たる目的として使用するのであれば、ごく普通の蔦でも十分に出来る。
蔦をバネのように使用して跳び上がり、腕のように操作する事で相手の攻撃を受け流す。
あるいは先程操がやってのけたように、攻撃自体を蔦による打撃で弾くといった具合だ。
複数の敵を相手にするという今の状況には非常に有用な能力だろう。
とはいえ、これだけ数に差がある状況では如何に数が増えたとしても不利な状況である事に変わりはない。
操は回避を優先としつつも、まず周囲の『三本足』の数を減らすべく反撃を開始した。
「はぁっ!!」
「ギャミッ!!?」
「ギゲェッ!!?」
攻撃を弾かれ隙を見せた『三本足』に蔦を用いた急加速で接近し、右手に持った『茨の剣』を一閃する。
思わぬ速度で接近して来た私に反応が遅れた二体の『三本足』は、その体を呆気なく両断されて絶命した。
『三本足』の残りは6体。
『三本足』は防御力や耐久力の面ではそう大した事は無い為、攻撃が当たりさえすれば容易に仕留める事が出来る。
ともかく蔦の触手による中距離攻撃が厄介ではあるが、逆に言えばそこに気を付けていれば脅威度は低い。
だが、問題は『巨人』の方だ。
「ロォォァッッ!!!」
「ロロロォォォ!!!」
「ぐっ……!!」
二体の『三本足』を倒した私の背後から接近し、大きく腕を地面に叩きつけて飛び散った破片を飛ばして来る二体の『巨人』達。
一撃を貰えば致命傷という状況では、威力と範囲を兼ね備えた『巨人』の攻撃は厄介極まりなかった。
そしてやはりと言うべきか、この二体は先程戦った個体よりも連携能力に秀でているらしい。
『巨人』同士で連携攻撃を繰り出すのは勿論の事、『三本足』の攻撃に合わせて行動し、操に『三本足』を倒されないように立ち回っている節すらある。
『巨人』同士常に別方向から攻撃し、操の死角に回ろうとする等、非常に嫌らしい戦い方をして来ている。
それ故、操も一気に『三本足』の数を減らす事が出来ず、激しく動き回りながらも慎重に行動しなくてはならなかった。
もはや双子のように息の取れたコンビネーションを見せる『巨人』達は、姿は同じでも最初の『巨人』とは別種類のように操は感じていた。
「ッ!!!」
「ギヨッ!!?」
背後から放たれた『三本足』の触手による攻撃を上体を逸らす事で躱した操は、背中の蔦を使って地面から跳び上がると、攻撃して来た『三本足』に襲い掛かった。
操は人間には到底不可能な動きと軌道で空中を飛び跳ね『三本足』に肉薄すると、その勢いのまま『茨の剣』を振り下ろした。
右手一本で振り下ろされた『茨の剣』は、『三本足』を縦に両断しその血肉を飛び散らせる。
『三本足』残り5体。
「ロロロロロロロロォォォォォォッッッ!!!」
「ロロォォォォォォォォァァァァッッッ!!!」
「ッ!?」
『三本足』を倒した操の背後から『巨人』……いや、『双子』が揃って突進して来た。
前後に並ぶ位置取りで、前衛の個体は地面を削るようにして床材の破片を飛び散らせながら。
後衛の個体は腕を左右に振り回しながら操目掛けて突っ込んで来る。
『巨人』達の移動スピードが遅いとは言っても破片の礫を撒き散らし、巨大な腕を振り回しながら真っすぐ向かって来られては回避して横を通り抜けるのは難しい。
しかし突進を防ぐ事は更に難しい以上、操は回避を選択するしかない。
操は咄嗟に右手に持った『茨の剣』の剣身を『茨の鞭』と同じ鞭状に変化させると、腕を滅茶苦茶に振り回している後衛の個体目掛けて勢い良く振るった。
しかし、狙ったのは厳密に言えば後衛の『双子』ではなく…………その「腕」だ。
「ロロロッッッ!!?」
「ぐうっ……!!!」
操が振るった『鞭』は後衛の個体の腕に絡み付いた。
『双子』の怪力で振るわれた腕に鞭が絡み付いた事で、必然的に操の身体はその怪力によって引っ張り上げられ宙に浮く。
凄まじい勢いで空中に跳び出した操は思わず呻き声を上げるが、何とか狙い通りやや右斜め上の軌道を描き、『双子』の上を操が飛び越える形になった。
前衛の個体の側を飛び越える際に床材の破片が操を襲うも、操はそれを左手に『鉤爪』を展開して盾とする事でガードした為、大したダメージも無い。
「ロゴァァァッッッ!!!」
「うっ!?」
しかし、やはり『巨人』達は戦闘センスが良いようであり、操が自分の力を利用して自分達の攻撃を回避したと見るや凄まじい反射神経を発揮し、逆方向に操の鞭を引っ張った。
未だ空中に体がある操は、そのままだと『巨人』の腕に絡み付いた自分の鞭に引っ張られて地面に叩きつけられてしまう。
だから操は自分の体が引っ張られたと感じた瞬間、右手の鞭を手放した。
「ロロォッ!!?」
操が右手に「持っていた」のは『茨の剣』の形状を変化させて鞭状にした物であり、厳密に言えば腕から直接生えている『茨の鞭』ではない。
その為、操は鞭を『巨人』に引っ張られた時点で鞭を腕から切り離したりする必要が無かった。
身体が引っ張られたと感じた瞬間に鞭を手放し、『巨人』のいる方へ方向転換した状態で…………今度は左手から『茨の鞭』を放つ。
鞭は腕を振った状態の『巨人』の体に巻き付く。
そして、そのまま操が鞭を巻き取りつつ左手に渾身の力を籠めて引っ張ると、操の身体は『巨人』を支点として遠心力によって大きく振り回される事になった。
「ぐぅぅぅぅっっ!!」
高速で後衛の『巨人』の周囲を旋回した操は、『巨人』の前を横切り、『巨人』の右手側に飛び出す形になる。
そこには操が横を抜けようとした際に奇襲するつもりだったのか、2体の『三本足』が触手を振りかざして待ち構えていた。
流石にこれ以上操も回避する事は出来ない。
だが、操は再び咄嗟に行動した。
思考速度が加速し、目に映る光景がスローモーションで進んで行く中、操は自分の足に意識を集中する。
すると、操の左足に変化が起きた。
以前、病院での戦闘において変異したクロフォードに対して『足甲』に覆われた脚による蹴りを喰らわせた事がある。
あの時放った蹴りは、強靭な耐久力を持つ変異クロフォードに相当量のダメージを与える事が出来ていた。
しかし、『籠手』もそうだが、『足甲』も本来の用途で言えば「武器」ではなく「防具」であるという事は言うまでもない。
実際、『足甲』はいきなり鈍器代わりに使ってしまったが、『籠手』は操が防御の為に編み出した能力だ。
『籠手』や『足甲』の強度と(認めたくないが)操の怪力が合わさった結果、打撃攻撃として機能してしまっているだけであり、本来は当然ながら防御に使われる物だ。
……しかし、そこを敢えて攻撃に使う事を考えるなら?
操の左足が以前と同じ様に植物質の装甲に覆われて行く。
だが、その形は以前と同じ『足甲』の形状をしていなかった。
以前の『足甲』は植物質の装甲ではあったが、鎧を思わせる滑らかな表面をしているシンプルな形をしていた。
それに対して今、操の左足を覆っている『足甲』は………言ってしまえば、かなり厳つい見た目をしている。
足の脛部分は刃物を思わせるような鋭角が付いており、その途中には等間隔で鋭い棘が生え、足の甲からつま先にも同じような鋭角が付いている。
そして何より、通常の『足甲』よりも大型化している。
片足だけが『足甲』に覆われている事も相まって非常にアンバランスな見た目だが、刃と棘が融合したようなその威容は巨大なノコギリを思わせた。
そして、そんな『巨大ノコギリ』とも言える物を片足に装着した状態で…………操は遠心力のまま目の前の『三本足』を蹴り抜いた。
「キ゛ッ!!??」
「ミ゛ッ!!??」
高速で振り回されるギロチンの刃に等しい操の蹴りを受けた2体の『三本足』は、振りかざしていた触手ごと引き裂かれる。
その凄まじい威力は『茨の剣』以上であり、2体並んだ状態だった『三本足』を紙屑のように斬り飛ばしていた。
「ロロロロロァァァァァッッッ!!!!」
「ロロォォォォォォォッッッ!!!!」
ボロ切れのようになって地面に転がる『三本足』を目にしてか、はたまた自分達の攻撃を利用された事に怒ってか、『双子』が怨嗟の声を上げる。
2体の『三本足』を蹴り裂いた操は左手に生やしていた『茨の鞭』を即座に切り離し、体を捻りつつ地面に着地すると、息を吐きつつ残った怪物の群れを見据えた。
残りは『双子』と『三本足』3体。




