第55話 これまでを思い返し
時と場所は変わり、キャバリア領。
この領で一仕事を終えた富楽は一人で夕暮れの街中をぶらついている。ヴィヴィエットは宿で先に休んでおり、暇を持て余していた富楽は観光がてら外を見て歩いていた。
夕焼けで赤く染まる街の中を歩きながら富楽は物思いにふける。
(全体的に良い傾向だ。メディナはよくやってくれている。国全体を良くしたいという意思が強く、学ぶ意欲も高い。まだ頼りない点は多々あるが、これからの成長で改善していく事だろう。民主派の筆頭であるディバルさんは民主派全体をまとめ上げるのに尽力してくれている。民主派は少し前までバラバラで方向性も定まっていなかったが、方向性が決まった事とディバルさんのリーダーシップとでようやく形になったという所か。そして何より、対立派閥が相手を倒す事を目的化させていないというのが大きい。派閥の対立が激化し政府関係者が相手派閥を倒す事にやっきになってしまうと、政府が本来の役割を忘れ、政府も国民も疲弊させて国全体を弱体化させてしまうもんだからな。是々非々を理解してくれるのは本当にありがたい。これなら、もう俺が居なくとも好景気が経済成長を生む軌道に乗せる事も出来るだろう)
事は順調に進んでいる。
経済にとって重要なのは何か、経済成長させるために国民がするべき経済活動は何なのか、そのために政府はどの様な政策を進めるべきなのか、そういった事もそれなりに広める事が出来たと思う。
富楽はいまさらながら思う。
(この国、ルプス連邦にはきっかけが必要だったのかもしれない。国の経済に何が必要かに気付くきっかけ、民主派が一丸となるきっかけ、民主派と復権派の過度な対立を止めるきっかけ。もしかしたら、俺はそのきっかけになるためにこの世界に来たのかもな)
と柄でもない事を考えながら歩いていた、そんな時だった。
背後からタッタッタッタと人の走る音。富楽は気になり振り返る。
ドスッ。
誰かがぶつかってきた。それと同時に腹部に違和感を感じる。そして、それはすぐに激痛に変わり、体に力が入らなくなり、富楽は地に膝をついた。
「な・・・何が・・・」
突然の事に戸惑いながら、富楽は激痛の震源地である腹部を見る。
腹にはナイフが刺さっていた。服が血が染み込んで赤く染まり、溢れる血が滴っている。
次に富楽は自分にぶつかってきた者を見る。
富楽の眼前には動悸で息を荒げている中年男性が立っていた。
「お前の・・・お前のせいだ。お前が悪いんだ!」
貧相な服装の半ば浮浪者の様な見た目の男。一瞬誰だが分からなかった。しかし、この世界で自分に恨みを持つ人間は誰か?という点を考えてみると一人の人物が脳裏に浮かんだ。
「お前・・・あの時の学者か・・・」
ランツ・リッチャー。かつて富楽がペンブローク領でコテンパンに言い負かした経済学者だ。前はシュっとした身なりだったのですぐにはピンとこなかったが、よく見てようやく分かった。
自分を刺した犯人が分かったのは良いものの、かなりマズイ。意識が薄れる。ランツが何か恨み言をごちゃごちゃ言っているけれど、もう言葉もよく聞き取れない。あの時と同じ様な感覚だ。この世界に来た、あの時と。
女性の悲鳴が聞こえる。続いて複数の男性があらわれ、ランツを取り囲み押さえつけた。どうやらこの惨状を目にした近隣住民が、ナイフで人を刺した危険人物であるランツを取り押さえた様だ。
ランツに抵抗する素振りは無い。どうやらあくまで富楽が標的だった様で他に危害を加える気はない様子。他に傷つく人が出なくて、そこだけは良かった。
「まぁ、こういう事もあるか・・・」
消えゆく意識の中、諦めの言葉を漏らし、それを最後に富楽の意識は途絶えた。




