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星を買うには三百人  作者: 雅龍(がりゅう)
第9章 大きな買い物、小さな家

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第109話 百四十に届かない

 トバの基地は、前に来たときより、窓の灯が減っていた。ハチの窓の上を、アーチの白い梁が横切っていく。ケイは枠の下で艇を止め、枠の先端の操作室を見上げた。三方のガラスの向こうに、顔が三つ並んでいる。ヴィクは手帳を膝に開き、テツは点検機を胸に抱え、トキは操作席で把手に触れずに座っていた。三人はボウに乗せてもらって来た。ハチの座席は、一人分しかない。


「重さから」ヴィクが言った。数え直すのは、三度目だった。数えるたびに数字は同じで、同じことを確かめるために数えた。ヴィクが一つ読み上げるたびに、把手に触れないトキの指が、膝の上で小さく曲がった。本体の値に、口座は十四万届かない。運ぶ金と、据える金は、零のままだった。タルク一隻で引ける重さの、ずっと向こうに、この枠の重さがある。電気は、今のコロ全部の四倍。


「電気は、リレーの艇でつなぐとして」テツが言った。「一度に動かせるのは、腕一本ですね。二本動かしたら、艇の方が先に息切れします」


「一本でいい」


「一本で、枠ごと曳くんですか」


「曳くのは船だ」ケイはヴィクの読む数字を聞きながら、窓の外の枠を見ていた。


 四本の整備腕が、枠の縁から空へ伸びている。一本目と二本目は、生きている。四本目はブレーキが段ごとに滑る。三本目は、駆動の歯が欠けて死んでいた。替えの型は、どこにもない。死んだ腕は、生きている腕と同じ重さで、枠の片側にぶら下がっていた。


「あれを、外す」


 ガラスの向こうで、ヴィクが手帳から顔を上げた。


「外して、置いていく。持って帰らない。腕の分、枠が軽くなる。曳く船が一隻減る」


「片側が、軽くなるね」ヴィクは手帳の図の、腕の付け根に鉛筆の先を置いた。


「軽くなるなら、いい」


 ヴィクは鉛筆を置いたまま、ハチの方を見下ろした。何か書き足しかけて、書かずに、次の欄へ移った。


「置いていくって、どこに」


「ラズに渡す。部品として」ケイは言った。「切らずに外す。無傷なら、値が付く。その値を、本体から引かせる」


 テツが、点検機を抱えたままガラスに寄った。「切らずに、ですか。あの関節のピン、何十年も抜いてないですよ。錆で」


「だから見に来た」


     * * *


 ハチは、死んだ腕の付け根に浮いた。右の爪で、腕の梁を一度叩いた。響きが短い。艇を返して、生きた一本目の梁を叩いた。響きは長く、枠の奥まで尾を引いて、座席の背中に戻ってきた。同じ鉄で、同じ太さの梁でも、繋がっている先が生きているかどうかで、音が違った。


 関節のピンは、ハチの胴ほどの太さがあった。頭は丸く平たく、縁に細かい刻みが並んでいる。点検した者が、点検した日に、刃物で一つずつ入れた刻みだった。古い刻みは縁が丸くなり、新しいものほど角が立っている。一番新しい刻みは、ほかのどれよりも深かった。


「俺のだ」通信で、トキが言った。「閉鎖が決まった月に入れた。動かん腕の、最後の点検だ」


「なぜ入れた」


「決まりだからだ」トキの声は、把手の上の手と同じに動かなかった。「動かん腕でも、見たら刻む。見た奴がいた、と残る」


 宇宙服で足場に出たテツが、点検機の先を関節の隙間に向けた。画面の中で、ピンの胴と受けの間に、茶色い影が斑に浮いていた。ブンの隙間計りがあれば、遊びが測れる。今日はない。ケイは画面を撮り、同じ角度で、ピンの頭を撮った。刻みの並びが、写真に全部入った。


     * * *


 写真を送ってから一時間もしないうちに、ラズの顔が画面に出た。窓のない事務室で、卓の上に、ケイの送った写真が刷られて置いてある。


「切らずに外せるなら、部品になります」ラズは言った。「関節ごと。ピンも込みで。欲しがる港は、三つあります」


「値を引け。本体から」


「引きます」ラズは、卓の上のペンを取った。橙だった。関節の写真の上に、丸を一つ付けた。アーチの図面の脚を横に切ったのと同じ色で、同じ速さの丸だった。「この腕の値は、私が付けます。十二万」


「安い」ケイは言った。「歯を替えれば動く。十八はする」


「歯の型がありません。型のない腕は、腕の形をした鉄です。鉄の中では、高いほうです」ラズは丸の横に、数字を書いた。「十二万は引きます。それ以上は、引きません。発電の設備は、本体から外して、当社で別に売ります。あなたの枠に、電気は付きません」


「電気のない枠を、どうやって動かすのさ」ヴィクが、回線に割り込んだ。


「それは、買い手の方の問題です」ラズは、ヴィクにも同じ丁寧さで答えた。「発電の設備には、別に欲しがる方がいます。枠と一緒に売ると、その方の分だけ、値が眠ります」


「電気は、こっちでやる」ケイは言った。


「そうなさると、思っていました」


 ガラスの向こうで、ヴィクが首を一度横に振った。やめとけ、の振り方だった。ケイは画面から目を離さずに、手帳の数字を頭の中で並べた。十四から、十二を引く。ラズが、写真から顔を上げた。


「残りは、二万です。四百日目まで」


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