学園案内スタッフ
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草原だ。
少年と少女を乗せた馬車は草原地帯に入ると速度を少し落とした。
すでに見えている。
かなり前の段階からだが、御者を含む彼らには見えていた。
「わぁ……す、すごいわ! 見てよほら、あれがそうなの!?」
「ぁん? そりゃ~そうだろうよ。っつかまぁ、だいたい想像はできてたろ……」
「ほぇぇ、こりゃ驚いた。あっしも初めて来るんですよね。これが……これって、全部があの“学園”なんですかね??」
少女は荷台から身を乗り出して驚いている。
少年は別に驚いてはいないが眺めてはいる。
御者は少女以上に驚いて感動すらしている。
立ち並ぶ建造物。天まで突き出す塔。強烈に瞬いた――――光。
少年と少女が見ている光景……それは“街”だ。
広大な草原地帯を開拓して造られたとされる、街の景色である。
人口数百人規模の村で生まれ育った少年と少女にとって、それはもの珍しいものであって当たり前。
それに加えて特殊なことはこの街がそのまま【学園】であることだろう……つまり巨大な学校である。
学園――正式には【アラングゥス記念学術魔導地区】と呼ばれるこの地域こそ、少年と少女を乗せた馬車が向かっていた場所だった。少年と少女が着ている服はここの制服だ。
学園地域に向けてゆったりと進む馬車。速度が遅くなったのは御者が呆然と呆気にとられているから。
そして馬車は停止した。草原に奔る道の半ばで馬車は立ち止まった。
御者は口をポカンと開いている。その横から少年と少女がのぞきこむように顔を出して前方を見る。
3人が見るそこには……人が1人、突っ立って彼らを見ていた。
微笑んでいるその人は水色の煌びやかなスーツで身を飾り、被っている帽子には「学園案内スタッフ」の文字が見やすくデカデカと表示されている。胸元に下がっている四角いバッチにも同様の文字。
これでもかと強調された明らかに“学園案内スタッフ”なその人。煌びやかな人は丁寧な所作で一礼をすると少年と少女に話しかける。
「ようこそ、いらっしゃいませ。歓迎しますよ、新入生さん! 私は学園案内スタッフと申します。
役割としてはこうして新入生の皆様を出迎えたり、生活の上で何かお困りごとがあった際の相談窓口にもなります! 今後はどうか遠慮せず、頼りにしてくださいね♪」
微笑みと共に胸元へと手を置く学園案内スタッフ。
煌びやかな水色のスーツに明るい笑顔もまた輝いている。
というか。全体的にぼんやりと、輪郭そのものが輝いて見える。
「さて、馬車の紳士様。ここからはこの私がお2人を学園までご案内させていただきます。理由としましては入校資格を持たない方の学術指定域侵入は硬く禁じられているからです。何卒、ご理解とご協力をお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げる学園案内スタッフ。
御者はしばらく呆然としたままだった。しかし、丁寧にまったく同じ台詞とまったく同じお辞儀を繰り返されたことで我に返った。
「あの……そういうことらしいから。あっしはこれにて失礼しますよ。ご両親達には無事、送り届けたと……伝えていいんかね?」
「ええ、もちろん! ここからはこの学園案内スタッフが責任をもってお2人を都市にお届け・ご案内いたしますから♪」
「そ、そっか……んじゃ、2人とも降りてくんないかね?」
御者にうながされて少女は荷台から降りた。すでに降りていた少年は彼女の手を取り、地に足が着くまで身体を支えている。
そうしてから首の後ろを左手で掻き、顎を上げて口角をひん曲げながらツカツカと煌びやかな人へと向かっていく。
少年の太々しい様を知らず、荷台を降りた少女は御者に頭を下げていた。
「道中、本当にごめんなさい。彼が不快な思いをさせてしまって……」
「えっ……あ、ああ。しかし【ジェット】があんななのは前から知っているし……嬢ちゃんが気にするこたないよ」
「でも、悪いものは悪いですから。彼にも謝らせたいけど、絶対に謝らないし無理にするとかえって面倒かけそうだし……だから、代わりにですがごめんなさい。
あと、お父さんとお母さん、それと叔母様によろしくお願いいたします。この度は本当に助かりました、ありがとうございます!」
「スラークさん家にはいつも世話なってるからな~、こうして手伝えて良かったよ。ロイダーの姉さんにもちゃんと言っとくからよ。それじゃぁ達者でな、【ミリス】の嬢ちゃん!」
御者は照れくさそうにしながら手綱を操り、馬車を反転させた。
少女は走り始めた馬車に手を振っている。
そして少女は振り返った。振り返って初めて知る。
態度の悪い少年はツカツカと学園案内スタッフに詰め寄り、すでに見上げて息がかかるほどの距離に至っていた。
学園案内スタッフは不思議そうにしている。自分を見上げる少年は一体何を考えて……その不自然に垂れ下がっている右袖は一体?
しばらく目線を合わせていた。
しばらく目線を合わせた後、少年は左腕をおもむろに突き出す。
それは学園案内スタッフを貫通した。
「・・・・・えっ?」
「・・・・・おっ?」
少女はその光景に理解が及ばない。いや、理解はしている。“少年の左腕が人の身体を貫通した”ということは解っている。その上で“解らない”。
学園案内スタッフは自身の胸元を貫かれたことを理解している。理解した上で困惑していた。「どうしてだろう?」……と。
戸惑って当たり前だ。いきなり何が起きたというのであろうか。
「――――へぇ、これは魔術か? だが不思議だな。こんなんでも“実体はある”ぞ?」
「・・・・・ちょ、ちょちょちょ・・・・・ちょっとぉぉぉ!? ななな、なにをやってんのよあんたはぁ!!!」
人の胴体を貫いたまま、その貫いた腕をグリグリとしながら平然としている少年。
そして理由は解らないままだが、ともかく状況を理解した途端に駆け始めた少女。
それと、身体を腕で貫かれた状態にあっても呆然と立っている学園案内スタッフ。
「いや、違うな。こいつぁ……実体が“あった”のか。置き換えて再生しているな? 単純そうだが随分と雑然としたな中身をしてやがる。余計が多い――――なるほど、これが魔法、か/
/この馬鹿ぁぁぁ!!! どっ、ちょっ、これっ……どうすッ!? わっわわ、ごめんなさいィ!! 今すぐにはずしますから……いや外すって、どうやって!? 引っこ抜くの、私が!?/
/ほっほぉ~う、なるほどね♪ 早速ですが納得できました。確かにこれは“特待生”、ですねぇ……!」
「パカン!」といい音が鳴った。混乱した少女が脱いだ靴の底で少年の頭を思い切り引っぱたいた音である。
「いだいッ!? なんだよ、いきなし何すんだおめぇわよぉ!!」
「いきなりはあなたでしょう!? どっ、どういうことよ!! その人、あなた、う、腕を……腕がだって胸を……ッ!!!」
「・・・あん?? んだよ、ざけんな。“こんなん”腕突っ込んだってどうでもねぇだろが。んなことよりめっちゃ痛ぇ……血、出てない? 頭割れたりしてない??」
「・・・んん?? いやいや、どうにもなっちゃうでしょ、人の身体に腕突き刺したらさぁ!! あとあなたは血出てないわよ、そんな強くしてないから!!!」
「いや、すっげ強かっただろ。虚弱なおまえがありえんパワー出しやがって……あっ、ダメだクラクラする……立っていられない」
「あら、大丈夫? でも本当に強くなんて・・・・・いやッ、だからッ、そうじゃなくってッ!! あの人のほうが大変でしょう!!? ――――って、あれ??」
左手で頭を抱え込んで座る少年。血が付かないか手の平をしきりに確認している。
息を荒げていた少女はふと、思考停止状態となって落ち着いた。それは痛がっている少年ではなく、より大変なことになっているはずの人を見ているからだ。
学園案内スタッフは微笑んでいる。
煌めく水色のスーツにはボタン穴以外、穴1つ見当たらない。
当然、人の腕が通るほどの穴など無い。
「いや、驚いたわね。思わず“入ってしまうほど”……こんなことは久しぶりだ」
学園案内スタッフは額に手を置いて何かを考えている。そして、いよいよ半泣きになって蹲り始めた少年のことを見ている。
少女の名を呼びながら蹲る少年。少年を無視して呆然とする少女。
そんな2人を交互に眺めながら、両手を広げて背後の都市を指し示す学園案内スタッフ。
「改めて歓迎しましょう……学術魔導地区にようこそ♪
招待型特待生の【ジェット=ロイダー】さん、それと条件型特待生の【ミリストリア=スラーク】さん♪
魔導学園はあなた方を歓迎します。これから大いに学び、競い、そして――――輝いてくださいね♪」




