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灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第二章 父の影【潜入】
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「蘭」

グループに入って一週間もすると、俺の名前は末端まで知れ渡っていた。


「新入りのくせに、幹部連中に喧嘩売ってんだって?」


からかい半分にそう言ってきたのは、蘭だった。溜まり場の隅、壊れたソファに足を組んで座っている。


「向こうが先に舐めた態度取ってきただけだ」


「はいはい、いつもそう言うのよね、アンタみたいなタイプは」


蘭は呆れたように笑いながら、缶コーヒーを放って寄越した。反射的に受け取ると、彼女は隣の椅子に腰掛ける。


「――何で、このグループに?」


不意に聞かれて、一瞬言葉に詰まった。


「事情がある」


「ふうん。深くは聞かないであげる。誰にでもあるもんね、そういうの」


蘭はそう言って、缶を傾けた。


「あんたは?」


「私?」


蘭は少し驚いたように、それから懐かしむように目を細めた。


「家、居場所なかったから。ここが一番マシだっただけ」


淡々とした口調だったが、そこに込められた重みは、なんとなく分かる気がした。似たような境遇の人間には、共通する何かの匂いがある。


「――でも、居心地はいいわよ。ここの連中、口は悪いけど、義理は通す奴らばっかりだから」


その言葉には、確かな誇りが滲んでいた。



翌週、蘭に誘われて、彼女行きつけだという場末のボクシングジムに顔を出した。


「見て覚えな。喧嘩の勘だけじゃ、そのうち頭打ちになるから」


言われるがまま構えを取ると、蘭は容赦なくミットを打ち込んできた。


「――遅い」


「うるせえ、こっちは初めてだよ」


「初めてでその動きなら上等よ。筋、悪くないじゃない」


軽口を叩きながらも、蘭の指導は的確だった。数時間もすると、体中が悲鳴を上げていたが、不思議と嫌な疲れではなかった。


「――あんた、変な奴ね」


汗を拭きながら、蘭がぽつりと言った。


「何が」


「そこまでして強くなりたい理由、聞かないけど。がむしゃらすぎて、逆に危なっかしい」


図星を突かれて、返す言葉に詰まる。蘭はそれ以上追及せず、ただ小さく笑った。


「まあ、いいわ。危なくなったら、私が拾ってあげる」


その言い方が、妙に心地よかった。ここ最近、誰かにそう言ってもらえることが、どれだけ少なかったか思い知らされた気がした。


窓の外、夕暮れの光がジムの床に長く伸びていた。この居場所に、少しずつ馴染み始めている自分に、俺自身が一番戸惑っていた。

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