8〜何事も初めては大変だ〜
来週に迫った球技大会。
龍臣が考えた作戦とは?
ふっふっふっ。
俺は第3社会科準備室こと、部室で誇らしげに笑っていた。
「なに? 普通にキモいんだけど」
と、嫌悪感丸出しの鬼嶋。
「オミオミいつもに増してキモ・・・・変だよ?」
と、キモいという言葉を言いかけて何か別のものにスイッチして、遠からず近からずの言葉を見つけるが、全くフォローしてない日下部。
てかもう、キモイって言っちゃってるからね、それ。
まぁ、良い。
俺は自由を手にするために最高の秘策を思いついたのさ!
それはーーーー
「鬼嶋、来週の球技大会でヒーローになりたくないか?」
「なによ、唐突に」
「いいか、鬼嶋。ヒーローの周りにはいつも何がいる?」
「ヒーローの周り?」
「あぁ、そうだ。よく考えてみろ」
手を顎に当てて考える仕草を取る鬼嶋。
少し経ってハッとしたような表情を浮かべて俺を見る。
「怪獣?」
いや、まあ、うーん・・・・間違っちゃいないけど。そう言う事じゃなくて。
根本的なことからいこうよ。
「いいか、鬼嶋。球技大会でヒーローになる、つまり活躍すれば多くの人間がお前という存在に興味を持つだろう。そうすればお前の方から寄って行かなくても自然と人が集まって来る。そうすれば友達の一人や二人造作もないことだ」
「そ、そうね」
鬼嶋も納得した表情だ。
説明しよう。タツオミ・ホシカワ・プレゼンツ『鬼嶋を球技大会で活躍させて友達いっぱい作っちゃおう作戦』の内容を。
まあ、簡単に言えばどんな手を使ってでも鬼嶋を活躍、ないしは目立たせればいい。そうすれば先ほども言ったが人が自然に集まり少なくともその中の一人くらいは救いようのないコミュ障鬼嶋を好きになってくれる物好きもいるだろう。
というのが表向きの内容。
本当の目的は他にある。
みんなも考えてほしい。
鬼嶋に友達が出来たらどうなるか。
もし仮に友達ができた出来たとすればこの「類は友を呼部」という意味の分からん部活が必要なくなるのだ。「友達を作るためにはどうすればいいか」を考えているこの部が「友達ができる」というゴールを迎えてしまったらその先は無い。
よって、「類は友を呼部」は廃部となりなくなる。
よって、俺はこの部から出て行かなくてはならない。
よって、俺は自由の身になる。
みんなはもうお気づきだろうか。
これは表上では鬼嶋に協力しているがその反面、それは俺自身の為でもあるということ。
鬼嶋には悪いが俺の失った自由を取り戻させてもらう!
「サク、オミオミの顔がまた変だよぉ」
「大丈夫よ、萌。いつもの顔よりちょっと悪いくらいだから」
おっと、俺としたことが素晴らしい作戦を思いついた胸の高鳴りが顔に出ていたか。
でも、鬼嶋さん。それはフォローになってないから、うん。
「龍臣、あんた「球技大会で活躍する」とか簡単に言ってくれちゃってるけど、私、スポーツとか全く経験ないわよ?」
少し不安気に表情を曇らす鬼嶋。
そこらへんはNO問題。別に目立てればなんだっていい、やり様はいくらでもあるさ。
俺は「一緒に練習すれば大丈夫だ!」と鬼嶋に向けて親指を立てる。鬼嶋は「分かったわ」と言って曇った表情から少し晴れ間がのぞく。
鬼嶋はちょっと本気っぽい口調で言って、ちょっと本気っぽい表情をすれば大抵のことは信じてくれる。
この鬼嶋の信じ込みやすい性格は新倉先生の一件で検証済みだ。鬼嶋の長所で短所なところを俺はうまく利用する。
「鬼嶋、種目はソフトボールにしたんだろ?」
「えぇ、成り行きでね」
リューチが司会進行を務めて帰りのホームルームでどの種目に出たいか希望を取った。
種目は「バスケ」「サッカー」「ソフトボール」この3つだ。
リューチの話によるとバスケとサッカーは男女別だがソフトボールは男女混合だそうだ。バスケ、サッカーと違って男女が一緒に参加するソフトボールは俺の手助けによって鬼嶋が活躍できる確率が上がるし、それに俺は野球経験者だ。
まあ、鬼嶋がソフトボールになったのは偶然ではなく俺がこっそり鬼嶋の名前をソフトボールの欄に書いたのだけどな。このことは黙っておこう。
「オミオミとサクもソフトボールなの!? やったぁ! 私もだよぉ」
日下部は俺たちと同じ種目で嬉しかったのか持ち前の巨乳を揺らしながらピョコピョコ跳ねている。
「よし鬼嶋、ソフトボールのルールは分かるか?」
「まあ、だいたいは」
「えぇ~~~~! オミオミ、無視は無いよぉ」
だって、日下部《お前》クラス違うからこの際どうだっていいんだよ。
俺が日下部の言葉に対して触れもしなかったことが不満だったのかブーブー文句を言っている。
「ルールを知っているなら話は早い」
俺はそう言ってかばんを持って席を立つ。
「どこへ行くの?」
そう尋ねる鬼嶋に俺は「お前のセンスを見せてもらう」と言って鬼嶋をある場所に連れて行く。
****
高校の最寄り駅から新宿へ。
新宿で電車を乗り換えて着いた駅は「信濃町」
プロ野球の試合が行われる「神宮球場」の最寄り駅である。
「これがバッティングセンター・・・・」
鬼嶋は初めて来たのか、目をキラキラさせていた。
「私もバッティングセンターは初めてだよぉ」
呼んでもいないのについてきた日下部。
まあ、いいか。
何故バッティングセンターに来たかというと鬼嶋のレベルはどの程度なのかを確かめたかったからだ。
俺たち3人は中へ入り、まず野球経験者である俺が手本を見せることに。
俺も前から来るボールを打つのは久しぶりだ。もしかすりもしなかったら格好つかないのでバッティングセンターの中で急速の遅い方である90㎞のゲージへ入る。
1ゲーム、20球、400円。
俺は自身の自由の為ならいかなる投資もする。それが俺だ。
俺は金属バットを手に持ち、右バッターボックスで構える。
「野球」というスポーツから離れた今だからこそ言えることだが、俺の目に映る景色はどこか懐かしい。
バッティングマシンと連動してバーチャル映像として映るピッチャーが投球モーションに入る。
「おりゃっ!」
バッティングマシンから放たれた白球をジャストミートし、センター方向へ打ち返す。
まだまだいけるじゃん、俺。
残りのボールも空振りをすることなく1ゲームが終了する。
「陰キャラのあんたにも特技の一つはあったのね」
「そりゃどーも。てか勝手にインキャラ認定するのやめてくれる?」
俺は鬼嶋からお褒めの言葉(?)を述べられる。
でも「特技・バッティングセンター」ってどうなのよ。
俺と入れ替わるように鬼嶋がバッティングゲージに入る。
鬼嶋は「あんたにできて私にできないことは無いわ」とその自信はどこから来るの? と聞きたくなるようなこと言ってバットを手に持つ。
それに、出会ってまだ1か月も経ってないヤツにここまで言われる筋合いはないと思う。
「さぁ、来なさい!」
と、意気揚々に構える鬼嶋。
鬼嶋さん、鬼嶋さん。やる気満々なところ申し訳なのですがバットの持つ手が逆ですよ。
そのことを鬼嶋に教えてやると「わ、わわわわざとよ、わざと!」と言って赤面しながら左右の手を入れ替える。いや、何のための「わざと」だよ。
ふぅー、と息を吐き、バーチャル映像のピッチャーへ鋭い眼差しを送る。
おぉ・・・・なんか打ちそうな雰囲気。
マシンから放たれたボール目掛けてバットを振りだす鬼嶋。
が、
ボールがホームベースの上を通過した後に「ふんっ」と、いった弱々しいスイング音が1つ。
「鬼嶋、タイミングが壊滅的に遅い」
「しょ、しょうがないじゃない、初めてなんだから!」
だとしても。
一振り見たらわかる、センスないやつじゃん。
「タイミングを早く、タイミングを早く・・・・・・・」
鬼嶋は己に言い聞かせるように呟きながら次のボールを待つ。
が、
今度は逆に早すぎてボールが来る遥か前に振ってしまう。
当然、バットが空を切る。
頭を抱える俺。
「な、なに、そんな顔してんのよ! 『練習すれば大丈夫』って言っていたの龍臣じゃない! 少しは教えなさいよ!!」
教えろって言っても・・・・ねぇ?
「いいか、鬼嶋。ボールをよく見るんだ。そうしたらきっとバットにボールは当たる。まずはそこからやってみよう」
「わ、わかったわ」
三球目がマシンから放たれる。
「ボールをよく見る・・・・ボールをよく見る・・・・ボールをよく見る!」
見すぎてしまったのか鬼嶋はバットを振ることなくボールを見送る。
今までが試合だったら三球三振だ。
「き、鬼嶋さぁ~ん? どうして振らないのかなぁ~?」
「だってあんたが良く見ろって」
「誰がバットも振らずにって言ったよ! 振らなきゃ打てねぇーだろ!」
「何よ、その言い方! もっといい教え方があるでしょ!!」
「なんだと!」
「なによ!」
いがみ合う俺と鬼嶋。
その横から快音が連発して聞こえてくる。
「やったぁ! 当たったぁ!」
何やら聞き覚えのある声。
俺と鬼嶋は声のする方に目線を向ける。
そこには茶髪のロングヘアーを揺らしながらスイングをする女子高生が。
「「うそでしょ」」
俺と鬼嶋の声がハモる。
快音を連発させていたのは日下部だった。
構えやバッティングフォームは滅茶苦茶だがしっかりボールをミートしている。
「オミオミ、どう?」
「お、おぉ、良いと思うぞ」
「ほんとぉ? ありがとぉ!」
鬼嶋よりは少なくとも・・・・いや、大分センスあるぞ。
「でも、なんか窮屈で振りにくい感じするんだよねぇ」
と、日下部は俺に素振りを一回披露する。
うーん、それはあなたの上半身にある二つの大きい脂肪の塊に聞いてください。
「私だって」
次こそは、と意気込む鬼嶋。
だが、
「ふんっ」
「ふんっ」
「ふんっ」
はあ・・・・・・鬼嶋、まず当てよう?
***
太陽は傾き、地平線に沈み込んでいく。
「鬼嶋、そろそろ帰ろうぜ」
「サクゥ~、まだぁ?」
あれから二時間は経っただろうか。その間休むことなくバットを振る鬼嶋。
鬼嶋の底知れない体力といくらやっても空振り続けるそのセンスの無さには脱帽モンだ。
もう帰りたい。
何とか説得させようと、鬼嶋を呼ぶ。
「きじまぁ~」
「うるさいわね! もう少しでコツが掴めそうなのよ」
コツなって何?
って言いたくなるくらい空振りしてますけど、あなた。
マジで帰ろう? そう訴える俺と日下部の目線を感じ取る鬼嶋。
「・・・・分かったわよ、次で最後にするから」
ようやくゴールが見えた瞬間だ。
だが、その最後ときめたラスト1ゲームも19球中19球を空振り、ラスト1球に。
鬼嶋が「もう1ゲーム!」と言わないことを祈りながら空振るであろうラスト1球を見守る。
すると、バッティングマシンから「ゴガンッ!」と変な音がする。今まで聞こえてこなかった音だ。
マシンから放たれたボールはストライクゾーンから大きく逸れてあろうことか鬼嶋の頭に向かってくる。
「鬼嶋、避けろ!」
「サク! 危ない!」
2時間に亘り、連続して使い続けていたのが悪かったのかバッティングマシンが誤作動を起こしたようだ。
だが、鬼嶋はまさかの行動をとった。
自分に向かってくるボールを打ちに行ったのだ。
その結果・・・・・・
『おめでとうございます! ホームランです!』
という音声と共に『パッパカパーン!』と当たりくじを引いた時の効果音のような音楽が流れる。
俺は「まじか」と思わず口に出してしまう。
鬼嶋はあのクソボールをジャストミートさせてバッティングマシンの後方に掛かっている『ホームラン』と書かれた的に直撃させたのだ。
「やった! 見た? 二人とも見てたわよね?」
瞳を輝かせながら俺と日下部に尋ねる。
「あ、あぁ」
と、俺。
「う、うん」
と、日下部。
飛び跳ねて喜びを爆発させる鬼嶋。
ねぇ、ねぇ、鬼嶋さん。
何でド真ん中のボールは掠りもしないのにそんなクソボールは打てるんですか?
その後、お店の受付でホームラン賞であるプロ野球の観戦チケットを受け取り、上機嫌で帰路に着いた鬼嶋さんでした。
あぁ、今日も疲れた。




