「犯人」
図書室で見つけたあの団体名が、頭から離れなかった。
放課後、俺は繁華街の外れにある古びたネットカフェに寄って、あの名前を検索窓に打ち込んだ。
――黒田組。
出てきた記事は、思ったより多かった。地元では名の知れた広域指定暴力団。傘下には解体業、金融業、飲食店の看板を掲げた組織がいくつもぶら下がっている。
母の失踪当時の記事に載っていた団体名と、現在も存在するこの組織が、同じものかどうかは分からない。だが、確かめずにはいられなかった。
答えは、思ったより早く手に入った。
「――お前、まだその事件のこと調べてんのか」
声をかけてきたのは、同じ中学出身で、今は半グレ紛いの連中とつるんでいる先輩だった。喧嘩の場では何度か顔を合わせたことがある。
「知ってんのか」
「噂くらいはな。お前んとこの、行方不明だった女の話だろ」
先輩は煙草に火をつけながら、面倒くさそうに続けた。
「ありゃ、黒田の下の連中がやったって話だぜ。当時揉め事があったとかで。真相は闇の中だけどな」
「――誰が」
「知らねえよ、そこまでは。噂だっつってんだろ」
それだけ言うと、先輩はさっさと歩いて行ってしまった。
家に帰る道すがら、頭の中は真っ白だった。
噂だ。確証なんて、どこにもない。だが、図書室で見つけた古い記事の団体名と、先輩の口から出た組織名が、綺麗に重なってしまった。
母を殺したのは、黒田組。
拳を握りしめると、爪が手のひらに食い込んで、鈍い痛みが走った。だがその痛みすら、今の俺には心地よかった。
十六年間、俺には何もなかった。親も、居場所も、帰る場所すら曖昧だった。
だが今、初めて「憎むべき相手」が姿を現した。
「――ぶっ殺してやる」
誰に言うでもなく、俺は呟いた。声は思ったより低く、そして冷たく響いた。
その夜、俺は生まれて初めて、明確な目的を持って眠りについた。
復讐。
たったそれだけの言葉が、それまで空っぽだった俺の中に、初めて何かを注ぎ込んでいくのが分かった。




