48 尋ね人
連続投稿3話目
ちょっと短いです
警察署の1階は一般市民も訪れる事もある為、待合席や自動販売機が設置された休憩スペースなどがそこかしこにある。
廊下を早足で歩きつつ、ライナはそういった場所に操の姿が無いか横目で確認していた。
1階には見張りの警官達以外は人が居ない為、不気味な静けさが辺りを支配している。
しかし、そこに誰かが居るのであれば、その方が寧ろ分かりやすいと思われた。
ライナはまず1階を探す前に警察署の建物前の駐車場に出た。
正門周辺には相変わらずバリケードが構築されており、見張りには警官が3人立っている。
その中にはバーンズの姿もあった。
「よう。ご苦労さん」
ライナは見張りをしている警官達に気さくに声を掛ける。
見張りをしていた警官達は少し驚いたように振り返った。
「うん? あんたは……」
「ライナさん? どうしたんですか? 書類を調べていたのでは……」
バーンズが驚いたように言った。
2階のオフィスで書類を調べていたライナが正門にやって来た為、意外に思ったようだ。
「ああ、調べ物は終わったよ。 目当ての物は見つかったからな。 今は……まあ、見回りみたいなもんさ」
ライナは見張りの警官達には操の事は話さなかった。
見張りをしているにも拘らず、内部で異常があったとなれば、彼らにも動揺が広がる可能性があると考えたからだ。
余計な負担をここで増やす必要は無いだろう。
「おお、そいつは助かるな。 ……いや、本当は避難民にも見張りや見回りを手伝って貰いたかったんだが……ちょっとな」
ライナは名前を知らないが、体格の良い……かなり体格の良い警官がそう言って頭を掻いた。
……前職はスーパーマンか何かだろうか?
「無理もねぇって! もう一週間以上だぜ? 俺だって胃に穴が空きそうだぜ」
もう一人の少々軽そうな雰囲気の警官がうんざりした様子で愚痴る。
やはり住民達の精神状態が不安定になりつつある為、見張りなどに協力を求め辛いようだ。
「そうみたいだな。 さっき上でアンナとジェフリーが声のデカいおっさんを宥めてたよ」
「声のデカいおっさん? あー……エヴァンス銃砲店のおっさんかな」
どうやら心当たりがあるようで軽そうな雰囲気の警官が呟いた。
「あの人は……色々拗らせてるからなぁ……」
体格の良い警官が疲れたような表情で同意する。
元々何か問題がある人物なのだろうか。
「……ん? エヴァンス銃砲店って、この近くにあるガンショップの事か?」
ライナと操は水路から脱出した後に、休憩と弾薬補給を兼ねて近くにあったガンショップに立ち寄った。
その店の名前が確か、『エヴァンス銃砲店』だった筈だ。
もしかすると、あの店の店主だろうか?
「ええ、そうです。 エヴァンスさんはすぐ近くのガンショップ、『エヴァンス銃砲店』の店主ですよ」
「街に異変が起きた時に自分の店の銃を山ほど担いだ状態で警察署にやって来てな。 興奮した様子で大騒ぎしたんだ」
「あー……」
バーンズと体格の良い警官がライナの疑問を肯定する。
なんでも、警察署が大混乱に陥っている最中に重武装してやって来て、警察の作戦行動に自分も加えるように主張したのだという。
「なんかアウトブレイクがどうとか、ショッピングモールに避難しようとか、宗教家は殺せとか……そんな感じの事を喚いてたな」
「………ゾンビ映画が好きなんだって事は何となくわかるわ」
ライナは呆れた声でそんな事を言った。
そんなライナに警官達も苦笑するのだった。
正門前の警官達と世間話をしつつ、ライナはそれとなく変わった事は無かったかを聞いてみた。
その結果、特に周辺に異常はないようだった。
「あんたがフッ飛ばした車のお陰か、あれ以降バケモノ共も来ないしな。 今の所は平和なもんさ」
「まあ、その車の火が滅茶苦茶周りの建物に延焼したけどな……」
ライナが怪物の群れを排除する為に突っ込ませたタンクローリーは、あれから今に至るまで火の勢いは収まったとはいえ燃え続けている。
その火が周囲の建物に燃え移って火事となっているのだが……今の状況では消火活動など出来るはずもない。
木造の家屋は既に焼け落ちてしまっている為、これ以上燃え広がる事はないと思われるが、見張りをしている警官達はヒヤヒヤしていたようだ。
「あー……うん、それはほら、緊急時って事で?」
「……どんな緊急時だよ」
目を逸らしてそんな事を言うライナに、体格の良い警官がつっこむ。
この流れで弁償とかそう言う話は勘弁してほしい。
「あ、そうだ見回りで思い出したんだけど……。 見張りするのってここだけでいいのか? ここの敷地ってそこそこ広いだろ?」
少々強引な話の転換だったがライナは疑問に思っていた事を聞く、という体で警察署から見張りの彼らに見つからずに外へ脱出出来るかを探った。
この質問の回答次第では、いよいよ操が警察署を出た可能性も考えなければいけない。
「ああ、それなら大丈夫だ。 まあ絶対とは言えないが、うちの署は広い道路に面しているのが正面だけだからな」
どうやらこの警察署は車が通れる程に広い道路に面しているのは南側だけであり、裏口などもあるにはあるようだがそちらは狭い路地に繋がっているだけなのだそうだ。
その為、街に怪物が溢れる様になって以降、敷地北側にある裏口は重量物で完全封鎖してしまっているらしい。
そして、敷地のそれ以外の方角には出入り口は無いほか、隣の建物と敷地をぴたりと接している為に怪物達が侵入してくる可能性は低いのだという。
元々頑丈な外壁で敷地の周囲を囲っている事もあり、このような状況になっても基本的に南側だけを守っていれば良いようだ。
「……ま、空を飛べる怪物でもいない限りは、予想外の方向から攻撃されるなんて事は無いだろうな!」
わはは、と笑う体格の良い警官。
実際、言っている事は正しいのだろうが、その言い方は……。
「おいバカ、やめろ。 本当に来たらどうすんだ」
軽そうな雰囲気の警官がものすごく嫌そうな顔で体格の良い警官を小突く。
こういうのを『フラグ』というのだろうか。
「えーと……、とりあえずわかった。 俺もあっちこっち見回っているから、もし手伝いが必要な時は言ってくれ。 ……住民のメンタルケアとか言われても困るけど」
「そこは大丈夫ですよ。 コールリッジ巡査が臨床心理士の資格を持っていますからね。」
一瞬誰の事かと思ったが、コールリッジとはアンナの名字だ。
話し方などからも感じていたが、バーンズは仲間にも少々畏まった態度を取るらしい。
とりあえず操はこちらへは来ていないようだ。
ならば、やはり建物内を探すべきだろう。
「ならそっちに関してはプロに任せとくよ。 ……ま、何かあったら呼んでくれ」
「ああ、わかった。 その時はよろしくな」
一応の確認が取れたライナはそこで話を切ると、警官達に手を振ってその場を後にした。
警察署内に戻ったライナは改めて操の行動を予想してみる。
自分が操なら目を覚ました後、何処へ向かうだろうか。
(………なんか、悩んでた風だったからな。 何も言わずにいなくなるって事は、見つからずに行動しようとしたって事だ)
操は自分の悩みを全て背負い込んで自己完結しようとする癖があるとライナは思っていた。
それで解決出来れば良いが、解決出来ない時は思考の悪循環に陥り、後ろ向きな結論に達してしまう事が時々ある。
恐らくだが、警察署前で怪物の群れを排除した時も、あのまま手をこまねいていれば自分が囮になる等と言い出しかねなかった。
それ故ライナが強硬手段に出た訳だが………アンナと話をした結果、操もライナと同じ気持ちだったと気付かされた。
『相手に心配を掛けたくない』………二人共そう考えた結果、無茶な行動を取っているとも言えるのだ。
しかし、ライナは無茶な行動と分かっている事をしたとしても、十分な勝算があるから行っている。
それに対して操は、勝算も何もない状態で相手の事以外全てを切り捨てた行動を取っているように見えた。
良く言えば自己犠牲的、悪く言えば捨て鉢になっているとも言える。
ライナは操のそんな振る舞いに若干の苛立ちを覚えていた。
(そんな操が考えそうな事って言うと………、何か思い出したけど、周りにこれ以上迷惑を掛けたくない、とかかな)
操はどちらかと言えば内向的な性格と言えるが、物事にしっかりと筋を通すタイプでもあるとライナは考えている。
そんな操がライナを含めた周囲に一切何も言わず姿を消したとなると、考えられるのは、そうするのが相手の為であると操が考えた時だ。
後ろ向きな考え方に陥りがちな操が考えそうな事だとライナは溜息を吐く。
しかし、一方で操らしいとも思った。
(どうしてそこに、ほんのちょっとでも自分の事も考えるっていう選択肢が出て来ないかね……。 自己評価低すぎだろ)
自分を蔑ろにしがちな操を放っておけず、気付けば保護者の様に彼女の身を案じている自分に驚きもした。
しかし、ライナはそんな自分でも経験した事が無い感情が湧いて来る感覚に、意外な程悪い気はしていなかった。
慣れてしまったからなのか、それとも別の理由からなのかはライナ自身にも分からなかったが、今自分がすべき事は操の無事を確かめる事である、と考えるくらいにはライナの中の優先順位は操が上位に来ているのだった。
(1階には姿無し……か)
警察署の1階を一通り見て回ったライナだったが、やはり操の姿は無かった。
途中、アンナから知らせを受けたハリソンがやって来た為、今の状況を話して操は自分の方で探す旨を改めて伝えた。
ハリソンもライナが言う通り、今の状況では人員を割いて操を探す事は出来なかった為、やむを得ずライナの申し出を受け入れた。
「……もし万が一、どうしても見つからないようなら言ってくれ。 出来る限りの事はさせて貰う」
ハリソンとしてはそう言うしかないという事もライナは分かっていた為、特に責める気は無い。
申し訳なさそうなハリソンだったが、この場の指揮官が彼である以上、そういった判断をするのは当然だった。
1階の全ての部屋を調べた、というわけではないが、調べていない部屋は鍵が掛かり人の気配も無かった。
気配で室内に人が居るかどうかが分かるのか? と操がいたら言われそうだが、分かるのだからしょうがない。
いずれにしろ、ライナの基準では『白』だった為、早々に見切りを付けて立ち去ったのだった。
そうして今度は2階を調べる為に階段を上がって来たのだが、先程来た時よりも人がいなくなっていた。
と言っても、先程も2、3人が東側の階段近くにいたという程度だった為、雰囲気はあまり変わっていないのだが。
(んー…………流石にここから人が居るかどうかは分からんな)
分かってしまったら確実に操に引かれるような事を頭の中で考えつつ、取りあえず一部屋ずつ調べて行こうと廊下を歩き出すライナ。
しかし、歩き出してすぐにライナは足を止めて後ろを振り返った。
誰かが階段を上がって来る音。
足音から自分のいるフロアを目指していると判断したライナはその場に立って相手を待つ。
やがて、階段の方からバーンズが姿を現した。
「ああ、良かった、ライナさん、ここにいたんですね」
そう言って安堵の表情を浮かべるバーンズ。
どうやらライナを探していたらしい。
「よう、どうしたんだバーンズ? 何か手伝う事でも出来たのか?」
ライナがそう問いかけるとバーンズは頷いた。
「ええ、実は外の怪物が少し怪しい動きを見せていまして……。武器庫から弾薬を持って来るのを手伝って欲しいんです」
なんでも、外の見張りをしていた所、先程まで姿を見せていなかった怪物達が再び現れ始めたらしい。
再び前回のような大規模な襲撃になるかどうかは不明だが、念の為予備の弾薬を用意しておきたいのだという。
「なるほど。 だったら急いだ方が良いな。 何処にあるんだ?」
「……ええ、こちらです」
そう言ってバーンズはライナの先に立って歩き出した。
ライナもバーンズの後について廊下を奥に進んで行く。
向かった先は2階奥にある部屋だった。
日当たりが悪く人気も無いその部屋の鍵を開け、バーンズは中に入っていった。
「……さ、どうぞ」
バーンズに促されて部屋の中に入るライナ。
薄暗いその部屋は窓がカーテンで覆われており、カーテンの隙間から洩れた光で辛うじて室内の様子が分かるといった具合だ。
明らかに『武器庫』ではなかった。
「……で? 分かりやすく人気のない部屋に俺を連れて来た理由を聞こうか?」
ライナが呆れた表情で今まさに部屋のドアを閉め、鍵を掛けたバーンズの背に問いかける。
そして、振り返ったバーンズは今までの彼とは別人のような下卑た表情を向けると、手にした減音機付きの銃をライナに向けた。




