表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第四章 逃避行
27/29

「祭りの夜に」

集落の小さな祭りに、二人で顔を出した夜のことだった。


「――ほら、あそこの屋台、りんご飴あるよ」


ゆずが子供のように目を輝かせながら、俺の袖を引いた。こんな無邪気な表情を見せるのは、久しぶりだった。


「食いたいのか」


「食べたい。買って」


素直にそうねだる彼女に、俺は苦笑しながら財布を取り出した。


祭り囃子の音、提灯の灯り、人々の笑い声。ここには、追われる身であることを忘れさせてくれる、確かな温かさがあった。


「――咲亞。私、思うんだけどさ」


りんご飴を頬張りながら、ゆずがふと真剣な顔になった。


「何だよ」


「このまま、ずっとここで暮らせたらいいのに。名前も、過去も、全部捨てて」


その言葉に、俺は少しの間、答えられなかった。


「――俺には、まだやり残したことがある」


「知ってる。分かってる」


ゆずは寂しそうに笑って、それ以上は何も言わなかった。ただ、繋いだ手を、少しだけ強く握り直した。


その夜、集落の外れにある公衆電話から、俺は久しぶりに亮の元へ連絡を入れた。予備として渡されていた、緊急連絡用の番号だった。


「――久しぶりだな」


電話越しの亮の声は、いつも通り、穏やかで安心感のあるものだった。


「そっちの様子はどうだ。何か動きは」


「今のところは、静かです」


「そうか。それなら、しばらくそっちで大人しくしてろ。動きがあれば、こっちから連絡する」


短い会話だったが、久しぶりに外の世界と繋がれたことに、少しだけ安堵した。


祭りの余韻を残す夜道を、俺はゆずの待つ家へと歩いて帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ