↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/19

1-3 受付嬢の退屈

1-3 受付嬢の退屈


 退屈。


 この一言に尽きるわ。


 オメガ・ハブの傭兵ギルド、第七支部。その受付カウンターで、私――セレナは、爪に三度目のトップコートを塗っていた。


 朝から来た客は、たった二人。どっちも、汗くさいおじさんの傭兵。依頼の掲示板を眺めて、舌打ちして帰っていった。


「セレナ。爪を塗る前に、そこの書類を片付けてくれる?」


 隣の席から、同僚のミユキが言った。黒髪をすっきりまとめた、背の高い美人。見た目は私と同い年くらいなのに、なぜか口ぶりがお母さんみたいなのよね。


「今、乾かしてるところなの。動かしたら、よれちゃうでしょ」


「乾かしてる間に、書類は片付くと思うんだけど」


「ミユキは分かってないわね。爪を乾かすのも、立派な仕事のうちよ」


 ミユキが、深いため息をついた。


 だって、本当に退屈なんだもの。


 私が思い描いていた傭兵の世界は、こんなのじゃなかった。


 ホロ映画の女傭兵みたいに、格好いい戦闘服を着て、自分の船で星の海を駆けて、悪党を片っ端からやっつける。そのつもりで、家を飛び出してきたのに。


 気づけば、場末のギルドの受付嬢。


 しかもお給料は、もらったその日に、オメガ・ハブで一番おいしいケーキ屋さんに全部消えてしまった。おかげで今月の残りは、栄養ペーストで食いつなぐしかない。


 ……あれは仕方なかったのよ。季節限定の、星屑ベリーのタルトが出ていたんだもの。


 それもこれも、全部あの男のせい。


 「あなたのような方に出会えて、幸運です」なんて、キザな台詞で私に近づいて。「傭兵として独立したい」って夢を語るから、私と同じだと思って、応援したくなった。


 言われた額を送った次の日から、あの男は一度も通信に出なくなった。


 私の手元に残ったのは、大きなキャリーケースが一つと、指にはまったこの指輪だけ。


 右手の人差し指で、金色の指輪が光る。光の加減で、細かい八角形の模様が浮かんで見える。


 これだけは、売るわけにいかなかった。……売ったら、どこから来たのか一発でばれちゃうもの。


「――ワープボックス破壊テロ事件の続報です」


 カウンターの端のモニターから、ニュースの声が流れてきた。


 この三日、どこの局をつけても、同じ話ばっかり。


 画面いっぱいに、男の顔写真が映る。


『主犯格の傭兵、ザック容疑者は、依然として逃走を続けており――』


「……ひどい写り」


 思わず、声に出ていた。


 ギルドの登録証の写真らしい。眠そうな目で、髪はぼさぼさ。証明写真って、どうしてみんなこうなっちゃうのかしら。


 でも、私は、なんとなくその顔から目が離せなかった。


 ワープボックスを吹き飛ばした、極悪なテロリスト。全宇宙のお尋ね者。


 なのに、写真の中のこの人は、ちっとも悪そうに見えない。


 私は、悪い男の顔を知っている。


 いつも小綺麗に身なりを整えて、キザな台詞で褒めちぎって、こっちが喜ぶ顔ばかり見せてくる。あの男が、そうだった。


 この写真の人は、取り繕う気すらなさそう。どちらかというと、締め切りに追われてくたびれた、普通のおじさんの顔だ。


「……ねぇ、ミユキ。テロリストって、もっと悪そうな顔してるものじゃないの?」


「顔で人を判断しちゃいけません。あんた、それで一回痛い目を見てるでしょ」


「うっ」


 ぐうの音も出なかった。


「ほら、書類。それと、ニュースばっかり見てないで、仕事しなさい」


「はぁい……」


 奥の扉から、支配人がひょっこり顔を出した。湯気の立つ湯呑みを片手に、にこにこと私たちを眺めている。


「おやおや。今日も仲がよろしいですな」


「支配人、この子に何か言ってやってください」


「ははは。若いうちは、退屈も仕事のうちですよ」


 ほら、支配人もああ言ってるじゃない。


 ミユキが、こめかみを押さえた。


 私は、もう一度モニターを見た。


 手配写真は、もう次のニュースに切り替わっていた。


 でも、あの顔は、なぜか頭に残っていた。


 ――テロリストなら、隠れながら宇宙を飛び回るのなんて、お手のものなんでしょうね。


 私だって、いつかこんな星から飛び出してやる。あの男を見つけ出して、お金を取り返して、ホロ映画みたいな傭兵になってやる。


 連れ出してくれる船が、どこかにあればいいのに。


 たとえ、それがお尋ね者の船だって。


 私は、ぼさぼさ頭のテロリストの顔を、もう一度だけ思い浮かべた。


 ……あの顔、覚えておこうかしら。


 何となく、よ。


「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや下の★での評価をお願いします。感想もお気軽にどうぞ。執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。