表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/157

35 炎の中で

やや短めです


轟音と共に迫り来る炎。


ライナに押し倒された事で地面に伏せる様な体勢になった操は、ギリギリ爆風の範囲からは逃れる事が出来ていた。


しかし、爆発と共に巻き起こった炎の熱や飛散した障害物等からは逃れられるか分からない。


ライナに爆発から庇われ、爆弾が起爆した事を遅まきながらに理解した操は、咄嗟に自身の手足や背中などから蔦を伸ばすと自分とライナの体を包み込んだ。


爆発の規模が操が予想していた物より明らかに大きく、自分達までも巻き込まれてしまうと考えた為だ。


やがて、操の視界の中でゆっくりと迫る爆炎を遮る様に、二人の体を蔦が隙間無く何重にも覆い尽くした。






直後、操達は爆炎に飲み込まれた。






耳元でキーンという音が鳴っている事に操が気が付いたのは、周囲を覆っている蔦から感じられる熱が治まって来た頃だった。


爆発の影響で一時的に聴覚がマヒしている為にそのような音が聞こえているようだ。


早鐘を打つ自分の胸を落ち着かせつつ、周囲の状況を確かめるべく、体を覆っている蔦はそのままに外の気配を探る。


その結果、取り敢えず近くに怪物の気配は無いようで、周辺に動く物は存在していなかった。


一応の安全を確認した操は、恐る恐るといった具合で自分達を覆っていた蔦を解き自分の目で辺りを見渡した。



周囲の状態は酷い有様だった。


巻き起こった爆発によって、歩道にあったゴミ箱や道路脇に停められていたバイクなど、とにかくあらゆる物が吹き飛ばされている。


爆発が起きたであろう指令センターは勿論だが、隣接する別の建物や正面の建物の窓ガラスなども爆発の衝撃で砕け散っていた。


最も酷い状態なのは路肩に駐車されていた車だった。


逃げる際には霧のせいで良く見えていなかったが、指令センターの正面の道路上には何台かの車が停められていたらしい。


その何台かの車が今は真っ黒に焼けこげ、いまだあちこちから炎を噴き上げて無残な姿を晒している。


そして、周囲の建物には車から燃え移ったらしい炎が広がっており、操達が通って来たルートは既に火の海となっていた。


そんな光景を目にしつつ、操は先程の爆発がライナが建物内に仕掛けた爆弾だけで起きたにしては規模が大きすぎると考えていた。


その答えが恐らく今目の前で火を噴いている車の残骸なのだろう。


周囲には特有の臭いが立ち込めている事から、あの爆発が車の燃料に引火した事が想像出来た。


しかし、建物内で起きた爆発だけでそこまで引火するだろうか?


操がそのように呆然と思考を巡らせていると、すぐ横から声が聞こえた。


「うぇっぷ……いやー、死ぬかと思ったなぁ……」


そう言いつつ体を起こしたライナは頭を振った後、地面に腰を下ろした状態で周りを見渡しながら聞き捨てならない事を呟いた。


「………………流石にちょっとやりすぎたかな」


やりすぎた。

つまり、この謎の大規模爆発に心当たりがあるという事だと判断した操は、じっとりとした目付きでライナを睨んだ。


「…………ライナ? 一体何したの? 爆弾だけじゃないよね? これって」


若干怒りを含んだ操の物言いに、ライナは気まずそうに目線を逸らした。


しかし、操は追撃の手を緩めなかった。


「ラーイーナー?」


「あっ、はい、すいません、ちゃんと説明しますはい」


逸らした目線の先に、貼り付けたような笑顔で回り込んで来た操の圧力に押され、ライナは先程の爆発の絡繰りを説明し出した。


「まあ、結論から言うと、怪物の数が思ったより多かったんで、火力の足しになるかなーって周りの車をちょっと……」


ライナが言った事を纏めると、襲って来る怪物の数を見てライナは爆弾だけでは威力が足りないと判断したらしい。


その為、爆発の威力……というよりも、爆発の規模を大きくする為、追い縋って来る怪物から逃れる際に、道路に停車されたり事故を起こして乗り捨てられた車に対して銃撃を加えていたのだ。


「怪物を撃ちながら適当に撃ち込んだだけだから、燃料が漏れて一緒に何台か爆発したらいいなーぐらいに思ってたんだけど……」


怪物の群れを迎撃しながら狙いもそこそこに撃ちまくった為、数台ある車の内1台でも燃料に引火したら儲けもの、程度に考えていたという。


しかし実際には、片手間に行った銃撃は全ての車から燃料を流出させる結果となっていた。


そして、建物内の爆発で巻き起こった炎が一番近くの車から漏れだして気化した燃料に引火、そこから連鎖的に爆発が起きた……という事らしい。


「いやー……まさか全部の車からしっかり燃料が漏れてるとは思わなくってさ……」


「…………………」


どうやらライナは、ダガーを投擲して操を援護した段階で、漏れ出した燃料の臭いを感じ取ってこれはまずいと考えていたようだ。


結果的にはライナのその行動のおかげで操も含めて無事だった訳だが……。


「ほんと、危ない所だったわ……」


「危ないどころか、下手したら二人共丸焼けだったよ……まったくもう……」


座り込んだ体勢のまま操が天を仰ぐ。


咄嗟に蔦で防御していなければ、二人共無傷とはいかなかっただろう。


「……悪かったって。 けど、操のこれのおかげで二人とも無事だったんだし、結果オーライだろ?」


そう言いつつ立ち上がると、ライナは操の体から伸びていた蔦を手に取った。


二人の体を包み込んでいた蔦は、一番外側に位置していた物が黒ずんで焦げており、結構な爆風が二人のいる位置まで来ていた事が分かる。


……と、そこでライナは、手に取った蔦が操の体から切り離されている事に気が付いた。


「……あれ? この蔦、操の体から離れちゃってるけど、大丈夫なのか?」


若干心配そうな声で操に問いかけるライナ。


操の体の一部という認識の蔦が千切れてしまっている為、操への悪影響を懸念したようだ。


「あ、うん、大丈夫だよ。 切り離した時にちょっとチクッとする程度だから」


「……そうなのか? うーむ、つくづく変わった植物……いや、ここまで来ると、もはや植物なのか?」


確かにその辺りは操も疑っている所ではある。


自分の中の『青い花』の存在を受け入れたとはいえ、全ての疑問が解消されたわけではないのだ。


「まあ……ね。 けど、今の所害はない……というか、この力が無かったら私、ここまで無事ではいられなかったと思うから、複雑なんだよね……」


操は自分の体に宿っている『青い花』をどのように受け止めるべきか、今も自問自答し続けているが、未だに明確な答えは出ていない。


ライナもそうした未知の存在への警戒心があるのだろう。


「なるほどなあ……。 取り敢えず、色んな事が出来るって認識だけど、後でどんな事が出来るのかとか教えて貰っていいか?」


「……やっぱり気になる?」


ライナから見れば操の『青い花』の力はあの怪物達と出自を同じくする物だ。


いかに操が自分の意思の元その力を制御しているとしても、突然『花』が暴走しないとも限らない。


そうした危険性を考えれば、予防の意味で操の能力を細かく知っておこうとするのは当然の事だろう。


そう考えた操だったが、ライナから返って来たのは全く予想だにしない返答だった。


「そりゃあ気になるさ。 なんか超能力みたいで憧れるよな!」


「……え?」


目を子供のようにキラキラ輝かせて言うライナ。


…………似たようなやり取りを、さっきもした気がする。


「腕からシュバッって感じで蔦が伸びて敵を蹴散らしたり……あっ! そうそう、蔦が剣みたいにもなってたよな! あれスゲー格好良かったぞ!」


「…………もしかしてライナって、超能力を持ったヒーローが活躍する映画とかコミックとか好きだったりする?」


子供のようにはしゃいで、先程見せた『青い花』の能力について語るライナに思わず問う操。


そして、何となくそうではないか、と思っていた事を聞いてみる事にした。


「おお、大好きだぞ。 ああいうヒーローみたいな特殊能力みたいな事出来ないかなーっていつも思ってるしな!」


それはそれでどうなのか……とも思うが、とにかくライナは操が思った以上に子供っぽい所があるらしい。


戦闘時の苛烈かつ無慈悲な戦いぶりからは想像もつかないそんな姿に、操は自分でも知らない内に、声を上げて笑い出してしまうのだった。



「……っていかんいかん。 そんな事言ってる場合じゃなかったな。 早い所ここから移動しないとな……」


操の笑い声で我に返ったのか、ライナが突然そんな事を言った。


若干顔が赤いように見えるのはたぶん気のせいだろう。


「うん、そうだね。 ……この話はまた今度ゆっくりしよう?」


操が微笑みながらそう言うと、ライナが少々バツが悪そうな顔をしつつ、地面に座ったままだった操に手を差し伸べた。


差し出された手を取って立ち上がると、操は念の為周囲の『気配』を探る。


感じ取る事が出来た『青い光』の気配は一番近い物でもかなり距離があり、接近して来る様子はあるが、速度は速くない。


「爆発音に釣られて寄って来てるのが何匹かいるみたいだけど、まだ距離があるみたいだね」


「ん、そうか。 んじゃ今の内にさっさと行くか」


ライナが視線を向けたのは自分達の背後、即ち大通りの先だ。


現在、操達がいるのは、巨大花の根が成長過程で偶然逸れた事によって出来た大通りの隙間、とでも言うべき場所になる。


丁度指令センターの正面辺りから何とか通行出来るスペースが出来ている状態であり、操達はそこを北の方角に進んで来た。


しかし、周囲が火の海になる程の爆発が起きた事によって霧が吹き飛んだ通りの先は、やはり巨大花の根によって完全に塞がれてしまっていた。


このまま大通りを進んだとしても、目的地……地下水路の入り口にはたどり着けないだろう。


「ここを離れるのは賛成だけど……どうやって例の水路に向かうの? 道、塞がっちゃってるけど」


大通りの先の様子を見た操が疑問を口にすると、ライナは道路の右横、建物と建物の間にある細い路地を指差した。


「そこの路地……というか建物の隙間? みたいな所を通って行けば入口までは行けるみたいだ。 ……ちょっと狭いけどな」


正直、また路地か、と思った操だったが、今更なので口にはしなかった。


寧ろ、この街は細かい路地が非常に多い事もあって、大通り沿いが巨大花の根で埋め尽くされた状況でも路地を通れば移動が出来る……とも言える。


狭い道で怪物に襲われる可能性はあるが、目的地に移動出来るだけマシなのだろう。


「……私、狭い路地をあちこち移動するの苦手だから、エスコートよろしく」


「おう、任せとけ。 個人的にああいう狭い道って好きだしな」


操には今一つ理解の及ばない事を言いつつ路地に向かって歩き出すライナ。


そんなライナに苦笑しつつ、操はその背中を小走りで追うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ