父という存在
検索結果が表示されるまでの数秒間、俺は画面を睨みつけたまま、息をするのも忘れていた。
出てきたのは、黒田組の組織図をまとめた古い個人サイトだった。更新は何年も止まっているようだが、幹部連中の通り名や序列が、簡単な相関図で示されている。
その中の一人の名前に、目が止まった。
『黒田蒼一郎 現組長』
現組長。つまり、今この組織のトップに立っている男。
震える指でその名前をタップすると、古い記事へのリンクが出てきた。二十年近く前、地元の経済紙に載った、当時の「若頭候補」を取り上げる小さな記事だった。
粗い画質の白黒写真に、まだ若い男が写っている。
――俺は、その顔から目が離せなかった。
似ている。
自分でも認めたくなかった。だが、鏡の中で何度も見てきた自分の目元と、写真の中の男の目元が、あまりにも重なって見えた。
「……嘘だろ」
声が震えた。震えを抑えようとするほど、指先が冷たくなっていく。
記事の日付を確認する。母が失踪したとされる時期と、ほとんど重なっていた。
偶然。そう思おうとした。だが、あの掲示板の書き込みが、頭の中で何度も反響する。
『黒田の上の方に、女に手え出して揉めてた奴いたって噂』
『上の人間が動いて、丸く収めたって話だろ』
「上の人間」というのが、幹部の誰かではなく――組長そのものだったとしたら。
その夜、俺は一睡もできなかった。
天井を見つめながら、頭の中でずっと同じ言葉がぐるぐると回っていた。
――俺の父親は、母を殺した組織のトップにいる。
いや、正確には分からない。手を下したのが誰かは、まだ何も確定していない。だが、母を「もみ消した」側の人間である以上、少なくとも無関係ではないはずだ。
怒りよりも先に、奇妙な虚しさが込み上げてきた。
親がわからないまま育った十六年間。ずっと、自分がどこから来たのか分からないことに、苛立ちながらも、どこかで諦めてもいた。
それが今、突然「答え」を突きつけられている。しかも、最悪の形で。
「――ふざけんなよ」
誰に向けるでもない言葉が、暗い部屋に虚しく響いた。
拳を握りしめると、ここ数日で何度も食い込ませてきた爪の痕が、また同じ場所に刻まれる。
決めた。
この手で、決着をつける。母を奪ったその男に、直接。
窓の外はもう、白み始めていた。眠れないまま迎える朝は、これで何度目だろうか。だが今日の朝は、これまでとは何かが決定的に違って見えた。




