「最後の夜」
その夜、ゆずはいつになく穏やかだった。
「――今日は、星がよく見えるね」
縁側に並んで座り、彼女は静かにそう言った。北海道の澄んだ夜空に、数え切れないほどの星が瞬いている。
「――ああ」
短く答えると、ゆずは俺の肩に、そっと頭を預けてきた。
「ねえ、咲亞」
「何だよ」
「もし、全部やり直せるとしたら、また私のこと、好きになってくれる?」
唐突な問いに、少し戸惑いながらも、俺は迷わず頷いた。
「何度でも」
「――そっか」
ゆずは小さく笑って、それ以上は何も言わなかった。ただ、その笑顔が、これまで見てきたどの表情よりも、穏やかで、そしてどこか儚く見えた。
その夜、二人で過ごした時間は、言葉にできないほど大切なものだった。
これまでのことも、これからのことも、何も話さなかった。ただ、お互いの存在だけを、確かめ合うように、静かな夜を過ごした。
「――ありがとう、咲亞」
腕の中で、ゆずがぽつりと呟いた。
「何の礼だよ」
「全部。お節介ばっかり焼いて、うざいって思われても仕方なかったのに。ちゃんと、私自身を見てくれたこと」
その言葉に、俺は何も返せなかった。ただ、彼女の温もりを、いつまでも忘れないようにと、胸に刻み込んでいた。
窓の外、星明かりが、静かに部屋の中まで差し込んでいた。
その光の中で眠りに落ちる彼女の横顔を、俺は長い間、見つめ続けていた。




