第52話 メディナの講演
大勢の有力者が居る中、メディナは壇上からそれらと向き合う。
ペンブローク領での講演会ではあるけれど、ここに居る有力者はペンブローク領の有力者だけではない。他の領の有力者も多く参加しており、なんならペンブローク領意外から来ている人の方が多いくらいだ。民主派を代表するという事もあって、注目度が高い事がよく分かる。
メディナは深く息を吸い、呼吸を整えて話し始める。
「皆様、この度はお忙しい中ご足労いただきありがとうございました。今回は民主派を代表し、私メディナ・リィル・ペンブロークが、民主派の理念とこれからの民主派の方針、そしてペンブローク領で行っている経済政策についての説明と、私自身の思いについてお話ししようと思います」
参加している有力者達は様々な視線をメディナに向ける。期待、猜疑心、信頼、不安、様々な感情がメディナに向けられている。民主派だけではなく復権派からも有力者が来ているためか、メディナを快く思っていない人も多い様だ。
そんな中、メディナは語る。
「民主化の方針は、かつての筆頭領主ベルゼー・ギィグ・シュナウザーの理想から始まりました。国民が政治に参加する事で現場で働く人達の意見を政治に取り入れ、国全体の生産性向上に繋げていく。それが民主派の理念でした。しかし、民主化は上手くいきませんでした。いきなり政治に参加しろと言われても大部分の国民は何をすれば良いのか分からず、生産性を上げるどころか、政治に関わるために仕事を辞めてしまう人まで出てしまう始末。さらには国家体制の急な変化により行政側も適切な対応が出来ず、そのせいでルプス連邦の経済は停滞してしまったのです。これまでの民主化の問題は、大衆が政治にどう関われば良いのか分からなかった事と、行政が国民にどう対応すれば良いのか分からなかった事。これからの民主派は、そういった問題を修正し、国民の意見を経済成長に繋げる政策を進める方針を考えております」
民主派の理念とこれからの方針を伝えた後、メディナはペンブローク領で行っている経済政策について話していく。
先ずメディナが話したのは経済政策の基本についてだ。
経済政策とは、国民が価値ある商品やサービスを作れる様にする事と、国民が価値ある商品やサービスを買える様にする事。生産能力と消費能力を共に成長させる事が目的である事を話した。そして同時に、経済政策が上手くいかないのはおおむね国民の生産能力や消費能力を向上させるのを失敗した事に原因があるという事も。
これは分かりやすいからか、メディナの話しを聞く皆も納得している様子。
続けて、メディナはペンブローク領の経済政策について伝えていく。
ペンブローク領で行っている経済政策は、主に領民への説明で適切な意見が届く様にし、領民の意見を行政に取り入れるというもの。領民に対し、自身の生産活動と消費活動の強化が経済成長には必要である事を教え、生産者と消費者の目線の意見を求める。生産事業者当人からどうすれば良い商品を供給できる様になるのかを聞き、消費者当人からどうすればお金を使いやすくなるのかを聞く。当事者の意見を政策に生かす、正に民主派と言うべき政策を。
そこまで説明し「何か質問はございますか?」と質問を促すと、参加している有力者の一人が質問を投げかけてくる。
「メディナさん。貴方が言うには、国民に説明をして意見を募れば適切な政策が出来る様になるとの事ですが、果たしてそのやり方で従来の問題は解決するのでしょうか。これまでもルプス連邦各領は経済政策について国民に説明をしてきました。カネを貯金に回さずに使って欲しいと、価値ある品々を作り供給して欲しいと。説明をしただけで国民から適切な意見が出てくるのであれば、ルプス連邦で経済の衰退は起きなかったはず。そこはどうお考えですか?」
有力者の質問はごもっともだ。
国民に説明して意見を募れば上手くいくなら誰も苦労しない。それを実現させるための策なりなんなりが無いのなら机上の空論として扱われてしまうだろう。
「それは、国民が正しく政治に関わる事が出来なかったからです。民主化の方針は本来、生産者である労働者層から現場の状況を聞いたり、消費者である国民から国民生活の状況を聞いたりして、それを政策に生かすというものでした。ですが、民主化を進め国民の意識が国全体に向かう様になり、国民が自分達の身近な事ではなく、国家がどうあるべきか、どういった思想を持つべきかといった事を語る様になっていきました。結果、政治に関心を持っている人達は本来政府に伝えるべき自分達の身近な事を伝えてくれなくなり、本来国民に求めていた産業の現場や国民生活についての意見が届かなくなってしまったのです」
「ふむ。全体の事に目を向ける様になって、肝心な自分自身がどうするのかといった身近な事に目を向けなくなってしまったという事ですか」
「はい。政府の対応にも問題がありました。これからは国民一人一人が国の事を考えていくんだとか、政治について皆で考えましょうだとか、全体に意識を向けさせる様な伝え方ばかりしていましたから。そこでペンブローク領では対応を変え、お金を使って欲しい場合は自分や自分に近しい人がどうして節約を止められないのかその理由を聞いたり、産業の現場の状況を報告して欲しいといった聞き方をしたり、国民が自分が伝えるべき情報がなんなのか分かりやすくなる様に工夫しました。それにより、今まではなんとかしてくれどうにかしてくれといった具体性の無い要求ばかりだったのが、国民自らが自分が節約を止められなくなっている理由とその解決策について話してくれる様になりましたし、産業の現場にどんな制度や物資が不足しているのか労働者自らが政府に伝えてくれる様にもなりました」
有力者の一人がメディナの言った事をまとめる。
「なるほど。政策に生かすべき意見を国民が提出できる様にしたという事ですな。そして、民主派はそれを元に政策を進めていく予定と」
「はい」
そして質問への回答を終えた後、メディナは満を持して演説を始める。
「ご存知の方も多いでしょうが、私は長い間経済政策を失敗し続けてきました。経験の浅いまま領主になった私は、領の有力者から話しを聞き、それを元に政策を進めていたのです。ですが、それは上手くいきませんでした。有力者の方々は自分の立場というものがあります。自分が関わる組織や商売というものがあり、当然そのために働きます。領全体を豊かにするにはどうすれば良いのかなんて教えてくれる筈がなかったのです。ペンブローク領は制度はいびつに歪んでいきました。そんな中で出会ったのが、今ペンブローク領の経済顧問となってくれている笹霧富楽さんです。富楽さんはペンブローク領の需要不足の問題を解消し、領民がちゃんと政治に参加できる様に制度を整えてくれました。そのお陰で、領民がなぜ節約を止められないのか、貯金を止めるためになにが必要なのか、産業の現場に何が足りていなくてどんな制度が必要なのか、領民自らが意見を出してくれる様になり、領民の意見を政策に取り入れる方針を進める事が出来る様になったのです。富楽さんが土台を作り、領民の皆さんが協力してくれたからこそ、今の私がある。私だけでは駄目だった。だからこそ、私は決して自分だけでどうにかしようとは致しません。必ず現場で働く人達の意見を聞き、この国で生活する人々の声を聞き、国民の意見がないがしろにされない事をお約束します。ペンブローク領領主、メディナ・リィル・ペンブロークでした」
話しを終え、深々と頭を下げるメディナ。そんなメディナにパチパチパチと大勢の拍手の音が浴びせられる。
この拍手は通例に過ぎないので支持されているかは分からない。けれど、参加している有力者の表情を見るにそこまで悪印象でもないと思う。
上手くいったかまでは分からないけれど、やれる事はやった。




