40 追い縋る者達
「あーもー、また追いかけっこかよ!」
「足が速い奴がいないだけマシなんじゃない!」
悪態を吐きながら大水路内を走る操とライナ。
既に巨大花の根が垂れ下がっていたエリアは抜け、『青い花』が侵食してはいるが障害物のような物は周囲には無い。
しかし、軽口を躱しながら駆ける二人の様子とは裏腹に、状況は中々深刻だった。
「ッ! ライナ! また前から来るよ!」
走る足を止めずに操が叫ぶ。
前方に伸びた大水路の横手にある大水路の支流。
その支流と大水路を隔てる鉄格子から嫌な金属音が響き渡った。
「ホ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛…………」
「エ゛ッ゛エ゛ッ゛エ゛ッ゛エ゛ッ゛…………」
くぐもった奇声を上げながら鉄格子に手を掛けてガチャガチャと揺すっているのは『根腐れ』の群れだ。
鉄格子の向こう側で蠢いている『根腐れ』の群れは、数えるのも嫌になる数だ。
そして、そんな『根腐れ』の大群を押し留めている鉄格子は、怪物の大群の怪力と圧力で破壊され、大水路側に外れ掛かっていた。
「だー! 鉄格子を壊すんじゃない! こっちはお前らの相手なんぞしてる余裕は無いんだよ!」
そう叫びつつ、ライナが手にした拳銃の引き金を引いた。
銃声が水路内に鳴り響き『根腐れ』に銃弾が撃ち込まれると、最前列の怪物の何体かが崩れ落ちて障害物と化し、後続の怪物の足を鈍らせた。
しかし、それもほんの少しの間であり、操とライナが怪物が押し寄せる鉄格子の前を走り抜けた直後、大きな破壊音と共に鉄格子が外れ、支流水路に殺到していた怪物達が大水路側に雪崩れ込んで来た。
「おかわり一丁! ……何回目だ?」
「……わかんない! あと、後ろ見たくない!」
そう言いつつも、走る足を止めずに後方にチラリと目を向ける操。
そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
「ホ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛…………」
「ヴヴァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛…………」
「オ゛オ゛オ゛オ゛ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛…………」
「イ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛…………」
「ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ォォォォォォ…………」
操の視線の先にあったのは、怪物の群れ、群れ、群れ……。
先程、支流水路から雪崩れ込んで来た怪物の群れ、その群れすら少ないと感じられる程の怪物の大軍団が、操達の背後に迫っていたのだ。
操が周囲に怪物の気配を突如感じた直後、先程の群れと同じように支流側から鉄格子を破壊してウジャウジャと湧き出て来たのだ。
いくら何でもあれ程の数を相手にすることは出来ないという事で、二人はアイコンタクトを一瞬交わしただけで大水路の先へ走り出したのだった。
消防指令センターで相手にした怪物の数は30体に届くか届かないかと行った所だったが、背後に迫る怪物の数は優に100は超える。
一番数が多いのは『根腐れ』だが、中には『花人』や『木人』も混じっている。
これまでの地下水路内では遭遇しなかった怪物が群れの中に含まれているのを目にして、操の疑念は確信に変わっていた。
大水路に倒れていた『根腐れ』はやはり『警報装置』であり、あの怪物の大群は自分達に向けた待ち伏せの罠だったのだ。
警報に操達が引っかかった結果、支流の奥に隠れていた怪物の群れが大水路に殺到しているのだ。
最早怪物達がテレパシーのような何らかの手段で繋がっている事は疑いようがない。
まんまと罠に嵌まってしまった形となったわけだが、操は必死にこの状況を打破するべく思考を巡らせていた。
「ライナ! このまま走って逃げ切れると思う!?」
「分かんねぇ! でも、あいつらがここで罠張ってたんなら、みすみす逃がしたりしないんじゃないか!」
操もその辺りは危惧していた。
支流から殺到している怪物の数は多いが、先程操が指摘した通り、足の速い『犬ネズミ』のような怪物はあの中に含まれていない。
しかし、あの花の怪物達が集団で罠を張って待ち伏せをしているという異常事態が発生している以上、このまま振り切って終わりとは思えなかった。
「!! ライナっ! 前!」
「うげ、やっぱりかよ!」
そして案の定、走る操達の前方から、バラバラと怪物の影が迫って来ているのが見えて来た。
やはり、この怪物の群れは操達を挟み撃ちにするつもりだったようだ。
怪物達の影が見えた段階で、操は『荊の鞭』を右手に展開し、前方に向けて横薙ぎに振るっていた。
空気を切り裂いて振るわれた鞭は、最前線に居た数体の怪物を引き裂き、その内の何体かはそのまま絶命したようだ。
しかし、耐久力の高い『根腐れ』は鞭の一撃のみで急所の花を破壊し切る事は出来なかったようで、やや歩みが遅くなったが倒れはしなかった。
(やっぱり薙ぎ払いだと威力が分散する……。 一撃で倒すのなら、もっと力を籠めないと無理か……)
先程、『根腐れ』達と遭遇した際には威力重視で力を込めて鞭を振るった為、2体の『根腐れ』を同時に一撃で倒す事が出来た。
しかし、複数の敵を相手にする際に、あの時のように渾身の力を込めて鞭を振るうのは、今の操にはまだ躊躇われた。
単純に、コントロールが効かなくなって危険な可能性が高い、というのが理由だが、近くに味方がいる状況では危険の度合いが違う。
何故なら、仮に操が鞭のコントロールに失敗して自分を傷つけてしまったとしても、操であればすぐに傷は治癒するが、ライナはそうはいかないからだ。
その為、制御性を優先して鞭を振るっているのだが、耐久力の高い『根腐れ』は花に鞭の攻撃を受けても倒れない個体が多かった。
攻撃を受けても倒れず前進を続けようとする『根腐れ』に、操は追撃を仕掛ける。
(一撃が無理なら、何度も攻撃すれば!)
操は鞭を操作し、波打たせるかの如く怪物の群れに振るった。
うねる鞭により連続で全身を引き裂かれ、『根腐れ』達は断末魔の悲鳴を上げて次々倒れて行く。
だが、その内の一体が、倒れ際に吐き出した消化液を操は鞭に浴びてしまった。
「…………ッ!」
鞭が焼かれる感覚に操は若干身を竦めるが、体から伸びた花の一部に攻撃を受けても大したダメージはない。
それでも、痛みを感じた事が顔に出ていたのだろう。
ライナが心配そうに声を掛けて来た。
「おい、大丈夫か? 操」
「ん……平気、ちょっと嫌な感覚がするだけだから」
やせ我慢気味に笑顔を作る操だが、ライナの表情は晴れなかった。
「……あの鞭って、体から生えた蔦だから感覚あるんだろ? あいつらの攻撃は消化液での面攻撃なんだから無茶するなよ」
痛みをごまかそうとした操の心の内をあっさり見透かし、やや無理やりに攻撃した事に対しても苦言を呈される。
図星を付かれて思わず視線を泳がせる操。
とはいえ、今は多少のリスクを負ってもこの状況を早急に打破する必要がある。
そう考えてライナに反論しようとしたが……。
「仮に一体ずつだとしても、二人がかりなら無理せずに対処しても何とかなるさ。 前から来てる連中は後ろから来てるのより数も少ないしな」
そう言いながらライナは前から迫って来ていた『根腐れ』に発砲した。
放たれた2発の銃弾が2体の『根腐れ』の花を撃ち抜き、花が砕け散った『根腐れ』達は絶命して崩れ落ちる。
「弱らせるだけでも倒し易くなるし、無理に倒し切らなくても大丈夫だぞ」
確かにライナの言う通り、一撃で仕留め切れなかった場合でもダメージは受けている為、本来よりも少ない弾数で倒す事が出来ていた。
要は指令センターを脱出した時とやる事は同じとういう事だ。
「……分かった、なるべくダメージを受けないようにしながら、攻撃するようにするね」
ライナに頷きながら答えた操は、再び鞭を前方から迫る『根腐れ』の集団に振るった。
今度は無理に怪物を複数同時に攻撃しようとはせず、突出した狙いやすい怪物に狙いを定める。
攻撃する際も急所の花に拘らず、腕や足、的の大きい胴体などを中心にして「傷を負わせる」事を念頭に置いた。
『荊の鞭』が縦横無尽に振るわれる度に怪物の呻き声が響き、血飛沫が辺りに舞う。
操のその攻撃により即死した怪物は先程よりも少なかったが、攻撃された全ての怪物が何かしらの傷を負って動きを鈍らせていた。
「よっ、はっ、ほっ、うりゃっ」
そしてその合間に、気の抜ける様な掛け声に合わせてライナの左腕が上下に振るわれる。
と、同時に怪物達が『根腐れ』を中心としてテンポ良く頭を割られて行った。
ライナが左手に持っているのは、水路の上層エリアで怪物を倒していた際に使用していたワイヤー付きの短剣だ。
時折ライナが用いている黒塗りの短剣にワイヤーを接続した物で、先程ライナはこれを投擲して『根腐れ』を倒していた。
ライナの左腕の袖から伸びたワイヤーの先端に短剣が接続されているのだが、今ライナがやっているのは袖から伸びたワイヤーを手元で操作し、短剣を頭頂部または顎下から叩き付ける、という攻撃だ。
一体どうやっているのかは不明だが、適当に振るっているように見える短剣は正確に怪物に刃を立てて振るわれており、斧で叩き割られたように怪物の頭部から脳漿が飛び散っている。
しかも、操が鞭を振るっている間に攻撃を行っている為、鞭とワイヤーが絡まない様に配慮もしているらしい。
操はそんなライナの途轍もない技量に驚くと同時に、これ程鍛え上げた技を持っているのに、普段はどうしてあんな風に適当感が溢れているのかと、少々納得出来ない心持ちになった。
しかし、とりあえず今は目の前の怪物の群れの掃討に集中するべきだと思い直し、鞭を振るいつつ前進を続けた。
「……後ろの群れからはある程度離れられたね!」
前方から怪物の群れが現われてから数分が経った所で、操は現在の自分達の立ち位置を改めて確認した。
前方の群れへの対処をする必要が発生した為、走って背後から迫って来る怪物の大集団から離れる事は出来なくなったが、前方集団の処理が滞りなく進んだ為、再び前進出来る位にはなっていた。
このまま行けば数を減らした怪物の間をすり抜けて、大水路の先へ再び一気に進む事も出来るようになるだろう。
「水路自体ももう少しで終わりな筈だ。 あとちょっとの辛抱だぞ!」
それぞれ武器を振るって怪物に応戦しながら言葉を交わす操とライナ。
後方に気を配りつつ、敵を倒し続ながら前進しなければいけない状況は精神的に負担が大きい。
それでも、もうすぐゴールだと考えれば疲労感も和らぐ気がした。
だが、花の怪物達の罠は、まだ終わりではなかった。
「……見えた! あそこを抜ければ地上に上がる階段が……うげっ!?」
怪物達の間から見える水路の終点に視線を向けたライナの口から、心底嫌そうな声が漏れた。
何事かと薄暗い水路の先へ操も目を向けると、そこには最悪の光景が広がっていた。
大水路の先、出口だとライナが言った場所には大きな扉があった。
それは、何処かの城の城門かと思いたくなるような重厚な物であり、今はそれが固く閉じられているのが遠目でもわかった。
更にそれだけならまだしも、その大扉を覆うように無数の『青い花』が蔦を伸ばして絡みついており、大扉と周囲の壁を取り込んでしまったかのような有様になっていた。
どう見てもそのまま扉を開けようとした所で簡単に開いてくれるとは思えない状態だ。
「完全に塞がってる……! このままじゃ袋のネズミだよ!」
「あいつら、それで向こうから押し寄せて来てんのかよ! 本当にあからさまに罠に嵌めようとしてやがるな!」
背後から迫る怪物達の大軍団は今もゆっくりと接近して来ている。
近付く速度は速くないが、何もしなければこのまま壁際に追い詰められてしまうだろう。
どうにかして扉を開けなければ……。
「ライナっ! また爆弾で何とかならない!?」
「流石にもう手持ちが無い! というか、あってもこれをふっ飛ばせる威力は無い!」
指令センターで怪物の群れを吹き飛ばした時のように出来ないかと考えた操はライナに尋ねてみるが、ライナの返答は期待通りとはいかなかった。
言われて操は、あの時の爆発は周囲にあった車両を巻き込んだ結果の大爆発だった事を思い出した。
そもそも、あの時のような爆発が起こせれば、確かに大扉は蔦ごと破壊出来るかもしれないが、この場でそんな事をすれば操達もタダでは済まないだろう。
(一気に吹き飛ばすのは無理……。 ならばせめて、周りの『青い花』がどうにか出来れば……)
そこまで考えて操は、扉を開く為のある方法を思い付く。
しかし、それを実行する為にはライナに確認しなければいけない事がある。
「ライナ! 爆弾はもう無いって言ってたけど、あれももう無い!?」
「あれ? あれって何だ?」
ライナに尋ねつつ、操は散弾銃を構えた。
残弾が少ない為ここまで温存して来たが、もうそんな事を言っている場合ではない。
恐らく、散弾をある程度近付いた状態で頭の花に撃ち込めば、『根腐れ』も一撃で倒す事が出来る筈だ。
また、『根腐れ』を倒すと同時に他の怪物も散弾で攻撃出来れば言う事無し……なのだが、操の銃の腕でそこまで出来るかわからない。
しかし……それでもやるしかないだろう。
「最初に『爆弾ガエル』と戦った時に使った、火炎瓶みたいな奴!」
ライナに花を焼き払ってもらう間、操が怪物の大群を食い止めておかなければならないのだから。
「花を焼き払うって言ったって、大扉はどうするんだ!?」
そう言いつつもライナは扉に絡みつく花の蔦に即席火炎瓶を仕掛けて行く。
火炎瓶の方はまだ手持ちがあるとの事で、まずは第一関門はクリアだが、一体何処にあんなに持っていたのだろうか……。
「そっちは蔦が無くなったらどうにか出来ると思う!」
そう叫びつつ操は両腕に『籠手』、両足に『足甲』を纏う。
『根腐れ』の消化液を防ぐ意味ももちろんあるが、群れの中には『木人』なども混じっている。
不意の攻撃を防御しつつ、攻撃も熟せるようにしておく必要があった。
本来なら『『根腐れ』』は距離を取って戦う必要があるが、今の状況ではあまり悠長にしてはいられない。
(ある程度のダメージは覚悟した方がいいよね……)
深呼吸をして覚悟を決めると、操は迫る怪物の群れに向かって走り出した。
「……ッッッ!!!」
背後から追い縋る怪物の群れの元にあっという間に到達した操は、左手から伸ばした鞭を渾身の力を込めて振り抜いた。
無言の気合と共に一閃された『荊の鞭』により、操達に向かって来ていた怪物の先頭集団が真っ二つになった。
上半身と下半身が泣き別れになった怪物は、当然その場に崩れ落ちる。
しかし、後続の怪物の群れは倒れた仲間には目もくれず、そのまま死体を踏み越えて操に接近を続けた。
一方操もその程度で群れの行進が止まるとは思っていない。
手を止めずにそのまま連続で鞭を怪物の群れに叩き付けた。
「ゲボェ゛!?」
「ボォ゛ェ゛!?」
「ギュバッ!?」
あちこちから怪物の断末魔が聞こえると共に、周囲に血飛沫が舞う。
荊に絡め取られ、肉を引き裂かれ、当たり所が悪かった者は体や四肢を削り取られて行く。
今の所、操の周囲には怪物達が殺到しているが一定の距離を間に挟んだ状態であり、怪物達は操に攻撃を仕掛ける事が出来ずにいた。
だがやはり圧倒的な数の差がある事には変わりなく、操の鞭の間合いの外、左右のスペースを通って怪物達が操を囲い込もうと動き出す。
そして、操の攻撃の隙を縫うように左右から同時に『根腐れ』が襲い掛かって来た。
「ホ゛ォ゛エ゛ェ゛ェ゛ッ!!」
「ホ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!!」
声を上げながら左右から掴み掛かろうとして来る『根腐れ』。
それに対して操は左の『根腐れ』に対して鞭を振るった。
鞭は『根腐れ』の足元を払うように振るわれ、そのまま『根腐れ』の両足を両断してしまう。
足を両断された『根腐れ』は操に近付こうとした勢いのまま、前のめりに倒れ込んだ。
「ホ゛ホ゛ホ゛ハ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!」
……と、左の『根腐れ』を対処している間に、右から接近して来ていた『根腐れ』が口から消化液らしき液体を滴らせながら迫って来た。
『根腐れ』は耐久力は高いが動きが遅い為、それ程苦労せずに攻撃を躱す事が出来る。
しかしその一方、攻撃方法が『花人』や『木人』と似ているという事が厄介だった。
動きが遅く耐久力が高いという特徴から連想しやすいように『根腐れ』は力が強い。
それ故に接近して掴み掛かろうとして来る事が多いのだが、『花人』などは単純に噛み付き攻撃な所『根腐れ』は消化液による攻撃を行うのだ。
操の『籠手』や『足甲』は単純な物理攻撃に強いのは確認済みだが、消化液のような攻撃に対してどれ程対抗出来るかは不明だ。
操は散弾銃を右手一本で構えると、迫る『根腐れ』の顔面に銃口を向けて躊躇なくトリガーを引いた。
轟音と共に放たれた散弾が、『根腐れ』の頭部ごと本体の花を粉砕し、辺りに砕けた『根腐れ』の肉片が飛び散る。
銃撃を受けた衝撃で仰向けに倒れて行く『根腐れ』だが、その背後から近寄ろうとしていた別の『根腐れ』も飛び散った散弾を幾らか受けたようで、あちこちから血を噴き出してよろめいている。
操はその隙を見逃さず、左側の『根腐れ』の集団を鞭で攻撃した勢いのまま、体を大きく回転させつつ右側から迫る怪物の集団に鞭を振るった。
散弾による流れ弾を受けてバランスを崩していた『根腐れ』とその周囲に集まりつつあった怪物の集団は、勢いを付けて振るわれた『荊の鞭』によって両断されて地面に転がった。
「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!」
「ッ!」
そこへ、正面の怪物の群れの中から『木人』が飛び出して来た。
鞭を振るった体勢の操を隙有りと見たのか、操に向けて枝槍を叩き付けようと腕を振りかぶる。
事実、右側の集団に向けて鞭を振るった状態から正面に向き直りながら鞭を振るったのでは間に合わないだろう。
右手に片手で保持している小型散弾銃も発砲直後である為、すぐには撃てない。
操の所持する小型散弾銃は、所謂ポンプアクション式である為、発砲した後は次弾を手動で装填しなくてはならないからだ。
しかし、操は散弾銃を左腕と交差するように構えると、そのまま『木人』に向けて発砲した。
「コ゛ケ゛ッ゛!?」
放たれた散弾は『木人』の頭を綺麗に粉砕し、絶命した『木人』の体は背後に吹き飛んで、背後に居た何体かの怪物達を巻き込みながら倒れた。
操の右手に握られた小型散弾銃には、良く見ると操の腕から伸びた蔦が絡み付いていた。
銃全体に巻き付くように伸びた蔦は、小型散弾銃の銃身下にあるフォアグリップ部分にも及んでおり、グリップ周りは特に多く蔦が巻き付いている。
そして、銃に巻き付いた蔦が生き物のように蠢くと、操が右手を動かす事なくフォアグリップ部分が前後にスライドし、次弾が装填された。
操は複数の怪物と出来る限り距離を取って戦うに当たって、『荊の鞭』と小型散弾銃を使用する事を決めていた。
しかし『荊の鞭』はともかく、散弾銃は銃自体の装填数が少なく、またポンプアクション式の銃である為に両手で操作する必要がある。
鞭で牽制しつつ小型散弾銃の散弾で仕留め、あわよくば散った散弾でも周囲の怪物にダメージを与えるか牽制を行う……というのが理想だが、両手が塞がってしまっていては鞭の牽制が出来ない。
そこで操は、以前病院の探索時に自分の体から生やした蔦を腕のように使用した事を思い出した。
正確には背中から伸ばした蔦で自分の体を持ち上げ、高所にあるダクトまで届かせたのだが、発想としてはあの時と同じだと考えたのだ。
つまり、右手から腕の代わりとして蔦を伸ばして銃を操作すれば良いのだ、と。
右から左へと、左腕を引き戻しつつ振るわれた鞭によって再び怪物の群れから肉片と血飛沫が舞う。
『根腐れ』と比べて身軽と言える『花人』や『木人』が『根腐れ』の間をすり抜け、群れの中から突出して来やすい関係上、鞭によって操は主にその二種の怪物を攻撃していた。
『花人』と『木人』の場合、蔦を束ねた殺傷力重視の形態の『荊の鞭』なら一撃で葬る事が出来る。
それに対して『根腐れ』は、鞭で一撃で倒せない場合がある為、『花人』達を処理した後に固まっている所を小型散弾銃の銃撃で複数体を巻き込むように処理していた。
本来、散弾銃は複数の標的を同時に攻撃するような武器ではないが、操は無理矢理に『根腐れ』本体の花を散弾の拡散範囲に収める事で2、3体の『根腐れ』を同時に仕留めていた。
本来であれば、素人に毛が生えた程度の射撃の腕しか持たない操にはそのような芸当は不可能だ。
しかし、この場を怪物達に突破されてしまえば終わりだという後の無さ故に、今まで以上に操の身体能力は『花』の力によって向上していた。
左手で『荊の鞭』を操作して『花人』や『木人』を倒しつつ、右手で小型散弾銃を発砲して、『根腐れ』を1弾で出来るだけ多く仕留める。
その発砲で弾切れとなった小型散弾銃を後方に伸ばすと、背中から伸びた2本の蔦がポーチから小型散弾銃の予備弾を取り出して銃に装填して行く。
実際に操が手動で行った場合に比べると、若干ぎこちない動きだが、小型散弾銃の最大装弾数は3発なので装填完了までそれ程時間もかからなかった。
そして、小型散弾銃への再装填が完了すると同時にフォアグリップが前に押し出され、次弾が装填されて発砲が可能な状態となる。
次の瞬間には操は、『根腐れ』からの消化液攻撃を体を捻って回避しつつ、散弾銃による銃撃を『根腐れ』に叩き込んだ。
頭部の花が砕け散り仰向けに倒れて行く『根腐れ』。
その背後に居た別の『根腐れ』も頭部の花の半分ほどを散弾によって粉砕され、よろめきながら倒れて行った。
「はぁっっ……!!!」
息を吐き出しながら身を捻り、鞭を振るいつつ散弾銃による銃撃と再装填を繰り返す操。
銃撃で『根腐れ』を押さえ切れそうにない時には、足元を鞭で払って足止めをする事で時間を稼ぎ、時には『花人』や『木人』の頭部を『足甲』を纏った蹴りで砕いて倒していた。
変わらず押し寄せて来る怪物の大群を前に、操は神経を限界まで研ぎ澄ませ、持てる手段の全てを用いて怪物の群れを押し留めている。
しかし、このまま大軍を食い止め続けるのも流石に限界だった。
(……ッ!? 弾が……!)
元々残弾が少なかった散弾銃の弾がついに尽きた。
一撃で確実に『根腐れ』を倒す手段が失われた事に、操は一瞬体を硬直させてしまう。
そして、その一瞬の隙を怪物達は見逃さなかった。
「イ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!!!」
「ぐっ!?」
横合から放たれた『木人』の攻撃を、操は体を後ろに倒すようにして何とか躱す。
しかし、最も近くに居た『根腐れ』がその隙を突き、よろめくようにして操に迫って来た。
「ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!」
(…………不味いっ!!)
接近して来た『根腐れ』は、当然の如く消化液を操に吐き掛けようとしている。
体勢を崩した状態の操には、その攻撃を躱す余裕は無い。
このままでは、もろに消化液を浴びる事になってしまう。
操は少しでもダメージを軽減するべく咄嗟に両腕で体を覆った。
当然体の全てを守り切れている訳ではないが、何もしないよりはマシだろう。
「ウ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!」
「あ、ぐぅぅぅっっ!!??」
容赦なく浴びせ掛けられた消化液が操の体を焼いた。
咄嗟に腕で庇った顔や胸部は『籠手』で覆われた両腕に消化液が遮られ、それ程ダメージは受けずに済んだ。
しかし、両腕で庇い切れなかった腹部や太腿の部分は、思い切り消化液を浴びてしまった。
ジュゥゥッ! と肉が焼ける音が聞こえ、白い煙が上がる。
激痛に一瞬視界が霞む操。
「操!?」
しかしその時、背後から即席火炎瓶を仕掛ける作業を続けていたライナの声が聞こえ、何とか意識を保つ事が出来た。
(……ッ駄目……! ここを通すわけにはいかない……!)
歯を食いしばって痛みに耐え、消化液を浴びせて来た『根腐れ』を睨み付けると、渾身の力を込めた上段蹴りを相手の頭部に叩き込んだ。
『足甲』を纏った状態での蹴りをもろに喰らい、『根腐れ』の頭部が本体の花ごと砕け散る。
「イ゛イ゛イ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!」
「くっ!」
しかしそこへ、先程横槍を入れて来た『木人』が再び腕を振り上げて襲い掛かって来た。
しならせた枝槍の腕を振るい、操の体に叩き付けようとする。
今度は体勢を崩さずに『木人』の攻撃を躱す事が出来た操だったが、そこでまたしても予想外の事が起こる。
「あっ…………!?」
『木人』の攻撃をバックステップする形で躱した操だったが、その際に『木人』の枝の一部が操が持つ小型散弾銃と接触してしまったのだ。
更に、散弾銃を持ち運ぶ為に装着していたスリングにも鋭い枝が掠ったようで、『木人』の攻撃と共にスリングが切れ、小型散弾銃はあらぬ方向へ弾き飛ばされてしまった。
(しまった……! さっきの消化液がスリングにも掛かってたんだ。 脆くなってたから枝で……!)
操がそう思考している間に床に転がった散弾銃は、怪物の大群の波の中に消えて行った。
ああなっては回収は不可能だろう。
そう考え至ると同時に、操は右手から『荊の剣』を生成した。
散弾銃による距離を保った一撃必殺が行えなくなった以上、消化液攻撃を躱しつつ『荊の剣』で『根腐れ』を倒して行くしかない。
(左手に『荊の鞭』、右手に『荊の剣』…………これでやるしかない。 距離を取りつつ、囲まれないように……!)
ある程度の被弾は避けられないだろうが、時間を掛けて戦えばすぐに囲まれてしまうだろう。
操は覚悟を決めた。
手近に居た、先程攻撃を仕掛けて来た『木人』を一刀のもとに斬り伏せると、背後にいるライナに呼び掛けた。
「ライナ! こっちは大丈夫だから、蔦の除去の方に集中して!」
操のそんな言葉にライナは一瞬躊躇するような素振りを見せたが、言葉を交わして時間を消費するべきではないと判断したのか、すぐに着火作業へ戻って行った。
再び鞭を振るって『木人』と『花人』を中心に倒しつつ、可能な限り距離を取り、『根腐れ』の頭部の花を刎ねて行く。
唸り声を上げつつ消化液を吐き出し、時には掴み掛かって来ようとする『根腐れ』。
操は『根腐れ』に攻撃される度に身を捻って消化液を躱し、剣でカウンターを叩き込んで1体ずつ『根腐れ』を仕留める、という動きを基本として対処して行った。
しかし、当然ではあるが『根腐れ』側は1体ずつ襲い掛かって来てくれるわけもなく、操が1体を対処している間に隙をついて同時攻撃を仕掛けて来る事すらある。
その度に操は攻撃と回避を同時に行う必要がある上、鞭による攻撃で数を減らしているとはいえ『木人』や『『花人』』も横槍を入れて来る。
一歩間違えば組み付かれて身動きを封じられて、『根腐れ』に消化液で全身を焼かれ、『木人』に串刺しにされ、『花人』に食らい付かれる事になるだろう。
(ッ……やっぱり無傷とはいかないか……!)
そんなギリギリの極限状態で意識を集中し、何とか怪物の群れを食い止めていた操だが、飛び散った消化液が体に付着したり、『木人』の枝槍が掠ったりと、僅かずつ傷を負っていた。
最初に『根腐れ』の消化液を浴びて焼かれてしまった腹部と左太腿部分は既に傷は治癒している。
同様に怪物の攻撃によって付いた掠り傷の類も瞬く間に完治していた。
しかし、あまりに多くの傷を負ってしまうと流石に不味い。
(病院で戦った時にも傷は治ったけど、消耗しすぎて気を失った…………多分、再生能力にも限度があるんだ)
病院で行った異形の怪物との戦闘ではかなりの重傷を負ったが、それでもその場で傷を治癒した上で、戦闘を継続出来る程に回復する事が出来ていた。
だが戦闘後、消耗が激しかった為か、操は暫く意識を失ってしまったのだ。
それを考えると僅かとはいえ、ダメージが蓄積して行けば身動きが取れない状態になってしまうかもしれない。
現状では怪物達を食い止められてはいるが、そのような状況になる前に何らかの打開策を考える必要がある。
……と、操が思考を巡らせつつ、怪物の群れの対処に苦慮していると、怪物側の動きに変化があった。
「グロロロロォォォォォォッッッッ!!!!」
「!?」
「げっ!? 居るのかよ!」
突然聞こえて来たその咆哮は、操とライナにとって現状一番出会いたくない怪物の声だった。
指令センターで戦った『爆弾ガエル』だ。
(不味い……! こんな狭い場所で自爆なんかされたら……!)
指令センターで戦った時は室内とはいえ、広いホール状の場所だった。
その後に別個体と遭遇した際には完全に屋外での戦闘だった為、周囲は広く、また遮蔽物も幾らか存在していた。
しかし、操達が今居る大水路は他の水路に比べて広いとはいえ、屋外やホールに比べれば狭く遮蔽物のような物も無い。
こんな所で自爆などされれば、操どころか後方にいるライナも危険だ。
そもそも、あの怪物は巨体に任せた突進攻撃や『根腐れ』の消化液と同じような溶解液を用いた面攻撃も得意としている。
自爆されなかったとしても、戦闘に加わられるだけで操は怪物の大群を押し留めておけないだろう。
(今の状況でもこの数を相手にするので手一杯……これ以上は……!)
群がって来る怪物達と戦闘を繰り広げながら後方のライナの方に一瞬目を向けると、まだ着火装置の準備には少し掛かりそうだ。
このままでは怪物を止められない。
しかし、何としてでもここで怪物の大群を食い止めなければ、操達がこの場所から脱出する事は叶わない。
操は生き残りを賭けて必死に打開策を考えた。
極限状態で意識を集中したせいか、操は以前にも体験した周囲の時間の流れが極端に遅くなって見える現象に再び見舞われる。
これも花の力の影響なのだろうと操は何となく考えていたが、操の意識に反応して思考速度が加速しているせいではないかと操は感じた。
(あの爆弾ガエルは倒した後にも自爆する……自爆する前に完全に息の根を…………ううん、自爆する瞬間に他の怪物の群れの向こうに投げ飛ばして、怪物達を盾に…………)
様々な案が頭に浮かぶがどれも確実性に欠ける。
指令センターで最初に遭遇した時と違い花の能力が使える為、倒す事自体は問題ではない。
だが、やはり自爆攻撃が厄介だった。
恐らくあの怪物は周りに存在する自分の同族の事など一切斟酌せずに自爆するだろう。
一旦自爆されてしまえばそれだけで操達が被るダメージは深刻な物となる。
それ故に操が取れる爆弾ガエルへの対処法は、「自爆攻撃をさせない」か「自爆攻撃を躱す」だが、どちらも問題があった。
「自爆させない」、は爆弾ガエルが自分の意思で自爆するかどうかがはっきりしていないという点でリスクがある。
本体の花を潰せば自爆せずに倒す事が出来るのは、指令センター前での戦闘時に確認済みではある。
だが仮に、爆弾ガエルが能動的に自爆する事が出来るとすると、この場面では確実に自爆戦法で来るだろう。
だとすれば、操が爆弾ガエルを仕留める前に自爆されてしまえばそれまでだ。
そして「自爆攻撃を躱す」、はそもそも問題の解決にならない。
自爆攻撃を操だけが躱しても意味がないのだ。
(近付いて倒すのは確実とは言えない。 自爆攻撃を躱すのは駄目……そもそも躱す事が出来るかも…………ん?躱す?)
その時、思考の迷路に嵌まりそうになった操の脳裏に、あるアイデアが閃いた。
(…………そっか、「躱さなければいい」んだ)
「ク゛ケ゛ロ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッッッッ!!!!!」
水路の奥、怪物の群れの先頭集団の向こうに、進路上の怪物達を跳ね飛ばしながら突進して来ている爆弾ガエルが見えて来た。
その姿は、体中に出来た瘤から溶解液を滴らせ、今にも爆発しそうな様子を見せている。
「ライナ! 私の後ろに居て!」
操はそう叫ぶと、ライナからの返答を待たずに怪物の群れから若干下がって距離を取ると、その場で両腕を広げた。
そして、意識を集中すると、腕を覆っている『籠手』に青い光……花の力が流れ込むようなイメージを強く思い描く。
(両腕の『籠手』に『大きく』、『強く』、『頑丈』な『変化』を……!)
操がそう強く頭の中で意識すると、途端に『籠手』に変化が現われた。
操の肘から先を覆う形だった『籠手』は、操が意識した瞬間、その形状をより大きな物へと変えて行った。
『籠手』が覆っていた前腕部は先端に向かう程太く肥大化し、丸太のような太さへと変貌する。
更に、植物装甲に覆われていた指先も腕に合わせるように太く大きく変化して行き、やがて巨大な鉤爪のような形状になった。
腕全体の変化に伴って指の本数が5本から4本に減っており、その分1本毎の太さが更に増している。
全体的な見た目としては『籠手』が巨大化、手の甲まで一体型の装甲で覆われ、爪と一体化したような指に変化した形だが、肘から先を覆っていた植物装甲が二の腕の半ば辺りまで広がっている。
そして、巨大化した腕の表面からは無数の蔦が生じ、蔦には青く光る花が咲き誇っていた。
その姿はかなり人間離れしており、今まで以上に体を青い花に浸食されているような感覚を操は覚える。
しかし、状況を打破する為に操が望んだ姿その物でもあった。
「ケ゛コ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッッ!!!!」
周囲の怪物を跳ね飛ばし、押し潰しながら操目掛けて突進して来る爆弾ガエル。
操は迫り来るその巨躯を正面に捉えると、巨大化した右手の拳を握り締める。
引き絞るように右手を振りかぶり、狙いを定めると……。
「ふッッ!!」
力任せに拳を爆弾ガエルへ叩き付けた。
「グギャバッッッ!!!???」
飛び込んで来た爆弾ガエルにカウンター気味に叩き込まれた操の拳の一撃は、床ごと爆弾ガエルの頭を粉砕する。
巨大化した拳の一撃は、床にクレーターが出来る程の破壊力を伴っており、砕け散った床の素材が周囲に飛び散り、少なくない数の怪物がその餌食となった。
……と、一撃で頭部を粉砕された爆弾ガエルはその時点で活動を停止していたが、操の眼は爆弾ガエルの体に流れる青い光が急速に一点に収束しつつあるのを捉える。
その時点で操は巨大化した両腕で自分の体を包み込むようにすると、後方に居るはずのライナに向けて再度叫んだ。
「伏せて!ライナ!」
次の瞬間、操の予想通り爆弾ガエルは体を歪に膨らませると、すぐさま自爆した。
爆発音が響き渡り周囲に肉片や溶解液の飛沫、骨の破片等が銃弾の如く飛び散り、その場に存在する者に無差別に襲い掛かる。
操は自身の巨腕で体を守りつつ、床に片膝を付いて身を低くしてその場に踏ん張り、この後襲い掛かって来るであろう衝撃に備えた。
「……ッッッ!!!」
飛び散った爆弾ガエルの無数の破片が、巨腕と化した操の両腕に着弾する。
以前、指令センターでこの怪物に自爆された時よりも爆発の威力が大きいと操は感じていた。
爆発自体の規模も本物の爆弾のように広範囲に及んでいる上に、飛び散る破片の量も増えている気がする。
恐らく操達を纏めて始末する為に「強化種」のような個体を送り込んで来たのだろう。
考えてみると、以前遭遇した爆弾ガエル達よりも体が大きかったように思える。
だが、そんな「強化種」の自爆攻撃を操の巨腕を用いた『盾』は問題なく防いでいた。
自爆によって飛び散った礫の嵐は、操の背後には欠片も届いていない。
自爆の効果範囲に晒された両腕の表面には、飛び散った破片がいくつも突き刺さっていたが、操にはほぼダメージは無かった。
巨腕となった両腕は通常の『籠手』の時に比べても分厚い装甲に覆われているようで、攻撃を受け止めた際に『籠手』の時には感じていた僅かな痛みも感じなかった。
「ウ゛オ゛ォ゛ォ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッッッッ!!!!!」
「ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッッッッ!!!!!」
「自爆戦法」が失敗した為か、周囲の生き残っている怪物が操に殺到して来る。
群れの後方からは追加の怪物がさらに押し寄せており、再度物量作戦で攻めて来たようだ。
操は防御を解くと前方を見据える。
両腕の感覚を確かめるように拳を閉じたり開いたりしながら、体勢を低くして身構えた。
「うぇっぷ……爆発の規模デカすぎだろ…………操!大丈夫か!?」
後方からライナの声が聞こえて来る。
どうやら無事に守り切れたらしい。
「うん大丈夫! そっちも平気!?」
「ああ、心配ない! 仕掛けの方もあとちょっとだけど、行けるか?」
ライナの声に操は前方から迫る怪物の大群の『気配』を探る。
途端に操の脳裏に無数の青い光が駆け巡り、怪物の大群の情報を操に齎す。
「……さっきの爆弾ガエルは少し特殊な奴だったみたいだけど、あいつみたいなのは今のところ見当たらないから、多分大丈夫!」
爆発の威力と範囲が強力になったあの爆弾ガエルが複数襲って来るのでは、と警戒したが、どうやらそう何匹もいるわけでは無いらしい。
だとすれば残るは『根腐れ』、『木人』、『花人』だけであり、一気に戦況を悪化させる可能性がある相手は居ない。
……と言っても、数の差がある事には変わりなく、それに関してはどうしようもないのだが。
「ふぅ……」
操は深呼吸すると、眼前に迫る怪物の群れを睨み付ける。
そして、更に体勢を低くして巨大化した両手を床に付けると、そのまま床の石畳に鉤爪を突き立てた。
全身を引き絞るようにしながら床を踏み締め、手足に力を込めて行く。
「ウ゛ェ゛ェ゛ェ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!」
やがて、怪物の先頭集団に居る『根腐れ』の表情が認識出来る程接近して来た所で……。
「ッッッ!!!!」
操は全身に溜め込んだ力を一気に開放し、石畳を踏み砕き、弾丸の如く怪物の大群に向けて飛び出した。
「……はあッ!!」
怪物の群れの先頭集団に飛び掛かった操は、右手の鉤爪を横薙ぎに振り払った。
爪そのものには『荊の剣』や『荊の鞭』のように棘が生えている訳ではなく、ましてや刃が付いている訳でもない。
しかし、先端が鋭利に尖った爪による一撃は、大型の獣の爪で引っ掻かれるのと同じ効果を発揮し、先頭集団の怪物達の頭部を本体の花ごと引きちぎった。
『!!!???』
悲鳴を上げる事も出来ずに倒れて行く怪物を尻目に、操は近場に居る怪物達へ再び猛獣のように躍り掛かる。
「ッ!!!」
「ビャッ!!!??」
操の動きに反応して1体の『木人』が操を迎え撃とうとするが、圧倒的に操の方が早い。
左手の爪を頭上から容赦なく叩き付けられ、『木人』が地面の染みに変わる。
最早、『木人』の蔦の装甲は何の用も成していない。
爪で装甲を切り裂かれ、装甲ごと体の前面の肉が削ぎ取られてしまっている。
続け様に操は右手の爪を下から掬い上げる様に振るい、接近して来ていた『根腐れ』に爪を突き立てた。
「オボォォ!!!?」
「せっ……りゃあ!!!」
そしてその勢いのまま、腕力に任せて『根腐れ』を頭上高く投げ飛ばした。
投げ飛ばされた『根腐れ』はそのまま後方の怪物の集団の頭上に落下し、何体かの怪物を押し潰してしまったようだ。
そのせいで若干ではあるが、怪物の大群の動きがやや緩まる。
操はそれを好機と捉えた。
「はああああッッッ!!!」
動きがほんの少し遅くなった怪物の集団目掛けて、操が再び襲い掛かる。
両手の爪で複数の怪物を一気に引き裂き、叩き潰して肉塊に変えて行く。
側面から回り込んで操に攻撃しようとする者も居たが、そもそも盾の様に扱える腕の側から攻撃しても即座に攻撃を防がれてしまい、逆に巨腕による裏拳でカウンターを叩き込まれて壁の染みとなった。
操の変化した巨大な鉤爪付きの両腕は攻撃と防御を両立出来るのも優秀だったが、何よりその怪力を両腕で素早く振るう事が出来るという事が脅威だった。
相手の攻撃を全く受け付けず、爪で引き裂き、拳で叩き潰し、怪力で握り潰した挙句に投げ飛ばす。
先程まで操を追い詰めていた怪物の群れが、草が刈り取られるかのように数を減らし、周囲に屍を積み上げて行く。
ただ殴り付けるだけでも相手を数メートル吹き飛ばすような破壊力を発揮する巨腕による攻撃は、複数の敵に囲まれた今の状況に、この上なく合致していた。
「……よし、これで完成だ! 操!準備出来たぞ!」
怪物の群れを蹂躙していた操は背後から聞こえたライナの声に振り返った。
見れば、出口の大扉を塞いでいる『青い花』の蔦に等間隔で小さな機械のような物が設置されている。
操には良く分からないが、あれで蔦を除去出来るようだ。
「構わず起爆して!」
叫ぶ操にライナは頷くと、若干大扉から距離を取った後手に持った起爆スイッチを躊躇なく押した。
ボンッ
爆弾が爆発した音だとすれば、やや頼りない破裂音が水路内に響き渡る。
と同時に、蔦に覆われている壁面全体に勢いよく炎が広がった。
一気に燃え広がった炎によって、水路内が明るく照らされる。
一応怪物達も視覚に頼っている存在である為か、その急激な明るさの変化に僅かに群れ全体が怯んだような様子を見せた。
その瞬間、操は巨大化した両腕から無数の『荊の鞭』を伸ばし、群れの先頭に居る怪物達に絡み付かせた。
蔦と蔦、怪物と蔦が絡み合って後方からやって来る別の怪物達の進路を妨害する形となり、一時的にではあるが怪物の大群の歩みを止める事に成功する。
その様子を確認すると操はライナの元に素早く走り寄った。
「ライナ! 少しの間で良いからあいつらを食い止めておける!?」
「え? お、おう、あの怪物共か? まあ平気だと思うけど……」
捲し立てる様に詰め寄る操にライナは少々面食らった様子を見せる。
しかし、チラリと蔦が絡まってもがいている怪物の群れに視線を向けると、普通に考えれば無理難題と言える操の要求にあっさり応えた。
「こっち側に近付けなきゃ良いんだよな?」
「うん! 私が扉を破壊するまでお願い!」
言うが早いか操は大扉へ向けて走る。
そして、巨大化した両腕の鉤爪を扉に突き立てた。
ガギギッ!
鋼鉄製の扉は流石に頑丈であり、操の爪でも貫く事は出来なかったが、元より扉全体を破壊するつもりはない。
操が狙っているのは扉を力づくで押し開ける事だ。
(扉の感じからして、予想通り向こう側からかんぬきが掛けられている感じがする。 それをこちら側から無理やり押し開ければ……!)
要するにかんぬきをへし折ってしまおうという事だが、扉は思ったよりも頑丈らしくあっという間に破壊する、という事にはならなかった。
ギィイ!という耳をつんざく金属音が響くが、扉を開くまでには至らない。
(急がないと……! ライナ一人にあの大群をずっと相手させるわけにはいかない!)
操がそのようにライナの身を案じていると、不意に背後でライナの声と共に妙な音が聞こえた。
「よいしょ」
ギギギギッ
「え?」
思わず後ろを振り返る操。
するとそこには、水路の支流と大水路を隔てる鉄格子の内の一本を両手で持ち、体重を掛けてへし折っているライナの姿があった。
ベキンッ!
やがてそのような音と共に完全に鉄格子が切り離される。
「よし…………んじゃ、やるか」
ライナは折れた鉄格子を手に取り何度か素振りをする様に振り回すと、納得した様に頷いて怪物の群れの方に歩いて行った。
ライナの前方には絡み付いた蔦から今にも抜け出せそうな『花人』が居る。
「ヴェアアアアアッッッ!!!」
と、ライナが接近して来た事に興奮した為か、暴れ出した『花人』が不意に蔦から飛び出しライナに襲い掛かる。
「あーはいはい、近寄るなって」
しかし、ライナに掴み掛からんと両手を広げて走り寄った『花人』は…………数歩歩いた所で脳天を鉄格子で貫かれた。
声も無く絶命した『花人』を、手に持っている折れた鉄格子を振るって地面に放ると、ライナは力を抜いた体勢で身構えた。
途端、絡み付いた蔦が千切れたのか、怪物の大群が再び動き出した。
「ホ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッッッッ!!!!」
「ヴヴァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッッ!!!!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ッッッッ!!!!」
唸り声を上げて襲い掛かる怪物達に対して、ライナは無表情で折れた鉄格子を振るった。
ヒュオンッという質量がある物体が風を切る音が響き、鈍色の物体が上下左右から怪物に襲い掛かる。
「ボビュ!!?」
「ギピャ!!?」
「ベピュ!!?」
ライナは折れた鉄格子を棒術の演武のように回転させて振り回し、怪物達を打ち据えて行った。
「順番に殺ってやるから慌てんなよー」
打ち据える、とは言ったが、実際の怪物達の様子はそんな生易しい物ではない。
『花人』は脳天を叩き潰され、『木人』は顔面を突き通され、『根腐れ』は首を跳ね飛ばされていた。
棒状の金属で、水死体とはいえ人間サイズの生物の首を刎ねるという事は、それだけの速度とパワーでもって振るわれているという事だ。
そんな威力の攻撃を折れた鉄格子を用いて無慈悲に叩き付けながら、ライナは怪物達を屠っていた。
時には怪物の足を払い、転倒した怪物を障害物として用いて後続の進行を妨害したり、その際に隙を見せた怪物を鉄格子で突き殺したり……と、巨大な鉤爪を用いていた操と遜色ない戦闘を繰り広げて行く。
ライナのそんな様子を、大扉の破壊を続けながら操は呆れつつ見ていた。
操も、余所見はしつつも爪を突き立てた扉に力を籠め続けているのだが、予想以上に大扉の強度が高く梃子摺っていた。
水路が水で満たされた際、水圧に負けない程の強度を求めて作られた扉と考えれば頑丈なのも納得ではある。
しかし、操達が置かれている現状を打破する為には厄介極まりない「最後の敵」なのだった。
(まさか、最後に立ちはだかるのが怪物じゃなくて、人間が作った物だなんてね……)
散々この街の施設や人間には振り回されて来たが、この土壇場と言える状況において最悪の形で再び操の前に現われた人間の敵。
今更何を感じる訳もないと思っていた操だったが、実際に眼前に障害として現れると、思っていたのとは違う感情が胸の内に湧き上がって来た。
「…………いい加減にしてよね……!」
大扉をこじ開けるべく全力を振り絞っていた操は、湧き上がって来た怒りの感情に思考を支配された。
この街の人間がしっかりと管理を行っていれば、これ程自分やライナが苦労する必要は無かったのだ。
背後から迫る怪物の大群も、この大水路も何の問題も無く躱して目的地に到着していた筈なのだ。
そう考え至った操は、間違いなく限界まで発揮していた筈の扉に籠める力が突如更に強くなったのを感じた。
操の怒りの感情に『青い花』が呼応して限界以上のパワーを引き出したのか、扉から聞こえる金属音が大きさを増し、メキメキという音に変わって来た。
なぜそういった現象が起きたのかは不明だったが、操はあえて細かく考える事はせず、このチャンスを生かすべく自身の感情に身を委ねた。
「せっ…………りゃあああああああああああああ!!!!!!」
怒りの感情のままに両腕に力を籠め、爪を立てた大扉を押し開けて行く。
メキメキという金属音はやがてベキベキという音に変わって行き、徐々に外側へひしゃげる様に扉が開いて行く。
僅かに開いた隙間からは向こう側の景色と共に、かなりの太さの金属部品が隙間を横切るような形で見えて来た。
恐らくこれが扉を封鎖しているかんぬきなのだろう。
操は最早こじ開けるのではなく扉を完全に破壊するつもりで持てる力の全てを両腕に籠めていた。
それ故に扉とその周囲から聞こえるベキベキという破壊音に直前まで気が付かなかった。
……そして同時に、周辺の壁に無数の亀裂が走り、それが一気に広がった事も。
「……あああああああ!!! …………えっ!? う、うわっ!?」
ボゴォンッ!! という大きな音と共に、大扉が周辺の壁ごと外側に外れた。
どうやら、扉が頑丈すぎて周囲の壁の方が耐えられなかったらしい。
頑丈なコンクリート製と思われる分厚い壁が、引きちぎられるように破壊されている。
操としても想定外な突破の仕方に唖然としてしまう。
だが、すぐに自分達が置かれている状況を思い出し、両手の爪に刺さった大扉(壁付き)を扉の外側に投げ捨てた。
扉の外は竪穴のようになっており、金属製の螺旋階段が上まで続いている。
そして穴の上部からは、久しく見ていない気さえする地上の光が差し込んでいた。
「ライナ! 扉が開いた! 逃げられるよ!」
操はあらん限りの声を張り上げライナに叫ぶ。
道が開けたのであればこの場所に留まる理由は無い。
速やかにこの場を離れなくてはならない。
「おっしゃ! さっさとこんな場所からはおさらばしようぜ!」
そう言いながらライナは、折れた鉄格子を横薙ぎに振るって近くにいた怪物達を吹き飛ばし、操のいる方へ走った。
しかし周囲には無数の怪物の死体が転がっているが、相変わらず怪物の大群は水路の奥から押し寄せて来ている。
このまま追って来られては水路の外に怪物が溢れてしまう。
「階段で上に!」
操はそう叫ぶと、先程投げ捨てた壁の一部がくっついた状態の大扉を両手で持ち上げた。
「でやあああっっ!!!」
そして、破壊された扉が元々あった場所に、怪物達との間を遮るようにして叩き付ける。
轟音と共に地響きが鳴り、見た目の上では先程封鎖されていた時と同様の姿となった。
しかし当然の事ながら、大群で押し寄せる怪物の群れが雪崩れ込んで来れば、無理矢理はめ込んだだけの扉などすぐに押し倒されてしまうだろう。
だが操もそんな事は百も承知だ。
(貯水池でやった時のように……!)
操は両手を扉に付いたまま、腕から無数の蔦を生じさせる。
先程、貯水池で『根腐れ』の群れから逃れる際に蔦を通路に張り巡らせて『根腐れ』の追跡を撒いた。
あの時と同じ様に、そしてこの大扉を封じていた花の蔦の様に、扉と壁を自身の蔦で封鎖してしまおうと操は考えたのだ。
「……くっ…………ああああああああっっっ!!!」
操が苦悶の表情を浮かべながら声を上げる。
貯水池の時と同じく、しかし桁違いの量の蔦を扉と壁に絡み付かせるように広げて行く。
驚異的な勢いで成長して行く大小様々な蔦が、壁に根を張り一見すると血管の様にも見える形で壁と扉を包み込む。
蔦のあちこちには青く輝く花が無数に咲き乱れ、まるで蔦と花で作った壁画のようになっている。
やがて壁一面が青緑色の蔦で埋め尽くされる頃になると、内側から怪物の群れがどれだけ押し破ろうとしてもびくともしない強度を持った植物の壁が出来上がっていた。
「はあ……はあ……はあ…………」
「お、おい操、大丈夫か?」
ライナが心配そうに声を掛けて来る。
操は大丈夫だと答えたかったが、自分でもあまり大丈夫ではなさそうだと自覚せざるを得なかった。
ふと視線を向けると、先程まで丸太のように巨大な腕と化していた両腕が、まるで萎んで行くかのように元の大きさに戻って行っていた。
4本になっていた指の数も元に戻り、『籠手』を纏った状態も解除されている。
「流石に……ちょっと、消耗しちゃったかな…………。 前みたいに気を失う程じゃないと思うけど……」
病院での戦闘では戦闘終了直後に操の意思とは無関係に意識を失ってしまった。
それを考えると、あの時よりは遥かにマシだが……だからと言って全く問題無い訳ではない。
「……歩く位なら問題ないから、早くここを離れよう。 この壁もいつまで持つか分からないし……」
二人が会話をしている間も、植物の壁の向こうから扉をガンガンと叩く様な音と無数の怪物達の声が聞こえて来ている。
あれだけの数の怪物が殺到して破られていない以上、すぐにどうにかなる訳ではないだろうが、いつまでも壁が持つとも思えない。
さっさと移動してしまう方が良いだろう。
「そこの螺旋階段を登った先から光が見えるから、早く……わひゃ!?」
ライナに脱出を促そうとした所で、操は突然体が宙に浮くような感覚を覚えた。
突然の事に混乱して妙な声が漏れてしまう。
「よくわかんないけど、体力的に消耗してる事には変わりないんだろ? 無理すんなって」
そう操に声を掛けたライナは操の背中に手を回し、両膝の裏に手を入れて操をひょいと持ち上げ横抱きにした。
所謂「お姫様抱っこ」の体勢だ。
「え?え?え? ラ、ライナ? あの、こ、これは?」
急なライナの行動に頭が追い付かず、操は混乱した様子でライナに尋ねる。
「うん? ああ、しっかり掴まってろよ。 このまま上まで行くからな」
「ええええええ」
操の返事を待たず、ライナは操を横抱きにしたまま螺旋階段を軽やかに駆け抜ける。
人一人抱えているとは思えないスピードで進んで行くライナに抱きかかえられたまま、操は借りてきた猫の様に大人しく運ばれて行った。
その顔が耳まで紅潮していたのは、幸いにしてライナに気付かれる事は無かったのだった。
2万文字超えちゃった……(´・ω・`)




