45 ライナの想い
「ね、あなたと操って本当に恋人同士じゃないの?」
「は?」
ヘンリー医師の操に対する診察が終わった後、ライナはアンナと共に仮眠室を離れ、オフィスにいるハリソンの元に向かっていた。
診察中も操は眠ったまま目を覚まさなかった為、診察が終わった後もこのまま寝かせておいてやった方が良いだろうというヘンリー医師の助言に従う事にしたのだ。
操の体調に関してはやはり疲労による物だろうという事だったが、急激なストレスによる所もあるようだとの事だった。
そのストレスの元に直接心当たりがある訳ではないが、ライナは何となく分かるような気もしていた。
ここまで操と行動を共にして来たが、操は時々心ここに有らずといった様子になる事が時折あった。
声を掛ければすぐに反応するので、様子がおかしいと言う程の事ではないのだが、操自身に聞いても「大丈夫」だとか「何でもない」としか答えない。
その為、実際に操が何を考えていたのかライナには分からなかった。
しかし、これまで見て来た限りでは、操は基本的に物静かで大人しい性格であるという事はライナにも理解出来た。
それ故か、自分の中で生じた悩みを抱え込む性質があるとも見ていたのだ。
ヘンリー医師の言うストレスがそうした操の秘めた苦悩であるとするならば、と考えると、ライナは若干の後悔を滲ませていた。
(もう少ししっかり聞いてやれば良かったかな……)
正直な所、ライナは女性の扱いというものに慣れていない。
どうして良いか分からない、とまでは行かないが、基本的に社交的な性格のライナとしては上手く扱えているという感覚は無い。
しかも、操はライナと歳も近いように思えるが、ライナにとって同年代の女性という存在は殆ど馴染みが無かった。
(でもなー……こういう時って、あんまりガンガン踏み込むと良くないんじゃなかったっけ? ……うーむ、よく分からん)
そんな訳で、操との距離感を測りかねて悩んでいたライナは廊下をアンナと並んで歩いていた。
ああでもないこうでもない、と考えを巡らせていた為、隣のアンナに注意を払っていなかった結果、冒頭のアンナの問い掛けに間の抜けた返事を返してしまったのだった。
「やー……だって操に聞いたら「恋人じゃない」って否定されたけど顔真っ赤だったし、あなたはあなたで操の事すっごく大事にしてるでしょ? 多分、他のみんなも二人がそういう事だと思ってるんじゃない?」
完全に虚を突かれた形になったライナは、暫く呆けた表情で時が止まったように固まっていたが、質問の意味を理解すると複雑そうな表情を浮かべる。
「…………あんた、その質問、俺が車で特攻するちょっと前に操にもしたか?」
「うん、したわ。 ……ものすごーく必死に否定してたけど、私からすれば説得力ゼロだったわね」
ライナは盛大に溜息を吐いてじっとりとした視線をアンナに向ける。
操との距離感に悩んでいる時に何という爆弾を落としてくれるのだ。
「警部補殿に説明した時にも言ったけど、俺と操は昨日出会ったばっかりだぞ? そんな関係な訳ないだろ」
呆れ気味に言うライナだが、アンナは揺るがなかった。
「あら、一目惚れって事もあるじゃない? 特に珍しくないと思うわよ?」
「あのなぁ……」
若干頭が痛くなったライナだったが、周りから見た場合そういう事もあるか、と思い直す。
とはいえあまりそういう事を言って操を揶揄わないで欲しくもあった。
「……まぁ、恋人とかじゃないけど、最優先にしてる事は確かだな。 何ていうか、放っとけなくてさ」
これまでライナが操を手助けして来たのには特にこれといった理由は無かった。
最初に怪物に襲われかけている操を助けた時も、放置するわけにもいかなかった為、迷ったが拠点で保護する事にしたのだ。
その後は拠点に匿っていれば良いと考えていたのだが、操自身が記憶喪失という予想外の難題を抱えている事が判明し、その手掛かりを探しに街へ行くと言い出した。
ライナとしては怪物が蔓延る街中に今更出て行く理由も無く、操を何とか説得しようとしたが、目を覚ました直後に話した時とは別人の様に強い意志を宿した目をした操に根負けしてしまったのだった。
「街から脱出する手段を探す方を優先して俺は操について行かなかったんだけど……今から考えれば、ただの言い訳だな。 本当はどう接したもんか、よく分かってなかったんだ」
その後、ライナは別の脱出手段を探してアパートを離れたが、それまでの間も操の安否が常に気になっていた。
あのまま一人で行かせてよかったのか。
付いて行くべきだったのではないか。
そうして操の身を案じつつ辿り着いた指令センターで何とか無事操と再会する事は出来た。
だが―――
「そこで操と合流出来たのは、まぁ狙い通りではあったんだけど……やっぱり一人にするべきじゃなかったなって後悔したんだ」
「……どうして?」
アンナの問いに、ライナはどこか遠くを見るようにしながらその時の事を思い返す。
再会した操は見た目は変わらぬ様子だった。
しかし、別れて数時間程度しか経っていない筈だというのに、以前の操とは明らかに違った。
「病院で何があって誰と会ったのかってのは聞いたけど、実際細かく何があったのかは俺も知らない。 だけど多分……何度も死にそうな目にあったんだろうな、っていうのは分かったよ」
アパートで銃の基本操作を教えた時の操は、どう見ても荒事に慣れているとは思えない、ごく普通の女性だった。
しかし指令センターで再会した時には、操の動きは素人とは呼べないような動きになっていた。
一体どんな修羅場を潜り抜ければあれ程に豹変するのか想像もつかない。
そして同時に、あの時操を一人でそんな場所に向かわせてしまった事を後悔してもいた。
「で、それからは……我ながらちょっと過保護かな、って思うくらいにするようにしてるんだ。 あんたも察してると思うけど、あいつ、ほっとくと無茶するからな」
これまで何度かライナと操は怪物の襲撃などで窮地に立たされた。
しかし、その度に操の活躍で二人共無事その場を脱する事が出来ている。
アンナには話せないが、『花』の能力によってライナの予想を超えた戦力として操が奮闘してくれたからだ。
だがその一方で、操は自身の身を削るような無茶をしがちだった。
「だから出来る限りあいつがそんな無茶しなくて済むように、俺の方で対処出来る事は対処してるんだけど…………あんまり信用無いのかな、俺」
そう困った様に笑うライナにアンナは少し考えた後、呆れたように言った。
「あのねぇ……、そんなの信用されてるされてないじゃなくって、操もあなたの事が心配だからに決まってるでしょ?」
「え?」
思いも寄らなかった事を言われ、ライナが純粋に驚きの表情を見せる。
その様子にアンナは深々と溜息を吐いた。
「ハァ……。 良い? あなたは操が無茶しないか心配で、危険な事は操にさせたくない。 要はそういう事よね?」
「お、おう」
手のかかる弟を叱る姉のような雰囲気のアンナに、ライナもまた姉に叱られる弟のような気分になる。
そもそも何故廊下の真ん中で怒られているのだろうか。
「だったら、操もあなたの事をそう思っているに決まってるでしょ? 私に関係を疑われて必死に否定はしてたけど、それはあなたが嫌いだからじゃないわ。 むしろその逆よ」
「………………」
操もライナの事をライナと同じ様に思っている。
アンナにそう言われたライナは少し考えたが、考えてみれば確かにその通りだと思い至った。
……いや、実際には考えるまでも無い程簡単な事なのだ。
ライナはこれまで一人で生きて来た。
そこには自分の視点しか存在せず、他人の視点が介在する余地は無かった。
しかし今回、操という暫定的パートナー関係にある存在に関わる内に、今まで考えた事も無い「相手が自分をどう思っているか」という事を考える必要が出て来たのだ。
大概の事は自力で何とか出来てしまうライナも、対人関係の能力は高いとは言えない。
しかし操と行動を共にする内、いつの間にか操の身に危険が及ばない様に立ち回るのが当たり前になりつつあった。
操を保護して以降、操を守らなくてはいけない、という義務感を無意識に抱いていたのが、自分でも気付かない内に『義務』ではなくなっていたのだ。
そうしてここまで操と共に辿り着いたわけだが……。
「…………そうか。 操も同じように思ってるのも当たり前、かぁ……」
「そういう事よ。 知り合ったばかりの私から見ても、あの娘があなたを強く信頼してるっていうのは分かるわ。 あなただって、単純に守らないといけない対象って思っているわけじゃないんでしょ?」
ライナはこれまで操と共に潜り抜けて来た窮地を思い出していた。
普段の自分なら、自分一人で出来る事は自分だけで行っていただろう。
しかし操と出会って以降のライナは、操に自分の背中を預けて共に戦う選択を何度もしていた事に今更だが気が付いた。
それは、ライナの基準では相手を深く信頼していなければ出来ない事だっただろう。
「…………いつの間にかそんだけ懐に入り込まれてた……いや、受け入れてたのかな」
ライナは苦笑しつつアンナには聞こえない声量で自嘲気味に呟いた。
自分には操のような『無垢な存在』に触れる資格など無いというのに。
「……どうしたの?」
急に黙って考え込んだライナに、アンナが心配そうに声を掛ける。
その表情はちょっと踏み込み過ぎだったかな、という感情が見て取れる。
「……いや、あんたも随分おせっかい焼きなんだなと思ってさ」
「そりゃあね。 命の恩人の二人がお互いに仲睦まじいのに、なんだか一歩踏み込めてない感じがしたら応援したくなるってものよ!」
「や、だから俺と操はそういうんじゃ……いや、もういいわ。 正直な所、別に悪い気はしないしな」
肩を竦め、溜息を吐きつつ諦め気味に言うライナ。
そんな彼の様子にアンナは満面の笑顔になった。
「おっ! 本当!? だったらもっとアプローチしないと。 ああいう大人しい娘は押した方が良いわよ!」
……おせっかい焼きではなく『コイバナ』が好きなだけなのかもしれない。
「この状況でそんな事するか! 今はもっと他にやる事あんだろ」
「えー……この状況だからこそじゃない? カップル成立なんて明るい話題があったら皆少しは気が晴れるんじゃない?」
「やめろ、勝手に人のフラグを立てて行くんじゃない!」
そんな事をアンナと言い合いつつも、ライナは少し気が晴れた様子で廊下を歩いて行ったのだった。
オフィスに戻って来ると、先程の応接スペースでハリソンと眼鏡を掛けた見知らぬ警官が話し合っているのが目に入った。
恐らく先程ハリソンが名前を出していたバーンズだろう。
避難して来た住民の様子を見ていたようだが、何か問題が発生したのだろうか?
「警部補、何かあったんですか?」
「む、アンナと……ライナくんか。 操くんは大丈夫か?」
声を掛けて来たアンナに対して、ハリソンは会話を切り上げてこちらに向き直る。
会話の相手のバーンズ……と思われる人物もこちらに視線を向けて来た。
「ああ、ヘンリーの爺さんが診てくれた。 やっぱり疲れから来る熱みたいだな」
「そうか……。 まあ、無理もないだろう。 我々の様に訓練を受けた者ならともかく、彼女は一般人だろう? 常に気を張り詰めさせていれば負担にもなる」
と、そう言うハリソンだが、ライナから見たハリソンの表情にも疲労の色が色濃く浮かんでいる。
しかも、先程話した時よりも疲れが見える様な気さえした。
「そういうあんたも疲れてるみたいだな。 さっきアンナも言ったけど、何かあったのか?」
ライナがそう言うと、ハリソンは深い溜息を吐く。
やはり何かしらの問題が発生したようだ。
「生存した住民の方達には3階に避難して貰っているんですが、避難生活が長引いているせいで皆不安が大きくなっているようなんです」
そう答えたのはハリソンではなく、彼と話をしていた警官だった。
身に付けたバッジには『Sergeant』とある。
どうやらアンナやジェフリーよりも上、ハリソンの下に位置する階級らしい。
恐らくハリソン不在時の指揮役なのだろう。
「……あ、すみません。 自己紹介がまだでしたね。 私はこの警察署で巡査部長を務めています、ニコラス・バーンズと申します」
「ああ、やっぱりあんたが。 俺はライナだ。 よろしくな」
手を差し出して来たバーンズと握手を交わすライナ。
これで署内に残っている警官全員と顔を合わせた事になる。
「避難して来た人達に何か問題が起きたんですか? 巡査部長」
「……ここに避難して来てもう一週間以上だ。 大きな問題が発生したわけじゃないが、住民同士のいざこざが増えているようなんだ」
深刻なレベルではないものの、住民の間で口論が発生したり精神的に不安定になって来ている者が目立つ様になって来たらしい。
ヘンリー医師がそうした人々のケアをしてくれてはいるが、状況が一向に改善しない為、みな不安が募っているようだった。
「そういや食料とか弾薬とかって大丈夫なのか? 怪物の群れに派手に攻撃してたけど」
ライナは当初から疑問に思っていた事を聞いてみた。
怪物に対して生き残りの警官達が惜しみなく弾薬を使用していたのは、節約していられる様な規模の群れではなかった為とライナも察してはいる。
しかし、だからと言って全くの無計画に弾薬を消費して良いというわけでもない。
その辺りの管理は大丈夫なのか、と暗に問いかけた形だったのだが、ハリソンは複雑そうな表情を浮かべた。
「……一応問題は無い。 例の、病院に派遣した警官隊が全滅してしまったからな。 消費する先が無くなってしまったんだ」
「…………あー……そういう……」
本来であれば小さいとはいえ警察署全体で考えればそれなりの数の警官が在籍しているグリーンフォレスト警察だが、派遣された警官隊が全滅してしまった為、弾薬を使う人間がいなくなってしまった。
それ故、署内にある武器・弾薬庫にはかなりの量の弾薬がまだ確保されているのだそうだ。
「食料に関しても備蓄していた物が相当数有りますし、外に出ていた捜索班が見つけて来た物も合わせれば、当分は大丈夫なんですが…………。 住民の方にとっては不安を取り除く情報にはならなかったようです」
「周囲を怪物に囲まれたに等しい状況な上、我々も多くの署員を失ってしまっていて、言い訳出来ないからな……」
警官という市民を守る義務がある存在が怪物との戦闘で大勢命を落とし、それでもなお希望が見える話が一向に出て来ないともなれば、不安に思うのは当たり前だ。
それでもハリソン達は住民を不安がらせないように努力して来たようだが……そろそろ限界が近づいて来ているのかもしれない。
「物質的に籠城に必要な物は余裕があっても、精神的な余裕は無くなりつつある。 ……我々も含めて、な」
……どうにか状況を打開しなければいけない。
恐らくそう考えてアンナを含めた捜索班を周辺の調査へ派遣したのだろう。
しかし、結果は捜索班の生き残りはアンナだけであり、彼女たちを救出に向かったマードック班も怪物に襲われ全滅してしまった。
その結果、捜索に回せる人員が署内には残っていない状況となってしまったのだ。
その為、ハリソン達は今後の対応策に頭を悩ませていた。
住民から有志を募ってでも再び探索に向かうかどうか、という事も含めて……。
「あー、それはやめといた方が良いぜ。 多分だけど、今の状況だと街から脱出する手段って無いと思うし」
だが、ライナはあっさりハリソン達の考えを否定した。
しかも、街からの脱出手段が無いという最悪の意見を口にして。
「ちょっと、ライナ!」
「あ、勘違いしないでくれよ。 別にもうみんな死ぬしかない、とかそういう事じゃない。 あくまで今の状況のままだと脱出不可能だってだけだ」
咎めようとしたアンナを手で制し、ライナは自分の発言を補足した。
しかし、それでもこの場においては非常にデリケートな発言内容に、ハリソンは訝し気な表情をライナに向ける。
「今の状況では、というのはどういう事だ? この状況を変える当てがあるのか?」
アンナとバーンズも同じように懐疑的な視線をライナに向ける。
実際、彼らが見つける事が出来ていない打開策をライナが持っている、というのは不自然だ。
「解決策がある訳じゃないさ。 ただ、この状況……街の外と連絡が取れない理由に心当たりがある、というか、推測してる事があるんだ」
「推測……?」
ハリソンはライナが言う「心当たり」が何なのか全く見当もついていないようだ。
とはいえ、実の所ライナも操と行動を共にしていなければ考えなかった事だ。
操が通信障害の原因が『青い花』の妨害行動ではないか、という考えを口にした時はライナも予想外の意見に驚いた。
最早植物なのかすら怪しいと思ってはいたものの、正直な所そこまでの事が出来るのか、ライナも判断出来なかった。
しかしその後、操の身に起きている事を知り、益々『青い花』の異常さが明らかになった事で、ライナは操の考えが正しい可能性の方が高いと思うようになっていた。
「あんた達も納得してたじゃないか。 あの怪物共が段々組織立った行動を取り始めている気がするって。 あそこまで異常な生物を大量に生み出せる『大本』が、そういう事が出来たとしてもおかしくないと思うぜ?」
「……あの『花』が通信を妨害しているって言うの?」
「そ、そんな馬鹿な……」
アンナとバーンズはライナの話を信じられない様子でそれぞれ呟きを漏らした。
しかし、ハリソンは訝し気にしていた表情を徐々に険しい顔に変え、何かを考えているようだ。
「……確かにこれは完全に俺の推測だからはっきりした根拠がある訳じゃない。 けど、少なくとも俺はこの街から森を通って脱出しようとした事がある。その時もあの怪物共に妨害されたぞ」
ライナの言葉にハリソンが驚愕の表情で顔を上げる。
他の2人も衝撃を受けているようだ。
「妨害して来た怪物達は街の方に戻る素振りを見せた俺の事を追って来なかった。 縄張りでもあるのかとその時は思ってたけど、異なる種類の怪物同士でも連携して殺しに来るような事をしてたんだ。 何処かに『統率』してる奴が居てもおかしくないだろ?」
「…………なるほど………………」
絞り出すように声を漏らしたハリソンに顔には強い焦燥が浮かんでいる。
ライナの話が事実であった場合、あの『花』は自分達の想像をはるかに超えて危険な存在という事になる。
そして、街に居る人間全てに対し、明確かつ強い敵意と殺意を持っている事も確かだ。
「外部との通信を途絶させ、統率された未知の生物を指揮して街中の人間を駆逐しにかかる…………。 もし本当に君の推測通りであれば、人間並みの知能を持った恐るべき相手だな……」
ハリソンが出した結論に、他の2人も顔色を悪くして息を飲む。
自分達の命を脅かしているのが、人類以外の高度な知性を持った存在の可能性があるというのだから当然だ。
ライナは自分の発言が元で重苦しい雰囲気で会話が止まってしまい、気まずそうに頬を掻いた。
「あー……念の為もう一回言うけど、全部俺の推測だからな? 話が逸れちまったけど、そんな感じで思った以上に頭が良いあいつらがウジャウジャいる所に素人を連れてくのはやめとけって事が言いたかったんだ」
ライナが言い訳がましくそう言うと、ハリソンも溜息を吐きつつ苦笑を漏らした。
「……そうだな。 その通りだ。 迂闊に行動するよりも、外から救助が来る事に期待して籠城に徹する方が生存率は高い……か……」
「まあ、解決方法も提示出来ないんだけどな……。 生き延びる確率が高い方に注力しとこうぜ。 今は、さ」
本人の言う通り、ライナの話に根拠は無い。
しかし、それでも戦える人間が減った現状では、守りに徹して時間を稼ぐべきという意見は確かに効率的でもあった。
「そうなると、やっぱり避難して来た人達のケアは優先しないといけないわね……」
「そうだな……その辺りはヘンリー先生とも相談して対応するしかないか……。 悪いけど、コールリッジ巡査も手伝って貰えないか? 怪我をしているところ申し訳ないけど……」
アンナは足を負傷している為、警察署の防衛班には加わる事が出来ない。
その為、バーンズはアンナにヘンリー医師と共に住民のケアに回って欲しいのだそうだ。
「そうですね……この足じゃ見張りには立てませんし、ヘンリー先生に付いて手伝います」
「そうだな、そうして貰えると助かる。 ライナくん。 君にも有事の際には防衛の手伝いを頼むかもしれない。 現状、戦える人間は貴重だからな……」
申し訳なさそうに協力を要請するハリソンに、ライナは笑って答えた。
「構わないぜ。 操は今あの状態だから無理だけど、俺は問題ないからな。 必要になったらいつでも呼んでくれ」
「……すまない。 恩に着る。 生き延びられたならこの礼は必ずさせて貰う」
そう言って頭を下げるハリソン
……と、ライナは何かを思い付いたような顔になった。
「気にしなくて良い……と言いたい所だけど、それならちょっとあんた達に協力してほしい事があるんだけど、良いか?」
突然そんな事を言い出したライナに、ハリソン達はやや面食らった顔付きになる。
「え? い、今すぐにですか?」
「……もちろん私達で力になれる事なら是非とも協力させて貰うが……」
「今の状況じゃ出来る事と出来ない事があるわよ?」
三者三様に戸惑ったような反応を見せるハリソン達。
しかし、ライナはそんな三人を落ち着かせるように手で制しながら言った。
「ああ、そんな大層な事じゃないんだ。 もし知ってたら教えて欲しいってだけだからさ」
「教えて欲しいって、何を?」
頭に疑問符を浮かべるアンナに目を向け、ライナは『頼み事』の内容を説明する。
「……操の記憶の手掛かりになりそうな人や場所について、さ」




