表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と花、届かない場所で  作者: LEON
第四章 逃避行
25/29

「網の中」

温泉町を発ったあと、俺たちはさらに北へ向かった。肩の痛みはまだ残っていたが、止まっている暇はなかった。


「――今度は、これまでと違う」


小さな漁村に身を潜めて数日後、宿の女将から聞かされた話に、俺は嫌な予感を覚えた。


「よそ者の男たちが、何組かに分かれて、あちこちの民宿を回ってるみたいだよ。何を探してるのか知らないけど、気をつけなさいね」


一つの拠点に絞らず、複数箇所を同時に固める。これまでの、力任せの追跡とは、明らかに毛色が違った。組織的に、包囲網を狭めてきている。


「――囲まれてる」


背中に、冷たい汗が流れた。今度は数の暴力だけではない。逃げ場そのものを、じわじわと塞がれている。


夜、案の定、宿の周囲に複数の人影が現れた。今度は正面からではなく、退路を断つように、四方から迫ってくる気配だった。


「――ゆず、こっちだ」


裏口から抜け出し、漁村特有の入り組んだ路地へ飛び込む。網を干すための小屋、船着き場、漁具の並ぶ倉庫――地元の人間しか知らないような入り組んだ地形を、闇雲に駆け抜けた。


「――囲まれてる、こっちも塞がれてる」


前方に、待ち構えていた男たちの姿が見えた。正面から行けば、確実に捕まる。


とっさに、干してあった漁網を思い切り引き倒した。もつれた網に足を取られ、男たちの動きが一瞬止まる。その隙を突いて、脇の狭い隙間を強引に通り抜けた。


背後で怒声が響くが、構わず走り続ける。


倉庫の陰から一人が飛び出してきたが、避けながら肘を叩き込み、そのまま押し倒す。もう一人には、積まれた木箱を蹴り倒して視界を塞ぎ、隙を作って距離を取った。


息が切れる。足が鉛のように重い。だが、止まれば終わりだった。


港の外れ、漁船の陰に身を潜めてしばらく経つと、ようやく周囲の気配が静かになった。


「――逃げ切れた、のか」


肩で息をしながら、ゆずが震える声で聞いた。


「……多分」


正直、確信はなかった。だが、これ以上動けば、体力が尽きる方が先だった。


その夜を境に、俺たちはさらに山奥の、名前もほとんど知られていない集落へと移った。髪を染め、身なりを変え、これまでとは全く違う偽名を名乗る。


三度の追跡を経て、ようやく、俺たちは完全に、追う者たちの目から姿を消すことに成功した。


――だが、この静寂が、いつまで続くのかは、誰にも分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ