「グループ入り」
「何の用だ、坊主」
低い声の主は、壁に寄りかかっていた大柄な男だった。周りの数人が、値踏みするような目でこちらを見ている。
「入れてくれ、このグループに」
前置きも何もなく、俺はそれだけ言った。
案の定、失笑が起きた。
「はあ? どこの誰かも知らねえガキが、いきなり何言ってんだ」
「実力で示せばいいんだろ」
言い終わる前に、一番手前にいた男が距離を詰めてきた。振りかぶった拳を、俺は半歩引いてかわす。がら空きになった脇腹に、迷わず拳を叩き込んだ。
くの字に折れて崩れ落ちる男を見て、周りの空気が変わった。
「――次」
挑発するつもりで言ったわけじゃない。ただ、止まる理由がなかっただけだ。
二人目、三人目と、向かってくる相手を順番に沈めていく。喧嘩なら、負けたことなんて数えるほどしかない。ここ数年、暴れることでしか発散できなかった鬱憤の全部を、今この瞬間にぶつけているような感覚だった。
「――もういい」
割って入る声がして、動きを止める。奥から歩いてきたのは、この場の空気を明らかに支配している男だった。歳は二十代半ばくらいか。
「面白えな、お前」
男は笑いながら、倒れている仲間たちを一瞥もせずに言った。
「名前は」
「神田咲亞」
「――咲亞、ね」
値踏みするように、男は俺を上から下まで眺めた。
「いいだろう。うちに入れ。ただし、下っ端からだ」
「文句ない」
即答すると、男は愉快そうに笑った。
「気に入った。歓迎するぜ」
そう言って差し出された手を、俺は迷わず握り返した。
騒ぎが収まった後、輪の外れで一人、こちらの様子を眺めている女がいた。
赤みがかった髪を無造作に流し、値踏みするような鋭い目つきをしている。他の男たちとは明らかに違う空気を纏っていた。
「――アンタ、何しに来たの」
俺の視線に気づいたのか、彼女はこちらに近づきながら言った。
「見りゃ分かるだろ」
「口の利き方、生意気ね」
そう言いながらも、口元にはどこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「蘭よ。覚えとけば」
それだけ言って、蘭はさっさと背を向けて歩いていった。短いやり取りだったが、なぜか妙に印象に残った。
――この日から、俺の新しい居場所が始まった。
母を奪った男に辿り着くための、仮初めの居場所が。




