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星を買うには三百人  作者: 雅龍(がりゅう)
第7章 回収屋の小さな船団

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第84話 拾った者の物

 テツは朝のポルカで、ナバへ発った。


 乗り込む前に、点検機をケイの手に押しつけていった。「撮れる物、全部撮ってきてください。筆記に、点検機は要らないので。灯りは三つとも充電してあります。三つ目のだけ、角度の留め具が固いです」


「分かった」


「それと、揚げた魚は食べません」


 エマが、乗降口で切符を切りながら、ちらりとこちらを見た。ケイは点検機を抱え直した。


 ハチはボウの平たい背に載せた。ガラ場までは遠い。小さな艇の燃料では、行って帰るのがやっとだった。サワは船の背の留め具を自分の手で締め、燃料の話を二つして、出た。


 ガラ場は、暗かった。


 航路から外れた宙域に、古い船の部品や、捨てられた架台や、名前の消えた船体が、何十年もかけて流れ寄っている。灯りを向けると、錆びた梁が一本、回りながら横切っていった。サワが速度を落とした。ハチの座席の中で、ケイは背を起こした。


「ブンの地図だと、この先の三つ目の塊の陰」サワが言った。「あの人の地図、字が汚いけど、外れたことがないんだって」


 カノンは、闇の中で白かった。


 大きかった。コロの岩肌を横に二つ並べたほどの長さがある。背骨に吊られた三つの居住ブロックが、ボウの灯りを順に受けて、丸窓の列をぼんやり光らせた。そして、その白い腹の何か所かが、黒く抜けていた。外板が剥がれている。一枚、二枚ではなかった。剥がれた所から、船の骨組みが肋骨のように覗いていた。


 骨の横に、黒い船が付いていた。


 重い回収船だった。船体は分厚く、あちこちに違う色の当て板が溶接してある。当て板の継ぎ目は、どれも真っすぐだった。船首に、擦れて半分消えた字で、ガルムと読めた。腹の下に、細い小型艇が一隻、抱えられていた。灯りを消した艇で、船体の白い数字の二桁目が、七だった。テツの点検機が溝の口で拾った、七か一かの一桁を、ケイは思い出した。灯りは、作業灯が一つだけ。航行灯は全部消えていた。


「あの当て板、全部自分で付けてるね」サワが、ボウの灯りを黒い船体へ這わせた。「継ぎ目が、うちの船より綺麗。腹が立つくらい」


「入札、まだだよね」サワが低く言った。


「まだだ」


 ガルムの横で、宇宙服の人影が一つ、カノンの外板に取りついていた。手元で、刃が短く光った。光ったあと、外板が一枚、音もなく浮いた。人影は浮いた板の縁に手を掛け、自分の体の向きを一度も乱さずに、ガルムの荷台のほうへ押し出した。板は回らずに、まっすぐ滑っていった。


 ケイはハチを背から降ろし、剥がれた跡へ寄せた。外板の切り口に灯りを当てた。鏡のような面に、黄色い艇が映った。溶けた縁がない。塗装が焦げていない。岩の上で見た面と、同じだった。


「そこの黄色いの」


 開いた回線に、声が入ってきた。低くて、急いでいない声だった。


「灯りを、こっちの手元に向けないでくれ。眩しい」


「その船は、入札に出てる」ケイは言った。灯りは動かさなかった。


「知ってる」人影は次の板の縁に、刃を当てた。「漂流物は、拾った者の物だ。書類は、拾ったあとで書く」


「書いた書類は、どこにある」


「これから書く」


 刃が光った。板が浮いた。人影はそれを押し出してから、ようやくこちらへ体を向けた。ヘルメットの奥の顔は四十代で、頬に、何かで擦った古い線が一本あった。


「その左」男は顎で、ハチの左腕を示した。「遅れるな。半拍」


 ケイは答えなかった。答えずにいる自分の手が、操縦桿の上で握り直されたのが分かった。整備履歴を読んだ者しか、それを言わない。エマは読んで言った。この男は、艇が一度動くのを見ただけで言った。


「悪く言ってない。遅れを知ってて、先に出してる。いい手だ」男は刃を腰に戻した。「ミノスだ。覚えなくていい」


 男は外板を蹴り、ガルムの口へ戻っていった。蹴った足は、板を一枚も揺らさなかった。ケイは点検機を出して、灯りを三つとも点け、剥がれた跡を端から撮った。三つ目の留め具は、テツの言ったとおり固かった。切り口は、どれも同じ高さの癖で、迷いがなかった。剥がされた板の縁には番号が刻んであったはずの帯が、どれも帯ごと削がれていた。


 剥がれた穴の一つから、ハチの灯りを中へ差し入れた。外板の内側に断熱材の層があり、その先に、広い部屋の暗がりがあった。灯りの輪の端を、椅子の脚が一本、横切っていった。床から外れた椅子が、宙に浮いている。その奥に、まだ何脚も。この船の中には、客が座っていた場所が、そのまま残っていた。


 ケイは管轄の回線に、切り口の写真と、ガルムの船首の字を送った。返事はすぐに来た。『受理。担当者が確認します』。それだけだった。


 やがて、回線に映像が一つ開いた。ガルムの操縦室だった。ミノスが手袋を外して、刃を布で拭いていた。両手の甲に、古い火傷の痕が斑に広がっている。指の節は太く、その一本一本が、細かい傷で白く光っていた。操縦席の足元に、底の擦り減った作業靴が揃えて置いてある。


「管轄に、今のを出す」ケイは言った。


「出せ。管轄は、証拠がなきゃ動かない」ミノスは刃を光に透かし、刃こぼれを探すように目を細めた。「入札は、あんたたちが勝つ。中身は、俺が先に持っていく」


読んでいただきありがとうございます!

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