第16話 家が離れる日
枠が、その場でくるりと回った。
中央が大きく空いた鉄の四角で、両端に別々の台車が付いている。片側だけ引けば、空洞の四角が軸もないのに回る。「今のは俺じゃないぞ」リムの積み出し場の作業員が、ハチのカメラへ両手を挙げた。「そっちの台車が勝手に」
「両端を棒で結んでくれ。引く帯は二本に分ける」ケイは艇を枠の真横へ寄せた。隣の倉庫が、切って売る予定だった枠をそのまま使いたいと言い出したのだ。運ぶだけで一万二千。買った家の切り離しは明日で、その四千は、この仕事で出せる。「引かれる点を、真ん中に寄せる」
棒が渡り、帯が二本張られた。台車の片方が床の縁へ落ちてついてこない。ケイは右の帯を緩め、空いた腕で足元を起こした。車輪が縁を越えた。倉庫の入口は高さが足りず、幅は余っている。枠を横へ寝かせ、ハチごと入口をくぐらせた。
「そこまで寝かせるのか」受け取り側の三人が、首を横へ傾げて見ていた。
「立てる場所は、中に入ってからある」
中で立てると、空の倉庫の床に、棚を置く大きな四角が残った。入金は、その場で来た。
* * *
切り離しの日、ヴィクは配管を一本ずつ指して言った。
「これは残す」次の管では首を振る。「これは向こうの物」
家の下には、欲しい管と返す管が並んで走っている。二十二日目、リムの撤去班が外の足場に出て、ケイはハチから見ていた。作業に入る前に全員で使う図へ、同じ色の印を付ける。キューに家の中身を聞いても、外の計器の先へはつながっていない。記録に足せるのは、今日この目で見た物だけだった。
「使ってる物をつないだまま外すと、面倒になる」ヴィクの声が通信に入った。「先に止めて、残りを抜いて、閉じる所を閉じる。ねじが管の陰に隠れてるから、手を入れる前に見るんだよ」
「もう少し上を照らすか」
「そう、そこ」ケイは外側の灯りを動かして、撤去班の手元を明るくした。切る役目を奪うより、工具の先が見えるほうが早い日もある。古い管が一本、家から離れた。ヴィクが中の端を塞ぎ、外の担当が反対側を閉じる。水滴が一粒、カメラの前で丸く浮いて、布に受けられた。
コロからテツの画面が届いた。赤い丸が付いている。
「その左側、覆いの数が合わないです」
ケイはカメラを寄せた。覆いはある。ただし裏返しで、横に置かれていた。「まだ締めてない所だな。指してくれて助かる」
「あと、黄色の印が一か所、僕の控えだと」テツの説明が長くなり、よく聞くと、昨日の記録に左右を逆に入れたらしい。「現場の図で直します。僕が写すとき、間違えました」
「傷は、直る前に言え。言えたな」
「はい」赤い丸の位置が、画面の中で変わった。テツは今日は艇に乗らず、点検机で映像と記録を一つずつ合わせている。見えない所を、想像で埋めていなかった。
台所の窓の下に、低い棚が造り付けになっていた。窓を塞がない高さで、ヴィクはその棚を、ずっと目の端に置いていた。
「この棚、残せる?」
「鉢を置く気だな」
「自分の分の場所代は、自分で払うよ」ヴィクは棚を軽く押した。ぐらつかなかった。撤去しない物の欄へ、ケイはその棚を足した。台所の窓辺に、機械のためではない場所が一つ残った。
午後、最後の部屋でヴィクが手を止めた。
「この引き出し、奥にまだ何かある」
薄い紙が出てきた。家の絵だった。子供の線で四角い家に窓が三つ、屋根から煙が出ている。隅に丸い字で名前が書いてあり、最後の一字は擦れて読めなかった。担当が受け取って、前の住人に連絡してみると言った。向こうの家の写真と交換になるかもしれない、と笑っている。
「積み込みの一覧に足すか」
「足さない」ケイは首を振った。運ぶ物ではなかった。
* * *
ヴィクが窓の内側から、部屋を一つずつ回る姿が見えた。寝台の下から出てきた板で、扉が途中で開かないよう押さえる。鏡は外して箱に入れ、椅子は重ねて足元を留める。旅行に出る前の戸締まりに似ていた。旅行に出るのは、家のほうだったが。
棟に残っていた三人が退出し、扉が閉まった。曳いている間、住宅棟に人は乗せない。内側を確かめたという声が、三つ順に届く。
ケイはハチの腕を、骨組みの下へ差し込んだ。最後の固定金具は、引っ張って外さない。わずかに押し戻して、金具が噛んでいる力を抜いた。撤去班の腕が動いた。
「一本目、抜けた」
二本目。家の影が、隣の棟の壁から細く離れていく。ケイはまだ運ばず、手前の仮の支持具へ収めて、一晩置くことにした。暗くなるまで働いた班を、出航のために待たせる理由はない。固定を引き継ぎ、腕を緩めた。
家は、もう元の列へ戻らなかった。窓の下に黒い隙間が一本できて、その向こうに星が見えた。四つ並んでいた棟が、三つになっている。
撤去班の一人が、手袋の先で隙間を指した。「こんなふうに外へ出すの、久しぶりだ。いつもは、ここで壊す」
「置く場所は空けてある」ケイはコロの外壁の写真を送った。何もない平らな面を、相手は隙間と見比べた。
「じゃあ、明日はそこまでだな」
帰る前、担当が小さな袋を寄こした。鍵が一束と、預けていた洗濯ばさみが入っていた。つまみ出して、ハチの計器盤の縁に留めた。
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