第104話 航路灯を戻す
四基の航路灯は、修理ベイの床に、頭を揃えて寝かせてあった。ロクが置いていった物だった。番号を記録し、写真を撮り、磨きかけの脚に証拠の札を一枚ずつ巻いて、それから言った。灯は、灯の仕事に戻してください。裁定に要るのは番号で、灯室ではありません。札は、脚に巻いたまま立ててください。
一基だけ、脚がなかった。ナバ線の一基だった。四本の脚は四本の鉤になり、刻印の残った一本は、ナバの証拠庫の棚にある。灯室だけが、網から出されて、床の上で丸く光っていた。
「脚は、持ってきた」トレイの船長が、鉛筆を耳から外して、荷の伝票を叩いた。「管区の規格品の台座ごと。脚の長さも、灯室の座も、同じ。空で帰るのは嫌いだから、ついでに接続箱も二つ積んできた。請求は、別」
ケイは規格品の台座を床に下ろし、灯室を座に当てた。合った。ボルトの穴が、八つとも、指で押すだけで揃った。回収品で継げば、座を削るところから始まっていた。削らずに合う物を手に持つのは、変な感じがした。
「削りたい顔してる」ヴィクが、入口から言った。
「してない」
「削らずに合う物は、あんた以外の人でも締められる。だから規格って言うんだよ」
ケイは台座を若い保守員に渡した。保守員は台座を受け取り、トルクの値を蓋裏の紙に書いてから、締めた。
* * *
ナバ線の一基は、午前のうちに、ナバ寄りの元の石に据え直した。新しい台座の脚は灰色の塗装に傷一つなく、札の付いていない一基だけが、闇の中でやけに明るく見えた。
キサ線の三つの台座は、コロから一時間半の闇の中に、等間隔で並んでいた。切り取られた根元は、鏡のままだった。ハチの灯りを当てると、切断面が光を返して、ケイの黄色い艇を映した。ケイは右の爪で台座の縁を掴み、左の爪で切断面を撫でた。両方の爪が、同じ速さで同じ場所を撫でた。
「一基目、座に乗せる」
ボウが灯を曳いてきて、索を緩めた。ヤットコとカンナが両脇から灯室の向きを揃え、ハチが脚の切り口を座の切り口に押し当てた。コマの艇は小さく、狭い所で速かった。ブンの艇は遅いが、一度決めた位置からずれなかった。二人の手つきの違いが、灯室の揺れの止まり方で分かった。若い保守員が座の継手に溶接の当て板を入れ、テツが点検の紙に署名した。
少し離れた所に、ポルカが浮いていた。エマは客を乗せていなかった。船の灯りを絞り、航路の線の上を、客船と同じ速さで、同じ向きに進んでいた。一基目が立つと、エマは操舵室の窓からそれを見て、船をいったん止め、窓の外の灯と、自分の船の計器を、交互に見た。
「一基目。見える距離、規定どおり」エマの声が通信に入った。「次」
「明日から、戻せるか」ケイは聞いた。
「条件は三つ」エマは、船を止めたまま言った。「四基とも規定の距離で見えること。灯の消えた区間に、板が一枚も浮いてないこと。最初の便の前に、私がもう一度、この線を通ること。三つ揃ったら、戻す。揃わなかったら、戻さない。あなたが何日待っても」
「板は、夕方までにもう一度さらう」
「さらって。私も、目で見る」
通信の端に、ヨキの声が一行だけ入った。「客が、名簿に名前を書いて待ってる。四十一人」
二基目。溶接の当て板は、二基目のほうが一枚多く要った。
「ナバ線の新しいのが、一基混ざってるのも、いい」ボウが言った。「どれが盗まれたか、忘れないで済む」
三基目。最後の台座は、灯の消えた区間の、コロ寄りの端にあった。ここから先は、コロの接岸口の誘導灯が見える。
* * *
同じ日の夕方、ブロックCの扉が開いた。
喉の綱に一晩繋がれていた家は、翌朝、ボウとタルクが静かに曳いて、コロの外壁に寄せてあった。鉤の打ち込まれた縁は、トレイの持ってきた当て板で塞いだ。接続の前に、ヴィクは避難艇ラックの表示灯を、廊下の端から端まで、自分の目で一つずつ点けていった。全部、緑。それを見てから、若い保守員に頷いた。
「避難が先。部屋は、その後」
保守員が最後のボルトを締め、テツが署名した。扉が開くと、客船の廊下の丸窓に、コロの岩肌の灯りが映っていた。
最初に入ったのは、ホタから荷と一緒に来た農家の夫婦と、キサの鉱夫の二家族だった。運休の間、ナバとホタで宿を転々としていた人たちだった。ユイが廊下の床に膝をついて、黄色のテープを貼っていく。今度は、テープの端が丸窓の廊下を曲がって、Cの一番奥の客室の前まで届いた。
「部屋の数が、先にあるの、初めて」ユイは貼りながら言った。「いつも、人が先に来て、部屋を探してたのに」
「探すのも、仕事だった」ケイが言うと、ユイは首を振った。
「探さなくていいなら、探さない」ユイは、テープの最後の端を、指の腹で押さえた。
* * *
夜、ケイはハチで、キサ線の三基目の台座の横に浮いていた。
三基目は、まだ点いていなかった。エマがそう決めた。キサ線の運休を解くのは、全部の灯が点き、最初の定期便がそれを見て入ってくるときだ、と。ポルカはコロの丸い口に付いて、エマは操舵室から、航路の線を見ていた。
「点けて」エマの声だった。ケイは三基目の灯室の横に手を伸ばし、若い保守員が付けた始動の把手を、右の爪で倒した。
灯が点いた。振り返ると、闇の奥に、灯が一つ、また一つ見えた。キサの側から、一基目、二基目。二つの点が、今、三つ目の点と並んで、コロへ向かう一本の線になっていた。線の先に、コロの接岸口の誘導灯が、白く光っていた。
「キサ線、運休を解除します」エマは言った。自分の客に向かって言う声だった。「決めたのは、私。マズルカ、どうぞ」
線のいちばん遠い端で、灯が一つ、動いた。マズルカの船首灯だった。灯は一基目の灯の横を過ぎ、二基目の横を過ぎ、灯の線の上をまっすぐ辿って、コロへ入ってきた。
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