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灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第五章 崩壊
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「壊れていく」

あの夜から、ゆずはほとんど言葉を発さなくなった。


食事にもほとんど手をつけず、部屋の隅で膝を抱えて座っていることが多くなった。声をかけても、微かに頷くか、あるいは何の反応も返ってこないかのどちらかだった。


「――ゆず、何か食べないと」


「……いらない」


久しぶりに聞いた声は、以前の彼女とは別人のように乾いていた。


夜中、うなされるような声で目を覚ますことが増えた。隣で眠ることを拒むようになり、俺が近づくだけで、体を強張らせることもあった。


「――ごめん」


謝りながら距離を取る度、自分の存在そのものが、彼女を苦しめているのではないかという恐怖に襲われた。


一方で、俺自身も、何かが決定的に壊れていくのを感じていた。


守ると誓ったはずだった。だが、目の前で何もできなかった。あの夜の記憶は、繰り返し繰り返し、頭の中で再生され続けた。


自分を責める気持ちと、あの場にいた男たちへの憎悪が、絡み合いながら膨らんでいく。夜も眠れず、ただ天井を見つめ続ける日々が続いた。


「――こんなことに、なるはずじゃなかった」


誰にともなく呟いた言葉に、返事はなかった。ゆずは、部屋の隅で、俺の方を見ようともしなかった。


数日後、ようやく口を開いたゆずが、掠れた声で言った。


「――咲亞のせいじゃ、ないよ」


慰めるような言葉だったが、その声には、力がなかった。


「分かってる」


「分かってないよ、絶対」


図星だった。だが、それ以上何も言えなかった。


二人の間に、これまでにはなかった、目に見えない溝が広がっていくのを感じながら、俺はただ、無力な自分を持て余し続けるしかなかった。


窓の外、北海道の冷たい風が、家の隙間を吹き抜けていく音だけが、やけに大きく響いていた。

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