↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/43

第21話 二日酔いの英雄と、記憶にない伝説



 翌朝、午前八時。


 轟運送の事務所に、ゾンビのような男が現れた。


 伊集院神悟である。


 顔色は土気色。目の下には濃いクマ。


 頭の中で小人が工事をしているような激しい頭痛。


(……気持ち悪い……吐きそう……)


 神悟は死に体だった。


 昨夜の記憶が、ほとんどない。


 覚えているのは、亀山社長の怒鳴り声を聞いた瞬間、急に体が熱くなり、そこから意識が飛び飛びになっていることだけだ。


 気づけば自宅のベッドで、スーツのまま寝ていた。


(やらかした……絶対にやらかした……)


 神悟は震えながらタイムカードを押した。


 きっと、あのヤクザのような社長に暴言を吐いて、契約を切られたに違いない。


 今日は「クビの宣告」を聞きに来たようなものだ。




「おい、伊集院!!」


 事務所に、権田所長の怒鳴り声が響いた。


 ビクゥッ!


 神悟の心臓が縮み上がり、そのショックで胃酸が逆流する。


「は、はいぃぃっ! すいません! すぐ荷物まとめて出て行きますからぁ!」


 神悟は涙目で叫び、頭を抱えてうずくまった。


 ドンッ!!


 背中に凄まじい衝撃が走った。


 権田に殴られた――と思ったが、痛みにしては重い。


 恐る恐る顔を上げると、権田がニカッと笑って、神悟の背中をバシバシ叩いていた。


「ガハハハ! 何言ってんだ水臭い! やるじゃねえか伊集院!!」


「……は?」


 神悟はポカンと口を開けた。


「さっき亀山社長から電話があったぞ。『昨日の伊集院さんは最高だった』『あんなに骨のある男は久しぶりだ』って大絶賛だ!」


 権田は上機嫌で続ける。


「しかも、『今後、ウチの配送は全部伊集院に任せたい』だとよ! お前、あの気難しいジジイに何をしたんだ!?」




「え……あ、あの……焼き鳥を、食べて……」


「焼き鳥だけであそこまで気に入られるかよ! お前、意外と『接待の鬼』だったんだな! 見直したぞ!」


 バシバシバシ!!


 権田の祝福の張り手が、二日酔いの神悟の背中を破壊していく。


 ――そして、その衝撃は当然、Wi-Fiに乗って飛んでいく。




 同時刻。イエローマートの裏口。


 ゴミ出しをしていた早乙女千夏は、突然背中に走った衝撃に「ぐふっ!」と声を漏らし、ゴミ袋の上に倒れ込んだ。


「……あのクソジジイ……! 朝から何させてんだよ……!」


 千夏もまた、死んでいた。


 昨夜、神悟に勇気を送るために空けたテキーラのボトル。そのダメージがダイレクトに残っている。


 それに加えて、神悟自身の「二日酔い」もリンクしているため、今の千夏は「二倍の吐き気」と戦っていた。




 ブブブッ。


 スマホが震える。


 『英雄』扱いされて困惑する神悟からだ。


 『お早うございます。なんか、褒められました。僕、昨日何をしたんでしょうか?』


 千夏は震える指で返信した。


 『知るか。……ただ、あんたは昨日、私の「魂(テキーラ)」を使って戦ったんだ』


 『感謝するなら、今すぐソルマックと、ウコンの力を転送しろ。……吐きそうだ』




 神悟はトイレの個室に駆け込みながら、そのメッセージを見た。


 昨夜の熱い感覚が、ぼんやりと蘇る。


 自分の意思じゃない、でも確かに自分の体から湧き上がった、あの無敵の万能感。


(千夏さんの……魂……?)


 神悟は気づいてしまった。


 この「シンクロ」は、ただ痛みを共有するだけの呪いじゃない。


 千夏の持つ「度胸」や「強さ」を、僕が借りることができるシステムなんじゃないか?


 逆に言えば、僕の持つ何か(・・)も、千夏さんの役に立つ時が来るのかもしれない。


 ……今のところ、役に立っているのは「僕の給料で買う、ソルマックとウコンの力」だけだが。


 神悟はコンビニへ走った。


 見えない相棒への、せめてもの差し入れを買うために。




続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。