1-7 積み荷の行方
1-7 積み荷の行方
ダストホール星系の外れ。暗い宇宙に、簡易駐機基地がぽつんと浮かんでいる。
俺たちは、そこにボロボロの船を停めていた。
簡易駐機基地というのは、星系のあちこちにある中継地点だ。燃料を入れたり、ちょっとした修理をしたりできる。大昔の地球の西部劇でいえば、駅馬車が馬を替えて、旅人が一晩休んでいく中継所みたいなもんだ。
宇宙は広い。一度の補給で何か月も、何年も飛び続けられる船なんて、軍の大型艦か、ごく一部の特注品くらいだ。俺たちみたいなフリーランスの船乗りにとって、こういう基地は砂漠のオアシスに等しい。
パコから押しつけられた姿勢制御装置とジャイロは、ガラムが隅々まで調べ直した。発信機が他にないことを確かめてから、ようやく船に組み込んだ。
あの嫌な揺れは、もうない。
補給と修理をひととおり済ませて、俺たちは船の小さなダイニングで、ようやく一息ついていた。
「思ったより高くついちまったな。おかげで、すっからかんだぜ」
ガラムが、椅子にもたれて肩を回した。
「お前、ダストホールじゃ『結構持ってる』とか言ってなかったか。それに、ここの医療ポッドを使いたいって言い出したのも、お前だぞ」
「あのなぁ、旦那。スラムで小銭を稼いでたチンピラの『結構』と、ゴールドランク様の『結構』を、一緒にすんじゃねぇよ」
ガラムの顔は、すっかり元どおりになっていた。切れていた口の端も、腫れ上がっていた頬も、基地の医療ポッドで治したのだ。
体の細胞を無理やり働かせて、傷を塞ぐ機械だ。使用料は目玉が飛び出るほど高い。そのくせ治せるのは、打ち身や浅い切り傷くらいのもので、内臓をやられたり、腕や脚をなくしたりすれば、何の役にも立たない。
こうして軽口を叩き合えるくらいには、俺たちの間にも、相棒らしい空気ができ始めていた。
「それより旦那。こいつは、どうやって食うのが正解なんだ?」
ガラムが眉間にしわを寄せて、フォークで皿をつついている。
トリック・リストランテに出させた、地球風のパスタだ。耳たぶみたいな形のと、貝殻みたいな形のが、緑のハーブのソースに絡んでいる。
ガラムは、貝殻の方をフォークで刺そうとしては、つるりと逃げられている。
「俺は、パコのとこで食ってた缶詰の方が口に合うぜ。こいつは上品すぎる」
……これだから、スラム育ちは。
俺は最後の一つを口に放り込んで、皿を空にした。
「で、これからどこへ向かうんだ?」
逃げ回るパスタと格闘しながら、ガラムが聞いてきた。当たり前のように、俺に決めさせるつもりらしい。
「人工惑星、オメガ・ハブだ」
「理由は?」
「監視の目が緩い。それに、傭兵ギルドの支部がある。あれだけ辺境なら、ギルドの登録の審査も甘いかもしれねぇ。別人として登録し直せれば、依頼が受けられる。金の問題も、少しはどうにかなる」
俺は苦笑いした。
「まあ、希望的観測ってやつだがな」
ガラムは、ようやくパスタを一つ突き刺すことに成功して、満足そうに口に放り込んだ。
「なるほどな。けど、なんでオメガ・ハブなんだ? 監視の緩い星なら、他にもいくつかあるだろ」
「それはな……飯の後で話す、と言ったやつだ」
*
飯を片付けて、俺たちは船の奥の貨物室へ向かった。
薄暗い明かりの下。予備の弾薬や整備の工具が並んだ棚の奥に、箱が一つ、ぽつんと置かれていた。
人の肩ほどの高さがある、頑丈な金属のコンテナだ。
「旦那。この箱が、どうしたってんだ?」
「ワープする前に、依頼を受けてたんだ。この箱を、決まった場所まで運ぶ。ただの運び屋の仕事さ」
俺がハットの鍔を指で弾くと、ガラムがぽんと手を打った。
「なるほどな。その届け先が、オメガ・ハブってわけか。で、そこで報酬をもらう」
「そういうことだ」
「ちなみに、報酬はいくらなんだ?」
「成功報酬、千二百万ディル」
ガラムの目が、飛び出しそうになった。
「千二百万!? 箱を運ぶだけでか? ったく、これだからゴールドランクは金銭感覚がおかしいんだよ……!」
大きく息を吐いてから、ガラムはコンテナをこんこんと叩いた。
「けどよ、旦那。その気前のいい依頼主様が、全宇宙から追われてるお尋ね者に、律儀にそんな大金を払ってくれる保証はあるのかい?」
「……保証なんて、最初からねぇよ」
俺は、ハットを深くかぶり直した。
「依頼主が誰なのかは、まったく分からねぇ。間にいくつも仲介を挟んで、正体を隠してやがった。中身についても、『絶対に開けるな』と念を押されただけだ」
「……おいおい」
「箱を一つ運ぶだけで、千二百万だぞ。ヤバい代物か、ヤバい事情が絡んでるか。どっちかに決まってる」
「そんな爆弾みてぇなもん抱えて、飛んでたのかよ……」
ガラムが、そっとコンテナから手を離した。
「だが、他に当てはねぇ」
口座を凍結された今の俺たちには、この怪しい依頼主に賭けるしか道がない。
「もし相手がばっくれたら……その時は、中身を闇市にでも流して、金に換えるまでだ」
正直に言えば、こんなことになった今、依頼主がまだオメガ・ハブで待っているのかすら怪しい。
それでも、ゴールドまで上り詰めた傭兵が、裏のありそうな仕事を前に尻尾を巻いて逃げるのは、癪だった。
隣の相棒に不安を悟られないように、俺は平気な顔を作ってみせた。
……また顔に出てねぇだろうな。
ガラムは何も言わなかった。ただ、コンテナの表面を、じっと見つめていた。
「なぁ、旦那」
「なんだ」
「旦那がワープの直後にハメられたのと、この箱を運んでたのと。……関係、ねぇよな?」
俺は、すぐには答えられなかった。
千二百万ディルの箱は、何も言わずに、貨物室の奥に座っていた。
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