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38 群がる亡者


「ッ……このっ!!」


悪態を吐きながら操は『荊の鞭』を振るう。


調整池の中央部分を横断する通路を駆け抜けつつ、殺到する水死体の怪物達を屠って行く。


「ホ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛………………」


「ホ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛…………」


水死体達は花人や木人に比べるとスピードだけではなく、攻撃に対する反応も鈍かった。


その為操が放った攻撃は鞭にしろ銃にしろ、全ての攻撃が水死体達に叩き込まれている。


しかし、攻撃を受けた怪物達は、腕がもげ体を大きく引き裂かれて血を撒き散らしているが、呻き声を上げつつもしぶとく操に歩み寄って来る。


何体かは操の攻撃で倒れてはいるが、怪物達の攻撃方法が口から吐き出す酸である為、ある程度距離を取りながら戦わないと危険だ。


そう言った理由から操は、この怪物に対して最も効果的と思われる近距離からの剣による攻撃ではなく、中距離からの鞭攻撃を中心に応戦していた。


(けど、威力重視の鞭だとそこまで細かい動きは出来ないから、乱戦の中で複数の本体をピンポイントで狙うのは難しい……)


本体の花以外の場所、宿主である水死体部分は、腐敗して膨れ上がっている分攻撃の効果が薄いらしい。


必然的に最も確実な本体への攻撃方法は拳銃(ハンドガン)による銃撃になるのだが、こちらは当然ながら弾数に限りがある。


総じて操にとってこの水死体の怪物は、極めて戦い辛い相手と言えた。


「ホ゛ェェェェェェェェェ!!!!」


「くっ! もうっ! やり辛いし、鞭が酸で焼けて痛いし……!」


操の体から伸びる『荊の鞭』は操の体の一部であるが故に、痛覚などの感覚もある程度繋がっている。


操の体その物と同程度ではないとはいえ、怪物が吐き出す酸を受けて鞭が焼かれる度に操は痛みを感じてしまっていた。


焼かれた部分を切り離してしまえば痛みは感じない。


しかし、攻撃を受ける度に体の一部を切り離すのは体に悪影響が出るという事を、感覚的に操は理解していた。


その為、両手で鞭を振るって一度に怪物達を薙ぎ払うような事が出来ず、1、2体を処理しては距離を取るようにしながら通路の先を目指して進んでいる。


幸い、水死体のように体が膨れ上がった怪物達は移動速度も遅い為、一定の距離を保って戦闘を行う事は出来ていたが、体格の大きな複数の怪物がのそのそと迫って来る光景は操に圧迫感を齎していた。


(このまま調整池を渡り切った先に目的の小部屋があるけど……この大行列を連れて行くわけにはいかないよね)


調整池の上部に渡って設置されている通路を渡り切る直前、操の脳裏に怪物の群れへの対処法としてある考えが浮かんだ。


思い付いた方法を実行に移すべく、目的地方面へ続いている水路へ走る。


そして水路内に駆け込むと、壁に両手をついて意識を集中した。


(壁を覆うように……!)


操が頭でそう思い浮かべた直後、操の両腕から無数の蔦が生じ、壁を伝って一気に水路の床や天井に広がった。


水路の入り口付近の全体に広がった無数の蔦はそのまま成長して枝葉を伸ばして行き、蔦同士で絡み合うと水路の入り口を塞いでしまう。


更に蔦からは『荊の鞭』のように無数の棘が生え、触れただけでも負傷してしまいそうな程に刺々しい見た目に変化した。


それはまるで有刺鉄線のようであり、水路に侵入しようとする者を拒む天然の罠だった。


「ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ェ゛ェ゛ェ゛………………」


「ケ゛エ゛ェ゛ェ゛エ゛ェ゛ェ゛………………」


その直後にやって来た怪物達は、出現した荊の有刺鉄線にも一切怯まずにそのまま突っ込んで来た。


しかし、怪物達が力を込めても荊の有刺鉄線はビクともしない。


通常の植物の蔦ならば怪物の持つ怪力で容易に引きちぎられてしまっただろうが、操の花の力で生み出された蔦の強度は通常の物とは比較にならない。


その上、操は蔦をただ壁や天井に這わせるだけではなく、蔦が成長して行く中で根を下ろすように蔦を壁に突き立てて固定されるようにしていた。


そうする事で通路を塞いだ荊の有刺鉄線は壁・床・天井にガッチリと食い込んだ状態となり、非常に強固な障壁となっていた。



「ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛…………」


(……今の内にここを離れよう)


荊の有刺鉄線で通路を通行不能にし、操は逃げ込んだ水路の奥で息を吐いた。


蔦に生えた棘によって怪物達の体がブチブチと削られ足元の水が赤く染まって行くが、それでも怪物達は通路の奥へ退避した操に手を伸ばそうとして来る。


そんな怪物達の姿を尻目に操はそのまま通路の先へと足を進めた。


あの様子では暫く怪物達は通路を塞いだ蔦を突破出来ないとは思うが、あまり悠長にしていられる時間もなさそうだ。


彼らが蔦を突破して来る前に用事を済ませてこの場を離れるべきだろう。


(この先にもう一つの小部屋がある筈……。 今度こそ燃料があると良いんだけど)


ライトで照らされた暗闇が満ちた水路を進んで行く操。


暫く進み続け、後方から聞こえていた怪物達の唸り声も届かなくなった頃に、以前病院の地下で見たような広めの水路に出た。


そこも他の通路と同じく真っ暗闇の状態だったが、チラホラと非常灯が点灯しているのが目に入った。


どうやら非常口のような物がどこかにあるらしく、そちらへの誘導の為に設置された物らしい。


地図で見た水路の形状を思い浮かべてみると、確かにその先に地下水路から出る事が出来る出口らしき物があった事を操は思い出した。


しかし、その出口は操の目的である街の西側、警察署がある区画とは異なる方向にあった為、そちらへ向かう事は出来ない。


(ただ脱出するだけなら良かったんだけどね……)


そう溜息を吐きながら考える操。


とはいえ、今までの全く明かりが無かった通路に比べれば、多少ではあるが通行が容易になるので助かるのも事実だ。


丁度、目的の小部屋も非常口がある方向と同じ場所にある。


そのままライトで水路を照らしながら進んで行くと、先程のゴミ置き場があった場所と同じような通路が見えて来た。


怪物の気配はしないが念の為中を慎重に覗き込むと、通路の正面奥に非常口のマークが付いた扉があり、その手前にもう一つ扉があるのが見えた。


銃を構えつつゆっくり扉に近付いて行くと、扉には「保管庫」とあり、そのすぐ下には赤字で『火気厳禁!』と書かれていた。


(ここだ……でもって、当たりっぽい? 火気厳禁って事は燃料があるかも)


ドアノブに手を掛けて捻ると、あっさりと扉が開いて行く。


火気厳禁と言いつつ当然のように鍵すら掛けていないのは、この街の行政の杜撰さ故なのかもしれないが、操にとっては好都合だ。


扉を開けて室内に入ると、ライトで照らし出された部屋の中は、ゴミ置き場よりもやや広めであり、壁に沿う形で金属製の棚が設置されていた。


棚には所謂ジェリ缶と呼ばれる燃料缶がずらりと並んでいる。


しかしその殆どは錆が浮いた劣化した物のようで、酷い物は穴が空いた状態で横倒しになっていた。


(これは……使っていないのかな? でも全く使っていないならわざわざ注意書きなんてしないよね?)


操は思考を巡らせながら室内を見渡す。


と、部屋の隅の方に明らかに新しい状態の金属製のボックス……というよりちょっとした小屋のような物がある事に気が付いた。


(…………何これ? 部屋の中に小屋?)


近付いて確認してみると、「危険物保管庫」という文字が目に入る。


どうやら「保管庫」としてはこちらが本体らしい。


(……入れ物の方もちゃんと管理してよね……)


どうやら棚にあるボロボロのジェリ缶は空の入れ物を保管しているようだが、水路の湿気のせいかほぼ全て使い物にならなくなっていた。


実際に使用しているのはこちらの保管庫の中にある物だけのようだ。


若干呆れつつ、操は小屋の扉に手を掛ける。


ここに目的の燃料が保管されていなければ、また別の場所を探さなくてはいけない。


あの水死体の怪物の群れにまた遭遇しないとも限らない以上、出来ればここで見つかって欲しい。


操はそう考えつつ、恐る恐る保管庫の扉を開けた。


すると、そこには……。


「…………え? これだけ?」


保管庫の中には確かに燃料らしき物が保管されていた。


しかし中には比較的新しめな金属製の容器が1つだけ小屋の隅にあるだけで、他には貯蔵された燃料と言えそうな物は何もなかった。


たった一つあった容器を操が手に取ってみると、中には確かに何らかの液体が入っているらしく重みを感じた。


(……これがそう……なのかな。 仮にそうだとしてもこれだけで足りるかなぁ……)


一応、容器の中にはほぼ満タンの状態で液体が入っているようだが、発電機を動かすのに足りるかどうかは操には分からなかった。


(ともかく一旦ライナの所に戻ろう。 これで合っていれば排水システムを動かして下層エリアの通路を通れるように出来る筈……)


何にせよ、当面の目的を達成した操はライナの元に戻る事にした。


あの水死体の怪物の事も彼に伝える必要があるだろうし、発電機の修理の方も状況が気になる。


貯水池に繋がる水路を封鎖した荊の有刺鉄線もいつまでも怪物を押さえておける訳ではない筈なので、怪物がこちらへ来る前にこの場を離れなければいけない。


操はそう判断すると、保管庫にただ一つあった燃料入りの容器を手に持ち足早にその場を立ち去った。



発電機に使用出来る燃料を入手した操は、先程通って来た貯水池を通るルートとは別のルートを通ってライナの元に向かっていた。


貯水池へ繋がる水路は操自身の手で通行不能にしてしまっただけではなく、無数の水死体の怪物が潜んでいる為でもある。


(戻る事は出来ないし、戻れたとしても怪物だらけになった所は通りたくないしね)


現状、地下水路内に入って以降微かに感じる程度でしかなかった怪物の気配が、今はしっかりと感じられている。


どうやらあの怪物達は水中に潜んでいる間は気配が薄くなるらしく、水中から姿を現した際にはっきりと気配を感じるようになった。


そうして気配を感じられるようになり、操の索敵能力が元に戻ったのは良かったのだが、良くない事もある。


(今まで通って来た水路の方からも気配がする……。 何処かに潜んでいた奴が反応して出て来たって事?)


貯水池で水死体の怪物と遭遇した直後辺りから、地下水路全体で怪物の気配を感じるようになっている。


まるで、操が怪物と遭遇したのが呼び水になった様に怪物達が動き出したのだ。


(もし本当にそうだとしたらどうやって? 銃を撃ったから銃声を聞いて?)


操は一瞬そのように考えたが、すぐに自分の考えを否定する。


以前ライナからも聞いたように、花の怪物達は自分から離れた位置で発生した音には鈍感なのだ。


流石に数メートル離れている程度だと反応して寄って来る事はあるが、それも壁などの障害物が無ければの話だ。


扉程度だと近距離なら気付く事もあるようだが、少し離れていれば無反応な事すらある。


今回のケースでは操が発砲した貯水池はともかく、かなり離れた位置にある水路方面からも発砲直後に気配を感じた。


今までの怪物と違い水死体の怪物が音に敏感な可能性もあるが、操は恐らく違うと考えていた。


(あの怪物は聴覚どころか感覚自体が鈍いように見えた。 撃たれても痛がる素振りも見せないで私に近付いて来たし、腕がもげても無反応だった)


本体である巨大な花を撃たれれば流石に怯んだが、それでも何発か銃弾を撃ち込んでようやく倒せる位だ。


あれは本体の耐久力も高いのだと操は考え、実際その通りではあるのだろうが、その一方で本体も感覚が鈍いのではないかとも思っていた。


しかしそうなると、貯水池で怪物に遭遇したと同時に地下水路内に潜んでいた怪物達が「一斉起動」したのは何故なのか?


(何らかの伝達手段……シグナルとか……ひょっとするとテレパシーとかで繋がってる……?)


以前から違和感はあった。


指令センターでライナと共に建物を脱出しようとした際に現れた『カエル』。


あの怪物が襲撃して来たのは、まるで狙ったかのようなタイミングだった。


更にはその直後、無数の怪物に襲撃される事態になったが、あくまであれはカエルが発した花の香りに他の怪物が引き付けられた物だと操も当初は思っていた。


だが、考えてみれば指令センターの建物内で自爆したカエルの香りがそれ程早く周囲に飛散するだろうか?


周囲の怪物達が反応し操達の元へ集って来る様子を操が感知したのはあの怪物の自爆直後だった。


その反応の速さを改めて思い返してみると、地下水路内の怪物達の反応の速さと似通っているようにも思えた。


(『青い花』に……というより、あの巨大花に何かしらの明確な『自我』があるかも、とは思ったけど、怪物1体1体も何かしらの手段で()()()()()()?)


はっきりとした事は不明だ。


しかし、人間を襲って喰らおうとするあの花の怪物達がそうした能力を持っていても不思議はないと操は結論付けた。


何せ、操がそうなのだから。


(全く同じじゃないにしても、私は怪物達の気配を未知の知覚で感知出来る。 あの青い光が何なのかはまだ分からないけど、あの光を感知する能力に近い物を花の怪物達も持っているのかもしれない)


彼らがただの血に飢えた獣ではないという事は今までの戦闘からも何となく察してはいた事だ。


しかしそこへ、生物の生態と言って良いのか分からない『異能』のような物が加わって来るとなれば由々しき事態だ。


(私一人で考えても判断が付かない。 戻ったらライナにも相談してみよう)


次々に発生する難問に操は頭を抱えたくなる。


それでも、以前とは違いもう一人で悩む必要は無いだけマシだと思い直す事にした。


やはり、この状況でも仲間がいるというのは精神的に楽なのだ。


操は思考を切り替え、速やかにライナの元に戻るべく足を進めるペースを上げるのだった。




(やっぱりこっちにも出て来てる……)


ライナとの合流を急ぐべく歩みを速めた操だったが、予想通り水路内には何体もの水死体の怪物が出現していた。


流石に貯水池ほど大量にいるわけではないようだが、通常の花人などよりも横幅が広く、狭い通路内だと横を素通りするのが困難な為、操は基本的にすべて排除しながら進んでいる。


幸い、操が現在進んでいる貯水池を迂回するルートは、比較的広めの水路が多かった為怪物の処理に『荊の剣』を用いる事が出来ていた。


殺傷力が高い『荊の剣』であれば、水死体の怪物達の本体の花を一撃で斬り飛ばす事が可能な為、銃を使うよりもスムーズに怪物達を排除出来るのだ。


左手に燃料の容器を持ち、ライトで水路内を照らしつつ進んでいる為、剣は右手一本で振るっているが、操はそれでも問題なく対処していた。


怪物を排除しつつ水路を進んで行く。


古びた水路内には無理やり据え付けたような仮設の通路などもあり、通行がやや躊躇われる場所もあったが、何とか発電機のある部屋の近辺まで戻って来る事が出来た。


と、操がやや広めな水路を進んでいると、前方にある通路の入り口付近で突如銃声が響いた。


操は慌てて『荊の剣』を戻して拳銃(ハンドガン)を抜き、片手で構える。


操が歩みを止め、銃を構えて警戒する間も数回の銃声が響き渡る。


緊張した表情で操が様子を伺っていると、よろよろと水死体の怪物が後ずさりするように前方の通路から現れた。


操は咄嗟に怪物の頭部、本体の花に狙いを定めて銃撃を加えようとする。


しかしその前に、通路側から飛来した何かに怪物の本体の花が両断されてしまった。


突然の出来事に唖然としている操の前で、怪物が仰向けにゆっくりと倒れ、水飛沫を上げる。


そして、その通路から怪物の死体を押し退けるように現れたのはライナだった。


「ライナ!」


「お? おお、操! 無事だったか?」


そう言って操に駆け寄って来るライナ。


左手にはワイヤーが繋がった状態の短剣が握られていた。


どうやら先程の怪物は短剣を投擲して倒したらしい。


「こっちは大丈夫。 ……でもこんな所でどうしたの? 発電機の修理は?」


再会を喜びつつも、操が疑問に思った事を口にする。


確か修理には時間が掛かると言っていた筈だ。


「ああ、それがさ……あの発電機、壊れた状態で放置されてたらしいんだけど、ちゃんと部屋ん中に修理用パーツがあったんだよ」


「え? どういう事?」


操と別れた後、ライナは発電機の修理を行っていた。


しかし、本格的に修理を始めてすぐに問題が発生した。


ライナとしては最低限機械が動くようになれば良かったのだが、故障の原因は破損箇所があるというより単純に機械の劣化だったのだ。


そうなるとライナの技量で直せるかどうか以前に劣化したパーツを交換する必要が出て来る。


どうしたものかと考え、一応代用出来そうなパーツが無いかと室内の棚等を探してみた所……あっさり見つかった。


「要するに、ほったらかしにして壊れてた上に、交換用のパーツがあるのにそのまんまにしてあったみたいなんだ」


「えぇ……?」


お陰でパーツを交換し、念の為にそれ以外の部分も簡易的な補修をする事で修理自体は問題なく行えた。


しかし、まともに管理されていれば修理の必要がそもそも無かったわけで、ライナとしては徒労感が大きかったようだ。


「えっと……と、とにかく修理は出来たんだよね? お疲れさま。 それで、どうしてこんな所に居たの?」


「ああ、修理が終わって一段落……と思ったんだけど……」


修理を終えて一息ついていた所、突然周囲から怪物の気配が感じられるようになり、様子を見に部屋の外に出た所、あの水死体の怪物に遭遇したのだという。


突然現れた怪物に驚きはしたものの、然程苦戦もせず排除する事が出来たとはいえ急に出現した事を疑問に感じ、周辺の様子を伺おうとしたそうだが……。


「何処から湧いたのか分からないけど、俺達が通って来た水路にもウジャウジャいてさ……こりゃあ操の方もかなと思って追いかけて来たんだ」


最初はライナも操が向かった貯水池方面へのルートを行こうとしたが、通路や水路にいる怪物の数があまりにも多く、正面突破は難しいと考えた。


その為、地図を見て覚えていた別のルートを通り、貯水池方面へ向かおうとした所で操と合流した……という事らしい。


「そうだったんだ。 ごめんね、心配かけて……」


「良いって。 こうして無事合流出来たんだしな」


そう言ってライナは笑った。


分かってはいたが、あの怪物程度はライナにとって大した脅威ではなかったらしい。


ライナの変わらぬ明るい様子を目にして、操も釣られて笑顔になった。


そうしていると、ふと気が付いたようにライナが操に問いかけて来る。


「あ、それで操の方はどうだった? 燃料あったか?」


「うん、一応ね。 ……でも、これで良いのか分からなくって……」


そう言って操は左手に持っていた燃料の容器を示す。


あの発電機に使える物なのかを操には判断出来なかった上、そもそもこれ以外に燃料らしき物は見当たらなかった。


もしもこれが使えなければ、また水死体の怪物達を掻い潜りながら探索しなくてはいけない。


しかし操の心配を他所に、ライナは笑顔を向けた。


「ああ、それで大丈夫だ。 匂いからしてディーゼル燃料っぽいしな」


あっさりそう言ったライナに操は一瞬呆けたような顔になった。


確かにこうして手に持っているだけでも特有の燃料の匂いが若干するが、それだけで判別出来る物なのだろうか?


と、操の反応に気が付いたのか、ライナが補足して来る。


「まあ、あれだよ。 俺、機械弄りとかが趣味だからさ、嗅ぎ慣れてるって言えば嗅ぎ慣れてるんだ」


「……そういうものなの?」


確かにライナは指令センターの時などに怪しげな手製爆弾を使ったり、警察無線を改造して通信機を作ったりと、機械の扱いに長けているような様子があった。


操にはそういった感覚は知識が無いのもあって良く分からないが、ライナ位知識があるとそう行った事も判別出来るのかもしれないと操は考えた。


「そうそう。 それに鼻の良さには自信あるんだ」


…………やっぱり理解出来ないかもしれない。



無事に合流出来た操達は、発電機のある部屋まで特に何事も無く戻って来る事が出来た。


途中に出現していた怪物は全てライナが処理したらしく、戦闘になるような事も無かった。


明かりを持たず、この暗闇の中でどうやって怪物を処理しながら進んで来たのか若干疑問に思った操だったが、それに対するライナの返事が「わりと夜目が効くからな」だった為、盛大に溜息を吐く事になったが、あまり気にしない事にした。


そんなこんなで発電機まで戻って来て、早速燃料を発電機に投入している訳だが、大型の機械に対して自分が持って来た量で足りるのか操は少し心配だった。


「……ライナ、燃料それで足りそう?」


不安げに尋ねる操に対して、ライナは特に焦った様子も見せずに答える。


「ああ、大丈夫だよ。 この地下水路全体の電力を全てこの機械で賄う訳じゃないからな。 必要最低限の機能を動かすんなら十分さ」


そう言って空になった燃料容器を地面に置くと、ライナは発電機のスイッチを操作して機械を起動した。


ランプが点灯し、機械の起動音が聞こえると騒々しい音を発電機が立て始める。


「よし、ちゃんと起動したな。 燃料より機械の方が心配だったんだけど、何とかなりそうだ」


「良かったぁ……。 ……というか、機械の方そんなに駄目だったんだ」


「……詳細は省くけど、もし仮に管理してる奴が目の前に居たら、全力でぶん殴ってるかな」


「そ、そうなんだ……」


……口元は笑顔だが、目は全く笑っていなかった。


あっさり修理して追いかけて来たように操には感じられたが、ライナはライナで苦労していたようだ。


ともあれ、これで電力供給の目途は立った。


「えっと、それでライナ。 発電機が大丈夫になったって事は、もう下層エリアの水路は通れるようになったの?」


「いや、俺達がここに来て最初に調べた管理室で電力の供給ラインを切り替える必要がある。 それが済んだら排水システムが自動的に動く筈だ」


そう言われて操は、あの管理室でライナが操作していた制御盤を思い出した。


恐らくあれを操作してその辺りの設定を変更するのだろう。


しかしそうなると、入り口近くまで戻る必要があるという事だ。


「……入口の周辺にもあの怪物、出て来てるよね」


「だろうな……。 普通の怪物……『花人』より見た目グロいし、消化液みたいの吐いて来るから鬱陶しいんだよな……」


あの怪物に対する認識はライナも操と大差ないらしい。


弾薬の残りが心許ない現状、近付いて攻撃し難い相手というのは、対処が非常に面倒だった。


「まあ、避けて通れる所は避けて、通れない所の奴はなるべく弾使わないで対処するようにしようぜ」


「……そうだね。 あんまり何体も居ないと良いんだけどなぁ……」


そうお互いにぼやきつつ、操とライナは管理室へと向かうのだった。

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