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「目覚め」
目が覚めると、隣にゆずの姿がなかった。
「――ゆず?」
寝ぼけた頭のまま、体を起こす。台所にも、縁側にも、彼女の姿は見当たらなかった。
嫌な予感が、胸の奥から込み上げてくる。
家の裏手、小さな納屋の方へ足を向けた時、その予感は、確信に変わった。
――そこから先の記憶は、正直、ひどく曖昧だ。
気づいた時には、俺は膝から崩れ落ち、彼女の名前を、声が嗄れるまで呼び続けていた。
誰かが駆けつけてくる足音。遠くから聞こえる悲鳴。それが自分の声だったのか、他の誰かの声だったのかも、よく覚えていない。
ただ、確かなことが一つだけあった。
――ゆずは、もう、二度と目を覚まさない。
縁側に、彼女が書き残したらしい、一枚の紙切れが残されていた。
震える手でそれを開くと、いつもの丸みを帯びた文字で、短く綴られていた。
『ごめんね。もう、限界だった。 咲亞のことは、恨んでない。 ただ、ちゃんと咲いてほしい。私の分まで。』
たったそれだけの言葉に、何度も何度も、目を落とした。
「――こんなの、勝手すぎるだろ……」
誰に言うでもない言葉が、震える声で漏れた。
彼女を守ると誓ったはずだった。だが、結局、俺は何一つ守れなかった。
冷たくなった空を見上げながら、俺はただ、声にならない慟哭を、いつまでも吐き出し続けていた。
――第五部・完




