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34 後始末


『ヂャァァァァァァァァァァァァ!!!!!』


叫び声と共に複数の怪物達がエントランスに飛び込んで来る。


三々五々に襲い掛かるのでは迎撃されると気が付いたのか、先程よりも数が多い。


操の目に映っただけでも6体の怪物が一度に飛び込んで来ていた。


確かにこの勢いで襲い掛かられれば、二人では迎え撃つのは困難だっただろう。


「……ふっ!!」


しかし、それは操が『青い花』の力を使わなかった場合だ。


『!!?』


操が左腕の『荊の鞭』を振るうと、解けた4本の蔓が高速でうねる様に怪物達に襲い掛かった。


一撃のパワーは4本の蔓を束ねた状態よりも低くなるが、広範囲を薙ぎ払って相手を負傷させるには十分な威力がある。


怪物達を牽制するという事が目的なら十分に効果を発揮するだろう。


事実、怪物に向かって振るわれた4本の細身の鞭は6体の犬ネズミ達を負傷させはしたが、仕留めるには至っていない。


あちこちを鞭の荊で切り裂かれた怪物達は、操から一旦距離を取るような動きを見せる。


ライナの要望通り怪物を倒すのではなく牽制するに留めているが、このままだと次の群れが飛び込んで来てしまうのではないかと操は考えていた。


そうなった場合でも花の力が使える状態なら対処は可能だが、何事にも限度はある。



……と、操がそのように加速した思考の中で考えたその時。



「ヒュゲ?」


「ギャッ?」



「…………え?」


突然、目の前の2体の怪物の首が飛んだ。


比喩ではなく本当に跳ね跳ぶように首が宙を飛んだのだ。


何が起こったのか分からず呆然としていると、続け様に怪物達の悲鳴が聞こえて来た。


「グゲッ!?」


「ガビャッ!?」


そちらに目を向けた瞬間、操の目に黒い影が恐ろしいスピードで怪物達の間を通り過ぎるのが見えた。


肉体が強化されている操の目ですら、辛うじて追える程度でしかない。


影とすれ違った別の2体は脳天から顎に向かって断ち切られ、血飛沫を上げながら倒れて行く。



残った2体の怪物達は、この段階でようやく凄まじい速度で自分達に迫る存在……ライナに気が付いた。


犬ネズミ達も速さが強みの怪物なだけあって、敵を認識してから反撃するまでが速い。


2体の内の1体がライナに向かって跳躍すると、口を大きく開いてライナに食らい付こうとする。


それに対してライナは地を這うように体勢を低くすると、飛び掛かって来た犬ネズミを下を潜り抜ける様にして躱した。


そして怪物を躱し様に、右手に持った短剣(ダガー)を素早く逆手に持ち替えると、下から殴り付けるような勢いで怪物の胴体を突き刺した。


さらにライナは、突き刺した勢いのまま犬ネズミを上に押し上げる様に弾き飛ばしてしまった。


あまりの勢いで突き刺した為、怪物の体は折れ曲がってくの字になっており、そのまま天井に激突して血を撒き散らす。


ライナは既に目の前の最後の1体しか見ておらず、天井に叩き付けた怪物の事は眼中にないらしい。


その最後の怪物は、自分に迫って来るライナに近付いて攻撃するのは危険と判断したのか、口内の蔓状の舌を勢いよく射出した。


操の『荊の鞭』に匹敵する程の速度で射出された蔓がライナに迫る。


しかしライナは表情一つ変えずに体を僅かに動かす最小限の動きで舌を躱すと、あろう事かその舌を左手で掴んだ。


「!!?」


操の感覚に怪物が驚愕の感情を抱いているのが伝わって来る。


普段はそんな事は無いのだが、どうやら余程度肝を抜かれたらしく、強い感情を操の感覚が受信してしまったらしい。


……というか、驚愕の度合いで言えば恐らく操も大して変わらない。


自分の目に映るゆっくりと進む光景を認識しつつ、操が現実逃避気味にそんな事を考えていると、ライナが更に予想外の行動に出た。



「……!!!??」


ライナは左手で掴んだ怪物の舌を勢いよく自分に向かって手繰り寄せる。


当然舌を引っ張られた怪物もライナの方へ引き寄せられる形になった。


そして、体勢を崩し、ライナに向かって猛烈な勢いで引き寄せられた怪物がライナとすれ違う瞬間、ライナの右手の短剣(ダガー)が振り抜かれる。


操がそう思った次の瞬間、最後の一体の犬ネズミは、上下に分かたれて真っ二つになると、血を噴き上げながら床にべちゃりと転がった。



「よし。 この感じなら何とかなりそうだな」


唖然とする操を尻目にライナは明るく言ってのける。


体感時間が引き伸ばされ、映像がスローに見えていた操でさえ追い切れない速さで6体の怪物を血祭りにする……。


ライナがやった事を簡潔に言えばそうなるのだが、それは最早人間の所業とは言えないような動きだった。


「いやー、操が牽制してくれてたお陰で怪物共の不意を付けて楽だったぜ」


「そ、そう……?」


そう言われても操は、素直にライナの称賛を受け取る事が出来なかった。


確かにライナの要望通り牽制はしたが、それはたった一度だけだ。


その一度の攻撃で隙を……ほんの一瞬の隙を見せた怪物を、それこそ一瞬の内に6体共ライナは葬ったのだ。


(私の牽制とか必要だったのかな……)


思わずそう考えてしまうが、ともあれライナの要望通りの状況を作れたのだという事で納得はしておく。


そうして操が目の前で起きた事と折り合いをつける事に苦心していると、外の怪物達の気配が変わった事に気が付いた。


「…………!」


「……おっと? いい加減あいつらもイライラして来たみたいだな?」


外に集まって来ている怪物達……殆どは犬ネズミの群れと思われるが、彼らの気配が荒ぶっているように感じられるのだ。


ライナの言う通り、襲撃が上手く行かず焦れているのかもしれない。


「……ライナ、またさっきみたいな感じで良いの? 正直必要ないように見えたんだけど……」


「ああ、頼む。 あのくらいの数だったらまあ確かに平気なんだけど、もっと数が増えちまうと流石にちょっとキツいからな」


どうやら本当に平気らしい。


というか、もっと数が増えても「ちょっとキツい」で済むようだ。


……操が言うのもどうかとは思うが、本当に人間なのだろうか。


「……分かった。 色々突っ込みたい事はあるけど、取りあえずこの場を切り抜けてからにするね」


「え? あ、うん。 よろしく?」


操が何に対して突っ込みたいかを理解していない様子のライナからはそんな返事が返って来るが、操は目の前の事に集中する事にした。



入口方面を見るとゆっくりと、だが確実に近づいて来る者が目に入る。


どうやら、怪物側でも連携して攻撃をする事にしたようだ。


「花人が3体と木人が2体ずつ、その後ろから犬ネズミ4体!」


「一丁前にフォーメーション攻撃か? 舐めんなよ、植物風情が!」


獰猛な笑みを顔に浮かべてそう言い放ったライナが怪物に向かって走り出す。


操は慌てる事無く両手に『荊の鞭』を生やし、怪物に向かって駆けるライナの周囲を包み込むように展開した。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!!」


ライナに掴み掛かろうとしていた花人が、ライナの周囲でうねる様に振るわれる『荊の鞭』に腕を削られて僅かによろめき隙を晒す。


次の瞬間、花人の首に強烈な蹴りが叩き込まれた。


「ゴゲッッ!!??」


あまりの威力に花人は首がへし折れ、そのまま口から血を撒き散らしながら吹き飛んで行ってしまう。


さらにライナは、腕を振り上げて自分に襲い掛かろうとしていた木人に対して床を滑るように接近すると、攻撃を躱しつつ右手の短剣(ダガー)で首に斬りつけた。


硬い蔓に覆われている筈の木人の首は半ば以上切り裂かれ、木人は声も無く大量の血を噴き上げながら床に倒れて行く。


そこへ、攻撃の隙を狙ったのか、犬ネズミが一体口を大きく開きながら飛び掛かかって来た。


「ギャンッ!!?」


しかし、ライナは上体を反らすようにして犬ネズミの突進をあっさり躱し、そのままカウンター気味に膝蹴りを見舞う。


顎下から膝蹴りをもろに食らった犬ネズミは、空中で回転するように吹き飛ぶ…………かに見えたが、ライナが左手でその足を掴んだ。


「!!!??!?」


そして、ライナはそのまま犬ネズミの体を勢いよく振り回すと、背後から接近して来ていた花人の頭上から思い切り叩き付けた。


グシャッ!!!


叩きつけられた犬ネズミの体と花人の頭が弾け飛び、床に真っ赤な花を咲かせる。


そこへ更に犬ネズミ2体と花人が、ライナを囲むようにして襲い掛かった。


しかし。


「ヂュビッ!!?」


「ギュペッ!?!?」


「あげがっ!!?」


3体の怪物達がライナに接近する前に操の『荊の鞭』が蠢き、怪物達に襲い掛かった。


怪物達の体に無数の傷が刻まれ、一瞬体勢が崩れる。


そして、やはりその一瞬の隙でライナには十分だった。



まず、1体目の犬ネズミは頭を踏み潰された。


続いて、2体目の犬ネズミは短剣(ダガー)で首を刎ねられた。


最後に残った花人は、操の攻撃によって負傷していた膝を踏み砕かれ、前のめりに倒れ込んだ所を短剣(ダガー)で顔面を突き通されて絶命した。


「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッッッッッ!!!!!」


と、3体の怪物の攻撃に紛れる様にして接近して来ていた木人が、奇声を発しながら片腕の枝槍を振り上げてライナに襲い掛かろうとして来た。


「……!?」


だが、ライナを枝槍の間合いに捉える寸前で木人は動きを止める。


振り上げられた片腕の枝槍を見ると、そこには操の『荊の鞭』が絡み付いており、その先では操が手元の鞭を手繰り寄せる様にして木人の動きを封じていた。


「……ちょうど良い位置だな」


そんな声が聞こえた直後、木人の枝槍の腕が肩からあっさりと切り離された。


切断面から血が溢れ出し、飛び散った血が木人の顔を赤く染め上げる。


そしてそのまま、もう片方の手を掴まれ床にねじ伏せられると、その後頭部にライナの短剣(ダガー)が突き立てられた。


「ケ゛ッ゛」


木人は短い悲鳴を上げて体を一瞬痙攣させると、そのまま動かなくなった。



残るは犬ネズミ1体のみ。


しかしその犬ネズミは、ライナに背を向け、エントランスの奥側に向けて走り出していた。


向かう先に居るのは勿論、『荊の鞭』でライナの援護を行っていた操だ。


そんな犬ネズミの背に向けて、ライナは手にした短剣(ダガー)を投擲するように構える。


だが。


「ビャッッ!!!??」


「おっ?」


ライナが短剣(ダガー)を投げ放つ前に、犬ネズミの頭上から『荊の鞭』に絡め取られた木人の枝槍の腕が叩き付けられた。


木人本体から切り離されたとはいえ、頑丈なコンクリートすら削る程の強度を持つ枝槍を勢いよく叩きつけられ犬ネズミは、綺麗に床に縫い付けられる形になる。


全身を穴だらけにされた犬ネズミは、大量の血を流しながら暫く痙攣していたが、やがてその動きを止めた。


「そういう使い方も出来るんだな、それ」


ライナが操の手元に手繰り寄せられた『荊の鞭』を見ながらそんな事を言う。


「そういう使い方」とは、先程操がやったような、鞭で物を絡め取った上で持ち上げた事だろうか?


「人一人くらいなら持ち上げられるよ。 自分を持ち上げて移動したりするしね」


それ以外にも相手を拘束した上で投げ飛ばして攻撃する、というような事も可能だ。


殺傷能力が高い『荊の鞭』だが、考え方次第で様々な使い道がある。


ライナとしてはそういった汎用性の高い『手段』に興味があるらしい。


「成程……そういうの、あると便利そうだな。 んー……俺も何か似たような物作ろうかな?」


「ええ? 作れるの?」


そう言いつつ、操はアパートでライナがパトカーから無線機を外して来て修理……改造していた事を思い出していた。


先程使用していた火炎瓶も何やら電子部品のような物が付いていたのが見えた為、思った以上に手先が器用なのかもしれない。


「まあ、それっぽいのは一応既にあるんだけどな………ところで、まだ向こうはやる気みたいだぞ」


そう言われた操が外の気配を伺うと、霧の向こうで幾つもの気配が蠢いているのが感じられた。


しかし、今度は先程とは様子が違うようだ。


「…………今度は数で押すつもりみたい。 かなりの数の怪物が殺気立ってる」


先程ライナが危惧したように、外に集まって来ている怪物達は、数で押す戦法で攻めるつもりのようだ。


こうなると、牽制しつつ一体ずつ……とは行かない。


「我慢が出来ない奴らだなぁ……。 まあ、仕方ないか。 ……操は接近戦大丈夫か?」


「え? あ、うん。 一応得意な方……かな?」


そう問いかけられて操は曖昧に返事を返した。


先程のライナの戦いぶりを見た後では、得意だと答えて良いものか少々迷ってしまう。


しかし、青い花の影響で身体能力が強化された今の操であれば、比較的接近戦に優れていると言えるだろう。


「そうか。 じゃあ、ちょっと大変かもしれないけど、入って来る怪物共を迎撃しながら建物を出ようか」


ライナはそう言いつつ何かを手に持った。


見間違いでなければ、それはバリケードにライナが使おうとしていた円筒形の爆弾だった。


「建物の外にって…………怪物達に囲まれたらどうするの? ……というか、あの…………その爆弾、どうするの?」


操は先程以上に嫌な予感を感じて顔を引き攣らせた。


何故なら、先程よりも手に持っている数が多いのだ。


……何処からあんなに取り出したのだろうか?


「そのまま外に出たらそうなるだろうな。 だから置き土産を残して行くのさ」


ライナは取り出した爆弾をダクトテープのような物で一纏めにし、何らかの装置を取り付ける。


見た所、小さな液晶画面のような物が付いた機械のようだ。


「2分後に爆発するようにセットするから、走るぞー」


「は? ええ!?」


突然のライナの宣言に動揺する操。


そんな操を他所に、ライナは足元に爆弾を設置………………。


「待って待って! 2分後に爆発って何!? あとその周りに追加してる小瓶は!?」


束ねた爆弾を床に置いただけではなく、ライナはその周りに小瓶をいくつも置いて行く。


あれは確か、火炎瓶に使った薬品だった筈だ。


今も操達の背後は燃え盛る炎が広がりつつあるが、もしもこの状態で爆弾が爆発した場合、このエントランス全体が火の海になってしまう。


そもそも、あの爆弾一つ一つの威力も不明だ。


それを爆竹のように束ねているのだから、威力によっては下手をすればこの建物自体が倒壊してしまう。


「手持ちの爆薬をあるだけ使って、俺達が脱出した後に爆発させれば、追いかけようとした怪物を巻き込んでくれるだろ?」


「そ、それは確かにそうかもしれないけど……」


ライナが言う事はもっともだが、それはつまり、自分達も巻き込みかねないという事なのだ。


ある種の賭けとも言えるその行動に操は迷いを見せる。


「大丈夫だって! 襲ってくる奴らを可能な限り蹴散らしながら走ればいいだけなんだからさ」


しかし、ライナ本人は相変わらず楽天的だった。


そんなライナの、「これからちょっとジョギングに行く」程度の気軽さで爆弾をセットして行く様子に、操は段々頭痛がして来るのだった。



「さて、セット完了だ。 後は起動すれば2分後にドカンだぜ」


「本当にやるの……?」


もう何を言っても無駄だと諦めた操は、観念してライナの作戦に乗る事にした。


実際の所、外に集まって来ている怪物の群れに一気に襲い掛かって来られては、操としても危険だと考えていたからだ。


とはいえ、自分達も巻き込まれかねない事には変わりない為、操も全力を出す必要があるだろう。


操は右の『荊の鞭』を腕に収納すると、右手に意識を集中する。


すると、右の掌から別の荊が勢いよく生じ、瞬く間に剣の形状を取った。


手から生み出した『荊の剣』を右手に持った状態で、更に両腕に『籠手』を纏う。


その様子を見たライナが操の視界の端で目を瞠るのが見えたが、特に何か言う事も無く自分も戦闘準備を整えて行った。


「準備は良いか?」


「うん、大丈夫」


ライナの問い掛けに操は頷きを返し、正面に視線を向けた。


自分の体の『青い花』の力を意識し、体に流れる青い光……花の力の流れを体全体行きわたる様に制御して行く。


体全体に行き渡った青い花の力は、そのまま『荊の剣』の刀身を伝わり、切先まで到達する。


病院における異形の怪物との戦いでも、武器である『荊の剣』に花の力が伝わっていたが、あの時と同じ感覚だ。


とはいえ、操の感覚では体全体に青い光が満ちているような状態ではあるが、外見上の変化は特に無い。


……そう思っていたのだが、どうやら違ったようだ。


操の両腕の『籠手』から『荊の鞭』ではない細い蔓が生じて前腕部に絡み付き、蔓のあちこちから淡く光る『青い花』が顔を覗かせていたのだ。


以前と同じく、操の感情の高ぶりに呼応しているのだろうか?


頭の片隅でそのように考えつつ、操はいつでも走り出せるように体勢をやや低くして身構えた。



「よし、行くぞ。 ……3……2……1……起動!」


ライナの短い掛け声の後、エントランスの床に設置された爆弾から電子音が鳴り出した。


それと同時に操とライナは猛然と外に向かって走り出す。


二人が破壊されたバリケードを通り過ぎ正面玄関前に到達すると、この段階で建物を取り囲んでいた怪物達が操達の行動を察知したらしい。


即座に犬ネズミが3匹、霧の向こうから操に向かって飛び掛かって来た。


「……はぁっ!!」


操は走りながらスピードを緩めずに『荊の剣』を横薙ぎに一閃した。


花の力を纏った剣は3匹の怪物の体を容易く両断し、断末魔も上げさせずに絶命させる。


操はそのまま建物前の大通りまで走り出ると、道路を北に向かって進む。


背後から複数の怪物の咆哮が聞こえるが、同時に銃声が何発も鳴り響いた。


「後ろは気にするな! 前の奴を頼む!」


「分かった!」


背後から聞こえたライナの声に答えつつ、左右から襲い掛かって来る怪物達を撫で斬りにして行く。


ライナも後ろから追い縋って来る犬ネズミの群れを銃を乱射して迎撃しつつ、時折小瓶をを投擲している。


どうやら小型火炎瓶の類は手持ちがまだあるらしい。


後ろからの追撃が無い事を確認し、操とライナは道路を走り抜けて行く。


しかし、立ち籠めた霧の先には複数の花人が操の進路を阻むように立っており、このまま行けばかち合ってしまう。


「どっせい!!」


『!!!!??』


「!?」


その時、妙な掛け声と共に操の脇を猛烈なスピードで何かが通り過ぎて……いや、飛んで行った。


そして、そのまま進路上に居た花人に向かって飛んで行った物体は、盛大な騒音を立てて花人に激突した。


花人はそのままぶつかって来た物体の勢いに押し倒されてしまう。


足を止めずに進みつつ、操がその光景に面食らっていると、横でライナが走りながら声を上げた。


「構ってる暇は無いからな! 走れ走れ!」


どうやら、ライナが走りながら花人に向けて道路にあった物を投げつけたらしい。


構っている暇は無いというのは同感だし、弾薬の節約にもなるので問題は無い。


しかし、気のせいでなければ、花人へ向かって投げつけられた物体が自転車に見えるのだが……。


「邪魔だどけコラ!!」


操が目の前の光景を何とか受け止めようとしている間に、ライナは無事だった花人に猛然と襲い掛かった。


首を切り裂き、腕を捻り上げて引き倒しつつ頭を撃ち抜き、蹴りの一撃で首をへし折り地面に頭を叩きつける。


追加で現れた木人や花人、犬ネズミも同様に一瞬で血祭りに上げて行く。


……正直どっちが怪物か分からない。



「……ッ!!」


操はライナの暴れっぷりに若干引きつつ、左腕から『荊の鞭』を伸ばすと、その場に集まりつつあった周囲の怪物の群れに向かって振るった。


操達を取り囲もうとしていた怪物達に鞭がうねりながら襲い掛かり、その体を切り裂いて行く。


体中をズタズタにされた怪物達は、悲鳴を上げて次々地面に転がった。


先程のエントランスでの戦闘を参考にした操は、鞭で牽制し、怯んだ怪物を剣で斬るという戦法を取っている。


ライナの言う通り、時間を掛けていられない為、進路上のどうしても邪魔になる怪物のみを処理しているのだ。


一方で、鞭で牽制した怪物達にもこちらを追撃して来れない程度のダメージを与える様にもしている。


そうする事で怪物に追いつかれる事なく安全を確保しつつ、最短時間で先へ進む事が出来るからだ。


既に爆弾の起動から1分程が経とうとしている。


かなりの規模になると思われる爆発の範囲から逃れるには今少し距離を取る必要があるだろう。


腕を振り回して襲い掛かって来た木人を斬り捨てながら、操はそう考えていた。


だが、やはりそう簡単には行かないらしい。



「グロォォォォォォォォッッ!!!!!!」


「ゲロォォォォォォォォッッ!!!!!!」


「!?」


「うげっ! あいつら他にもいたのか!」


咆哮を上げ、路肩に停まった車を踏みつけるようにして現れたのは、先程遭遇した仮称「カエル」だった。


今度は2体のカエルが同時に現れ、まるで連携するかのように操達に向かって突進して来ている。


本気で戦えるようになった操なら、2体同時に相手取っても問題なく対処出来るとは思うが、死に際に自爆されるとまずい。


操は即座に状況を判断し『荊の剣』を構えると、2体の怪物達に向かって走った。


「操!?」


「私が対処するから周りをお願い!」


操の身を案じたライナの声を背に怪物達へ躍り掛かる。


ライナは一瞬躊躇したようだったが、操の発言を受けて背後から迫って来ていた怪物達の迎撃に戻った。


怪物達を迎え撃った銃声を背に操は2体の仮称「カエル」に向かって走る。


仮称「カエル」はそのまま攻撃して倒そうとすると、死に際に自爆するのは先程の戦闘で体験した通りだ。


全身を燃やしても自爆した事から、普通の手段で安全に倒すのは困難と思われる。


ならばどうするか?


()()を突いて即死させるしかない。


そして、それが出来るのは操だけだ。



「ゲゴゲロォォォォォァァァァァァッッッ!!!!」


叫び声のような、そうでないような奇怪な声を上げながら、仮称カエルが操に向かって来る。


操も2匹のカエルの内左の個体に向かって駆ける。


左腕は『荊の鞭』を収納して『籠手』のみにし、いつでも攻撃を受け流せるように体の前に構えていた。


すると案の定、カエルは操に対して突進しながら、丸太のような片手を振るい、爪で攻撃して来た。


操はその攻撃を左手の『籠手』で受け流し、攻撃を受けた勢いを利用してカエルの横手に滑り込む。


そしてその勢いのまま、右手の『荊の剣』を上段から渾身の力を込めて振り下ろした。


狙うはカエルの体の表面に形成されている瘤の内の一つだ。


「ゲェェェェッッッ!!??」


斬撃を受けて奇妙な悲鳴を上げるカエルだが、振り下ろされた『荊の剣』はそれ程深くカエルの体を捉えておらず、傷付きはしたもののダメージは大きくなさそうだった。


しかし操に斬りつけられたカエルは、突進の勢いそのままに地面に転がると、体を痙攣させ動きを止めてしまう。


そしてエントランスの時とは異なり、自爆する事なく体全体が変色し、萎むように枯れ果ててしまった。


「ゲロァァァッッッ!!!」


と、左のカエルを倒した操の背後から、もう一体のカエルが2本足で立ち上がる様にして圧し掛かろうとして来る。


イメージとしては熊が立ち上がって威嚇するポーズに近いかもしれない。


だが、カエルが行おうとしているのは威嚇ではなく、その巨体に物を言わせた押し潰し攻撃だ。


「…………ふッ!!」


操は背後から覆い被さる様に迫るカエルに、体を捻って振り向きつつ体当たりを仕掛けた。


「ゴゲッ!?」


高速で自身に向かって突っ込んで来る操に驚いたカエルは、慌てて体を曲げるようにして回避を試みる。


しかしその行動を読んでいた操は、カエルに衝突する直前で急制動を掛けると、バランスを崩したカエルの背後に回り込んだ。


そして、カエルの背中の瘤の塊、その頂点付近にある瘤の一つ目掛け、右手の剣を引き、勢いを付けた刺突攻撃を繰り出した。


「グギャゲァァァァッッッ!!!??」


放たれた突きが瘤を刺し貫き、怪物が悲鳴を上げる。


突きの衝撃で破けた瘤の中からは千切れた青い花が覗いており、操の『荊の剣』は正確に花を破壊していた。


瘤の中の花が枯れて崩れ落ちると、カエルは糸が切れたように地響き立ててその巨体を地面に横たえ、そのまま花と同じように枯れ崩れて行った。


「ヂィィィァァァァァアアアアアッッッ!!!!!!!」


「ッ!?」


と、2体のカエルを倒し、周囲の状況を確認しようとした操の背後から、密かに接近していた犬ネズミが一体飛び掛かって来た。


強敵を倒した安堵から無意識に体から力を抜いてしまっていた操は、一瞬犬ネズミに気が付くのが遅れてしまう。


操は突きを繰り出した体勢から、少々強引に体を引きつつ回転させ、犬ネズミに剣を振るおうとする…………が。


「ゲッッッ!!!??」


「……えっ!?」


飛び掛かって来た犬ネズミの頭に横合から飛んで来た黒い物体が突き刺さった。


見覚えのあるそれは、ライナの使用していた短剣(ダガー)だ。


犬ネズミはそのまま血を噴き上げつつ地面に落下すると動かなくなる。


慌ててライナを見ると、右腕を突き出したような体勢で振り返ったライナと目が合う。


どうやら左手に銃を持って怪物を迎撃しつつ、操に攻撃しようとしていた犬ネズミに短剣(ダガー)を投擲したらしい。


援護をして貰った事を理解した操はライナに礼を言おうとした。



しかし。


「……ッ! ライナッ!!」


今度はライナに隙が出来たと考えたのか、物陰から複数の犬ネズミがライナに向かって襲い掛かって来た。


その段階になって操はライナが左手に持ったハンドガンのスライドが下がり切っている事……つまり、弾切れとなっている事に気が付いた。


つまり、今ライナは手持ちの武器を全て失っている状態だという事だ。


そんな状態で複数の怪物に襲われれば、いかにライナといえどタダでは済まないだろう。


操は急激に加速された思考の中で即座にそこまで判断すると、両手に『荊の鞭』を展開させてライナに飛び掛かろうとしている怪物達に向けて放とうとした。


だがその時、操の視界にある物が映った。


(!? 何?)


ライナが操の方に付き出している右腕。


その袖口から何かが飛び出している。


それは、細いワイヤ―だった。


細いと言っても糸のような物ではなく、編み上げられた紐状の物だ。


ライナの袖口から伸びたそのワイヤーは、操のいる方向へ伸びている。


そして、その方向にあるのは……先程ライナが投擲した短剣(ダガー)だ。


短剣(ダガー)の柄頭に、ライナの腕から伸びたワイヤーが連結されていたのだ。


操がそう認識した次の瞬間、花の力で強化された操の目でも捉えきれない程のスピードで、死体に刺さっていた短剣(ダガー)がライナの方へ引き寄せられた。



ビュオンッ!!!


『!!!??』


空気を切り裂くような音と共に、ライナに飛び掛かろうとしていた怪物達の頭部に横一文字の傷が刻み込まれる。


怪物達は頭部から血を噴き上げると、飛び掛かろうとした勢いそのままに地面に落下して動かなくなった。


実時間にすれば、まさに一瞬の出来事。


その一瞬の内に怪物の群れを一閃したライナの姿に操は思わず唖然としていた。




「操っ!!」


「ッ!?」


だが、直後に聞こえたライナの叫び声で操は我に返る。


気が付くと操は、ライナに体当たりされるような形で地面に押し倒されていた。


一瞬何が起きたのか分からず混乱する。



しかし、その直後。



轟音と共に爆炎が操の視界を埋め尽くした。


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