青年
イタリア ナポリ
この街は昔から栄えていて、西洋らしい景観とそれにはしゃぐ観光客達で、今もなお活気づいている。
そんなナポリの街外れにはちょっと有名な仕立て屋がある。赤レンガでかたどられた建物は、古くからこの街の一つの象徴であるように堂々たる気高さを纏っていた。
「あ〜今日もやるか〜」
店の外観とは裏腹に気だるそうに二階の窓からタバコをふかしながら顔を覗かせる青年。
彼こそ、この店のオーナー、スザンだ。
(じいちゃんが亡くなったから継いだしがない仕立て屋だけど、案外楽しいんだよな〜)
寝起きなのだろうか。頭には二つ三つほどピョンピョンとはねている寝癖がある。スザンは体を伸ばしカチカチと秒針が進む年季の入った壁時計を見ると開店20分前だった。
「あっヤベッ」
クローゼットの隣の引き出しから丁寧に畳まれたシャツを一枚取り出し腕を通す。
ネクタイは白と茶色が織りなす少し明るめのものだが、その上に映える紺を基調とした生地に薄い黒のボーダーラインが施されているベストを羽織る。
髪は適当に櫛でとかし、慌ただしく部屋を出て階段を駆け降りる。
店の表のドアにかかっている看板をひっくり返し、ChiusoをApertoに変える。
「あとは…」
メジャーを並べ、新調した生地を箱から出したりする。そして、最後にベストの内ポケットにタバコを一箱とライターを入れる。
チャリンチャリン
ドアのベルが鳴った。今日の最初のお客だ。
「Buongiorno」
「いらっしゃいませお客様」




