↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を買うには三百人  作者: 雅龍(がりゅう)
第4章 あと二百人、その先の四人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/130

第44話 大きい方を、こっちへ

 トレイが横を向くと、窓の外に壁ができた。運搬船の腹だった。ハチのフロントガラスの端から端まで、平たい鉄の面が塞いでいる。荷台の縁の手すりが、黄色い灯りの中で、一本ずつ浮かんだ。昨日まで正面にあった荷台の入口が、今日は右手にあった。一基目の跡が空いたのに、リレーの船はその隙間へ入れない。真ん中の庫へ線を短く渡すには、受ける側の荷台を寄せて、向きを変えてもらうしかなかった。


「この角度から先は、寄せられない」トレイの船長が言った。「四十五度。それ以上回すと、左舷の荷役柱が庫に当たる」


「六十度なら」


「俺の柱は、俺の船の一部だ」船長は耳の鉛筆を抜いて、画面の中で振った。「当たったら、柱が折れるか、庫が凹むか。どっちも、あんたの仕事の外」


 ケイは紙に、四角を描いた。四十五度の荷台。真ん中の庫。そこへ庫を向けるには、角度が足りない。足りない分は、船を動かさなくても、庫のほうが回せば出る。


「庫のほうを、ひねる。トレイは、そこで止まっててくれ」


「止まる。止まるのは得意だ」


「タルク。庫を持ち上げたまま、回せるか」


「三十度なら」重曳航艇の船長は、掌のカップを持ち替えただけだった。


「三十でいい」ケイは四角の脇に、斜めの線を足した。庫を三十度回せば、脚は荷役柱を避けて、荷台の奥の受け架へ入る。譲ってもらわなくても、自分の側を動かせば足りる。そういう解き方は、いつも、いちばん簡単だった。


     * * *


 二基目は、夜のうちに、配送所の壁から切り抜かれて出てきた。リレーの線は庫の下から渡された。ケイは線が脇を通るあいだ、ハチを庫の下に置いて、腕を畳んでいた。昨日、庫を支えたくなった腕が、今日も動きたがっている。右は早い。左は遅れる。早いことが、危ない日もあった。


「切り替え、始めます」現地の担当が言った。「四」


 唸りが消え、四秒後に戻った。リレーの船長が「四秒」とだけ言い、庫の外の灯りは、点いたままだった。


「持ち上げる。ゆっくり」タルクが言った。


 庫が宙で三十度回った。ボウが横から、振れを一つずつ潰していく。トレイの荷役柱が、庫の角から、掌三枚ぶん外れて脇を通った。ケイは庫の後ろの角へ回った。人の肩が通る隙間でも、荷物の角は残る。角を先に見る。配送所の細い支柱から、庫の角が離れた。


「後ろ、抜けた。トレイへ」


 庫の底の厚い脚が、受け架の手前の案内に、先に触れそうだった。ケイは、真っ直ぐ押し込みたくなった。押し込めば入る。入るが、脚が曲がれば、次に下ろすとき困る。


「タルク、ほんの少し上げてくれ。ボウは、同じ向きで」


 脚の下に、細い隙間ができた。ここでトレイを動かせば、その隙間を自分で見失う。三隻とも動かしたくなる気持ちを、ケイは飲み込んだ。


「トレイは、止めたまま。庫だけ、そっちへ」


 白い箱が前へ出た。案内を越えた所で、下ろす。厚い脚が受け架の奥へ収まり、固定が閉じた。


「二基目、受けた」トレイの船長が言った。


 ボウが息を吐いた。「大きい船を先に動かさなかったのは、今日は正解だったね」


「回すのも、ただじゃないだろ」ケイが言うと、ボウは干した魚を指で弾いた。


「ただじゃない。回した角度の分、もらうよ」


 笑い声が、別々の船から重なった。テツの点検機が上から撮った映像が、壁の画面に流れている。荷台の上に、白い箱が二つ。そのまわりを、重い船と、平たい船と、線を引く船が囲んで、碁盤の目のように並んでいた。いちばん小さい黄色は、庫の影の中にいて、見つけるのに時間がかかった。


     * * *


 その夜、ハチの狭い席で、ケイは固まりかけた飯を食った。通信に、トレイの船長が出てきた。


「あんた、庫の下に入る前に、必ず荷重を聞くな」


「聞かないで入るほど、器用じゃない」


「空荷で帰るのが嫌いな理由、教えてやる。軽いと、船が落ち着かないんだ。重いのを積んで初めて、舵が言うことを聞く」船長は画面の中で、鉛筆の先を舐めた。「あんたは、逆だろう。何も掴んでないと、手が落ち着かない」


「そうかもな」


「あんたの艇は、いつも何か掴んでる。今日は、掴まなかった。それが、いちばん重い仕事だったぞ」


 ケイは答えず、飯を口に入れた。冷えた飯には、冷たい重さがあった。


     * * *


 三基目は、翌日の夕方だった。真ん中を空けたので、線を渡す道は広かった。庫を回す必要もない。ケイは、こういう日が危ないと知っていた。慣れた日に、庫の脚が壊れる。トレイへ近づくとき、ボウは後ろを見て、ケイは荷台側から空きを伝えた。庫の下では、テツが灯りを三つ入れている。三本目のアンカーは、どこにもなかった。


「切り替え、始めます。四」


 唸りが消えた。数える声が、三、二と続いて、一のところで、唸りが戻らなかった。庫の外の灯りが、消えたままだった。ケイは座席の中で、指を握った。


「コネクタが入らない」現地の担当が、荒い息で言った。「接点に霜。もう一度」


 九つ数える間、庫は黙っていた。唸りが戻り、庫の灯りが、ぱち、と点いた。


「九秒」リレーの船長が言った。声が、いつもより低かった。「四秒って言った。九秒だ」


「霜は、庫の側の話だ」


「知ってる。それでも九秒だ」


 誰も、それ以上は言わなかった。ケイは庫の外側の温度表示を見た。数字は動いていなかった。だが記録は、九秒を残していた。


読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、ブックマークや下の★★★★★で応援してもらえると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。