第53話 政治思想は所詮手段
講演会を終えた次の日。
本日メディナがやるのは別の領主との対談だ。民主派と復権派の領主が話し合う様子を見せ、民主派と復権派双方を考えを示すというもの。そして、今回メディナが対談の相手をする事となったのは復権派の筆頭アルダートであった。
メディナとアルダートは椅子に座って向かい合い、それを三十人くらいの記者がメモ片手に二人を見ている。2人の対談の内容は、後日新聞や雑誌等で公開される予定だ。
メディナとアルダートは挨拶と握手を交わし、話し始める。話しを切り出したのはアルダートの方だ。
「ペンブローク領の視察で色々と見させて頂きましたよ、メディナさん。国民はどんな意見を出し、どんな活動をしているのか。そして行政はどの様な対応をしているのかを」
「いかがでしたか?アルダートさん。民主派の経済政策のほどは」
「なかなかに興味深いものでしたね。制度設計の際の手順がシュナウザー領とは異なっていました。例えば、経済を立て直すために新規事業を始めたいとなった場合。シュナウザー領では行政が領の状況を調査し、それで得られたデータと有識者の意見を踏まえて代表が何をするのかを考え、そのための制度を決めて領民にはそれに従ってもらうというものですが、ペンブローク領ではその手順に領民の意見が組み込まれていました。新規事業を始める場合、行政はその旨を領民に伝え、領民自らが新規産業を始めるならどういったものにすべきか、どういった制度が必要になるのかを各々が考え話し合い、自分の意見を政府に届けていた。施行された制度に問題があった際も、どういった問題がありどういった修正が必要なのか、領民自らが改善案を出している。領民が制度設計に関わろうという意識の高さが印象的でした」
賞賛する様な口調で言うアルダート。
メディナはふふんと誇らしげな口調で言葉を返す。
「でしょう?それこそが民主派の政治なのです。経済政策とは供給と消費を成長させる事が目的。そして供給を担っているのは産業の現場で働いてくれている民達で、消費を担っているのも日々の生活でお金を使う民達。だからこそ、供給と消費の当事者である国民と共に考え、供給と消費を成長させる。それが我々民主派が目指すルプス連邦の有り方なんですよ」
さっきまで褒める様な口調だったアルダートは、ここで厳しく詰める様な口調に変わる。
「ふむ。確かに今のペンブローク領の政治形態は民主化の理想を体現していると言えるでしょう。ですが、それをルプス連邦全体の方針とするのはいささか無理があると私は考えます」
「というと?」
「私が思うに、その政策は一部の地域だからこそ管理出来ているもので、国全体ともなれば管理しきれなくなるのではないでしょうか?現に他の民主派の領ではまともに実現できていませんし。それに、ペンブローク領では改善点が分かりやすかったから国民も意見が出しやすかったという事もある。今後国民の分かりにくい問題が発生した時に対応出来るのかは疑問です。大衆が理解できない問題が発生した場合、国民から的外れな意見が出てきたり、大衆が理解できていない事をいい事に不当な利益を得るために誤った情報を流す者まで出てくるでしょう。それらにまで対応しなければならないと考えると、今ペンブローク領で行っているものを国全体の規模で実施するのは早計だと思いますね。これならば、一部の有力者や政府関係者が主導で動いて早期に対応出来る様にすべきでしょう。景気回復も我々復権派の領の方が早く広範囲で実施できていますしね」
アルダートは民主化の欠点を追求し、復権派の利点を語った。
民主化には問題があるから復権派の方が良いという言い草だ。だけどメディナも引かない。
「民主化の方針に問題がある事は認めます。でも、権力を集中させた場合にも問題はありますよね?権力を集中させた場合制度の施行は早くなりますが、政策が間違っていた場合のリスクが高くなります。政策が間違っていたら国民が苦しい思いをしますが、権力者は基本的に苦しい思いをしません。さらには、自分の間違いを認めたくないからと間違った政策を続ける事も考えられます。それを考えれば、たとえ制度の施行が遅れようとも国民の意見による修正力を取った方が良いのではないですか?国民が正しい意見を出し続けるかというと確かにそうではないですが、絶対的な権力を持った者が正しい政策を打ち出し続けるかというとそうでもないでしょう?」
メディナとアルダートは互いに互いのリスクと利点の話題をぶつけあう。
アルダートが国民主導の政策の問題点と政府主導の利点を話すと、メディナが政府主導の問題点と国民主導の利点を話す。完全に押し問答だ。
そもそも政治思想に良し悪しは存在しない。大抵の政治思想に利点があり、同時に欠点がある。基本この話題で決着はつかない。
二人はしばらく同じ様な掛け合いを続けた。突っかかってくるアルダートにメディナは少しムッとしているが、アルダートは食い下がってくるメディナの姿勢に好印象なのか少し嬉しそうな様子。
アルダートは話しを切り替え、締めに入る。
「やはり政治思想の話題になると決着がつきませんね。やってみないと分からない上にどちらにも利点と欠点があるからいくらでも言い様がある」
「ですね。復権派と民主派、その思想に関してはお互い引けないものです。だけど復権派も民主派もこの国の経済を立て直し成長させたいという気持ちは同じ。国民の供給能力と消費能力を成長させて国民を豊かにしたい。その目標は復権派も民主派も同じ。ですよね?アルダートさん」
「はい。政治思想とはあくまで手段でしかありません。政治思想のために目標を見失ってしまっては本末転倒というもの。国民にはどちらの政治思想が良いのかではなく、どちらが自分達が働きやすい社会になるのか、どちらが自分達がお金を使いやすくなるのか、自分達の生活を基準に判断して欲しいですね。もちろん、私は復権派こそが国民を真に豊かにできると確信していますし、復権派を応援して頂きたいと思っていますがね」
「私も、民主派こそが国民を真に豊かにできると確信していますし、民主派を応援して頂きたいと思っています」
今回の対談の目的は対立派閥を倒す事でもなければ支持を獲得する事でもない。復権派と民主派のスタンスを明らかにする事だ。
政治思想の対立と政策の対立は全くの別物。復権派と民主派が対立しているのは政策決定のプロセスについての事で、政策面では対立していない。目的地は同じだけど行き方で対立しているという感じで、到着までが早いけど間違った時に引き返すのが困難な復権派と、到着までが遅いけど間違った時に引き返しやすい民主派で対立しているのだ。このスタンスをハッキリとさせておかないと、せっかく同じ目的地に向かっているのに、民主派を支持する人と復権派を支持する人とが対立して政策批判をしようものならダブルスタンダードな発言をしかねない。ある程度の協調路線を取る以上、無暗に対立構造を作られるのは互いにとっても迷惑になる。そんな事態にならない様に、対立していない部分はちゃんと伝えておく必要があるのだ。
対立派閥ではあるものの、ある程度の協調路線を進める事は示せた。メディナとアルダートは終わりの挨拶をし、握手をしてその日の対談を終えた。




