↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第五章 崩壊
34/36

差し出したもの」

ある日、突然、拘束が解かれた。


「――帰っていいってよ、お前」


理由も説明されないまま、頭に袋を被せられ、再び車に乗せられる。何が起きたのか分からないまま、山道の途中で放り出された。


ふらつく足で、来た道を戻る。数日ぶりに見る集落の景色は、記憶にあるものより、ずっと色褪せて見えた。


家の戸を開けると、ゆずが、そこにいた。


「――咲亞」


駆け寄ってきた彼女は、俺を強く抱きしめたまま、しばらく動かなかった。その体温だけが、やけに鮮明に伝わってきた。


「……何で、急に帰されたんだ」


聞いても、ゆずはすぐには答えなかった。ただ、俺の背中に回した腕に、少しだけ力がこもった。


「――ゆず」


「……何も、聞かないで」


震える声で、彼女はそう言った。


それ以上は、何も聞けなかった。聞いてはいけない気がした。


ただ、抱きしめてくる腕の強さと、いつもより少しだけ乾いた声。それだけで、この数日の間に、彼女が一人で何を背負ったのか、うっすらと察してしまった。


「――お前、まさか」


「――咲亞のせいじゃないから」


言葉を遮るように、ゆずは先にそう言った。まるで、俺が何を言おうとしたか、全部分かっていたかのように。


「私が決めたことだから。それだけ」


その声には、無理に張った強さが滲んでいた。触れれば崩れてしまいそうな、危うい強さだった。


その夜、ゆずは俺の手を、いつまでも離そうとしなかった。まるで、その温もりだけが、彼女を繋ぎ止めているかのように。


俺もまた、その手を、二度と離すまいと、強く握り返し続けた。


何があったのかを、俺は結局、最後まで聞かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。