9~球技大会~
星翔学院での最初の学校行事である球技大会。
その球技大会を利用してみんなは欲しいものを手に入れられるのか・・・・
鬼嶋が某有名野球漫画に出てくる人物のような悪球打ちを見せたあの日からあっという間に時が過ぎ、とうとう球技大会当日になった。
俺は寝ぼけ眼で食卓の椅子に座る。
そんな俺の前に強面とエプロン姿が何とも激しいギャップを演出している大吾郎が現れる。
「若、本日は『球技大会』という一大イベントがあるとお聞きしてこの大吾郎、腕によりをかけて朝食を作らせていただきやした」
今日も『全日本知り合いじゃなかったら絶対に近づかない顔面選手権・ファイナリスト』であろう、とてつもなく怖い顔の大吾郎。
まあ、別に球技大会ごとき大したイベントじゃないけどね。
「どうぞ」
大吾郎はそう言って食卓の上に乗せられたのは『カツ丼』だ。おそらく「勝つ」と「カツ」を掛けたのだろう。
見るからに美味しそうなカツ丼。
だが、今の時間帯を考えてほしい。大きめの丼ぶりいっぱいによそわれたカツ丼。朝からこれはさすがにキツイ。
正直言って、朝飯はヨーグルトとフルーツグラノーラで十分だ。
でも、大吾郎は朝いつもより早く起きて作ってくれたに違いない。食べてやらないとさすがに可哀そうだ。
そう思い、俺は死に物狂いで大盛りのカツ丼を胃に収める。
「「「いってらっしゃいませ!」」」
例によって、いつものように送り出される。
「・・・・・・うっぷ・・・・行ってくる」
今にもカツ丼の一部が胃から溢れかえってきそうだ。
気持ち悪い。
――――――電車に揺られ、高校の最寄り駅に着く。
「オッス! オミ!」
改札を出たと同時に声をかけられる。
「おぉ、大河。おはよ」
本日もいつも通り爽やか満点の笑顔を見せる中野大河がいた。
いつもと違うところと言えばバックが大きく学校名が刺繍された大きめのエナメルバッグではなく、それよりも二回りほど小さい学生カバンだ、ということくらいだ。
「あれ、今日練習は?」
「今日は野球部オフなんだぜ」
嬉しそうに話す大河。
「オフ」という言葉に頬を緩ませる大河の気持ちが俺にもわかる。
こういう行事の後の部活は中々しんどいものがある。それに部活のことを考えるとその行事を思い切り楽しめない。
だから、俺も大河の気持ちが分かる。
大切なことなので二回言いました。
「オミ、今日は絶対優勝しような!」
やる気に満ち溢れている大河。
眩しい、眩しすぎるよ!
大河を見ると俺がいかに冷めているヤツかというのが良くわかる。
大河も俺と同じソフトボールに出場する。他にも野球部のやつがもう三人いるということもあって俺は中々良い結果出るのでは? と期待しているのだ。
そんな話している間に学校へ着く。
校庭ではヤル気のあるクラスが朝練をしている。ごくろうなこった。
俺はそれを横目に教室へ足を進める。
****
――体育館
『――――それではみなさん、頑張ってください』
校長の話が終わり、生徒は各競技が行われる場所へ移動する。
「A組のソフトボールは一試合目だから移動早くね!」
そう言ってリーダーシップをいかんなく発揮する大河。学校が始まって大河すっかりクラスの中心人物だ。
グラウンドへ移動しようとする俺のジャージの袖を誰かから引っ張られる。
振り返るとそこには顔色を悪くした黒髪ロングの女子が一人。
「どったよ、鬼嶋」
「うっ・・・・人に酔った」
いやいや、どんだけ人に弱いんだよ。
それじゃ社会に出れないぞー。社会の人波は凄いぞー。
まあ、ヤクザの時点で社会不適合者感が否めないのだが。
「ほれ、行くぞ」
俺はそう言って鬼嶋の手を引き、外へ連れ出す。
「オミー! 鬼嶋ー! 早く――!!」
ソフトボールが行われる校庭から俺たちを呼ぶ大河の声。
はいはーい。今、行きますよー。
「おし、全員揃ったな。この紙に細かいルールが書かれているからみんな目を通しておいてくれ」
そう言って大河はルールの書かれた用紙をみんなに渡す。
どれどれ・・・・
『・3イニング制
・10点差がついたらコールドゲーム
・延長戦に入れば勝敗が決まるまで続ける
・女子が得点をしたらその得点を「2点」とする
・ハンディキャップとして野球部はいつもとは逆の打席に入ること』
でた、でた、でました。
野球部あるある。「ハンデとして反対の打席で打つ」
まあ、でもそんなことより、俺が気になったのは「女子の得点が2点」と言うところだ。
平等や公平を謳う学校がそんな男女不平等をしていいのか!? 許されるのか!? あぁん?
・・・・・・と、まぁ、そのことはさておき。
本当に優勝を狙うのならば女子の得点を上手く使ってやることが重要だろう。
「まずは初戦だ。絶対勝とう!」
大河の一声にみんなは「おー!」と元気よく答える。
鬼嶋も控えめながら答える。
そうだ、そうだ。自分自身から輪の中へ入って行くことが友達を作っていく上では重要なことだ。
――――初戦、C組戦。
A組~H組まである一年生。
それをランダムで分けて1リーグ4クラスの2リーグに分ける。その中で総当たりをして各リーグの1位同士が最後に決勝戦をするという流れだ。
俺たちA組は「A・C・D・G」と一緒のリーグとなった。
「プレイボール!」
主審の手が上がる。主審は野球経験者の生徒がやっているらしい。
一回の表、A組の攻撃は1番の内川から。
1番の内川、3番の村田、4番の大河、5番の三浦は野球部だ。この1番のから始まる好打順の回で取れるだけ点数を取らなくては。
ちなみに俺は8番だ。大河曰く「女子が下位打線で続くのは良くないだろう」とのことで俺がそこに挟まれる形になった。
鬼嶋は当然、必然、当たり前であるが9番に君臨している。
パカーーーーン!
金属バットとボールが当たる音が気持ちいくらい校庭に響く。
内川の打球は打った瞬間ヒットとわかる良い当たりだった。
内川は一塁ベース上で少し出た顎を突き出すようにしてドヤ顔を俺たちに向ける。
これで無死一塁。続くバッターは小柄でショートカット、陸上部の柳井さん。彼女が塁に出て帰ってくれば2点だ。
ぶんっ。
だが、そう上手くいくこともなく三振に倒れる。
「ごめーん!」
「大丈夫、大丈夫。次頑張ろう!」
そう言って笑顔で柳井さんの肩をポンッと叩く大河。
「う、うん・・・・」
柳井さんの顔がほんのり赤く染まる。
やめて、やめて。目の前で恋に落ちないで。
一死一塁と状況が変わり、3番の村田。普段は寡黙であまりしゃべらないが、大河曰く、打撃センスには光るものがあるらしい。
初球。
振りぬいた打球はレフトの前に落ちるクリーンヒット。一塁ベース上で顔色一つ変えない村田。それとは正反対に「ナイスバッティング!」と元気よく声を上げる大河。
ランナーは1,2塁。先制の大チャンス。
ここでバッターは4番の大河に回る。
一回、二回と大きく素振りをして打席に入る。
やはり4番の大河に警戒してか相手ピッチャーが投じた1球目、2球目とストライクゾーンから外れる。
2ボール、0ストライクとなった3球目。
「おらぁっ!」
声を上げながら振りぬく大河。
その打球はぐんぐんセンター方向へ伸びて、あっという間にセンターの頭を超えていく。
大河は俊足を飛ばして一気にホームまで帰って来る。
スリーランホームラン。
あっという間に我らA組が3点を先制する。
続く野球部の三浦、女子ソフトボール部の水原さん、女子テニス部の坂口さんが三者連続ヒットで続く。
1死満塁で打席にはこの俺。
女子に打てて俺に打てないわけがない。一気に試合を決めてやりますか。
が、
「・・・・あっ」
力んでしまい、打球を打ち上げてしまう。俺の打球はピッチャーのグラブへ収まりこれで2死。
トボトボと肩を落としてベンチへ帰る俺と打席へ向かう鬼嶋すれ違う。
「だっさ。女の子でも打ててるのに」
「う、うるせぇ」
意気揚々と打席で構える鬼嶋。
おや? 今までとはどことなく違う・・・・か?
これまで頑張って教えた甲斐があったってものよ。
なんか打てそうな雰囲気・・・・これは活躍の予感だ!
――――――昼休憩
全校生徒は各々好きな場所で昼食を取っている中、俺は部室にいた。
「あー、そのー、あれだ・・・・・・ドンマイ」
かける言葉がないとはこのこと。
部室の端っこの方で体を丸めて小さくなっている鬼嶋。
クラス自体は大河やそのほかの野球部の活躍もあって3連勝し、決勝戦へ進出するが鬼嶋は3試合中で打席に立てば三振。守備では打球が飛んでくれば後逸、バンザイといったエラーのオンパレード。
「もうやだ。やりたくない」
「そんなこと言うなって、もし優勝したら好きな食べ物奢ってやるから。な?」
「・・・・ほんと?」
「あぁ、好きな物たらふく食わしてやる」
だんだん顔から曇りが取れる鬼嶋。
ふっ、ちょろい、ちょろい。俺の自由と引き換えれば安い出費よ。
食べ物で釣る作戦成功。
「いたいたぁ! もう探したよぉ」
呼んでいないのになぜが日下部登場。
「おう、日下部。B組はどうだった?」
「いや、全然ダメで3戦全敗だよぉ」
どうやらB組はダメだったようだ。
「でも、みんなに『すごいね!』って褒められたんだぁ」
嬉しそうに話す日下部。
そう言えば日下部、バッセンで良い当たり打ってたよな。
「活躍したのか?」
「うん! 10回中9回ヒット? ってやつ打ったよぉ」
なんとまさかの9割打者。
お前、打率だけでいったら大河より打ってんじゃねぇか。
「へ、へえ~そうなんだ・・・・」
再び顔が曇りだす鬼嶋。
ヤバい! せっかく機嫌を直したのにこれじゃまた――――――――
が、俺が何か行動を起こす前に日下部の口が開く。
「でも、やっぱり胸が邪魔で打ちにくかったなぁ。胸がちっちゃかったらもっと打てたのかなぁ」
「お前・・・・・」
頭を抱える俺。
「あ~、オミオミってば今私で厭らしいこと考えたでしょぉ? オミオミのアソコ元気になっちゃったでしょぉ? 今から一緒に保健室行くぅ?」
「お前ちょっと黙ってろ」
日下部の余計な一言で鬼嶋は元の場所で、元の体勢に戻ってしまう。
「どーせ私は運動音痴で、胸無くて、友達もいませんよーだ。あははは・・・・・」
思考回路が狂い、笑いだす鬼嶋。
鬼嶋が戦意喪失し、俺の自由も喪失しかけてきた。
この後、鬼嶋の見えないところで日下部に本気で説教したことは言うまでもない。




