第57話 決戦前
先ずメディナが進めたのは組織の再編だった。
経済顧問である富楽が居なくなってしまった以上、その穴は何等かの方法で埋めなくてはならない。そこでメディナは領内で目ぼしい人材を集め、経済政策の目的やその伝え方を教え、自分が居なくても経済政策が進められる体制を作っていく事にした。
メディナは領内から選りすぐった者達を一堂に集め、話し合っていく。
「ふむ。では、ただ黒字化させれば良いという訳ではないという事ですな?」
参加者の一人が確認の意味も込めて質問し、メディナは頷き説明で返す。
「はい。黒字化と言っても良いものと悪いものがあります。例えばある国が黒字化したとして、その国で供給される商品が売れる事で黒字化しているものであれば供給能力を成長させる良い黒字化と言えるのですが、その国の土地を買い漁られたり、人件費を削ったりしたりで黒字化させている場合、供給能力を失う可能性が高い悪い黒字化と言えます。黒字か赤字かもそうですが、経済の指標はなぜその変化が起きたのかまで調べなければ状況を把握する事は出来ません。だから、経済政策を進める際に特定の指標の向上を目的とすべきではないのです」
この様に、メディナは質問に答えていきながら意見を深めていった。
ついこの間までは富楽から教わる立場だったメディナも、今ではすっかり教える立場。こうして皆に政策の目的や進め方を教え、自分が居なくとも滞りなく政策が進められる体制を作っていくと共に、富楽の代わりに各領へと向かう人も任命し、見事状況を立て直して見せた。
富楽が死んでしまった事で一時はどうなる事かと思われた民主派だが、メディナの手早い立て直しもあって、富楽が居た時と同じ様に政策の話を進める事が出来た。
それから月日が流れ、有力者への説明会も概ね終わり、選挙前の最後の対決の日となった。
シュナウザー領にある巨大な施設。普段は大規模なコンサートを行っている音がよく響く会場に大量の馬車や自動車が停まっている。恐らく国中から権力者が集まっているのだろう、付き人が居る様な一目でそれなりの権力を持っていると分かる人達が会場へと入っていくのが見える。
ここでの議論が民主派と復権派どちらが良いかを判断する最後の場、実質ここで決着がつくといっても過言ではない。そういう事もあって、ただ見物するだけの有力者達の表情にも緊張の色が見える。
そんな会場の中、メディナが待機している控室にアルダートが訪ねてきた。挨拶を交わした後、早速アルダートは本題に入る。
「富楽の件、大変だったな」
アルダートとしては複雑な心境だった。
復権派としては厄介な相手が居なくなった訳だが、ルプス連邦としてはこの国を良くするために働いてくれる人材の消失であり、アルダート本人にとってもそれなりに気に入っている人物が死んでしまったのだ。選挙で勝ちやすくなったとはいえ素直に喜べない状況なのだ。
「はい。富楽さんが死んだ事を知らされた時、一時はどうしたらいいものかと思いました。でも、くよくよしていられませんから」
一方メディナの方は淀みもなく吹っ切れた様子。富楽の喪失を引きずっている感じはなかった。
そんな様子のメディナを見て、アルダートは少し間を置き話していく。
「正直、私は貴方をみくびっていました。ペンブローク領の経済政策が上手くいっていたのは富楽が居たお陰であり、富楽が居なくなったら何も出来なくなるものだと思っていた。だがしかし、貴方はしっかりと知識を受け継ぎ、一人でも経済政策を進めれる様になり、今では教える立場にもなっている。見直しましたよ、メディナ・リィル・ペンブローク」
アルダートは賞賛の言葉を伝え、それにメディナは照れつつも、しっかりとした視線をアルダートに向けて語る。
「富楽さんは最初から自分が居なくなった時の事を考えてくれました。経済を立て直すというのは自分が全部解決すればいいという話ではない、現地の人達だけで経済政策を進められる仕組みを作る事こそ真に経済を立て直すという事だって言っていて、自分で政策を進められる様に私に経済の事を教えてくれました。だから、ここで私が富楽さん無しでもやっていけるのを示す事こそが、富楽さんのやってきた事を無駄にしない事かなって思ったんです」
ちょっと前まで頼りない姿を見せていたメディナだったが、今はいっちょ前の領主の様相になっている。富楽の死亡という事態はメディナを弱くする要素ではなかった。メディナは富楽の死を乗り越え、一回りの成長した様だ。
「そうか」
それを見たアルダート嬉しそうに微笑んだ。
そしてメディナはアルダートに向けて力強く言い放つ。
「私、負けませんから。今回の討論も、その後の選挙も」
望むところだと言わんばかりにアルダートも言い放つ。
「それはこちらのセリフだ」
そんなやり取りをした後、メディナとアルダートは部屋を出て別々の道を行く。メディナは民主派の経済政策の代表として、アルダートは復権派の筆頭として、対決の場へと向かうのだった。




