「組織の牙」
次に落ち着いた先は、内陸の温泉町だった。前回よりも用心して、電車を乗り継ぎ、偽名も一度作り替えた。
だが、その用心も、長くは効かなかった。
「――見つけたぞ」
宿の前で待ち構えていたのは、五人。前回よりも明らかに、動きに慣れた連中だった。動きが―統一され、囲むような立ち位置を取っている。組織的な訓練を受けているのが、一目で分かった。
「――くそ、随分本気になったな」
「ゆず、下がってろ」
「――咲亞……」
不安げなゆずを背に庇いながら、俺は前に出た。守るべきものがあると、動きにどうしても制約が出る。それを見越しているのか、五人は俺とゆずを分断するように、じわじわと距離を詰めてくる。
一人目の踏み込みをかわし、顎を打つ。だが、そこに二人目の蹴りが同時に飛んできた。完全には避けきれず、肩に鈍い痛みが走る。
「――ッ」
痛みを堪えながら反撃するが、三人目、四人目が間髪入れずに畳みかけてくる。これまでの喧嘩とは、明らかに質が違った。
「咲亞から離れるな! 女の方は生かして連れてけばいい!」
その一言に、頭の中が沸騰した。ゆずに向かって伸びる腕を、体を割り込ませて防ぐ。代わりに、背中に木刀の一撃を受けた。息が詰まり、視界が一瞬白く点滅する。
「――ぐ、ぁ……ッ」
崩れそうになる膝を、意志の力だけで支える。ここで倒れれば、ゆずが危険に晒される。それだけは、絶対に避けなければならなかった。
痛みごと前に踏み込み、目の前の男の膝を蹴り抜く。崩れ落ちる体を突き飛ばし、次の一人の顎を打ち抜く。息も絶え絶えになりながら、それでも、一人、また一人と沈めていった。
最後の一人が怯んで後ずさったところで、ようやく決着がついた。
「――ゆず、大丈夫か」
「うん……咲亞の方が」
肩と背中の痛みに顔を歪めながらも、俺はゆずの無事を確かめて、安堵の息を吐いた。
その頃、遠く離れた場所で、亮は自分の携帯を苛立たしげに見つめていた。
画面には、咲亞へかけ続けた発信履歴が、いくつも並んでいる。指示したのは自分自身だ。あの番号はもう繋がらない。分かっているはずなのに、それでも指が、同じ番号を呼び出してしまう。
「――出ろよ、いい加減」
繋がらないと分かっている相手に、それでも苛立ちがぶつけたくなる。連絡さえ取れれば、まだどうにかできることがある。だが、その手段自体を、自分で断ってしまっていた。
画面を伏せ、亮はしばらく、無言でグラスを傾けていた。




