26 ゲートを抜けて
突然病院内に響いた爆発音とそれに伴う衝撃。
更にはその直後、病院の全域に警報が鳴り響いた。
けたたましく鳴り続ける警報は止まる気配は無く、病院の建物以外の場所にも音を響かせていた。
「い、一体何!? さっきの音は爆発……!? じゃあこの警報はそれが原因で鳴り出したの?」
何があったかは正確には分からないが、稼働しているセキュリティシステムが先程の爆発音の元を感知して、非常事態を知らせる警報を作動させたらしい。
「まずい……! これだけ盛大に警報が鳴ってたら、病院の周りの怪物達を引き寄せてしまう!」
周辺に怪物がどれだけいるかは不明だが、如何に音に対して反応が薄い怪物と言えども、これだけの騒音を聞き逃すとは思えない。
早急に警報を止めなければ、怪物の大群に建物の周囲を囲まれてしまう危険がある。
「管理室に行けば警報を切る事が出来るかも……。 急いで向かわないと!」
セキュリティ関連の操作をするなら管理室だ。
あの場所に行けば警報を止める事が出来るかもしれない。
操は診察室を出て、2階にある中央管理室に急いだ。
診察室を出た操は廊下を走る。
しかし、爆発音に反応したのか、先程は姿が無かった花人や木人が何体も廊下に現れており、操の進路を妨害して来た。
「もうっ! 急いでる時に限って! こんなにどこに居たの!?」
操は悪態を吐きながら『荊の剣』で怪物を斬り伏せて行く。
木人の枝槍を躱しながらカウンターで斬撃を叩き込み、倒れて行く木人の横を走り抜ける。
花人は『荊の鞭』で薙ぎ払い、時間的なロスを出来る限り無くしながら進んで行った。
2階へと上がる階段まで辿り着いた操は、文字通り階段を飛び跳ねるように駆け上がる。
すぐさま管理室前の廊下に飛び出すと、廊下には怪物がいない事を確認して再び走った。
管理室の扉を体当たりする勢いで押し開け、即座に端末を確認する。
「警報装置の管理モニターは…………あった!」
すぐに今も鳴り響いている警報装置の管理端末が目に入った。
管理端末の画面上では、警報装置が稼働中である事を表すアイコンが表示され点滅している。
幸い端末を操作してみると、警報はすぐに停止する事が出来そうだった為、急いで止める。
「よし……これで警報は止まった……よね?」
キーボードを操作するとあっさりと警報は鳴り止んだ。
操は恐る恐る、といった風に周囲を見渡す。
操作が間違っていて、再び警報が鳴り出す……と言った事も無いようだ。
「はぁ……良かった……。 とりあえずは安心…………!?」
と、警報を止める事が出来て安堵していた操だが、そこで再び『青い花』の感知能力が操に危険を知らせて来た。
具体的な数は不明だが、無数の『青い花』の気配が操のいる方へ……具体的には病院へと集まりつつあるのだ。
感知した様子から、病院の周囲を囲むようにしてじわじわと接近して来ているのが感じ取れる。
「くっ……! やっぱり警報の音を聞いて集まって来てしまったのね……」
あれだけ盛大に鳴り響いていたのだから、ある程度怪物を引き寄せてしまう事は覚悟していた。
しかし、操が感じ取った怪物の数は明らかに「ある程度」で済む数ではない。
このままではこの病院に怪物の大群が押し寄せてしまうだろう。
(どうする……? 感じ取れる限りの数だけ見ても、さすがに多すぎる。 どこか別の場所から脱出を……)
そこまで考えた所で操は、目の前にあるセキュリティの管理端末に、警報装置が作動した箇所が表示されている事に気が付いた。
よく見てみれば、地下で火災が発生した旨が表示されており、警報は操が停止させて止まっているが火災自体は収まっていないらしい。
(地下で火災? って、これ、例の搬出口じゃない。 ……律儀に消火設備とか付けてたのね)
どうやら火災が発生したのは、操が異形の怪物と戦った地下2階の大部屋らしい。
何があったかは不明だが、あの爆発音の後に火災が発生しているのだとすれば、あの部屋の『青い花』や死体が燃えているのかもしれない。
地下では爆発と火災、病院の周囲には怪物の大群。
進退窮まったとは正にこの事だ。
操は何か方法は無いかと思考を巡らせる。
(……地下の搬出口を通る事が出来れば、もしかしたら脱出できるかもしれないけど……。あのシャッターをどうやって開けば…………ん?)
悩みながらふと端末の画面に目をやる。
すると、先程の火災が発生した箇所を示す表示の横に、別のアイコンが表示されている事に気が付いた。
(……これは? カメラ操作?)
端末のマウスを操作してアイコンをクリックしてみると、火災が起きている場所の様子をリアルタイムで確認出来るらしい事が分かった。
試しにクリックしてみると画面上に別のウィンドウが開き、地下の火災が起きている場所のカメラ視点の映像が映った。
映し出された映像には、地下2階の大部屋の一角、搬出口横にあった何らかの薬品を保存しておく為の物と思われるタンクがあった辺りで、火の手が上がっている様子が映っていた。
(あれが爆発音の正体? でも何でいきなり爆発を…………あっ!)
映像には、周辺にある物や花の蔦などに燃え移った火がメラメラと燃える様子が映っている。
そしてその陰で煙に覆われやや見にくいが、搬入ゲート横の壁が大きく崩れているのが見えた。
良くは見えないが、崩れた壁の向こう側には空間があるように見える。
(壁が崩れて……もしかして、あそこを通れば向こう側に行ける?)
地下室で何が起きたのかは不明だが、爆発が起きた事で崩れた場所を通ってゲートの先に行けるかもしれない。
怪物の大群が押し寄せつつある病院から脱出するには、ゲートの先にある物に賭けるしかないだろう。
(確実とは言えないけど、今はそれしか選択肢が無い……。 行ってみよう)
そう決断した操は、急ぎ地下へ戻るのだった。
地下室へ走った操は、霊安室に入った所で異臭に気が付いた。
恐らく、地下2階で発生した火災の影響で煙が上の階まで流れて来ているのだろう。
管理室で見た防火システムなどの様子を見るに地下にも消火設備はあるはずだが、この様子だと正常に作動しているかは怪しい。
このまま放っておけば病院全体に火災が燃え広がる可能性もある。
(まあ、私にはどうする事も出来ないし、そもそもそんな事やってる場合じゃないよね……)
地下2階への階段を下りつつそんな事を考える操。
病院で行われていた裏取引の証拠も含めて燃えてしまいそうだが、今の操にそこまで気を回している余裕はなかった。
扉を開けて大部屋へ続く廊下に出ると、目の前に内側から強烈な圧力を掛けられ破壊された扉が床に倒れているのが目に入った。
恐らく、爆発が起こった際に吹き飛ばされたのだろう。
相当な衝撃だったらしく、2枚の大扉は両方とも変形してしまっていた。
姿勢を低くし、口元を先程作った『青い花』の布で覆いつつ部屋に入る。
室内は爆発の衝撃で滅茶苦茶になっており、火の手が天井まで回りつつある状態だった。
『青い花』や床に転がった死体、壁際に設置された薬品棚などに引火して燃え盛る炎は、今まさに火の勢いを増している所だ。
操は火や煙に巻かれる前に駆け足で部屋を突っ切り、入口の反対側、搬出ゲート横の壁が崩れて出来た穴に飛び込む。
思った通り穴の先は搬出ゲートの向こうに繋がっており、そこはさらに奥に繋がる廊下が続いていた。
既に廊下側も煙が充満しつつあり、悠長にしている余裕はないが、操は念の為警戒しつつ奥へと進む。
廊下は床も天井も古びたレンガ造りであり、廊下の奥は途中から壁が途切れ、金属製の手摺が廊下に沿って設置されている。
手摺が途切れた所は短い階段になっており、階段を降りた先には明かりを反射して光る水路が見えた。
そして、その水面には後部エンジン付きのボートが係留されており、明かりで照らされた水路は更に奥まで続いていた。
「これは……。 そうか、これで集めた死体を運び出していたのね……。 でも、ここは何の施設なの?」
見た限り病院の施設の一部には見えない。
病院の北棟も老朽化した建物だったが、この場所はそれ以上に古いように感じる。
「下水道……じゃないよね。 臭わないし」
警戒しつつボートへ近づく操だが、ボートが浮かべられている水路の水は、清浄とまでは行かないが汚水などではないようだ。
多少濁っているようだが、池の水に近い苔むしたような臭いが微かにしている為、恐らく自然の河川水だろう。
単純に考えれば水路だろうが、今の時代にこのような水路を使うとは思えない。
「使われなくなった水路を利用した運搬路って事なのかな……。 こういうのって行政が管理してる物じゃないの?」
いくら使われなくなった物だとしても、これ程規模の大きい水路が公的機関の管理下に置かれていないとは考えにくい。
にも関わらず、操が想像した通りに死体の運搬に使われていたとするなら……行政もグルなのだろうか?
クロフォード医師の遺したメッセージにあったサイディス・カンパニーは、この街でそれ程の権力を持っているのだろうか……。
……と、そんな事を考えていた操の背後で、ボンッ、という破裂音が聞こえた。
はっとして操が振り返ると、通って来た壁の穴から先程よりも勢いを増した炎が噴き出しているのが見えた。
どうやら更に何かに引火して火が燃え広がったらしい。
こうしている間にも炎がジワジワと廊下を浸食しつつある。
「……ここで考えてる暇は無さそうだね」
操は階段を下りて係留されているボートのロープを急いで外すと、ボートの後部に取り付けられている船外機を調べる。
よくある、小型ボートに取り付けて手動で方向を操作するタイプの物らしい。
「流石にこういう物はよく分からないなぁ……」
記憶を失っているとはいっても、操には基本的な常識や一般的な知識があった。
若干一般的ではない知識もあるが、ともかく基本的な事、例えばPCの操作方法などのような事は問題なくこなせる。
しかし、そんな操が有する知識には、このボートが「小型船外機付きのボート」である事は分かっても「操作方法」までは存在しなかった。
「ええと……確か、この紐……みたいなのを引くんだったと思うけど……安全装置とかあるよね?」
何となくのうろ覚えでしか知識を持っていない為、操作に手間取ってしまう。
と、良く見れば側面に簡易的なイラスト付きで操作方法が書いてあるのを見つけた。
「あ、良かった。 これの通りにやればいいみたい」
安堵した操は、船外機に書かれた手順に沿って操作をして行く。
いくつかの操作を行い、最後にエンジンを動かす為の……紐?を引けば良い……筈だ。
「せーの……ふぬっ!」
やや女性らしからぬ掛け声と共に紐を引く操。
ちなみに、本当に本気で引っ張ると船外機を破壊してしまうかもしれないので、ある程度加減はしている。
「よし……動いた!」
エンジンが動き出したのを確認した操は、ボート後部の席に座り操作ハンドルを握った。
グリップを回してエンジンの回転数を上げて行くと、ゆっくりとボートが水路を進み出す。
ボートの操作など初めてする為、恐る恐ると言った様子で進める操。
それでも、それなりのスピードで水路を走って行く事が出来ていた。
(良かった……これで病院からは出られそう。 だけど……)
結局の所、聖メアリー記念病院では、操の恩師だったクロフォード医師と接触する事が出来なかった。
彼からのメッセージは受け取れたし、操の記憶も断片的には思い出す事が出来はした。
しかし、完全に思い出すには至らなかったのだ。
(その上、この街で悪事を働いてる連中がいて、その連中に私や私に近しい人が狙われているなんて……)
病院の院長一味と、彼らと取引をして死体を集めているというサイディス・カンパニー。
彼らがこの街で暗躍し、一体何をしようとしているのかは分からない。
だが、そこにかつて自分が巻き込まれていた可能性が高いという事実は、一層操の不安を煽っていた。
おまけに、先程考えていたように、院長一味がこの水路のような街の施設の一部と思われる場所を利用している事から、この街の行政機関にも「一味」が紛れている可能性もあるのだ。
街の人間であれば、サイディスの息がかかった者かもしれない、と常に警戒する必要がある。
「はあ……怪物だけじゃなくて、人間にも警戒しないといけないなんて……」
操はもはや何度目か分からない溜息を吐く。
怪物相手であれば即襲われるので対処法はわかりやすいが、自分の胸の内を隠した人間相手ではそうもいかない。
今まで行動して来て……というか何度か人と話をして感じていたのだが、操自身があまり人と話すのが得意ではないらしい。
「ライナと話した時はそこそこ話せてたんだけどな……。 あの白衣の男と話をした時は必要もないのに挑発するような事言っちゃったし」
ライナと会話した際にそう感じなかったのは、ライナが話し上手だったせいもあるのだろう。
話をしやすい雰囲気を作って、操の言葉をうまく引き出してくれていたのだ。
……聞き出された、とも言えるかもしれないが。
「それに、怪物と言えば、あの大部屋に死体が集められていたのも理由が分からないままなんだよね……」
元々あの大部屋には取引に使われる、言わば「商品」とでもいうべき死体が保管されているようだった。
しかし、異形の怪物と戦った際に見た限りでは、あの大部屋には「商品」以外の死体がいくつも転がっていた。
中には干からびた死体もある等、サイディスに引き渡す「商品」とは思えない死体もあり、ちぐはぐな印象を受ける。
状況的にあの怪物が集めて来ていたという事だと思うが、その理由が分からなかった。
気にしすぎても仕方がないのだが、人間の血肉を食らう怪物が、何らかの明確な意思の元で行動していたと考えると……嫌な予感しかしない。
「『青い花』って本当に何なんだろう……」
自分の胸に手を当ててそう呟く操だったが、その問いに答える者は誰もいなかった。
薄暗く、曲がりくねった水路を安全第一で進む操。
ボートは恐らく死体の運搬用に使われていた物の為、ある程度の大きさがあり、狭い水路内ではあまりスピードは出せない。
それでも水路内は一定間隔で電灯が灯っている為、スピードさえ出し過ぎなければ危険は無いと思われた。
「明かりがあるって事は、定期的に整備もしてるのかな……」
時折別の水路への支流が見えて来る事もあるが、格子で仕切られており通ることは出来ない。
格子の先は操が通っている水路と違い、明かりらしき物は無い為、真っ暗だ。
運搬に使っている通路のみ明かりが点いているとすれば……やはり管理がお粗末としか言えない。
「見る人が見たら、すぐ違和感に気が付くと思うんだけど……」
それとも、この水路自体がまともに管理されていないという事なのだろうか?
古びたレンガ造りの壁などは、しっかり管理しなければ老朽化して危険だと思うのだが。
「サイディスと街の行政機関の癒着とかじゃなくて、単に街自体の管理が甘いだけな気がして来たなぁ……」
……と、そんな風に操がグリーンフォレストの街の管理状況に呆れていると、突然前方の水路の明かりが途絶えた。
「えっ!? ちょっ……!」
慌ててスピードを落とす操。
幸い、まだ距離があった為、直前で停止する事が出来た。
「び、びっくりした……何でいきなり……」
明かりが途切れた場所にあったのは「壁」だった。
正確には壁のように横たわる「植物の根」だ。
樹木のように太いそれは、考えるまでも無くあの『巨大花』の物だろう。
良く見れば水中にも植物の根が伸びており、床を埋め尽くす勢いだ。
「あの巨大花……もしかして、この水路から水を得ているの?」
根は壁を突き破って生えて来ており、瓦礫があちこちに散乱している。
そんな瓦礫の間を縫うように生えた根は、水に向かって伸びている……ように見えた。
「困ったな……瓦礫と根で水路が完全に塞がってる。 このままじゃ通れなさそう」
水路の壁を破壊して生えている根は、絡み合うように水路を横断しており、一部は天井も覆ってしまっている。
更に、破壊された壁の瓦礫なども巻き込んでいてほぼ隙間が無くなっており、これ以上水路を進む事は不可能だった。
「どうしよう? 戻る訳にも行かないし…………あれ?」
他に道は無いかと周囲を見渡していた操は、根が飛び出してきている壁の反対側の壁に何かがある事に気が付いた。
「これは、梯子……の形をした石壁、かな?」
そこにあったのは、周囲の壁と同じレンガで作られた梯子らしき物だった。
壁と一体化しているような造りなので分かり難いが天井辺りまで伸びており、その最上部には人一人
やっと入れるくらいの横穴がぽっかりと口を開けていた。
「あれは……? 僅かだけど風の流れを感じる?」
ボートの上からでは横穴の内部は見えないが、穴の奥から空気が流れて来ているのを操は感じ取った。
もしかすると外に繋がっているのかもしれない。
「登って確かめてみるしかないかな」
このままでは先に進む事は出来ない。
ならばと、操は壁際にボートを寄せ、レンガで出来た梯子上の足場に手を掛け、壁を登り始めた。
この水路は横幅が狭い割に、天井の高さはそこそこある。
その為、横穴に辿り着く高さまで登ると結構な高所となる。
(元々病院の地下2階にいて、そこからさらに少し降りてるんだよね。 ……今いる所がちょうど地上くらいの高さかな?)
そんな事を考えつつ、梯子から体をずらして横穴に入る操。
中は本当に狭い上、水路と違って電灯も無いのでかなり暗い。
だが横穴の奥、操の正面からほんの僅かに明かりが差し込んで来ているようだ。
近付いてみると壁に縦10センチ程の穴が空いており、そこから光が漏れているらしい。
穴の向こうを恐る恐る覗いて見ると、目の前に芝生が見えた。
穴から見える範囲でしか分からないが、どうやら公園のような場所らしく、少し離れた所に遊歩道のような物が見える。
配置からすると、操が今いるのは雨が降った時などに雨水を流す為の排水溝の中のようだ。
(こんな所に繋がってるんだね……。 ここからどうにかして出られないかな?)
本来人が通る場所ではないし、出入りする所ではないのだが……今はここから何とか脱出する必要があるのだ。
(……このまま通る事は出来ないし、どこかが開くような事も無い。 なら……しょうがないかな)
排水溝の穴が開いた壁を調べてみたが、やはり出入り出来るような仕掛けは見当たらない。
それ故操は……手っ取り早い解決法を取る事にした。
(……公共の物を壊しちゃってごめんな……さいっ!!)
ドゴッ!!!
大きな打撃音と共に、排水口の上部の壁に亀裂が走った。
その亀裂は段々と広がって行き、やがて一気に壁が崩れ落ちた。
崩れた壁の向こうでは、操が右腕を『籠手』で覆い、拳を壁に突き出した状態で佇んでいた。
「うん、まあ…………緊急時だし、しょうがないよね」
自分の拳が思ったよりも大きな威力を発揮した事に、若干身を竦ませていた操が自分に言い訳するように呟く。
操自身は壁のレンガが外れればいい、ぐらいの気持ちで殴ったのだが。
「……困ったら壊す癖が付かないように気を付けよう……」
操は壁を破壊して出来た穴から段差をよじ登って外へ出た。
周囲を見渡してみると、やはり街中にある小さな公園のような場所らしく、芝生が広がった地面から木が生えており、木の向こうには舗装された道が見える。
その場で振り返ってみると、苔むし古びた石造りの段差が地面から露出したような状態になっており、
操が壊したのはそんな段差の側面だった。
「向こうの方にこの段差は伸びて行って……公園の端から端まで伸びてるみたいね」
恐らく操が通って来たのは、かつてこの街で使われていた古い水路か何かだったのだろう。
本来は地面に埋まっている筈の水路の一部が外に出ている理由は不明だが。
「水路に沿って遊歩道とか街路樹を設置して、ちょっとした公園みたいにしてるんだね」
視線の先にある道の側には休憩用と思われるベンチも見える。
言うなれば、街の住民の為の憩いの場的な場所だ。
周辺の気配を伺いつつ街路樹を通り過ぎ、歩道に出る。
歩道には人影……と言って良いかは不明だが、花人と思われるフラフラ歩く影が数体見える。
道を挟んだ反対側には花壇があるが、本来植えられていたであろう花は全て枯れ、『青い花』のみが狂ったように咲き乱れていた。
(ここ、街のどの辺りだろう? 何処かで場所を確認出来ればいいんだけど……)
かなりの距離をボートで移動して来たように感じるが、実際には水路内がかなり曲がりくねっていた為、恐らく直線距離ではそう離れていない。
だがその代わりに今現在操がいる場所が何処なのかが分からない。
少なくとも操は周囲の景色に操は覚えがなかった。
(公園みたいな場所なら、管理小屋か何かがある筈……)
小さな公園ではあるが、花壇があったり歩道がきれいに掃除されていたりと、誰かが管理している事を伺わせる様子が見られる。
そういった管理業務を行う者が使用する建物が恐らく何処かにある筈だ。
(まずはそれを探した方が良いよね)
差し当たっての行動指針を決めた操は、近くにいる花人に気付かれないように移動を開始する。
如何に花人が敵ではないと言っても、それは単体の場合の話だ。
騒音を立てて聖メアリー記念病院の時のような大軍を呼び寄せてしまっては目も当てられない。
(今後も必要に迫られない限りは戦闘は避けるようにしよう……)
操はそんな事を考えつつ、可能な限り足音を立てないようにしながらその場から立ち去るのだった。




