仕事
「あら〜今日も男前ね〜」
白髪に赤茶色のベレー帽を被り、柔らかな笑顔を浮かべる老婆。向かいの2軒先のマカーラさんだ。
「ハハハッ マカーラさんもお美しいですね」
そういうと右手で叩くような仕草を見せて「やだ〜」と笑う。
「この前の肩掛けできていますよ」
「あら、もうできているの?」
店奥の部屋から注文されていた肩掛けを持ってくる。
先日、市場で安く売っていた肩掛けを買ったがどうもデザインがしっくり来なかったようでうちに持ってきた。
「まぁまぁ!かわいいチェリーのブローチ!」
目を丸くして口角をあげる彼女の手には目立たない大きさのチェリーのブローチが収まっていた。
「胸元で留められるようにしておきました」
「ありがとう。懐かしいわ〜昔、夫と育てたのよ」
マカーラさんは五年前に旦那さんを亡くしている。
スザンが小さい頃に店に遊びにくるとよくお菓子をくれた。祖父の葬儀にも顔を出してくれて大変よくしてもらっていた。今もだか…
「こんな素敵な肩掛けも作れるのね〜」
「仕立て屋さんでもスザンくんはテイラーでしょ?」
テイラー。仕立て屋の大半はそう呼ばれるが、スザンはスーツを専門にしている。
「お客さんが喜んでくれるような服が作りたいんです。スーツだけにこだわらずね」
「まぁ、なんていい子なんでしょう…お爺さまも誇らしいことでしょうね〜」
そんな会話をしながら注文リストに済みの判を押す。
店内をあちこちと見ていたマカーラさんが「よっこいしょ」とソファに腰掛けた。スザンは紅茶とクッキーを出すと「ご丁寧にどうも〜」とコップを口に近づける。
「あっ!またっ」
スザンは今はマカーラさんしかいないからと懐からタバコを取り出し、ライターを近づける。さすがに匂いでわかったのか、間髪入れずに注意されてしまう。
「お仕事中でしょ!そんなところはお爺さまに似ているのね」
スザンはぐうの音も出ないという表情でタバコをくわえたままだ。
「今はマカーラさんしかいらっしゃらないんですから多目に見てくださいよ」
「だめです!」
スザンは観念したように灰皿にタバコを押し付ける。
「マカーラさんに言われちゃ敵わないですね」
「それでいいのよ。いい?吸いすぎはよくないわよ」
「はーい」
スザンは空返事をして時計をみる。マカーラさんも時計に目を向ける。
「あらっもうこんな時間!?」
「今日は孫が来るのよ!だから行かないと!」
そう言ってそそくさと店のドアノブまで手を近づける。
「じゃあ、今日はありがとうね。タバコはほどほどに。ちゃんとお仕事するのよ」
「じゃあね〜」と店を出る。嵐が立ち去ったようだ。
さて、仕事をしようか。




