表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第四章 逃避行
29/33

「影」

あの黒い車を見かけてから、数日が経った。


「――気のせいだったのかな」


ゆずがそう言うのも無理はなかった。あれ以来、目立った動きは何もない。牧場の仕事も、食堂の手伝いも、いつも通り続いていた。


だが、俺の中の警戒だけは、解けなかった。


「――念のため、荷物はまとめておこう」


「そんなに、警戒しなくても」


「悪いけど、これだけは譲れない」


ゆずは少し不満そうな顔をしたが、それ以上は反論しなかった。


数日後の夕方、牧場からの帰り道、いつもと違う道を選んでみた。ただの気晴らしだったが、その途中、集落を見下ろす高台から、妙な光景が目に入った。


村の入り口付近に、あの黒い車が、また停まっている。今度は一台ではなく、二台。


距離があって、はっきりとは見えない。だが、その周りに立つ数人の男たちの佇まいには、見覚えがあった。


――堂気だ。喧嘩慣れした連中特有の、あの立ち方。


心臓が、大きく音を立てた。


急いで家に戻ると、ゆずが不安そうな顔で待っていた。


「――咲亞、さっき、変な電話があって」


「何だって」


「よそ者の男たちが集落を探ってるって、女将さんから連絡があったの。名前は言ってなかったけど……多分」


言葉を濁したゆずの顔から、俺と同じ予感を抱いていることが分かった。


「――逃げる準備を」


そう言いかけた時、外で、車のエンジン音が聞こえた。一台ではない。複数の車が、集落の方へと近づいてきている。


窓の隙間から外を覗くと、夕闇の中、こちらへ向かってくる黒い車のヘッドライトが、いくつも連なって見えた。


――間に合わない。


背筋に、冷たいものが走った。三ヶ月続いた平穏が、音を立てて崩れていく感覚が、確かにあった。


「――ゆず」


「うん」


「絶対に、俺から離れるな」


強く手を握ると、ゆずも同じ強さで握り返してきた。だが、その手が、微かに震えていることに、俺は気づいていた。


迫りくるヘッドライトの光を見つめながら、俺はこれまでとは違う、拭いきれない不安を感じていた。


――今度は、何かが違う。


――第四部・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ