第5話 最初の売り上げ
皿の上で、金属片が跳ねた。
ポンプを開けた途端、受け座の縁から欠けて落ちた分だった。米粒の半分ほどの欠片が、皿の縁で二度弾んで止まる。ケイは棒の先に磁石のついたピックアップを取り出し、皿の上をなぞった。欠片が三つ、鉄粉と一緒に張りついた。
「軸の傷は」ケイは軸を指の腹で撫でた。爪に引っかかる筋は、なかった。
「浅いです」テツが答えた。「軸そのものは、ほぼきれいで」
「ほぼ」ケイは軸から目を上げなかった。
「……きれいです」テツが言い直した。ケイの指が、欠片を三つ、机のライトの下に並べた。寄せ合わせると、受け座の欠けた縁の形に合った。一片でも中に残せば、新しい輪を入れても同じことが起きる。全部そろってから組む。それがケイのやり方だった。合わせ目には、まだ砂粒より細かい光が一つ残っている。テツの点検機が首を伸ばして、カメラでそれを拾った。
「四つ目。いました」
「掃除機に吸わせるなよ」
「吸わせません。つまみます」小さな腕が、ピンセットで欠片をそっとつまみ上げた。通りがかったヴィクが皿を覗き、点検機のカバーを爪で軽く弾いた。「報告は」
「しました」
「聞いたから言ってる」ヴィクが去ってから、ケイは新しい輪を軸に通した。
組み上げたポンプを台に留め、試験用の水を通した。最初に細い泡が流れ、それから透明な一本の線になる。掌をケースに当てると、映像で見た蜂の羽音のような震えが、掌には、どこからも来なかった。止めて、動かして、カバーを閉めて、水の音が一本の線のまま変わらなくなるまで回した。
腹の荷台に固定して、修理ベイの作業口から出る。人を通す廊下は使わない。物だけなら、今のコロでも通せた。ポルカの整備口では、乗員が片手を上げて待っていた。手が上がったので、ケイは腕を止めた。指が抜け、工具が離れたのを見てから、最後の数センチを送る。「固定できました」
荷室の温度が、下がり始めた。目盛りが二つ落ちたところで、エマから通信が入った。
「合格。次の荷、予定どおり積める。ナバの枠、今取り消した。見てて」
ケイの画面から、点線が消えた。二日間、ポルカの船首から伸びていた細い線が、根元から順に、なくなっていく。
「代金、まとめて送る。この口座でいい?」
「いい。待ってた」通知が鳴った。板の分と、ポンプの分。三千二百と五千八百で、九千クレジット。ケイは画面を閉じて、もう一度開いた。振り込みは消えなかった。前の会社が何度も待たせた金だった。今回は、仕事が終わった直後に来た。
エマは、喜ぶより先に、次の指示を乗員へ出していた。それでも通信を切る前に、一言だけ足した。
「接岸口が直ったら、検査の記録を送って。使える時間と、料金も」
「船、戻してくれるか」ケイは聞いた。画面の中のエマは、もう別の書類をめくっていた。
「条件を見てから。私、雰囲気で航路は変えない」
「腕は見ただろ」
「だから条件を見るの」黄緑の線が、遠ざかって小さくなった。
* * *
弁当の蓋を開けた。豆と肉の煮込みで、肉が小さい。前の会社の給料日には、何を食べても味がしなかった。今日は、小さい肉に味があった。
食堂の卓に、部品の販売画面を広げた。九千全部を、自分の儲けにするわけにはいかない。燃料と、部品と、ベイの共同分を引いて、残りは五千六百。そこから二千を別の口座に移して、名前の欄に『星』と打った。六十万まで伸びる細い帯の、いちばん左だけに色がついた。目を凝らさないと見えない色だった。
接岸口の交換部品は、一式で一万八千。新しい留め具四本と、密閉材と、外で荷を受け取る便の運賃。今回の利益では足りないので、運転資金から出す。注文の横に、よく似た大型の中古品が並んでいた。留め具が二個、驚くほど安い。爪の幅が、今の口の倍ある。
「使えないよ」向かいに座ったヴィクが、ケイの指がまだ触れていない物を見て言った。「今の口には、大きすぎる」
「今の口には」ケイの指は、画面の上で止まっていた。
「来週の飯は、来週の口からは食べられない」自分に言い聞かせる声が出た。大きいほうは、お気に入りの欄へ入れた。買う欄には触れずに、お気に入りへ。指を離すのに、三秒かかった。それから必要な一式の注文を確定した。隣の卓から、ユイが顔を出した。「何買ったの」
「客が降りられる入口」
「いいね。じゃあ、その先も映せるようにして」ユイの端末には、共同室の写真が開いていた。床に、彼女の机の大きさを示す細いテープが貼ってある。
支払い完了の表示が出た。ヴィクが横から手を伸ばし、ケイの端末を引き寄せて、画面を上から下まで眺めた。「ケイ」
「ん」ケイは匙を持ったまま、顔を上げた。
「輪がない」
「輪は入れた。留め具の輪」
「密閉の、薄い輪。気密の縁に挟む、平たいやつ。金具を新品にしても、あれが古いと空気が漏れる」ケイは注文の明細を開いた。留め具、密閉材、運賃。薄い輪の行は、なかった。大きい留め具を買わなかった指は、安い薄い輪の行を、まるごと飛ばしていた。
輪だけを別に買った。値段は四百。急がせると、運賃が千九百かかった。二千三百クレジットの、小さな輪だった。
「高い輪だ」ケイは画面を睨んだ。指先が、机の縁を一度叩いた。「覚えとく」
「覚えるだけなら、金はかからないね」ヴィクの言うとおりだった。払いは運転資金から出した。星の口座の二千には、指も触れなかった。ヴィクは立ち上がり、去りぎわに言った。
「大きい留め具は、お気に入りに入れたままにしときな。ときどき見て、我慢する練習」
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