荷台の少年と少女
_vision1-1.
馬が1頭、荷台をひいて走っている。
御者は手綱を緩く握って欠伸をこいた。
荷台には2人の姿。それは少年と少女。
御者の口元から緩い風に乗って流れる煙。少女は時折に少しムセている。
「――おい、おっさん」
少年が口を開く。胡坐を少し崩して片膝を立てた姿勢。
その片膝が揺れているのは馬車のせいだけではない。少年が自ら、無意識にだが揺すっているからだ。
苛立っているのか。姿勢が太々しい少年は反応が無い御者の背中に向けて再度、“吼えた”。
「おいっ、テメェおっさんよぉ!! 出発の時も言っただろうが。ツレは身体が弱いんだからよ、タバコはゼってぇNGで頼むぜっ、て。おい、聞けやコラ!!」
少年は荷台の壁を足蹴にしてガンガンと音を鳴らした。
乱暴な音に気がついた御者が慌てて振り向くと、少年は「ソイツをやめろや!!」と左手でタバコを投げ捨てるような動作を添えて訴えを繰り返した。
「あちゃ、すまんかった。つい癖で……へへへ」
御者は誤魔化すように笑いながらタバコを投げ捨てる。
タバコは砂地がむきだしな道に落ちてゆったりと遠ざかっていく。
投げ捨てられたタバコを確認した少年はしばし御者を睨んだ後、「ケッ!」と口を尖らせて視線を正面に移した。
移した先には少女がいる。膝を抱えて座る少女が、“睨んでいる”。
「――――。」
「・・・・・な、なんだよ。あのな、俺はお前のためにだな――」
「――――。」
「・・・・・チッ、んだよ。気分悪いぜ……ったくよぉ!」
少女は何も言わない。ただ、少年が言葉を発する度に目つきの鋭さを増していく。
少女の態度から意図を察した少年は不貞腐れたようにそっぽを向く。
少女に睨まれた少年は乱暴かつ態度が悪い。赤茶色の頭髪は長く、背中まで垂れている。
少年の態度を見て大きな溜息をつく少女。青みの強い黒髪は肩ほどの長さに揃っている。
2人を乗せた馬車は行く。
それほど速くはないがじわじわと目的地へと向かっている。
時刻もまた昼を過ぎ、おやつの時間に至り……。
「ラス1か……ほら、食えよ。着いてすぐ何か食えるか解らんからな」
「えっ。いいよ……あなたが食べなよ。私は大丈夫だから……」
「うっせ! お前は弱っちぃんだから食える時に食っとけ!」
「んもぅ、また……はぁ。あなただって別に頑丈でもないでしょう?」
「っせ!! いいから食え! パン食えって!」
「まったく、言い出したら聞かないんだから……」
左手で渡されたパンを受け取った少女。それを小さくかじりながらまた溜息がこぼれる。
少女の溜息など気にもせず。少年は御者に対して「まだ着かねぇのか!!」とまた声を荒げていた。
年の頃、12歳。荷台の少年と少女はまだ顔立ちに幼さが残っている。
態度として少年はあまりに乱暴で落ち着きが無い。対して少女は淑やかに落ち着いている。
髪色も赤と青。異なる2色。しかし、2人の着る服は同じ色合い。
同じ色合いだが……少年の首元にはネクタイが垂れていて、少女の胸元にはリボンが揺れている。
黒に近いほど暗い赤色。そこに金の刺繍が所々にあしらわれているそれは“制服”だ。
少年と少女を乗せた馬車は行く。
向かう先は――――
「 ようこそ、いらっしゃいませ! 歓迎しますよ、新入生さん! 」




