第113話 取り分は、トバの床に
トバの大整備場は、灯を半分落としていた。床は、船が三隻並んで入る広さがあった。天井の梁から吊った灯が、一つおきに消えている。消えた灯の下の床に、橙の札を付けた物が並んでいた。梁の切れ端、配管の束、架台、足場の板。アーチ以外の、トバの残りだった。ラズの部下が札を付け、清算の目録に載せた物だ。札の橙は、全部同じ色で、同じ高さに下がっていた。
船団は、自分の艇を整備場の口に並べて、歩いて入ってきた。サワは請求書の束を小脇に挟んでいた。コマは寝袋を肩に掛け、ブンは老眼鏡を額に上げている。トレイの船長は耳に鉛筆、リレーの船長は白板を抱えていた。タルクの船長は、いつもの画面の中で、掌だけを見せていた。
ケイは、整備場の真ん中に立った。
「先に言う」ケイは言った。「金がない。運ぶ金も、据える金も。口座の金は、全部、枠の代金に行く」
誰も驚かなかった。サワが、紙の束の角で、自分の顎を掻いた。
「とっくに。うちら、あなたの口座の細さは、よく知ってる」
ケイは、ラズを見た。ラズは整備場の端の、札の列の始まりに立っていた。部下を連れて、手に目録を持っている。
「この残りの、回収権を」ラズは目録を開いた。「清算では、処分に費用がかかる物ばかりです。運び出して、切って、捨てるのに、当社が払うことになる。船団の皆さんが持っていってくださるなら、その費用が浮きます。回収権を、船団にお渡しします」
「タダで」トレイの船長が、鉛筆を耳から外した。
「当社は、損をしないだけです」ラズは言った。「皆さんが得をするかどうかは、皆さんの腕で」
「曳く代わりに、枠を使わせる」ケイは言った。「整備の枠を、各船に。何年分か、無償で」
「何年」ブンが言った。
「決めてない。ブンが決めてくれ」
ブンは老眼鏡を下ろした。下ろして、ケイを見た。見たまま、口を結んでいた。
* * *
ケイは、札の列の前へ歩いた。梁の切れ端と配管の束の間の床に、アーチの図面の刷りを広げ、四隅を札の付いたボルトで押さえた。それから、梁の切れ端の、橙の札の横にしゃがんだ。
「道具を置いてくれ」ケイは言った。「前と同じだ。一番使う物を一つ。自分が引き受ける所に」
カノンのときは、卓の上の図だった。今度は、港の床の、本物の残りの上だった。
サワが最初に来た。自分で継いだ索の束を、細い梁の束の上に置いた。振れを殺す、長い線の端。
「請求書は、出すよ」サワは言った。「額が零でも。零って書いた請求書を、毎回」
コマは、握りが手の形にへこんだ切断具を、配管の束の上に置いた。どれも小さく、数の多い所だった。
「前払いは、いらない。その代わり」コマは寝袋を肩に掛け直した。「オトさんの付け、延ばして。板の線、あと一年分」
トレイの船長は、使用回数を刻んだ固定具を、足場の板の山に置いた。「帰りに、これを積む。空で帰るのは嫌いだから」
ブンは、隙間計りを、アーチの図面の刷りの上、枠の継ぎ目の印の所に置いた。「継ぎ目に最初に入るのは、俺だ」
タルクの画面の掌が、握って、開いた。トレイが預かってきた鏡面の環が、枠の一番重い吊り点の印の上に置かれた。
札の列の端で、ラズがそれを見ていた。橙の札の上に、他人の道具が順に載っていく。ラズは目録の頁を指で押さえたまま、めくらなかった。
「当社の札の上に、道具を置かれたのは、初めてです」ラズは言った。「目録には、書く欄がありません」
「書かなくていい」サワが言った。「うちが覚えてる」
ブンが、顔を上げた。「三年だ」
「何が」
「さっきの、何年分かだ。年寄りの勘定で、三年」ブンは隙間計りの扇を、一枚だけ開いて閉じた。「三年あれば、継ぎ目の癖が分かる。分かったら、あとは払ってやる」
「うちは五年がいい」サワが言った。「請求書が零なら、年は長い方が得」
「三年だ」ブンは言った。サワは肩をすくめ、束の一番上に何か書き足した。
ブンが、隙間計りから手を離さずに言った。「背骨がある」
「背骨」
「カノンの。ガラ場に、まだ浮いてる。回収権は、うちらにある」ブンは目を細めた。「あの骨は、いい骨だ。客船の背骨で、中が通路になってる。人が並んで歩ける。コロの口と、枠の脚の間に渡すのに、ちょうどいい太さだ」
ケイは、図面の上の、北の口とアーチの脚の間を見た。何も描いていない空白だった。そこに、客船の骨が一本、渡る。空白の幅を、指で測った。指は、足りなかった。
最後まで、リレーの船長の白板だけが、床に置かれていなかった。リレーの船長は白板を抱えたまま、枠の図の真ん中の、配電盤の印の前に立っていた。白板に何か書いて、消して、また書いた。それから、白板を印の上に置き、その横に、自分も腰を下ろした。
「俺は、帰らない」リレーの船長は言った。「四秒の男が、あの枠の肺になる」
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